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第48話 都会凄い

「さて。」


 宿を出て、エイルが言った。


「次、どこ行こっかー。」


「どこか良さそうなとこあります?」


 カインが聞く。


「んー。」


 エイルは少し考える。


 特に、行き先を決めているわけではない。


 見たことのないものを見て、知らないものを知る。


 そういう旅なのだから、急ぐ必要もなかった。


「じゃあさ。」


 エイルが顔を上げる。


「せっかくだし、一番大きい街行ってみる?」


「一番大きい街?」


「うん。王族が住んでるところ。」


「ああ。」


 カインも話には聞いたことがある。


 人間の国で、最も大きな街。


 王族が暮らし、多くの人と物が集まる場所。


「二人は行ったことある?」


「ない。」


「俺も。」


 セトも首を振った。


 二人とも、生まれ育った街から遠く離れること自体、旅に出るまではほとんどなかった。


「リムちは?」


「私もありません。」


「じゃあ決まりだねー。」


 エイルが笑う。


「行ってみよっか。都会。」


     ◇


 それから数日。


「……でかいな。」


「でかい。」


 街を前にして。


 カインとセトは、揃って同じような感想を口にしていた。


 まだ中に入ってすらいない。


 それなのに、これまで訪れた街とは明らかに規模が違う。


 遠くまで続く城壁、大きく開かれた門、そこへ向かう人の列……荷を積んだ馬車も、次から次へと行き交っている。


「人、多くない?」


「一番大きい街だからねー。」


「入るだけでこんなにいるのか……。」


「皆さん、ここに住んでいるんでしょうか……。」


「住んでる人もいるし、商売とか仕事で来てる人も多いんじゃない?」


「なるほど……。」


 リムも珍しそうに辺りを見回している。


「ほら、三人とも。」


 エイルが先へ進む。


「中入るよー。」


     ◇


「…………。」


 街へ入ったカインは、しばらく言葉を失った。


 まず、道が広い。


 自分たちの街なら大通りと呼ばれるような道を、当たり前のように何台もの馬車が行き交っている。


 その両側には、建物が隙間なく並んでいた。


 人も多い。


 歩いている者。


 店先で声を上げる者。


 大きな荷物を運んでいる者。


 馬車から荷を下ろしている者。


 どこを見ても、人がいる。


「……すげえな。」


 隣で、セトが呟く。


「うん。」


「何から見ればいいんだ……。」


「別に適当に歩けばいいんじゃない?」


「適当なの?」


「観光なんだからそんなもんでしょー。」


 そんなものなのだろうか。


 とりあえず、四人で大通りを歩いてみる。


 少し進んだところで、セトが足を止めた。


「武器屋あるぞ。」


「あ、本当だ。」


 カインもそちらを見る。


 店先には、何本もの剣が並んでいた。


 長いもの。


 短いもの。


 幅の広いもの。


 細身のもの。


 随分と種類が多い。


「……剣ばっかりだな。」


「剣のお店だからねー。」


 エイルが何でもないことのように答える。


「槍は?」


「あっち。」


 指差した先には、槍が並ぶ別の店。


「防具は?」


「向こうにあったよー。」


「…………。」


 セトがもう一度、剣の店を見る。


「武器屋じゃないの?」


「だから剣のお店。」


「剣だけで店やってけるの?」


「ここならねー。」


「……都会凄いな。」


「まだ入ってそんな経ってないよ。」


 思わずカインは笑った。


 だが、セトが驚くのも分かる。


 自分たちの街なら、武器屋へ行けば剣も槍も弓も防具も、まとめて置いてある。


 それがここでは、それぞれ別の店になっているらしい。


 さらに歩けば、同じようなことは武器だけではなかった。


 服を売る店。


 靴を売る店。


 旅に使う道具を専門に扱う店。


 薬ばかりを並べた店。


 食べ物を扱う店も、一つや二つではない。


「……なんでもあるな。」


「人が多いからねー。」


 エイルが言う。


「買う人がいっぱいいれば、それだけ売るお店でもやってけるんだよー。」


「なるほど……。」


 なんとなく分かるような……やはり不思議なような。


「あ。」


 今度はリムが足を止めた。


 声は小さかったが、カインには聞こえた。


「どうしたの?」


「い、いえ。」


 そう言いながら、リムの視線は一つの店へ向いている。


 並んでいるのは、装飾品だった。


 髪飾りや首飾り、色とりどりの石が嵌め込まれたもの。


 そして、光を受けて輝くガラス細工。


「……綺麗。」


