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第73話 誇張はなかった

 しばらく歩き続け、見慣れた景色が、少しずつ増えてきた。


「久しぶりだなー。」


 セトが辺りを見回す。


「そんなに久しぶり?」


「久しぶりだろ。結構色んなとこ行ったし。」


「そうかな。」


「カインはそういうとこ適当だよねー。」


 エイルが笑う。


「そう?」


「そうそう。」


「…………。」


 その後ろを歩きながら、リムは少しだけフードを深く被った。


 カインの家。


 そこには当然、カインの両親がいる。


 父親は、かつて魔王を倒した英雄。


 母親も、その時一緒に戦っていた仲間。


「…………。」


 やっぱり、少し緊張する。


「リムち、また顔に出てるよー。」


「えっ。」


「大丈夫だって。二人ともそんな怖くないから。」


「は、はい。」


「親父は普通だよ。」


「カインが言うと説得力ねぇな。」


「なんで?」


「英雄だぞ?」


「親父は親父だけど。」


「お前にとってはな。」


 そんな話をしているうちに、一軒の家が見えてきた。


「あ。」


 カインが少しだけ歩く速度を上げる。


「着いた。」


「…………。」


 リムも、その家を見る。


 思っていたより、普通の家だった。


「入ろ。」


「はい。」


 カインが扉を開ける。


「ただいまー。」


「ただいまー!」


「お邪魔しまーす。」


「お、お邪魔します。」


 四人の声が家の中へ響く。


 少しして、奥から足音が聞こえてきた。


「あら。」


 姿を見せたリアが、カインたちを見る。


「おかえりなさい。」


「ただいま。」


「リアさん久しぶりー。」


「エイルも久しぶりねぇ。」


「元気だった?」


「ええ。エイルも元気そうね。」


「おねーさんはいつでも元気だよー。」


「おばさん、俺も――」


「セト。」


「ん?」


 リアが笑顔のままセトを見る。


「まず、自分のお家に顔を出してきなさい。」


「…………。」


「ご両親も待ってるでしょう?」


「いやー、後で行こうかなって。」


「先に行きなさい。」


「…………はい。」


 セトが素直に頷く。


「じゃ、ちょっと行ってくるわ。」


「行ってらっしゃい。」


「すぐ戻ってくるからなー!」


「なんで戻ってくる前提なの?」


「飯!」


「自分の家で食べてきなよ。」


「じゃあな!」


 聞こえなかったことにしたのか、セトはそのまま家を出ていった。


「相変わらずねぇ。」


「セトだしねー。」


「セトだからなぁ。」


 奥から声がした。


「父さん。」


「おう、おかえり。」


 イサナが姿を見せる。


「ただいま。」


「思ったより元気そうだな。」


「元気だよ。」


「ならいい。」


 イサナは笑って、エイルを見る。


「エイルも久しぶり。」


「久しぶりー。イサナも元気そうじゃん。」


「ぼちぼちな。」


「畑やってる?」


「やってるやってる。」


「そっかー。」


「…………。」


 リムは少し後ろで、そのやり取りを見ていた。


 この人が。


 魔王を倒した英雄。


「…………。」


 もっと、こう。


 何か凄い雰囲気の人を想像していた。


「ん?」


 イサナがリムに気づく。


「あれ?」


 リアも、その視線を追った。


「カイン。」


「何?」


「その子は?」


「あ。」


 カインが振り返る。


「そうだ。」


 忘れていたように、リムを見る。


「前話してたリムだよ。」


「…………。」


「…………。」


「…………。」


「どうしたの?」


「いや、なんでもない。」


 エイルが笑いを堪える。


「リム。」


「あっ。」


 名前を呼ばれ、リムが慌てて一歩前へ出る。


「リ、リムです。」


 少し頭を下げる。


「初めまして。あの……カインさんには、いつもお世話になっています。」


「…………。」


 リアがリムを見る。


「?」


 じっと見る。


「…………?」


 それから、ゆっくりとエイルを見る。


「エイル。」


「ん?」


「あなた、あんまり盛ってなかったのね。」


「だから言ったじゃん。」


「?」


 リムが首を傾げる。


「何の話?」


 カインも首を傾げた。


