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第61話 蛇の道は蛇

 翌日。


 カインたちは、今日も街を歩いていた。


「お前ら、まだいたのか。」


「うん。」


「何しに来てんだよ。」


「街を見るため?」


「昨日見ただろ。」


「まだ見てないところあるし。」


「…………。」


 ウェルが気怠そうにカインを見る。


「お前、この街気に入ったのか?」


「結構面白い。」


「どこがだよ。」


「色々あるし。」


「どこにでもあるだろ。」


「でも、ここにしかないものも結構ありますよ。」


 カインが道端の露店を見る。


 並んでいるのは、どこかで見たような、けれど少し違うものばかりだった。


 継ぎ接ぎだらけの鞄。


 刃だけを付け替えた短剣。


 何に使うのか分からない金属の部品。


 いくつもの木材を組み合わせて作られた椅子。


「これとか。」


 カインが一つの道具を手に取る。


「これ何に使うんですか?」


「知らね。」


「ウェルさんも知らないの?」


「あたしをなんだと思ってんだ。」


「この街のこと詳しい人。」


「昨日代表じゃねーって言っただろ。」


「そうだった。」


「…………。」


 ウェルが小さく息を吐く。


「ほんと変な奴だな、お前。」


「そう?」


「褒めてねーよ。」


 少し後ろでは、セトが別の露店を覗いていた。


「これ食える?」


「食えるよ。」


「じゃあ一つ。」


「……セト、さっきも食べてなかった?」


 エイルが呆れたように言う。


「歩いたら腹減るだろ。」


「まだそんな歩いてないでしょ。」


「腹減ったんだから仕方ねーだろ。」


「はいはい。」


 エイルはそう言って、隣の露店へ目を向ける。


「リムち、こっち見よー。」


「はい。」


 二人が覗いたのは、服や布を並べた店だった。


 どれも新品ではない。


 破れた部分を縫い合わせたもの。


 別の服から切り取った布を継ぎ足したもの。


 色の違う糸で何度も補修されたもの。


「へー。」


 エイルが一枚の服を手に取る。


「これ結構よくない?」


「……あ。」


「ん?」


「エイルさん、それはやめた方がいいと思います。」


「そうなの?」


「はい。ここがかなり傷んでます。」


 リムが服の端を指差す。


「今は大丈夫ですけど、多分すぐに破れてしまいます。」


「ほんとだ。」


 エイルが感心したようにリムを見る。


「リムち、こういうの詳しいねー。」


「ええと……。」


 リムは少し考える。


「子供の頃、私も生きる為に色々していたので。」


「あー、なるほど。」


 エイルが頷く。


「ご両親は?」


「父はあまり覚えてません。」


「そっか。」


「母は……私が十歳くらいの時に亡くなりました。」


「…………。」


 エイルの動きが止まった。


「それからしばらくは、一人で暮らしていたので。」


「…………。」


「エイルさん?」


「あー……いや。」


 エイルが目を逸らす。


「ごめん、リムち。」


「え?」


「変なこと聞いちゃったかなって。」


「いえ。」


 リムは小さく首を振った。


「昔のことですから。」


「……そっか。」


「はい。」


 リムは少し笑う。


 そして、エイルが持っている服を指差した。


「それより、こっちの方がいいと思います。」


「こっち?」


「はい。少し古いですけど、縫い方がしっかりしてます。」


 エイルもすぐに服へ視線を戻す。


「じゃあリムち先生、これは?」


「えっ。」


「どっちがいい?」


「ええと……。」


 二人は再び服を見始めた。


「…………。」


 少し離れたところから、ウェルがその様子を見る。


「どうかしました?」


 カインが聞く。


「……別に。」


 ウェルはそれだけ言って歩き出した。


「ほら、行くぞ。」


「うん。」


「お前らも置いてくぞー。」


「ちょっと待ってよー。」


 エイルたちも、その後を追った。


   ◇


 しばらく街を歩いた頃。


「だから、話が違うだろ!」


 少し先から、大きな声が聞こえた。


「ん?」


 カインが足を止める。


「今度はなんだよ。」


 ウェルが面倒そうに声の方を見る。


 道の端に、一台の荷車が止まっていた。


