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第49話 都市を支えるもの

 翌日も、カインたちは昨日に続いて街を歩いていた。


「やっぱり人多いな。」


「昨日も言ってたよ。」


「だって多いんだから仕方ないだろ。」


 セトが辺りを見回す。


 朝だというのに、大通りには既に多くの人が行き交っていた。


 仕事へ向かう者。


 店を開く準備をしている者。


 荷を積んだ馬車。


 それを避けながら歩く人々。


 昨日一日歩き回ったというのに、少し道を変えただけで、また見たことのない店や建物が並んでいる。


「ほんとに広いな……。」


「今日はどこ行く?」


 カインが聞くと、エイルは少し考えた。


「んー。昨日はお店ばっかり見てたし。」


「楽しかったです。」


 リムが小さく笑う。


「リムちはそうだよねー。」


「…………。」


 リムが少し俯く。


 その髪には、昨日カインが渡した髪飾りがついていた。


「似合ってるよー。」


「……ありがとうございます。」


 さらに俯いた。


「?」


 カインには、何の話かよく分からなかった。


「カインはそれでいいよー。」


「何が?」


「なんでもない。」


 エイルは笑って、そのまま歩き出した。


「今日は街そのものでも見てみよっか。」


「街そのもの?」


「そ。」


     ◇


 そう言われて見てみると、昨日は気にも留めていなかったものがいくつも目についた。


「この道、ずっと続いてるな。」


 カインが足元を見る。


 大勢の人間と何台もの馬車が行き交う大通り。そこから分かれる道も、きちんと整えられている。


「これだけ人が歩くからねー。道が悪いと大変なんじゃない?」


「馬車も多いしな。」


「そういうこと。」


 少し歩けば、水の流れる場所があった。


「川……じゃないよな?」


「水路だねー。」


 街の中へ水を引くために作られたものらしい。別の場所には、使った水や雨水を街の外へ流すための設備まであるという。


「……こんなの、俺たちの街にはなかったよな。」


「ない。」


 水を汲む場所ならあった。


 雨が降れば、水は自然に低いところへ流れていく。


 それで困ったこともなかった。


「これだけ人が住んでると、必要になるんだよー。」


「人が多いだけで?」


「多いからでしょ。」


 エイルが笑う。


「飲む水だっていっぱい必要だし、使った水だっていっぱい出るんだから。」


「ああ……。」


 言われてみれば、当たり前だった。


 人が増えれば、必要なものも当然増える。


「これだけのものを、全部作ったんでしょうか……。」


 リムが水路を眺めながら呟いた。


「ずっと昔からあるみたいだよー。」


「昔から?」


「うん。」


 エイルが水路を指差す。


「こういうのの元を作ったのは、英雄ガイウスだったかな。」


「ガイウス?」


 聞き覚えのある名前だった。


「ああ。」


 カインは思い出す。


「習ったことある。」


「俺も。」


 セトも頷いた。


「有名な方なんですか?」


 リムが尋ねる。


「有名だよ。」


「どのようなことをした方なんですか?」


「…………。」


「…………。」


 カインとセトが黙る。


「カインさん?」


「昔の英雄。」


「それは分かりました。」


「街を……なんかした人。」


「なんか。」


「授業で習ったんだけど……。」


「俺も名前は覚えてる。」


「二人ともさぁ。」


 エイルが呆れたように笑った。


「ちゃんと勉強してた?」


「してたよ。」


「セトは?」


「……多分。」


「してないじゃん。」


     ◇


 英雄ガイウス。


 今から随分と昔に生きた英雄の一人。


 その名前は、カインたちも知っていた。


 ただ……何をした人物なのかと聞かれると、あまり覚えていない。


「街を整えた人、くらいで覚えとけばいいんじゃない?」


「雑じゃない?」


「だって、おねーさんも詳しくは知らないもん。」


 何しろ、随分と昔の人物だ。


 どのような性格だったのか、何を考えていたのか、そういったことは、ほとんど残っていない。


 ただ、残したものは、今もある。


「この水路も?」


「元になった仕組みはそうらしいよー。」


「道も?」


「それも。」


「さっきの水を流すやつも?」


「確かそう。」


「…………。」


 セトが黙る。


「どうした?」


「いや。」


 少し考えて。


「結構色々やってない?」


「そうだねー。」


 今あるもの全てを、ガイウスが作ったわけではない。


 ガイウスが作ったもの。


 伝えたもの。


 それを使いやすいように変えた人がいて。


 もっと良いものにした人がいて。


 そうやって、長い時間をかけて今の形になった。


 それでも……元を辿れば、一人の英雄へ行き着くものが多いらしい。


「……凄い人だったんですね。」


 リムが言う。


「多分。」


「多分なんですか?」


「だって会ったことないし。」


「それはそうですけど……。」


     ◇


「あれ?」


 しばらく歩いていると、カインは通りの向こうへ目を向けた。


 同じ装備を身につけた数人の男女が歩いている。


「狩人じゃないよな?」


「違うねー。」


「じゃあ何してる人?」


「憲兵。」


「憲兵?」


「街を守ってる人たちだよー。」


 エイルが答える。


「街の中を見回ったり、揉め事があったら止めたり、悪いことした人を捕まえたり。」


「へえ。」


「大きな行事がある時とかは、王族の警護もするねー。」


 セトが憲兵たちを見る。


「じゃあ、狩人と似たようなもん?」


「ちょっと違うかなー。」


「どう違うの?」


「狩人は、基本的に依頼を受けて街の外で仕事するでしょ?」


「ああ。」


「魔物を倒したり、護衛したり、何か採ってきたり。」


「うん。」


「憲兵は、この街の中を守るのが仕事。」


「なるほど。」


 確かに。


 これだけの人間が暮らしていれば、何も起こらないはずがない。


 人が多ければ、揉め事も増える。


 悪いことをする者だっているだろう。


 それを、その都度誰かに依頼していたのでは間に合わない。


「だから、いつもいる人たちが必要なのか。」


「そういうことだねー。」


「……あれ?」


 セトが何かに気づいたように言う。


「どうした?」


「いや、まさかと思うけど。」


 エイルを見る。


「これもガイウス?」


「元を作ったのはそうだったはずだよー。」


「…………。」


「どうしたの?」


「いや。」


 セトは遠ざかっていく憲兵たちを見る。


「やっぱ色々やりすぎじゃね?」


 カインも、少しそう思った。


     ◇


 昨日この街へ着いた時。


 カインが見ていたのは、大きな建物や、たくさんの店。


 行き交う人々。


 どこまでも続く道。


 見たことのないものばかりで。


 ただ、凄いと思った。


 ……けれど、これだけ大きな街が、ただ大きいだけで成り立つはずがない。


 人が歩くための道がある。


 生活に使う水を運ぶ仕組みがある。


 使った水を外へ流す仕組みがある。


 街を守る人がいる。


 それらを維持する人もいる。


 ずっと昔に、その元を作った人がいて。


 そこから何代もの人たちが、少しずつ変えながら受け継いできた。


「……街って。」


 カインが呟く。


「作って終わりじゃないんだな。」


「そりゃそうでしょー。」


 エイルが笑う。


「人が住んでるんだから。」


「うん。」


 昨日は単純に、都会は凄いと思った。


 今日もそれは変わらない。


 ただ……その凄さを支えているものが、少しだけ見えた気がした。

英雄ガイウス、多分ローマの人。


後めっちゃ顔が濃い。

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