第46話 ちょっと贅沢
昨日の依頼で思いがけず珍しい鉱石を見つけたことで、しばらく旅を続けるには十分な金が手に入った。
そこで次の目的地を話し合っていたところ……。
「ねえねえ。」
荷物をまとめながら、エイルが声を上げる。
「せっかくだしさー。たまにはちょっと贅沢しない?」
「贅沢?」
カインが聞き返す。
「うん。この街から半日くらい行ったところに、小さい街があるんだけどねー。」
エイルは楽しそうに笑った。
「そこに、結構評判の店があるんだよ。」
「飯か?」
セトがすぐに反応する。
「飯。」
「行こう。」
「早いな。」
即答したセトに、カインが苦笑する。
「だって美味い店なんだろ?」
「おねーさんも前から気になってたんだよねー。」
「エイルさんは、行ったことないんですか?」
リムが尋ねる。
「ないよー。この辺通ることは何回かあったんだけど、いつも時間合わなくてさ。」
そう言って、エイルは肩をすくめた。
「俺はいいと思う。」
「俺も。」
「私も……行ってみたいです。」
「決まりだねー。」
こうして四人は、次の街へ向かうことになった。
職人の街を出て、半日ほど。
昼を少し過ぎた頃、目的の街が見えてきた。
「……小さいな。」
セトが呟く。
確かに、職人の街と比べれば規模はかなり小さい。
高い建物があるわけでもなく、大きな工房が並んでいるわけでもない。
ただ。
「人は多いですね。」
リムの言う通り、街の規模に対して人の数は多かった。
荷車を引く商人。
旅装の人々。
荷物を背負った職人らしき姿もある。
通りには宿屋や食事処が並び、その間に小さな店がいくつも軒を連ねていた。
「ここ、職人の街に行く人がよく通るんだよねー。」
エイルが説明する。
「逆に、向こうから帰ってくる人もここで休んだりするし。」
「なるほど。」
カインは周囲を見回した。
店先には、見覚えのあるものも並んでいる。
小さな木工品。
革細工。
包丁や小型の道具。
職人の街で見かけたものによく似ていた。
だが、それだけではない。
「これは……食べ物でしょうか?」
リムが足を止める。
店先には、乾燥させた肉や果物らしきものが並んでいた。
「たぶん保存食だな。」
「こっちはお菓子だねー。」
エイルが別の棚を覗き込む。
「あ、これ懐かしー。」
「知ってるの?」
「うん。もっと東の方で売ってるやつ。」
「そんな遠くのものまであるんだ。」
「人が色んなところから来るからねー。」
見れば見るほど、不思議な街だった。
何か一つ、これというものがあるわけではない。
その代わり、色んな場所から、色んなものが集まっている。
「面白い街だな。」
カインが言う。
「ですね。」
リムも、珍しそうに辺りを見回していた。
「リムち、気になるものあったら見ていいよー。」
「えっ。」
「時間あるし。」
「……じゃあ、少しだけ。」
そう答えながらも、リムの視線はすでに別の店へ向いている。
エイルが小さく笑った。
「分かりやすくて可愛いねー。」
「き、聞こえてます……。」
そんなやり取りをしながら街を見て回り、先に宿を取る。
そして夕方。
「ここだよー。」
エイルが足を止めた。
通り沿いに建つ、一軒の店。
外から見れば、それほど大きくはない。
だが、中からは人の話し声が聞こえていた。
「結構混んでるな。」
「評判いいらしいからねー。」
扉を開ける。
「いらっしゃいませー!」
すぐに、明るい声が飛んできた。
店内はほとんどの席が埋まっていた。
旅人らしい客。
商人。
地元の人間らしき姿もある。
「四名様ですね。こちらどうぞー。」
案内してくれたのは、栗色の髪を後ろでまとめた女性だった。
忙しそうではある。
だが、不思議と慌ただしさは感じない。
次々と入る注文を受けながら、客へ声をかけ、空いた皿を下げていく。
「すごいですね……。」
リムが小さく呟いた。
「ん?」
「いえ。忙しそうなのに、全然そんな感じがしないなって。」
