第67話 乱
森の中から、次々と魔物が姿を現す。
「また来た!」
「分かってる!」
ウェルが声を上げる。
カインたちは、街の外へ出ていた。
灰狼。
群狸。
見たことのない魔物も混じっている。
一体一体なら、それほど強い魔物ではない。
だが、数が多い。
「セト!」
「おう!」
飛びかかってきた灰狼を、セトが殴り飛ばす。
その横を抜けようとした群狸へ、エイルが短剣を投げた。
「そっち行ったよ!」
「はい!」
リムが手を伸ばす。
街へ向かおうとしていた魔物の前に、見えない壁が現れた。
勢いよくぶつかった魔物が、その場で止まる。
「カインさん!」
「ああ!」
カインが走る。
一体。
二体。
壁に阻まれた魔物を斬り伏せる。
「……まだ来んのかよ。」
ウェルが森を見る。
手に持っていた石を投げる。
石は逃げようとした魔物を追うように曲がり、その頭へぶつかった。
「ウェル姐!」
街の方から声が聞こえた。
「なんだ!」
「まだ森の方にいる! どんどん出てきてる!」
「外にいる奴ら全員戻せ! ガキは建物から出すな!」
「分かった!」
男が走っていく。
「ったく……。」
ウェルが舌打ちする。
「キリねぇぞ、これ。」
「でも、やるしかないよ。」
「分かってるよ。」
ウェルがカインを見る。
「お前らも無茶すんなよ。」
「うん。」
「……お前に言ってんだからな?」
「分かってる。」
「本当かよ。」
その間にも、森から魔物が出てくる。
何かがおかしい。
昨日までとは、明らかに違う。
群狸だけではない。
灰狼も。
鎧猪も。
普段なら人を見れば逃げるような魔物まで、街へ向かってきている。
「……なんでこんなに。」
リムが呟く。
「分かんない。」
エイルも森を見た。
「でも、これだけ種類が違う魔物が一緒に来るなんて普通じゃないよ。」
「だよなぁ!」
セトが魔物を殴り飛ばす。
「考えんのは後だ! 今はこいつら止めるぞ!」
「うん。」
カインが刀を構える。
まだ来る。
森の奥から。
次から次へと。
「…………。」
ウェルが目を細める。
「なんだ……?」
森の向こう。
空に、大きな影が見えた。
「……鳥?」
セトが空を見る。
「いや。」
エイルの声から、いつもの軽さが消える。
大きな翼。
長い尾。
羽ばたくたびに、周囲の木々が揺れる。
「……飛竜。」
「竜?」
カインが空を見上げる。
ウェルが顔をしかめた。
「マジかよ……。」
まだ大きくはない。
竜種として見れば、若い個体なのだろう。
それでも。
「ああいうのは、もっと奥にいるもんだぞ。」
ウェルが呟く。
「竜種が、なんでこんなとこまで来てんだよ。」
飛竜が大きく翼を広げた。
「カイン。」
「うん。」
「やべぇと思ったら逃げろ。」
「街は?」
「捨てる。」
「…………。」
「竜相手に意地張って、全員死んだら意味ねぇだろ。」
「分かった。」
「……素直だな。」
「でも。」
カインが刀を握る。
「倒せそうなら倒す。」
「…………。」
ウェルが小さく息を吐いた。
「やっぱ馬鹿だわ、お前。」
飛竜が鳴く。
その声が、街の外まで響いた。
そして。
こちらへ向かって、大きく翼を羽ばたかせた。
「来るぞ!」
飛竜が急降下する。
「リム!」
「はい!」
リムが両手を前へ出す。
直後。
飛竜が、見えない壁へと激突した。
「っ……!」
リムの身体が揺れる。
「リムち!」
「だ、大丈夫です!」
飛竜も弾かれ、空中で体勢を崩す。
「今だ!」
セトが走る――だが。
「届かねぇ!」
飛竜は再び翼を広げ、上空へと逃れた。
カインも刀を構えたまま空を見る。
「飛ばれると無理だな。」
「カイン、おねーさんのスキルは?」
エイルが聞く。
「うーん……刀を増やしても届かないと思う。」
「だよねー。」
飛竜が旋回し、再びこちらへ向かってくる。
「ったく!」
ウェルが地面から石を拾い、投げた。
飛竜が身体を傾ける。
石はその横を通り過ぎ――。
空中で曲がった。
「え?」
セトが声を上げる。
石は飛竜を追い、その身体へぶつかる――だが。
「効いてねぇ。」
ウェルが舌打ちする。
当たりはする。
だが、石程度では竜の身体に傷一つつかない。
「なら。」
ウェルが腰からナイフを抜く。
