第74話 同じ事、違う事
「魔物のこと。」
「…………。」
イサナがエイルを見る。
「最近、ちょっと変なんだよね。」
「変?」
「うん。」
エイルは頷く。
「ここに来るまで色んなところ回ってきたんだけどさ。」
「魔物が増えてる。」
カインが続けた。
「増えてる?」
「うん。それに、なんか変。」
「変って?」
「街を襲ってきたり、普段ならいないようなところに出てきたり。」
「…………。」
イサナが少し考える。
「それだけなら、まあ……なくはねぇけど。」
「一匹とかじゃないよ。」
「どれくらいだ?」
「いっぱい。」
「カインに聞いた俺が悪かった。」
「なんで?」
「結構な数だったよー。」
エイルが苦笑する。
「一つの街に、色んな種類の魔物が一気に押し寄せてきた。」
「……色んな種類?」
「うん。普段なら一緒に行動しないようなのまで。」
「それは変ねぇ。」
リアも少し表情を曇らせる。
「それだけじゃないんです。」
リムが口を開いた。
「魔族の領地でも、最近は魔物が増えています。」
「魔族側でも?」
「はい。」
イサナがリムを見る。
「同じような感じなのか?」
「多分……。以前より凶暴になっている魔物が多いと聞いています。」
「…………。」
「ジェイドも魔物倒して回ってたし。」
「ジェイド?」
「四天王。」
「ああ。」
イサナは少しだけ眉を寄せる。
「四天王が魔物を?」
「うん。」
「なんで?」
「暇だったから?」
「知らねぇよ。」
セトが横から口を挟む。
その手には、いつの間にか残っていた料理が乗っていた。
「お前、まだ食ってんの?」
「残ってたから。」
「話聞いてる?」
「聞いてるって。」
「何の話?」
「魔物。」
「ざっくりしてんな。」
「合ってんだろ。」
「まあ。」
イサナはそんな二人を見てから、再びエイルへ視線を戻す。
「で、それがどうした?」
「いやさ。」
エイルは少し考える。
「なんか、覚えない?」
「…………。」
イサナが止まった。
「イサナ?」
「いや……。」
少しだけ、考える。
「似てんな。」
「やっぱり?」
「ああ。」
リアも、何かを思い出すように目を細めた。
「私たちが旅していた頃にも、あったわね。」
「魔物が増えたの?」
カインが聞く。
「増えたっていうか……。」
イサナが腕を組む。
「今の話みたいに、妙に凶暴になった時期があったんだよ。」
「街を襲ったり?」
「ああ。普段は人里まで来ねぇような魔物まで出てきた。」
「同じだ。」
「だろ?」
イサナが頷く。
「俺らも結構倒して回ったな。」
「うん。」
リアも頷いた。
「大変だったわねぇ。」
「何が原因だったの?」
カインが聞く。
「魔王……って、聞いてた。」
「聞いてた?」
「ああ。」
イサナは少しだけ言葉を選ぶ。
「魔王の影響で、魔物が凶暴になってるってな。」
「じゃあ、今回もアベルが?」
「……さあな。」
「違うの?」
「分かんねぇ。」
イサナは首を振った。
「俺らも、あの頃はそう言われたから、そうなんだと思ってただけだしな。」
「確かめたわけじゃないの?」
「ねぇな。」
「そもそも私たち、魔族の人とちゃんと話したこともほとんどなかったもの。」
リアがリムを見る。
「ね?」
「えっ。」
突然話を振られ、リムが少し背筋を伸ばす。
「は、はい。」
「魔王を倒すって決めて、そこへ向かっていただけだったものねぇ。」
「ああ。」
イサナが頷く。
「戦った魔族のことなら分かるけどな。どんな奴だったとか、どんな戦い方したとか。」
少しだけ笑う。
「でも、それだけだ。」
「…………。」
カインはリムを見る。
リムも、少しだけカインを見る。
「今回も魔王が原因ってのは……。」
イサナが考える。
「今の話聞く限りじゃ、よく分かんねぇな。」
「魔族側でも魔物が暴れてるもんね。」
「ああ。」
「アベルも、魔物を暴れさせたいようには見えなかった。」
「お前、魔王と会ったんだったな。」
「うん。」
「戦ったんだよな?」
「うん。」
「話もした?」
「した。」
「…………。」
イサナが少しだけ黙る。
「改めて聞くと、お前すげぇことしてんな。」
