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第69話 喜

 ――少し、時間は遡る。


 魔王城。


「やはり、増えているか。」


「ああ。」


 アベルの問いに、グラムが答える。


 机の上には、各地から届けられた報告が広げられていた。


 魔物の目撃。


 街道を襲われた馬車。


 街の近くまで現れた魔物。


 ここ最近、明らかにその数が増えている。


「以前なら、ここまで近づくことはなかった。」


「被害は?」


「出ている。」


 グラムは短く答える。


「昨日も討伐へ出た。」


「そうか。」


 アベルが報告書へ目を落とす。


「人間領でも増えていると聞いていたが……こちらもか。」


「そのようでございます。」


 隣に立つアレイが答えた。


「我々の領地でも、各地から同様の報告が届いております。」


「原因は?」


「現在調べておりますが……まだ。」


「そうか。」


 アベルは腕を組む。


 魔物が増えている。


 それだけなら、今までもなかったわけではない。


 だが。


「数が多すぎるな。」


「はい。」


「放っておくわけにもいかん。」


 アベルがグラムを見る。


「グラム。」


「なんだ。」


「引き続き、街の周辺を頼めるか?」


「ああ。」


「助かる。」


 グラムは立ち上がる。


「では、行ってくる。」


「もう行くのか?」


「魔物は待たない。」


「それもそうか。」


 グラムは一度だけ頷き、そのまま部屋を出ていった。


 扉が閉じる。


「さて。」


 アベルが残された報告書を見る。


「街の近くはグラムに任せるとして。」


「問題は、さらに奥でございますね。」


 アレイが一枚の報告書を手に取る。


「かなりの数が確認されております。」


「かなり?」


「はい。」


「……なら。」


 アベルが少し考える。


「ジェイドか。」


「私も、それがよろしいかと。」


◆


「魔物の討伐?」


「ああ。」


 呼び出されたジェイドが聞き返す。


「どのくらいだ?」


「かなり多いらしい。」


「へぇ。」


 ジェイドの口元が少し上がる。


「いいじゃねぇか。」


「嬉しそうだな。」


「最近暇だったんだよ。」


「そうなのか?」


「そうなんだよ。」


 アベルは首を傾げた。


「仕事ならいくらでもあるのだが。」


「そういうんじゃねーんだよなぁ。」


「そういうものか。」


「そういうもんだ。」


 アレイが小さくため息をついた。


「ジェイド様。」


「あ?」


「遊びではございません。」


「分かってるよ。」


「本当でしょうか……。」


「魔物倒しゃいいんだろ?」


「そうだ。」


 アベルが答える。


「被害が出ている。できる限り数を減らしてほしい。」


「分かった。」


 ジェイドが立ち上がる。


「じゃ、行ってくるわ。」


「ああ。」


 そのまま部屋を出ようとする。


「ジェイド。」


「あ?」


 アベルが呼び止めた。


「ただし、人間領には入るな。」


「わーってるよ。」


「今、人間と争う必要はない。」


「はいはい。」


 ジェイドは軽く手を振る。


「魔物倒して帰ってくりゃいいんだろ?」


「ああ。」


「なら問題ねぇよ。」


 今度こそ、ジェイドは部屋を出ていった。


「…………。」


 閉じた扉をアレイが見つめる。


「……大丈夫でしょうか。」


「本人が問題ないと言っていたぞ?」


「そうでございますね……。」


◆


「おらぁ!!」


 巨大な得物が振るわれる。


 直後。


 灰狼の身体が地面へ叩きつけられ、そのまま動かなくなる。


「はい次。」


 ジェイドが肩に無骨を担ぐ。


 周囲から唸り声。


 一体。


 二体。


 三体。


 灰狼が木々の間から姿を現す。


「ハッ。」


 ジェイドが笑う。


「いいじゃねぇか。」


 一体が飛びかかる。


 無骨を振るう。


 横から叩きつけられた灰狼が、そのまま別の一体を巻き込んで吹き飛ぶ。


 残った一体が背後へ回る。


 振り返る。


 無骨を叩きつける。


 ――ドォン!!


 地面が揺れた。


「次ィ!」


 返事をする者はいない。


 それでも。


 森の奥から、また別の鳴き声が聞こえる。


 ジェイドの笑みが深くなった。


「今日は当たりだな。」


 さらに奥へ進む。


 鎧猪。


 群狸。


 普段なら、同じ場所でこれほど多くの魔物を見ることはない。


 だが。


 ジェイドには関係なかった。


 向かってくるなら倒す。


 それだけだった。


 鎧猪が突進する。


「遅ぇ。」


 横へ避け、無骨を振り抜く。


 鈍い音。


 鎧猪の巨体が浮いた。


 そのまま。


 ――ドォン!!


 一本の木へ叩きつけられる。


「ハハッ!」


 楽しい。


 向かってくる。


 倒す。


 また来る。


 また倒す。


 止まらない。


 ジェイドにとっては、それで十分だった。


 無骨を振るう。


 魔物が飛ぶ。


 踏み込む。


 また振るう。


 一体。


 また一体。


 進むほどに、ジェイドの身体が軽くなる。


 力が増していく。


 もっと。


 もっと来い。


「ハハハハッ!!」


 無骨が振り下ろされる。


 ――ドォン!!


 魔物が地面へ沈んだ。


「次ィ!!」


 ジェイドが顔を上げる。


「…………。」


 魔物はいない。


「……終わりか?」


 辺りを見回す。


 随分と倒した。


 それでも、まだ奥から気配がする。


「まだいるじゃねぇか。」


 無骨を肩に担ぐ。


 再び歩き出す。


 少し進んだところで。


「ん?」


 足を止めた。


 木々の向こう。


 人影が見える。


 一人。


 二人。


 その後ろにもいる。


「…………。」


 その中の一人と。


 目が合った。


 黒い髪。


 刀。


 見覚えがある。


「あー……。」


 ジェイドの口元が。


 ゆっくりと上がった。


「ここで会っちまったらまぁ――」


 無骨を肩に担ぎ直す。


「仕方ねーよなぁ?」

40話ぶりくらいのアベルさん達でした。

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