「二人は知らなくていいの。」


「えぇ……。」


「ふふっ。」


 リアが笑う。


「初めまして、リムちゃん。カインの母のリアです。」


「はい。」


「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。」


「き、緊張してません。」


「そう?」


「はい。」


「リムち、さっきからずっと緊張してるよ。」


「エイルさん!」


「あはは。」


 リアが楽しそうに笑った。


「とりあえず上がって。長旅だったでしょう?」


「はい。お邪魔します。」


「だからそんなに固くならなくていいのよ。」


「はい……。」


     ◇


「リムち。」


「はい?」


「ここならフード取って大丈夫だよー。」


「え?」


 家の中へ入っても、リムはいつものようにフードを深く被っていた。


「イサナもリアさんも、リムちがハーフなの知ってるから。」


「あ……。」


 そうだった。


 エイルから話を聞いているなら、当然それも知っている。


「嫌ならそのままでもいいけどね。」


「い、いえ。」


 リムはフードへ手をかける。


 ゆっくりと外すと、隠れていた銀色の髪が落ちた。


 尖った耳も、はっきりと見える。


「…………。」


 少しだけ、不安になる。


 けれど。


「綺麗な髪ねぇ。」


「え?」


 リアは、それだけだった。


「銀色って珍しいわよね。」


「……はい。」


「触ってもいい?」


「えっ。」


「リアさん、いきなりそれは駄目でしょー。」


「あら、そう?」


「リムち困ってるじゃん。」


「ごめんなさいね。」


「い、いえ。大丈夫です。」


 リムは小さく笑う。


 少しだけ、肩の力が抜けた。


「ほらー、大丈夫だったでしょ?」


「はい。」


 そしてエイルは、リアに向き直る。


「で、リアさん、リムち本当可愛いでしょー?」


「エイル……それはあなたが自慢すること?」


 リアは小さく笑う。


「だって私が見つけた逸材だからねー。」


「……?」


 カインが首を傾げる。


「リムは俺と先に会ってるけど。」


「うるさいなー。」


「なんで?」


「そういうとこ。」


「?」


 リアがくすくすと笑う。


 リムも、さっきまでの緊張が少しずつ消えていく。


 いつものように丸めていた背中も、少しだけ楽にする。


「…………。」


 リアの視線が止まった。


「?」


「…………。」


 今度は、ゆっくりとエイルを見る。


「エイル。」


「ん?」


「色々、本当だったのねぇ。」


「でしょー?」


「……何がですか?」


「リムちは知らなくていいよー。」


「?」


「母さんたち、さっきから何の話してるの?」


「カインも知らなくていいの。」


「えぇ……。」


 何故か二人だけ話についていけない。


 顔を見合わせるカインとリムを見て。


 リアとエイルは、また楽しそうに笑った。


     ◇


 しばらくして。


「ただいまー!」


「お邪魔します、でしょ。」


「どっちでもいいだろ!」


 当然のようにセトが戻ってきた。


「早かったね。」


「ちゃんと帰ってきたからな。」


「ご両親には?」


「挨拶した!」


「何て?」


「『ただいま! カイン家行ってくる!』って。」


「…………。」


 リアが少し黙る。


「まあ……いいわ。」


「前もそれじゃなかった?」


「細かいこと気にすんな!」


「よくないと思うけど。」


 そんなやり取りをしながら、久しぶりに皆で食卓を囲む。


 旅の話をして。


 最近あったことを話して。


 リムも最初こそ小さくなっていたが、少しずつ会話に混ざるようになっていた。


「――そういや。」


 食事も落ち着いた頃。


 エイルが思い出したように顔を上げる。


「イサナ。」


「ん?」


「聞きたいことあったんだよねー。」


「俺に?」


「うん。」


 エイルは少しだけ表情を変える。


「魔物のこと。」


「…………。」


 イサナがエイルを見る。


「最近、ちょっと変なんだよね。」


 さっきまで笑っていたイサナの顔から。


 少しだけ、笑みが消えた。

そう、魔物の話しに帰ってきたのよ。

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