 リムが、小さく呟いた。


「リムち、見てく?」


「えっ。」


 エイルに声をかけられ、リムが慌てて振り返る。


「い、いえ。私は……。」


「見たいんでしょ?」


「……少しだけ。」


「じゃ、見よっかー。」


 四人で店を覗く。


 小さなガラス玉。


 花を模したもの。


 細い金具と組み合わせた髪飾り。


 見たことのない色や形のものまで並んでいた。


 リムは何も買わなかった。


 けれど、店を出るまで、ずっと楽しそうに眺めていた。


     ◇


 それからも、四人は街を歩いた。


 カインも、気になる店をいくつも見つけた。


 刀を扱っている店まで見つけて、少し長く見てしまった。


「カイン、めっちゃ見てたな。」


「セトだって防具見てたじゃん。」


「二人とも同じくらいだったよー。」


 エイルに言われ、二人とも黙る。


 その少し先。


 店先に並んでいたものを見て、カインはまた足を止めた。


「…………。」


 小さな髪飾り。


 飾り気の少ない細い金具に、淡い色のガラスが一つ嵌め込まれている。


 先ほどリムが見ていたものより、随分と簡素なものだった。


 けれどなんとなく……リムに似合いそうだと思った。


「これ、いくらですか?」


「ん?」


 横にいたエイルがカインを見る。


「買うの?」


「うん、リムに。」


「…………。」


「こういうの見てたから。使うかなって。」


「……そっか。」


「?」


「なんでもないよー。」


 なぜか少し笑ったエイルを不思議に思いながら。


 カインは髪飾りを買った。


     ◇


「リム。」


「はい?」


「これ。」


 宿へ向かう途中。


 カインは先ほど買ったものをリムへ差し出した。


「……なんですか?」


「髪飾り。」


「それは、分かりますけど……。」


「リムに。」


「…………。」


 リムが固まった。


「さっき、ガラスのやつ見てたから。」


「…………。」


「使わない?」


「つ、使います!」


 思ったより大きな声が返ってきた。


「そっか。」


 なら、買ってよかった。


 そう思っていると。


「……いいんですか?」


「何が?」


「私が、もらっても……。」


「リムに買ったんだから、リムが持たないと意味ないでしょ。」


「…………はい。」


 リムは両手で髪飾りを受け取る。


 壊れ物を扱うように……とても大切そうに。


「ありがとうございます、カインさん。」


「うん。」


 少し後ろを歩きながら、エイルはそんな二人を見ていた。


「…………。」


 ふと、随分と昔のことを思い出す。


 別に大したことではない、ただ少し……似ているなと思っただけだ。


「……親子だねー。」


「エイル?」


「なんでもないよー。」


     ◇


 その後も、街を歩いた。


 王族が住んでいる場所も遠くから眺めた。


 そこでリムが、少し不思議そうに尋ねた。


「王族の方々は、この街に住んでいるんですよね?」


「そうだよー。」


「では、ここから人間の国を治めているんですか?」


「んー。」


 エイルが少し考える。


「王族は、そういうことほとんどしないよー。」


「……そうなんですか?」


「大きな行事とかには出てくるけどね。国のこと決めたり、街を動かしたりするのは別の人たち。」


「…………。」


 リムが目を瞬く。


「魔族は違うの?」


 カインが聞く。


「はい。魔王様が国を治めています。」


「アベルが?」


「魔王様ですから……。」


「ああ、そっか。」


「カインさん、たまに魔王様への扱いが軽いですよね……。」


「そうかな?」


「そうだと思います……。」


 リムが少し困ったように笑う。


 そして、もう一度大きな街を見渡した。


「……随分、違うんですね。」


「魔族と?」


「はい。」


 人間と魔族。


 暮らしている場所だけではない。


 国の形も。


 そこに住む人たちの生き方も。


 違うところは、きっとまだたくさんある。


「もっと見てみよっか。」


「……はい。」


     ◇


 夕方。


「…………。」


 セトが道の先を見る。


 まだ、街が続いている。


「俺たち、結構歩いたよな?」


「歩いたねー。」


「まだあるの?」


「あるよー。」


「…………。」


「セト?」


「都会凄いな。」


「それ今日何回目だよ。」


 カインが笑う。


 けれど。


 多分、自分も同じくらい思っていた。


 都会は、凄い。

都会はすげぇんだよ、なんでもある。

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