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第47話 旅の途中

 突然の再会に、アランは目を丸くしていた。


「カイン……とセト?!」


「俺、おまけみたいに言われた?」


「ち、違うよ!」


 セトの言葉に、アランが慌てて首を振る。


「カインが先に目に入ったから、その……。」


「冗談だって。」


 セトが笑う。


「久しぶりだな、アラン。」


「うん。二人とも久しぶり。」


「アランー。」


 店の奥から声が飛んできた。


「そっちお願いー。」


「あ、はい!」


 反射的に返事をしたアランが、カインたちを見る。


「ごめん。今、仕事中だから……。」


「うん。」


「あとで話せる?」


「もちろん。」


「ありがとう。じゃあ、あとで!」


 そう言い残し、アランはすぐに店の奥へ戻っていった。


「知り合い?」


 エイルが尋ねる。


「うん。俺たちと同じ街に住んでるんだ。」


 カインが答える。


「一緒に狩人試験も受けたんですか?」


 リムが気になったのか尋ねる。


「うん。でも、元々料理人になりたいって言ってたんだ。」


 カインは、店の奥へ視線を向ける。


 ちょうどアランが皿を持って、別のテーブルへ向かうところだった。


 料理を運び。


 空いた皿を下げ。


 時折、厨房へ入っていく。


「ちゃんと料理人やってんなー。」


 セトが言う。


「うん。」


 以前会った時とは、少し違って見えた。


 忙しそうに動いている。


 けれど、嫌そうには見えない。


「アランー、それもうちょっと煮てー。」


「はい!」


「そっち終わったら次これねー。」


「分かった!」


 厨房から聞こえてくる声に答えながら、アランが動いている。


 迷うこともある。


 時折、何かを確認することもある。


 それでも、ちゃんとこの店の一員として働いていた。


「頑張ってるんですね。」


 リムが小さく笑う。


「だな。」


 セトも、どこか嬉しそうだった。


 それからしばらくして。


 客が一人、また一人と店を出ていく。


 やがて最後の客が帰ると、店の扉が閉められた。


「お待たせ。」


 片付けを終えたアランが、カインたちのところへやってくる。


「待たせてごめん。」


「大丈夫だよ。」


「俺らも飯食ってたしな。」


「美味しかった?」


「美味かった!」


「よかった。」


 アランが笑う。


「アランー。」


 また、あの声がした。


「そっち片付いたー?」


「うん!」


「じゃあお疲れー。」


 厨房から、一人の男が姿を現した。


 年齢は三十代後半ほどだろうか。


 先ほどから厨房で料理を作っていた男だった。


 その後ろから、カインたちを席へ案内した女性もやってくる。


「叔父さん。」


「んー?」


「この二人、前に話した友達。」


「友達?」


 男がカインとセトを見る。


「ほら、狩人試験を一緒に受けた。」


「あー。」


 男は少し考えて。


「え、アランの友達ー? 話そ話そー。」


「軽いな。」


 思わずセトが呟く。


「いいじゃん。もう店終わったしー。」


「アルト、まず自己紹介。」


 隣の女性が笑う。


「あ、そっか。」


 男――アルトが、改めてカインたちを見る。


「アルトです。この店で料理作ってまーす。」


「軽いな。」


「また言った。」


「だって軽いだろ。」


「じゃあ私はサイ。主にこっちでお客さんの相手してるよ。」


 そう言って、サイが笑った。


「俺はカインです。」


「セト。」


「エイルでーす。」


「リムです。」


 簡単に自己紹介を済ませる。


「ほら、前に話した料理人のおじさん。」


 アランがアルトを指す。


「ああ!」


 カインは思い出した。


 以前、アランが料理人になると話していた時。


 料理人をしている叔父がいると言っていた。


「じゃあ、アランは今ここで?」


「うん。叔父さんに料理を教えてもらってる。」


「まだまだだけどねー。」


「叔父さん。」


「でも大分できるようになったよー。」


「どっちなの。」


「まだまだだけど、大分できるようになった。」


「……そっか。」


 アランが諦めたように頷く。


「仲いいねー。」


 エイルが笑う。


「そう?」


「そう見えるよー。」


 アルトは特に気にした様子もなく、空いている椅子を引いた。


「まあ座ろー。ずっと立ってたから疲れたー。」


「アルトは途中からずっと厨房だったでしょ。」


「厨房も疲れるんだよー。」


「知ってる。」


 サイもその隣へ座る。


 アランも腰を下ろし、いつの間にか七人で一つのテーブルを囲んでいた。


「それで?」


 アランが尋ねる。


「二人はなんでここに?」


「今、旅してるんだ。」


「旅?」


「うん。」


 カインは、これまでのことを簡単に話した。


 街を出たこと。


 色々な場所を見て回ろうと思っていること。


 少し前までルークのところで修行していたこと。


「へえ……。」


 アランが感心したように頷く。


「二人とも、ちゃんと狩人やってるんだね。」


「まあな。」