 その上には、選別された金属や木材が積まれている。


 荷車の前で、この街の男と、身なりのいい男が言い争っていた。


「ちゃんと頼まれた分は揃えた!」


「だから、これじゃこの値段では買えないと言っているだろう。」


「最初に言ってた話と違うじゃねーか!」


「状態が悪いんだから仕方ないだろ。」


「今までこんなんで文句言わなかっただろ!」


「今までが今までだ。今回はこれだけだ。」


 身なりのいい男が、いくらかの金を差し出す。


「嫌なら売らなくていい。他を当たればいいだろ。」


「…………。」


 街の男が黙る。


 カインはその様子を見ていた。


「…………。」


 セトがカインを見る。


「カイン。」


「ん……ちょっと行ってくる。」


「だよなー。」


「何がだよ。」


 ウェルが二人を見る。


 カインは既に、言い争っている二人の方へ歩き始めていた。


「すみません。」


「あ?」


 業者らしい男がカインを見る。


「なんだ、お前。」


「旅人です。」


「なら関係ないだろ。」


「そうなんですけど。」


 カインが荷車を見る。


「最初に、その値段で買うって決めてたんですよね?」


「……なんだ?」


「この人、頼まれた分はちゃんと揃えたんですよね?」


「だから、状態が悪いと言ってるだろ。」


「どこが悪いんですか?」


「は?」


「最初に言ってた状態と違うんですか?」


「…………。」


 業者が眉をひそめる。


「お前、商売のこと分かってんのか?」


「俺、狩人なんで、商売はわかりません。」


「なら黙ってろ。」


「でも。」


 カインは少し考える。


「俺が依頼受けて、ちゃんと終わらせて戻ってきてから、やっぱり報酬半分ですって言われたら困ります。」


「…………。」


「この人も同じじゃないんですか?」


「だから商売ってのは――」


「カイン。」


 後ろから声がした。


 ウェルが歩いてくる。


「ウェルさん。」


「後はあたしがやる。」


 ウェルは業者を見る。


「で?」


「……ウェル。」


「あたしにも教えてくれよ。」


 荷車を指差す。


「どれが悪いんだ?」


「いや、それは……。」


「昨日までと何が違う?」


「…………。」


「こいつらが、あんたの頼んだ仕事してねーってんなら分かる。」


 ウェルの目が細くなる。


「そうなのか?」


「……いや。」


「じゃあ払えよ。」


「…………。」


 しばらく沈黙が続いた。


 やがて業者は舌打ちすると、最初より多くの金を取り出した。


「……これでいいだろ。」


「最初の約束通りならな。」


「…………。」


 街の男が金を受け取る。


「助かった、ウェル姐。」


「あたしじゃねーよ。」


 ウェルがカインを見る。


「礼ならそこの馬鹿に言え。」


「馬鹿って。」


「兄ちゃんもありがとな。」


「いや、俺は別に。」


「ほら行くぞ。」


「あ、うん。」


 ウェルが歩き出す。


 カインもその後を追った。


 少し離れたところで、ウェルが口を開く。


「カイン。」


「ん?」


「お前、なんで毎回揉め事に首突っ込むかねー。」


「いや。」


 カインは少し考える。


「あれは業者が悪い。」


「まあな。」


「あの人はちゃんと仕事してた。」


「そうだな。」


「だったら、約束した分は貰わないとおかしいだろ。」


「…………。」


「俺だって依頼終わった後に報酬減らされたら困るし。」


 ウェルがカインを見る。


 カインは不思議そうに首を傾げた。


「違う?」


「…………。」


 ウェルは前を向く。


「いや。」


 小さく息を吐いた。


「そうだな。」


 そして、また歩き始める。


「ほら、置いてくぞ。」


「待ってよ。」


 カインがその後を追う。


 少し後ろでは、セトが買ったものを食べながら歩いていた。


「なあエイル。」


「んー?」


「カイン、またなんかした?」


「いつものことでしょ。」


「だよな。」


「カインさんですから。」


 リムも小さく笑う。


 三人は何事もなかったように、その後を追っていった。

えー、蛇の道は蛇、餅は餅屋


依頼と報酬の仕組みは行政と狩人って事で。

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