↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
60/100

第58話 道の始まり

「狩人なんてものが、まだなかった頃からだな。」


 タケミはそう言って、椅子の背にもたれた。


「狩人が、いなかったんですか?」


「今みたいな狩人は、だ。」


 カインの問いに、タケミが答える。


「魔物を狩る奴がいなかったわけじゃない。食うために獲物を狩る奴もいたし、村の近くに出た魔物を退治する奴もいた。鹿や鳥を狩ることだって、ずっと昔からやってたらしい。」


「じゃあ、何が違うんだ?」


 セトが首を傾げる。


「仕事じゃなかったんだよ。」


「仕事?」


「ああ。」


 タケミが頷いた。


「今みたいに役所へ行けば依頼があって、それを狩人が受ける。終わったら報告して、報酬を受け取る。そういう仕組みがなかった。」


「なるほど。」


 カインが頷く。


 自分たちにとっては、当たり前のことだった。


 街へ行けば、役所がある。


 役所へ行けば、依頼がある。


 狩人はその中から、自分たちに出来そうなものを選ぶ。


 ずっと、そういうものだと思っていた。


「そんな時代に現れたのが、ロブだ。」


「召喚された英雄なんですよね?」


「ああ。」


 タケミが頷く。


「どこから来たのかまでは、今じゃ分からん。何百年も昔の話だからな。ただ、女神によってこの世界へ召喚された英雄だった。そう伝わってる。」


「ロブさんも、スキルを持ってたんですか?」


「【天眼】。」


「てんがん?」


「名前の通りだ。とんでもなく目が良かったらしい。」


 タケミは少し考えてから、続けた。


「遠くにいる獲物を見つける。小さな足跡を見逃さない。折れた枝や、僅かに倒れた草から獲物を追う。弓を持たせれば、狙ったところへ矢を飛ばした。」


「すげぇ。」


 セトが素直に声を上げる。


「まあ、どこまで本当かは分からんがな。」


「違うんですか?」


「何百年も語られてりゃ、話の一つや二つは大きくなる。」


「あー。」


 セトが納得したように頷いた。


「山の向こうの魔物を見つけたとか、飛んでる鳥の目に矢を当てたとか。そんな話まで残ってる。」


「それは……。」


 カインが少し困った顔をする。


「本当なんですか?」


「だから、分からん。」


 タケミが笑った。


「ただ、凄腕の狩人だった。それだけは間違いないだろうな。」


「【天眼】があったから?」


 カインが聞く。


「それだけじゃない。」


 タケミはすぐに答えた。


「いくら遠くまで見えたって、何を見てるのか分からなきゃ意味がないだろ。」


「……確かに。」


「足跡が見える。で、それが何の足跡だ? いつ通った? どっちへ向かった? 何をしに行った?」


 カインは黙って聞く。


「目が良けりゃ狩人になれるなら、苦労しねぇよ。」


「…………。」


「ロブが凄かったのは、見えたからだけじゃない。見つけて、考えて、追って、仕留めた。そういう奴だったらしい。」


「なるほど……。」


 カインが頷く。


 その横で、セトも何度か頷いていた。


「で、ここからが大事だ。」


 タケミが少し身を乗り出した。


「ロブは、自分だけが狩れればいいとは考えなかった。」


「教えたんですか?」


「そうだ。」


 カインの返事に、タケミが少し嬉しそうに頷く。


「獲物の追い方。魔物の習性。痕跡の見方。弓の扱い。森での動き方。自分が知っていることを、周りの奴らに教え始めた。」


「へー。」


「それだけじゃない。」


 タケミが指を一本立てる。


「狩り方と一緒に、狩る時の決まりも教えた。」


「決まり?」


 セトが聞く。


「ああ。」


 タケミは一度、言葉を切った。


「必要のないものまで狩るな。」


「…………。」


「当時は今より、狩ることそのものを楽しむ奴も多かったらしい。獲物を追って、仕留める。それだけで終わりだ。」


 カインが眉を寄せる。


「食べないんですか?」


「食う奴もいた。素材を使う奴もいただろう。だが、そうじゃない狩りもあった。」


「勿体ねぇな。」


 セトが言う。


「ロブも、そう思ったんだろうな。」


 タケミが頷いた。


「食うためなら狩る。生活を守るためなら狩る。必要な素材があるなら狩る。人に危害を加える魔物なら、それも狩る。」


 そこで一度、カインたちを見る。


「だが、必要がないなら狩らない。」


「…………。」


「それが、ロブの教えだったと言われてる。」


 カインは少し考える。


「じゃあ……今の依頼も?」


「ん?」


「魔物がいるだけじゃ、討伐依頼にはならないですよね。」


 タケミの口元が、少し上がった。


「そうだ。」


「畑を荒らしたり、人を襲ったり。何か理由があって、初めて依頼になる。」


「ああ。」


「それって……。」


「ロブが残した考え方の一つだ。」


 タケミが答える。


「もちろん、何百年も経ってる。全部があいつの言葉そのままってわけじゃない。」


 それでも。


「必要だから狩る。必要がないなら狩らない。」


 タケミは、もう一度そう言った。


「今の狩人にも残ってる考え方だ。」


「……知らなかった。」


 カインが呟く。


「俺も。」


 セトも続く。


「まあ、知らなくても仕事は出来るからな。」


「そうなんですか?」


「お前らだって出来てただろ。」


「あ。」


「ほんとだ。」


 セトが笑った。