「そう?」
「そうだよ。」
「アベル様はずっと、人間と争う必要があるか考えてました。」
リムが小さく言う。
「少なくとも……魔物を使って、人間を襲わせるようなことはしないと思います。」
「そっか。」
イサナはそれ以上否定しなかった。
「じゃあ、前はその後どうなったの?」
カインが聞く。
「その後?」
「魔物が暴れてたんでしょ?」
「ああ。」
「どうしたの?」
「倒した。」
「それだけ?」
「それしかできなかったからな。」
「そっか。」
「で、しばらくしたら……。」
イサナが少しだけ上を見る。
「お告げが来た。」
「お告げ?」
「女神様からよ。」
リアが答える。
「魔王との最終決戦はここだ、って。」
「場所を教えてくれたの?」
「ああ。」
「それで行った。」
「それで魔王を倒したの?」
「まあな。」
「…………。」
カインが少し考える。
「今回は?」
「来てねぇよ。」
「そっか。」
「ああ。」
「…………。」
「…………。」
しばらく、誰も喋らなかった。
セトだけが、まだ何かを食べている。
「……で?」
セトが口を開く。
「結局なんなんだ?」
「分かんねぇ。」
「分かんねぇのかよ。」
「お前もずっと聞いてただろ。」
「聞いてたけどよ。」
「昔と似てる。」
エイルが指を一本立てる。
「でも、違うところもある。」
「魔族側でも魔物が暴れてる。」
カインが続ける。
「で、原因は?」
「分かんない。」
「……なんも分かってねぇじゃん。」
「だから話してるんだよ。」
「そっか。」
セトは納得したように、また一口食べた。
「まあ。」
リアが小さく手を叩く。
「考えても分からないものは仕方ないわ。」
「リアさん切り替え早いねー。」
「だって、分からないんでしょう?」
「まあね。」
「それなら。」
リアが笑う。
「今日はせっかく皆帰ってきたんだし、リムちゃんも来てくれたんだから、ご馳走作っちゃいましょう。」
「えっ。」
リムがリアを見る。
「いいんですか?」
「もちろん。」
「やった。」
セトが即座に反応した。
「あなたはさっきからずっと食べてるでしょう。」
「これは今の分。」
「今の分って何よ。」
「今食う分。」
「そのままねぇ。」
リアが呆れたように笑う。
「せっかくだし、皆で買い物に行かない?」
「行くー。」
「俺も行く。」
「俺も。」
「お前は食材持ち担当な。」
「なんでだよ。」
「食うから。」
「関係なくね?」
「あるよ。」
「リムちゃんも行きましょう?」
「はい。」
さっきまでの少し重い空気が、いつの間にか消えていた。
◇
「何作るの?」
「そうねぇ。」
街を歩きながら、リアが考える。
「久しぶりだし、皆が好きなものを色々作ろうかしら。」
「肉。」
「セトは聞かなくても分かるわ。」
「俺も肉。」
「カインも?」
「うん。」
「親子だねー。」
「俺まだ何も言ってねぇぞ。」
イサナが笑う。
「リムちゃんは何か食べたいものある?」
「わ、私は何でも。」
「遠慮しなくていいのよ。」
「でも……。」
「じゃあ一緒に見ながら決めよっか。」
「はい。」
そんな話をしながら歩いていると。
「…………?」
カインが辺りを見る。
「なんか、騒がしくない?」
「ん?」
セトも周囲を見回す。
道のあちこちで、人が集まっていた。
「本当だねー。」
「何かあったのかな。」
耳を澄ませば、いくつか声が聞こえてくる。
「召喚者だってよ。」
「本当なのか?」
「教会から知らせがあったって。」
「じゃあ……新しい英雄か?」
「ってことは、魔王も……。」
「最近の魔物も、そのせいなんじゃないか?」
「でも、イサナさんまだいるだろ?」
「俺に聞くなよ。」
「…………。」
イサナが足を止めた。
「何?」
「いや……。」
「あっ!」
少し離れたところから声が飛んでくる。
「イサナさん!」
「ん?」
顔見知りらしい男が、こちらへ駆けてきた。
「ちょうどよかった。聞いた?」
「何を?」
「新しい召喚者が来たって!」
「…………。」
「なんでも、新しい英雄らしいぞ!」
「…………は?」
ここに来て新キャラ。




