第59話 外れの街にて
人間領の端。
そこからさらに先へ進めば、人間の領土ではなくなる。
かといって、魔族の領土でもない。
人間領と魔族領。
その間には、危険な魔物たちが生息する広大な土地が広がっている。
そのすぐそばに、一つの街があった。
「ここか。」
カインが街を見上げる。
昨日、タケミから聞いた街。
俗に、貧民街と呼ばれている場所だった。
「……なんか、すげぇな。」
隣でセトが呟く。
「うん。」
カインも頷いた。
これまで訪れた街とは、随分と雰囲気が違う。
並んでいる建物は、どれも古い。
壁には何枚もの板が打ち付けられ、屋根も違う色の木材で継ぎ接ぎされている。
道もあまり整備されていない。
それでも、人は多かった。
洗濯物を干している女性。
道端に座って話している老人たち。
その横を、何人もの子供が走り抜けていく。
「思ってたより普通だねー。」
エイルが辺りを見回す。
「普通?」
「もっと暗いとこ想像してた。」
「あ、それは俺も。」
セトが頷く。
「建物はボロいけどな。」
「聞こえるよー。」
「誰にだよ。」
そんな話をしながら、四人は街の中を歩いていく。
店は少なかった。
これまでの街なら、大通りを少し歩けば食べ物や服、道具を売る店がいくつも見つかる。
だが、この街ではそういった店をほとんど見かけない。
「旅人があまり来ないからでしょうか。」
リムが言う。
「それもありそうだねー。」
代わりに目につくのは、荷物を運ぶ人々だった。
大きな荷車が何台も、同じ方向へと進んでいる。
「なんだろ、あれ。」
「行ってみるか?」
「そうだな。」
荷車の向かう先へ歩いていく。
やがて。
「……山?」
セトが足を止めた。
「いや。」
カインもそれを見上げる。
「ゴミ……じゃないか?」
木材。
破れた布。
壊れた家具。
錆びた金属。
何に使われていたのか分からない道具。
様々なものが積み上げられ、大きな山を作っていた。
「これ、全部ゴミなの?」
「みたいですね……。」
リムも驚いたように見上げている。
人間領の各地から運び込まれたものらしい。
だが、ただ捨てられているわけではなかった。
ゴミ山の周りでは、大勢の人が働いている。
まだ使えそうな木材を選ぶ者。
金属だけを分けている者。
破れた服から使える布を切り取っている者。
壊れた道具を手に取り、部品を外している者。
「これ、まだ使えるぞ。」
「そっちに置いといてくれ。」
「こっちは駄目だな。」
あちこちから声が聞こえる。
「捨てられたものを、また使えるようにしてるのか。」
「みたいだな。」
しばらくその様子を眺めてから、カインたちは再び歩き始めた。
街の奥へ進むにつれて、今度は少しずつ露店が増えていく。
「…………。」
カインが一つの店の前で立ち止まった。
「どうした?」
「いや。」
並んでいる短剣を一本見る。
刃は欠け、柄には何重にも布が巻かれている。
「これ、売っていいのか?」
「おい兄ちゃん、ちゃんと使えるぞ。」
店主がすぐに口を挟んだ。
「ほんとに?」
「当たり前だろ。」
エイルが短剣を覗き込む。
「……三回くらい直してない、これ?」
「使えるんだからいいんだよ。」
「いいのかなぁ。」
さらに隣では、見たことのない色をした薬が並んでいる。
その向こうには、何に使うのか分からない魔物の骨。
明らかに何か別のものから作り直したらしい鍋。
「色んなものがありますね。」
「色んなものっていうか……。」
セトが言葉に困る。
その時、近くから声が聞こえた。
「おい、それウェル姐に見つかったら怒られるぞ。」
「大丈夫だって、これくらい。」
「知らねぇぞ。」
「ウェル姐?」
カインが振り返る。
声の主たちは、既に人混みの向こうへ消えていた。
「誰だ?」
「さあ?」
その後も街を歩いていると、何度か同じ名前を耳にした。
「それならウェル姐に聞いてみろよ。」
「今日ウェル姐、どこいる?」
「さっき向こうで見たぞ。」
「……まただ。」
セトが言う。
「有名な人なんでしょうか。」
「みたいだな。」
カインは辺りを見回した。
だが、それらしい人物は見当たらない。
「まあ、そのうち分かるんじゃない?」
「そうだな。」
そのまま歩いていると。
「ねえねえ、そこの人たち。」
突然、男に声をかけられた。
「俺たち?」
「そうそう。」
男は笑いながら近づいてくる。
「見ない顔だね。旅人?」
「ああ。」
「やっぱり。」
男の笑みが少し深くなる。
「じゃあ、この街歩くなら、旅人さんはお金払ってもらわないとねー。」
「お金?」
カインが首を傾げる。
「そう。この街の決まり。」
「そんな決まりあるのか?」
「あるある。だから――」
「おいコラ。」
後ろから声が飛んできた。
「てめぇ何旅人だまくらかそうとしてんだ。」
カインたちが振り返る。
そこには、どこか気怠げで目つきの悪い、細身の女性が立っていた。
ダウナー系お姉さんかな?




