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第64話 当たり前

 翌日。


「ウェルさん。」


「あ?」


 声をかけられ、ウェルが振り返る。


 そこには、いつもの四人がいた。


「これ。」


 カインが、小さな袋を差し出してくる。


「……なんだよ。」


「昨日の群狸の分。」


「昨日の?」


「売ってきた。」


「ああ。」


 昨日解体した群狸。


 使える肉や毛皮なんかは分けて、一部は街に残した。


 残ったものは、カイン達が持っていった。


 魔物の素材を正式に売るには、狩人の資格が必要らしい。


 この街には狩人なんてほとんどいない。だから、売れるものはカイン達に任せていた。


「で、なんであたしに渡すんだよ。」


「ウェルさんの分。」


「…………。」


 ウェルは袋を受け取る……思ったより重い。


 中を確認して、カインを見る。


「多くね?」


「そう?」


「そうだろ。」


 ウェルが袋を軽く振る。


「これ、いくら入ってんだよ。」


「売れた分の半分くらい。」


「半分?」


「うん。」


「なんでだよ。」


「ウェルさんも倒したし、解体も手伝ったから。」


 それはそうだ。


 昨日はウェルも群狸を倒した。


 解体だって手伝った。


 だからといって。


「半分もいらねーだろ。」


「俺達は残りを四人で分けるから。」


「そういう話してんじゃねーよ。」


「?」


 本当に分かっていない顔をしている。


「お前らがほとんど倒したんだろ。」


「でもウェルさんも倒したし。」


「解体だって、あたしだけじゃねー。」


「うん。」


「ガキ共も手伝ってただろ。」


「だから街で使う分は置いてきた。」


「…………。」


 ウェルは袋を見る。


 それから、もう一度カインを見る。


「お前さ。」


「うん。」


「馬鹿だろ。」


「なんで?」


「なんでもねーよ。」


 ウェルは袋を懐へしまった。


 昨日までなら、突き返していたかもしれない。


 ――だが、こいつは多分、何を言っても同じだ。


 手伝ったんだから取り分がある、本当にそれだけなのだろう。


 ――前にも似たようなことがあった。


 仕事を終えた奴が、約束した金を払ってもらえなかった時。


 こいつは関係ないくせに口を挟んだ。


 狩人の依頼と同じだと言っていた。


 仕事をしたなら、決められた報酬を受け取る。


 それがこいつにとっては、当たり前らしい。


「ウェルさん?」


「なんだよ。」


「今日も街見ていい?」


「好きにしろよ。」


「分かった。」


「毎日よく飽きねーな。」


「まだ見てないところあるし。」


「そんな面白いもんねーだろ。」


「俺は面白いけど。」


「……変な奴。」


 カインが首を傾げる。


 その後ろでは、エイルとリムが露店を覗いていた。


 セトは既に何か食っている。


「……朝飯食ったんじゃねーのか?」


「食いましたよ。」


「じゃあなんで食ってんだよ。」


「美味そうだったから。」


「そうかよ。」


 やっぱりこいつは分かりやすい。


 ウェルは四人を見る。


 ここ数日、こいつらをよく見るようになった。


 最初は、ただの変な旅人だと思っていた。


 今も変な旅人だとは思っている。


 ただ。


 エイルは、軽そうに見えて周りをよく見ている。


 セトは単純だが、頼まれたことはちゃんとやる。


 リムは大人しい。


 だが、昨日知ったことを考えれば、それだけでもないのだろう。


 人間と魔族のハーフ。


 今まで、何もなかったとは思えない。


 それでも、あいつらと一緒にいる時はよく笑っている。


 そして。


「ウェルさん。」


「今度はなんだ。」


「あれ何?」


「どれだよ。」


「あそこで売ってるやつ。」


「ああ。壊れた鍋直したやつ。」


「使える?」


「使えるから売ってんだろ。」


「ちょっと見てくる。」


「勝手にしろ。」


 カインが露店へ向かっていく。


「…………。」


 あいつは馬鹿だ、それは間違いない。


 ……けど、何もできない馬鹿じゃない。


 狩人としては強いし、仕事もちゃんとする。


 金のことが分からないわけでもない。


 仲間からも頼られている。


 ――なのに。


 自分が損をすることには、妙に頓着がない。


 騙されても、自分だけならいいと言う。


 関係ない奴のことに首を突っ込む。


 それでいて、自分が何か特別なことをしているとは思っていない。


「…………。」


 ウェルは、カインの背中を見る。


 昨日。


 どうしてこいつらが一緒にいるのか、少しだけ気になった。


 今ならなんとなく、分かる気がする。


「……まあ。」


 悪い奴じゃない。


 馬鹿だけど。


「ウェル姐ー!」


「あ?」


 遠くから声が聞こえた。


 一人の子供が、こちらへ走ってくる。


「なんだよ。そんな走って。」


「ウェル姐!」


「聞こえてるよ。」


 子供が息を切らしながら、ウェルの前で止まった。


「ティアがいない。」


「…………は?」


 ウェルの顔から、気怠げな表情が消えた。

幼女何があった。

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