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第68話 歓

 魔物の勢いが落ち着いたのは、それからしばらくしてのことだった。


「……もういねーか?」


 セトが辺りを見回す。


 街のあちこちには、倒された魔物が転がっている。


 壊れた露店。


 崩れた壁。


 傷ついた建物もいくつかあった。


 それでも。


「怪我した奴はいるけど、死んだ奴はいねぇ。」


 ウェルが息を吐く。


「上出来だろ。」


「よかった……。」


 リムもほっとしたように肩の力を抜いた。


「でも。」


 エイルが森の方を見る。


「これで終わり、って感じじゃないよね。」


「だろうな。」


 ウェルが答える。


 灰狼。


 群狸。


 鎧猪。


 ――そしてあの飛竜。


 ここ数日で現れた魔物は、明らかに多すぎる。


「森の中で何か起きてる。」


「見に行く?」


 カインが聞く。


「そのつもりだ。」


 ウェルは近くにいた男を呼び止めた。


「しばらくここ任せる。」


「俺が?」


 ウェルが街を見る。


「仕方ねーだろ。また来たら、無理して戦うな。やべぇと思ったら逃げろ。」


「分かった。」


「子供と年寄り優先な。」


「ああ。」


 男が頷く。


「じゃ、行くか。」


「ウェルさんも来るの?」


「なんだよ。悪いか?」


 カインは首を振った。


「いや、街に残ると思ってた。」


「原因も分かんねぇのに、ずっと待ってられるか。」


 ウェルが森を見る。


「何が起きてんのかくらいは知っときてぇ。」


「そっか。」


「それに。」


 ウェルがカインを見る。


「あたしの力、使うかもしれねぇだろ。」


「あ。」


「忘れてたのかよ。」


「いや、忘れてない。」


「今の間はなんだ。」


「……。」


「お前なぁ。」


 ウェルが呆れたように息を吐いた。


「ま、いい。行くぞ。」


「うん。」


◇


 五人で森へ入る。


 やけに静かだった。


「……なんか変だな。」


 セトが呟く。


「魔物、いないね。」


「街の方に出てきたからじゃない?」


 エイルが周囲を見る。


「それならいいんだけどねー。」


 しばらく進む。


 その時。


「カインさん。」


 リムが足を止めた。


「ん?」


「あそこ……。」


 リムが指差す。


 木の陰。


 一体の魔物が倒れていた。


「死んでる?」


「みたいだな。」


 カインが近づく。


 大きな灰狼だった。


 だが。


「……これ。」


 セトがしゃがみ込む。


「俺らじゃないよな?」


「うん。」


 身体の一部が、大きく潰れている。


 刀でもない。


 エイルの短剣でもない。


 セトの拳でもない。


「誰かいるのかな。」


「狩人?」


「こんな奥まで来る奴、この街にはほとんどいねぇよ。」


 ウェルが答える。


「少なくとも、あたしは知らねぇ。」


「じゃあ誰が……。」


 さらに進む。


 また一体。


 今度は鎧猪。


 木に叩きつけられたように、身体が大きくへこんでいる。


「……こっちにもいる。」


「また?」


「うん。」


 その先にも。


 さらに、その先にも。


 倒された魔物が増えていく。


「全部同じ奴がやったのかな。」


「多分。」


 エイルが傷を覗き込む。


「なんていうか……。」


「雑?」


 カインが言う。


「そう、それ。」


「雑っていうか……。」


 セトが倒れた魔物を見る。


「力任せじゃね?」


「だねー。」


 その時だった。


 ――ドォン!!


「っ!?」


 大きな音が森に響く。


 鳥が一斉に飛び立つ。


「……なんだ、今の。」


「向こう。」


 カインが顔を上げる。


 音は森の奥から聞こえた。


「行ってみる?」


「ここまで来て帰れるかよ。」


 ウェルが歩き出す。


「行くぞ。」


「うん。」


 五人は音のした方へ向かう。


 近づくにつれて、魔物の死体が増えていく。


 ――そして。


 ドォン!!


「近い。」


 木々の向こう。


 少し開けた場所が見えた。


 カインたちは足を止める。


「……なんだ、あれ。」


 ウェルが呟いた。


 一人の男がいた。


 大きい。


 セトよりも、さらに頭一つ分は大きい。


 そしてその手には、巨大な何か。


 長い柄。


 その先についた、異様なほど分厚い刃。


「……槍?」


 エイルが首を傾げる。


「いや……槍なんすか、あれ。」


 セトも同じような顔をしている。


「分かんない。」


 カインが答える。


「前に戦った時も、あれ使ってた。」


「……あれと戦ったの?」


「うん。」


 ウェルが巨大な得物を見る。


「よく生きてんな、お前。」


「リムのおかげかな。」


「え?」


 ウェルがリムを見る。


「私の【隔帳】を、カインさんが使って……。」


「ああ。」


 ウェルは納得したように頷いた。


「それでも止められただけだけど。」


「…………。」


 ウェルがもう一度、巨大な得物を見る。


「十分だろ。」


 男が、それを振る。


 迫っていた鎧猪が。


 その一撃だけで、横へ吹き飛んだ。


 木にぶつかり、止まった。


「…………。」


「…………。」


「…………。」


 初めて見る三人が黙る。


「カイン。」


 セトが男を見たまま聞く。


「あれ、誰?」


「ジェイドさんです。」


 答えたのはリムだった。


「魔王軍の四天王です。」


「四天王?」


「はい。」


 リムが頷く。


「立場的には、私と同じ、四天王の一人です。」


「…………。」


「…………。」


「…………。」


 三人がゆっくりとリムを見る。


「……え?」


「リムち。」


 エイルがリムを見る。


「四天王なの?」


「……はい。」


「初耳なんだけど。」


「…………。」


 リムが少し考える。


「言ってませんでしたか?」


「聞いてないよ!?」


「俺も知らなかった。」


「カインも!?」


「うん。」


 ウェルが眉間を押さえる。


「……お前ら、一緒に旅してんだよな?」


「うん。」


「なんで知らねぇんだよ。」


「聞いてなかったから。」


「聞けよ。」


「でも、別に必要なかったし。」


「…………。」


 ウェルが何か言おうとしたが……やめた。


「……もういい。」


「ジェイドさんは、戦うことを主にしています。」


 リムが男を見る。


「とても強いです。」


「……見りゃ分かる。」


 ウェルが呟く。


 その時。


 ジェイドがこちらを見た。


「…………。」


 カインと目が合う。


 ジェイドの動きが止まった。


 少しの間、カインを見つめる。


「あー……。」


 その口元が。


 ゆっくりと上がった。


「ここで会っちまったら――」


 巨大な得物を肩に担ぐ。


「仕方ねーよなぁ?」

ジェイドさん久しぶり

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