投げる。
今度は飛竜の翼へ向かう。
飛竜が翼を動かし、避ける。
それでもナイフは軌道を変えた。
翼へ当たる。しかし……浅い。
「くそ。」
「当たってはいるんだけどね。」
エイルが呟く。
「ああ。」
ウェルが飛竜を睨む。
「あたしじゃ威力が足りねぇ。」
再び飛竜が高度を上げる。
「逆にカインなら……。」
ウェルが横を見る。
刀を構えたカイン。
飛竜が地上にいれば。
こいつなら斬れる。
「…………。」
ウェルは空を見る。
自分なら、当てられる。
カインなら、斬れる。
「……あ。」
ウェルがカインを見る。
「カイン!」
「なに?」
「あたしの使え!」
「え?」
「あたしのスキルだよ!」
ウェルが空を指差す。
「あたしなら、あいつに当てられる!」
「…………。」
「お前のスキルなら、あたしのも使えんだろ!」
カインがウェルを見る。
「多分。」
「多分かよ!」
「やってみないと分かんないから。」
「じゃあやれ!」
飛竜が再びこちらへ向きを変える。
カインが刀を握る。
「あたしの使え、カイン!」
その瞬間。
《条件が満たされました》
「……使える。」
「ならさっさとやれ!」
「借ります!」
スキル抜刀――【的当】。
「……なんだ?」
ウェルが自分の手を見る。
「どうしたの?」
「いや。」
地面の石を拾う。
近くにいた魔物へ投げた。
石は真っ直ぐ飛び。
魔物の横を通り過ぎた。
「……マジで使えなくなんのか。」
「ごめん。」
「謝んな。」
ウェルがカインを見る。
「あたしが使えっつったんだろ。」
「うん。」
「それより、どうすんだ?」
ウェルが飛竜を見る。
「お前、石投げんのか?」
「いや。」
カインが刀を構える。
「多分、これでいける。」
「刀で?」
「うん。」
飛竜が近づいてくる。
まだ遠い。
刀では届かない。
カインが振る。
「は?」
ウェルが声を漏らす。
飛竜へ向かって――斬撃が飛んだ。
だが、飛竜が身体を傾け、斬撃を避ける。
「外れ――」
「てない。」
斬撃が曲がった。
「……は?」
飛竜を追う。
さらに飛竜が動く。
それでも斬撃は、その後を追った。
そして。
翼を斬り裂く。
飛竜の身体が大きく傾いた。
「落ちるぞ!」
セトが叫ぶ。
飛竜が地面へと落ち、土煙が上がった。
「セト!」
「待ってました!」
セトが飛び出す。
飛竜が起き上がろうとする。
「させるかよ!」
その頭へ拳を叩き込む。
飛竜が大きく暴れた。
「リム!」
「はい!」
見えない壁が、その動きを阻む。
「エイルさん!」
「はいはい!」
エイルが飛び出す。
短剣が飛竜へ突き刺さる。
「カイン!」
「うん!」
カインが走る。
もう、届く。
飛竜が口を開く。
「カイン!」
ウェルが叫ぶ。
カインは止まらない。
飛竜が首を伸ばす。
その直前。
「セト!」
「おう!」
横からセトが殴りつけた。
飛竜の頭が逸れる。
「今だ!」
カインが踏み込む。
刀を振る。
一閃。
飛竜の首を深く斬り裂いた。
「…………。」
飛竜の身体が大きく揺れ……地面へ倒れた。
「……倒した?」
リムが小さく呟く。
誰も動かない。
しばらく待つ。
飛竜は動かなかった。
「倒したな。」
セトが息を吐く。
「竜、倒したぞ!」
「若い奴だけどねー。」
エイルも息を吐いた。
「それでも竜だろ!」
「はいはい。」
カインは刀を見る。
「…………。」
「返します。」
「お。」
ウェルが近くに落ちていた石を拾う。
少し離れた木へ向かって投げた。
石が曲がる。
木の幹へぶつかった。
「戻った。」
「よかった。」
「……変なスキルだな、お前の。」
「よく言われます。」
「そうかよ。」
ウェルが笑う。
だが。
「ウェル姐!」
「…………。」
また、街の方から声が聞こえた。
「今度はなんだ!」
「まだいる! 反対側にも出た!」
「クソが!」
ウェルが走り出す。
「休ませろってんだよ!」
「ウェル!」
「お前らも来い!」
「うん!」
カインたちも走り出す。
飛竜を倒した。
それでも魔物は、まだ来る。
何が起きているのか。
誰にも分からない。
ただ一つ。
いつもの街ではない。
それだけは、もう明らかだった。
飛ぶ斬撃、ロマン。