「確かに。」
カインも頷く。
席へ着くと、すぐにメニューが置かれた。
「どれにするかなー。」
セトが早速覗き込む。
カインもその隣から見る。
肉料理。
煮込み料理。
焼いた魚。
野菜を使ったもの。
見たことのない名前も多い。
「……?」
向かい側で、エイルが黙り込んでいた。
「どうした?」
「…………。」
「エイルさん?」
「……え。」
品書きを上から下まで見たエイルが、顔を上げる。
「なんか、色んな街の料理ある。」
「そうなの?」
「うん。」
エイルが一つを指差す。
「これ、北の方の街で食べたことある。」
次。
「こっちは西の方。」
さらに。
「あ。これも知ってる。」
「そんなに?」
「いやいや。」
エイルが品書きを見つめる。
「普通、一つの店にこんな集まらないんだけど……。」
「色んな料理が食べられていいじゃん。」
セトは特に気にしていない。
「まあ、それはそうなんだけどさー。」
エイルだけが、何やら納得していない顔をしていた。
「せっかくだし、色々頼んでみよっか。」
「賛成。」
「セトは本当に飯になると早いねー。」
「美味いもん食えるならいいだろ。」
「それはそう。」
結局、四人はそれぞれ違う料理を頼み、少しずつ分けて食べることにした。
しばらくして。
「お待たせしましたー。」
次々と料理が運ばれてくる。
「美味そう!」
セトが目を輝かせる。
香ばしく焼かれた肉。
柔らかく煮込まれた野菜。
香辛料の匂いがする料理もあれば、見た目は素朴な煮込みもある。
「いただきます。」
カインが一口食べる。
「……美味い。」
「うん!」
リムも小さく頷く。
「これ、すごく柔らかいですね。」
「こっちも美味いぞ。」
「セトさん、それ私のです……。」
「一口だけ!」
「もう食べてるじゃないですか……。」
そんな二人の横で。
「…………。」
エイルは、先ほどから何度も首を傾げていた。
「エイルさん?」
「いや。」
もう一口食べる。
「これ、やっぱり知ってる料理なんだけど。」
「うん。」
「味、違うんだよねー。」
「まずいの?」
「逆。」
エイルは即答した。
「美味しい。」
「じゃあいいじゃん。」
「そうなんだけどさー。」
セトの言葉に、また首を傾げる。
「向こうで食べたのと全然同じじゃないのに、ちゃんとその料理なんだよね。」
「……?」
カインには、いまいち違いが分からない。
「作ってる人、色んなところ行ったことあるのかな。」
エイルは、店の奥へ視線を向けた。
そこには厨房がある。
客席からすべて見えるわけではないが、人が動いているのは分かった。
「アランー、それ先お願いー。」
「はい!」
「サイー、こっちあとどれくらいー?」
「すぐいけるよー。」
「じゃあ先そっち出そっかー。」
「了解ー。」
料理を作っている男の声。
先ほど自分たちを案内した女性の声。
それに、もう一人。
店の中は混んでいる。
注文も次々入っている。
なのに、厨房から怒鳴り声が聞こえることもなければ、誰かが慌てている様子もない。
「……なんか、すごいですね。」
リムがまた呟く。
「うん。」
カインも同意した。
何がどうすごいのかは、よく分からない。
だが、店全体が妙に滑らかに動いている。
「ねー。」
エイルは料理を食べながら、まだ厨房を気にしていた。
「ほんと、何なんだろこの店。」
「美味い店。」
「セトはそれでいいよー。」
「いいだろ、美味いんだから。」
そして。
「お待たせしました。」
最後に頼んだ料理が運ばれてきた。
「ありがとう。」
カインが顔を上げる。
「…………。」
皿を置いた店員と、目が合った。
「…………。」
どこかで見た顔だった。
「……アラン?」
「え?」
呼ばれた店員が、カインを見る。
そして。
その隣のセトを見た。
「カイン……とセト?!」
「俺、おまけみたいに言われた?」
なんならセトの方が仲良くしてた。