 タケミも小さく笑う。


「ロブに教わった奴らが、また別の奴に教える。そうやって少しずつ、魔物を狩ることを仕事にする奴が増えていった。」


「それが、狩人?」


「ああ。」


 タケミが頷く。


「ロブが最初からそう名乗ってたのか、それとも後からそう呼ばれるようになったのか。そこまでは分からん。」


「また分からないんだ。」


「何百年前だと思ってんだ。」


「知らねぇ。」


「俺も正確には知らん。」


「タケミさんも知らないんだ。」


「うるせぇ。」


 カインが小さく笑う。


 リムも口元を押さえていた。


「とにかくだ。」


 タケミが咳払いをする。


「ロブから教わった奴が増えて、その教えを受けた奴がまた増えた。そうやって狩人って仕事が出来ていった。」


「じゃあ、役所もロブが?」


「いや。」


 カインの問いに、タケミは首を振った。


「そこから先は、もっと後の話だ。」


「後?」


「狩人が増えれば、頼む奴も増える。」


 魔物を退治してほしい。


 畑を守ってほしい。


 素材が欲しい。


 色々な依頼が生まれた。


「最初は、直接頼んでたらしい。」


「狩人に?」


「ああ。だが、それじゃ当然問題も起きる。」


 依頼を終えたのに、報酬を払わない。


 逆に、狩ってもいないのに狩ったと言う。


 どれほど危険な魔物なのかも分からないまま、狩人が向かって死ぬ。


「それで、役所が?」


「そういうことだ。」


 タケミが頷いた。


「依頼を一度集める。内容を確認する。狩人へ渡す。終われば報告を受ける。そうやって行政が間に入るようになった。」


「今と同じですね。」


「大体はな。」


「じゃあ、今の狩人の仕組みを作ったのは、ロブじゃない?」


 カインが聞く。


「そうだな。」


 タケミは少し考えた。


「ロブが作ったのは、始まりだ。」


「始まり。」


「ああ。」


「その後を歩いた奴らが、少しずつ今の形にしていった。」


 名前も残っていない、たくさんの人たちが。


 ロブから教わった者。


 その者から、また教わった者。


 依頼を出した者。


 それをまとめた者。


 長い時間をかけて。


「だからまあ。」


 タケミが笑う。


「俺たちが今歩いてる道を、最初に歩いた奴。それがロブだと思えばいい。」


「…………。」


 カインは、その言葉を聞いていた。


 狩人になって、一年。


 そんなことを考えたことはなかった。


 セトに誘われて。


 試験を受けて。


 合格して。


 仕事をして。


 ただ、自分に合っているから続けていた。


 けれど、自分たちが歩いているこの道にも始まりがあった。


「……凄い人だったんですね。」


「ああ。」


 タケミが頷く。


「凄い奴だったんだろうな。」


 それから、少しだけ笑った。


「お前らが今やってる仕事を見たら、何て言うかは知らんが。」


「怒られないかな。」


 セトが言う。


「なんでだよ。」


「いや、俺、結構殴ってるし。」


「狩ってるならいいだろ。」


「そっか。」


「多分な。」


「多分なんだ。」


 エイルが笑った。


「タケミさん、結構楽しそうだったねー。」


「……そうか?」


「うん。」


「そうですね。」


 リムまで頷く。


「…………。」


 タケミは少し黙った。


「まあ……聞きたいって奴がいるなら、話すくらいはする。」


「へー。」


「なんだ、その顔は。」


「別に?」


 セトが笑う。


 タケミが小さく息を吐いた。


「そういや、お前ら。」


「はい?」


「酒は飲めるのか?」


「まだです。」


「俺も。」


「そうか。」


 タケミが頷く。


「なら、飲める歳になったら来い。」


「?」


「一杯くらい奢ってやる。」


 カインとセトが顔を見合わせる。


「ただし。」


 タケミが続けた。


「それまで狩人を続けてたらな。」


「続けてると思います。」


 カインが答える。


「俺も。」


 セトも迷わず答えた。


「……そうか。」


 タケミは、それ以上何も言わなかった。


 けれど。


 少しだけ、嬉しそうに見えた。


「で。」


 今度はタケミが、カインたちを見る。


「お前ら、この先も旅を続けるんだろ?」


「そのつもりです。」


「色んな街を見て回ってるのか?」


「はい。」


「なら。」


 少し考えて。


「一つ、見ておいてもいい場所がある。」


「どこですか?」


 タケミは椅子の背にもたれた。


「ここから少し遠いが……一つ、街がある。」


「街?」


「ああ。」


 そして。


「俗に、貧民街と呼ばれている街だ。」


「……貧民街?」


 聞き慣れない言葉に、カインが首を傾げる。


「行けば分かる。」


 タケミはそれだけ言った。


「お前らが今まで見てきた街とは、少し違う。」


 英雄が残したもの。


 それを受け継いできた人たち。


 そんな話を聞いたばかりだった。


 けれど。


 人が暮らす場所は、それだけではない。


 カインたちはまだ、そのことを知らなかった。

タケミさん楽しかったんやろなぁ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続きが気になったら、ブックマークしていただけると嬉しいです。 ★評価も励みになります。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。