「アランもちゃんと料理人やってるじゃん。」


 セトが返す。


「僕はまだ見習いだよ。」


「でも働いてたじゃん。」


「それは……まあ。」


 少し照れたように、アランが笑った。


「そうだ。」


 エイルが声を上げる。


「おねーさん、ずっと聞きたかったんだけどさー。」


「俺?」


「うん。」


 アルトを見る。


「なんでこの店、色んな街の料理があるの?」


「あー。」


 アルトは少し考える。


「色んな街の料理……っていうか。」


 そして、あっさりと言った。


「俺が美味しいと思ったの集めただけだよー。」


「……集めた?」


「昔、色んな街行ってたからねー。」


「やっぱり!」


 エイルが身を乗り出す。


「これ北の方の料理でしょ? こっちは西の街のやつだよね?」


「そうそう。」


「でも、向こうで食べたのと味違ったよ?」


「あー、それは変えてるから。」


「変えてる?」


「同じ材料が手に入らなかったりするしねー。あと、この辺の人にはこっちの味の方が食べやすそうだったり。」


 アルトは何でもないことのように言う。


「だから、その時あるもので作ったり、味変えたり。」


「それであんな感じになってるんだ……。」


「美味しかった?」


「美味しかった。」


「じゃあよかったー。」


 それだけで満足したらしい。


 アルトが笑う。


「この人、本当にそんな感じなの。」


 サイが苦笑した。


「美味しいもの食べると、すぐ店で作れないかなーって考えるから。」


「だって美味しかったら、また食べたいじゃん。」


「自分が?」


「俺も、お客さんも。」


「はいはい。」


 サイは慣れているらしい。


「アランも、色々教えてもらってるの?」


 カインが尋ねる。


「うん。」


 アランが頷く。


「料理だけじゃないよ。食材の保存とか、仕込みとか、仕入れとか。店のことも色々。」


「そんなことまで?」


「料理だけできても店できないからねー。」


 アルトが答える。


「アラン、自分の店やりたいんでしょ?」


「いつかはね。」


「じゃあ覚えといた方が楽だよー。」


「叔父さん、本当に何でも教えるんだ。」


「隠す理由ないし。」


「アルトは、アランが覚えれば自分が楽できると思ってるところもあるけどね。」


 サイが付け加える。


「それもある。」


「否定しないんだ。」


 エイルが笑った。


「だって俺しかできない仕事ばっかりだと大変じゃん。」


 アルトは当然のように言った。


「アランができるようになったら、俺やらなくていいしー。」


「そう言いながら、教える時はずっと付き合ってくれるけどね。」


「それは教えないとできるようにならないから。」


「ほら、こういう人。」


 サイが笑う。


 アランも、どこか楽しそうだった。


「それに最近、アラン面白いことするんだよー。」


「叔父さん。」


「面白いこと?」


 セトが尋ねる。


「料理見て、これとこれ合わせたら美味しいんじゃないかって言い出すの。」


「ああ……。」


 アランが少し困った顔をする。


「【目利き】?」


 カインが尋ねる。


「多分。」


 アランは自分でもまだよく分かっていないようだった。


「食材見てると、たまに思うんだ。こっちの料理に、この調味料使ったら合うんじゃないかな、とか。」


「分かるのか?」


「なんとなくだけど。」


「でも結構当たるよー。」


 アルトが嬉しそうに口を挟む。


「この前も、俺が教えた料理に別の街の調味料合わせてねー。あれ美味しかったなー。」


「まだ完成してないって言ったでしょ。」


「でも美味しかったじゃん。」


「そうだけど……。」


 アルトがカインたちを見る。


「うちのアラン凄いでしょー。」


「叔父さん……。」


 アランが顔を伏せる。


「照れてる。」


「サイさんまで……。」


「いいじゃん。本当に凄いんだから。」


「もう……。」


 困ったように言いながら。


 それでも、アランは少し嬉しそうに見えた。


 話しているうちに、随分と時間が経っていた。


「そろそろ宿に戻るか。」


 カインが立ち上がる。


「そうだな。」


「また来てねー。」


 アルトが手を振る。


「次はアランの料理食べに来たら?」


 サイが笑う。


「えっ。」


「いいねー。」


「叔父さんまで。」


「じゃあ次来た時、食わせてくれよ。」


 セトが言った。


「俺、楽しみにしてるから。」


「……うん。」


 アランは少し考えて、照れくさそうに笑った。


「その時までに、美味しいの考えとく。」


「おう。」


「じゃあ、また。」


「うん。またね。」


 店を出る。


 夜の空気は少し冷たかった。


「アラン、頑張ってたな。」


 セトが言う。


「うん。」


 狩人になると言っていた自分たち。


 料理人になると言っていたアラン。


 進む道は違ったけれど。


 それぞれ、自分の道を歩いている。


「次来るの、楽しみだな。」


「飯が?」


「それも。」


 セトが笑う。


 カインも、小さく笑った。

アラン頑張ってます。

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