第45話 善因善果
翌朝。
カインたちは、街の役所を訪れていた。
「さて。」
壁に並んだ依頼書を見ながら、エイルが言う。
「今日はちゃんと働こっか。」
「昨日も聞いた。」
セトが苦笑する。
「でもまあ、金は必要だしな。」
「うん。」
カインも頷いた。
食事、宿、その他諸々。
旅を続けるためには、何をするにも金がかかる。
昨日までは街を見て回ることばかり考えていたが、いつまでもそうしているわけにはいかない。
「何か良さそうなのありますか?」
リムも、依頼書を覗き込む。
「んー。」
エイルが一枚ずつ目を通していく。
魔物の駆除。
薬草の採取。
荷物の護衛。
いくつか見たところで、エイルの手が止まった。
「これなんてどう?」
「鉱石の採取?」
カインが読み上げる。
「ああ。」
役所の職員が声をかけてきた。
「この街じゃ、そういう依頼は多いよ。」
「鍛冶場で使うんですか?」
「それもあるし、道具を作る職人も多いからな。材料はいくらあっても困らん。」
「なるほど。」
カインは依頼書を見る。
指定された鉱石を、一定量。
採取場所も、街からそれほど遠くはない。
危険な魔物が出る地域でもなさそうだった。
「これでいいんじゃない?」
エイルが言う。
「そうだな。」
「俺は何でもいいぞ。」
「セトは運ぶ係ねー。」
「なんでだよ。」
「一番力あるじゃん。」
「……まあ、そうだけど。」
セトが少しだけ胸を張る。
「任せろ。」
「単純ですね。」
リムが小さく笑った。
「ん?」
「いえ、なんでもないです。」
◇
街を出て、しばらく。
道は次第に細くなり、岩の多い山道へと変わっていった。
「この辺りだねー。」
エイルが依頼書と周囲を見比べる。
「目的の鉱石は、岩肌に混じって出てるらしいよ。」
「掘るのか?」
セトが尋ねる。
「全部じゃないよ。見えてる部分を割って取る感じ。」
「へぇ。」
カインは岩壁を見る。
よく見れば、普通の岩とは少し違う色の筋が走っている場所があった。
「あれかな。」
「多分そう。」
エイルが近づき、確認する。
「うん。これだね。」
そこからは、四人での作業になった。
岩を砕き、目的の鉱石を取り出し、そして袋へ詰めていく。
「結構重いな。」
カインが袋を持ち上げる。
「貸せ。」
セトがひょいと受け取った。
「……軽そうに持つな。」
「修行したしな。」
「こういうところで成果出すんだ。」
エイルが笑う。
「いいだろ、役に立ってんだから。」
「はいはい。」
リムも、小さな鉱石を拾い集めていた。
「これも同じですか?」
「見せてー。」
エイルが確認する。
「うん、それも。」
「よかったです。」
そうして作業を続けること、しばらく。
「これくらいあれば十分かな。」
エイルが袋の中を確認する。
「依頼の量は超えてるね。」
「じゃあ戻るか。」
セトが、鉱石の入った袋を担ぎ直す。
「腹も減った。」
「さっきからそればっかりだな。」
「働いたら腹減るだろ。」
「まあ、それはそうだけど。」
カインが笑った。
その時だった。
――ゴロッ。
「……ん?」
小さな音。
カインが顔を上げる。
岩壁の上から、岩が転がり落ちてきた。
「カインさん?」
リムが首を傾げる。
次の瞬間。
――ガラガラガラッ!!
「危ない!」
崩れた。
大きな岩が、こちらへ向かって落ちてくる。
「避けろ!」
セトが叫ぶ。
だが、足元には採取した鉱石。
道も狭い。
全員が一度に避けるには、少し遅い。
「――【隔帳】!」
リムの声が響いた。
落ちてきた岩が、ぴたりと止まる。
「……っ。」
次の瞬間。
岩はカインたちを避けるように軌道を変え、横の岩場へと落ちた。
――ドォン!!
大きな音。
岩がぶつかり。
ひびが入り。
そのまま、真っ二つに砕けた。
「…………。」
しばらく、誰も動かなかった。
「……助かった。」
カインが息を吐く。
「リム、ありがとう。」
「あ……。」
リムは自分の手を見る。
「いえ……皆さんが危なかったので……。」
「いや、マジで危なかったぞ。」
セトも落ちてきた岩を見る。
「ありがとな、リム。」
「はい……。」
リムが、少しだけ俯く。
その時。
「……ん?」
エイルが声を上げた。
「どうした?」
「ちょっと待って。」
砕けた岩へ近づく。
その断面を見たエイルが、しばらく考え込む。
「エイルさん?」
「……リムち。」
「はい?」
「これ。」
エイルが指を差す。
割れた岩の中。
普通の石とは違う、淡く光る鉱石が覗いていた。
「……何だこれ。」
セトが近づく。
「私も詳しくはないけど。」
エイルが少し笑う。
「これ、結構珍しいやつじゃないかな。」
「え?」
カインも覗き込む。
「貴重な鉱石ってこと?」
「多分ねー。」
「そんなものが、なんでこんなところに?」
「岩の中にあったんでしょ。」
エイルは、リムを見る。
「で、その岩を砕いたのが――」
「ち、違います。」
リムが慌てて首を振った。
「私は砕こうとしたわけでは……。」
「でも、リムちが防がなかったら割れてないよ?」
「それは……。」
「持って帰ってみようぜ。」
セトが言う。
「本当に珍しいなら、売れるかもしれないだろ。」
「そうだな。」
カインも頷く。
「とりあえず役所で聞いてみよう。」
「…………はい。」
リムはまだ少し困ったような顔をしていた。
◇
「……これを、どこで見つけた?」
役所へ戻り、職員に例の鉱石を見せると、職員は目を丸くした。
「やっぱり珍しいんですか?」
「ああ。」
職員は鉱石を手に取る。
「この辺りでも滅多に出ない。鍛冶師の中じゃ欲しがる奴が多い鉱石だ。」
「へぇ。」
「で、どこにあった?」
「それが。」
カインが少し考える。
「落ちてきた岩の中です。」
「……落ちてきた?」
「はい。」
「それをリムが止めて、横に落ちて割れて……中から出てきました。」
「…………。」
職員が、リムを見る。
リムが小さく縮こまる。
「あの……私は、何も……。」
「いや。」
職員が笑った。
「運が良かったな。」
「これ、買い取ってもらえるんですか?」
「ああ。依頼の鉱石とは別でな。」
「よっしゃ。」
セトが小さく拳を握る。
しばらくして。
依頼の報酬と、希少鉱石の買い取り代。
二つの袋が、カインたちの前に置かれた。
「……結構あるな。」
カインが驚く。
「これなら、しばらく旅費は大丈夫そうだねー。」
エイルが笑う。
「リムち、お手柄。」
「い、いえ。」
リムは慌てる。
「私は、本当にただ防いだだけで……。」
「そのおかげで助かったんだろ。」
セトが言う。
「それに鉱石も見つかった。」
「でも……。」
「リム、ありがとう。」
「……え。」
「俺たちを守ってくれて。」
カインは笑う。
「それで、こんなものまで見つかったんだから。やっぱりリムのおかげだよ。」
「…………。」
リムは少しだけ俯いた。
「……はい。」
小さな声。
けれど。
その顔は、少しだけ嬉しそうだった。
誰かを守ろうとしたことが。
思わぬ形で、返ってくることもあるらしい。
臨時収入ゲット。




