第57話 先達
春。
冷たかった風も随分と和らぎ、街を歩く人々の服装も少しずつ軽くなっていた。
「この辺、懐かしいな。」
セトが辺りを見回す。
「一年ぶりくらいだもんね。」
「もうそんな経つのかー。」
カインも見覚えのある道を歩きながら、周囲を見る。
一年前。
まだ狩人になる前、セトと二人で歩いた道。
あの頃と、街並みはそれほど変わっていない。
けれど。
「今年の試験も、もう終わったんですよね?」
リムが聞く。
「うん。そのはず。」
今年も、この街で狩人試験が行われた。
自分たちが受けたのと、同じ試験。
本当はもう少し早く来てもよかったのだが、試験の時期ならタケミも忙しいだろう。
そう考えて、終わる頃を待ってから訪ねることにした。
「今年は何人くらい受かったんだろうな。」
「さあ。」
「俺らみたいなのいたかな?」
「俺らみたいなのって何?」
「俺らみたいなの。」
「分かんない。」
「お前ほんとたまに話通じねぇな。」
「セトに言われたくない。」
「仲良いねー、二人とも。」
エイルが後ろから笑う。
「昔からこんな感じなんですね。」
「そうだよー。リムちもそろそろ分かってきたでしょ?」
「はい。」
「なんで即答なの?」
そんな話をしながら歩いて。
やがて、目的の場所へ辿り着いた。
◇
「タケミさん。」
「ん?」
声をかけると、男が振り返った。
少しの間、タケミはカインとセトを見ていた。
「……お前らか。」
「久しぶりです。」
「お久しぶりです。」
「おう。」
短く答えて……また二人を見る。
「……なんですか?」
「いや。」
タケミは腕を組んだ。
「随分変わったなと思ってな。」
「変わった?」
「身体もそうだが……立ち方が違う。」
セトが自分の身体を見る。
「そうか?」
「自分じゃ分からんか。」
「俺は分かるよ。」
「お前は黙ってろ。」
「なんで?」
「会った瞬間言いやがったから。」
「本当だったでしょ?」
「そうだけどよ。」
「なんの話だ?」
タケミが眉を寄せる。
「こないだ一ヶ月くらい別々に行動してて、久しぶりに会ったら、こいついきなり『強くなった?』って。」
「実際強くなってたよ。」
「だからなんで見ただけで分かんだよ。」
「セトも分かったじゃん。」
「俺はいいんだよ。」
「何が?」
「……相変わらずだな、お前ら。」
タケミが小さく笑った。
それから、二人の後ろへ視線を向ける。
「で。」
「あ。」
カインも振り返る。
「紹介します。」
「リムです。よろしくお願いします。」
リムが小さく頭を下げる。
「エイルでーす。」
その隣で、エイルが軽く手を上げた。
タケミがエイルを見る。
「……エイル?」
「ん?」
「もしかして、英雄イサナと一緒にいた?」
「あー。うん、それ私。」
「…………。」
「何その顔。」
「いや……。」
タケミはカインを見る。
「お前ら、この一年で何してたんだ?」
「色々?」
「色々で英雄の仲間が増えるのか?」
「おねーさん、仲間扱いでいいのかなー。」
「一緒に旅してるんだから仲間でしょ。」
「お。」
エイルが少し嬉しそうに笑う。
「カイン、いいこと言うねー。」
「普通じゃない?」
「そういうとこだよ。」
「?」
「……まあいい。」
タケミが息を吐く。
「元気そうなのは分かった。」
「タケミさんも。」
「こっちはつい最近まで試験で忙しかったがな。」
「今年も終わったんですよね?」
「ああ。」
タケミが頷く。
「今年も何人か、いいのがいた。」
「へー。」
セトが少し嬉しそうに言う。
「じゃあ、俺らの後輩だな。」
「一年しか違わねぇだろ。」
「後輩は後輩だろ?」
「まあ、そうだが。」
そう答えながら。
タケミは、もう一度二人を見る。
一年前。
試験を受けに来た二人。
まだ何者でもなかった二人を、狩人として送り出した。
それが一年経って、こうしてまた自分の前に立っている。
「……ちゃんと続けてるみたいだな。」
「狩人ですか?」
「ああ。」
「はい。」
カインは頷いた。
「結構、性に合ってるみたいです。」
「俺も。」
「そうか。」
タケミは、それだけ言った。
けれど……少しだけ、嬉しそうに見えた。
◇
「それで?」
少し近況を話したところで、タケミが聞いた。
「今日はどうしたんだ?」
「あ、そうだった。」
セトがカインを見る。
「聞きたいことがあったんだよな。」
「うん。」
カインはタケミへ向き直る。
「タケミさん。」
「なんだ?」
「狩人の道を作った英雄って、いたんですか?」
「…………。」
タケミが黙った。
「タケミさん?」
「……いや。」
少し意外そうな顔で、カインを見る。
「急にどうした?」
「旅してたら、色んな英雄の話を聞いたんです。」
「英雄?」
「はい。」
刀を伝えた英雄。
格闘術を伝えた英雄。
それ以外にも。
今では当たり前に使われているものの中に、遠い昔に誰かが残したものがある。
「それで、俺たちがやってる狩人にも、そういう人がいたのかなって。」
「なるほどな。」
「タケミさんなら知ってるかなと思って。」
「…………。」
タケミは、しばらく何も言わなかった。
「知らないですか?」
「いや。」
タケミが首を振る。
「いる。」
「本当ですか?」
「ああ。」
その返事に、カインが少し身を乗り出す。
「どんな人だったんです?」
「お前、食いつくなぁ。」
「気になるので。」
「俺も聞きたい。」
セトも隣から言う。
「狩人やってんのに、始まりとか全然知らねぇし。」
「そうですね。私も聞いてみたいです。」
「おねーさんも詳しくは知らないなー。」
四人の視線が集まる。
タケミは、それを見て。
「……そうか。」
小さく笑った。
「なら、話してやる。」
近くにあった椅子を指差す。
「座れ。」
「はい。」
「そんな長いの?」
「さてな。」
セトが椅子へ腰を下ろす。
カインとリムも続き、エイルもその隣へ座った。
四人が座ったのを確認してから。
タケミも、ゆっくりと腰を下ろす。
「どこから話すかな……。」
少し考えて。
やがて、口を開いた。
「――ロブ。」
「ロブ?」
「ああ。」
タケミが頷く。
「今から何百年も昔にいた、狩人の英雄だ。」
そして。
「こいつの話をするなら、まずは――」
一度、言葉を切る。
「狩人なんてものが、まだなかった頃からだな。」
タケミさてはウッキウキだな




