狩人になるという事
狩人登用試験当日。
まだ日が昇りきる前だというのに、町外れの広場には多くの受験者が集まっていた。
革鎧を身につけた者。
弓を背負った者。
槍を抱えた者。
年齢も装備も様々だ。
「思ったより多いな。」
周囲を見回しながら、カインが呟く。
「毎年こんなもんらしいぞ。」
隣ではセトが欠伸をしている。
「眠い。」
「昨日早く寝ろって言っただろ。」
「寝た。」
大きく伸びをするセトに視線をやる。
「そういやセト、武器それにしたんだ。」
「おう!かっけーだろ!」
自慢げに両拳を覆う黒いガントレットを突き出す。
「魔法はよくわからねぇ!」
「武器も色々試したけど色々難しかった!」
「だからもう、ぶん殴った方がはえーなって!」
「……なるほど。」
やっぱセトだなぁ。
そんな二人へ、小さく手を振る人物がいた。
「おーい。」
駆け寄ってきたのはアランだった。
「二人とも、おはよう。」
「おう。」
「アランも受けるんだ。」
「うん。」
少し照れくさそうに笑う。
「料理人になるつもりだけど……食材を自分で採れたら役立つかなって。」
「なるほど。」
「父さんも受けておけって。」
代々狩人の家系。
だからこそ、この資格の価値をよく知っている。
「でも実技は自信ないなぁ。」
「まぁ、その時は頑張れ。」
「うん。」
三人が話していると、前方へ一人の男が立った。
五十代ほどだろうか。
日に焼けた肌。
無駄のない体。
左頬には古い傷跡が走っている。
周囲の空気が自然と引き締まった。
「静かに。」
一言。
それだけで広場が静まり返る。
「私は試験官のタケミだ。」
低く、よく通る声だった。
「これより狩人登用試験を開始する。」
受験者たちの表情が変わる。
「まず最初に、一つだけ覚えておいてほしい。」
タケミは全員を見渡した。
「狩人とは、強い者のことではない。」
ざわり、と空気が揺れる。
「勘違いしている者が毎年いるが、狩人とは資格だ。」
「行政を通じて依頼主から仕事を受け、森へ入り、素材を採り、害獣を駆除し、人々の暮らしを支える。」
「故に資格を持たぬ者が持ち込んだ素材を行政が買い取ることはない。」
「個人間での売買も、原則禁止されている。」
「皆が市場などで何かを買う、これはまた別の話になるのでここでは割愛する。」
そしてタケミは続ける。
「町ではよく言われる。」
『生け捕りならあの人。』
『素材系ならあの人が間違いない。』
『あの人は仕事が丁寧だから任せよう。』
「それが狩人だ。」
誰も口を開かない。
「逆もある。」
「腕は良い、だが依頼は来ない。」
「無茶をする。」
「素材を壊す。」
「仲間を危険へ巻き込む。」
「そういう者は長く続かん。」
重い言葉だった。
「少し話し過ぎた、次は一次試験を説明する。」
後ろの職員が木箱を運んできた。
「この中から指定された素材を採取し、昼までに戻れ。」
「試験区域は行政管理区域、危険な大型魔物はいない。」
「ただし森には変わりない、無理はするな。」
職員が札を配り始める。
カインの札には、
『青葉草 三本』
と書かれていた。
「何だこれ。」
セトも覗き込む。
「知らん。」
二人は揃ってアランを見る。
「……。」
アランは苦笑した。
「え、僕?」
「そこをなんとか、先生。」
「先生じゃないんだけどなぁ……。」
札を見る。
「あぁ、大丈夫、そんなに珍しくない植物だね。」
「確か……水辺に自生してる事が多かったはず。」
「分かるのか。」
「父さんから教わった。」
カインとセトは顔を見合わせた。
「助かった。」
「最初から知識負けしてたな。」
開始の鐘が鳴る。
三人は森へ走った。
◇
「こっち。」
アランが迷いなく歩く。
「この辺りなら多分……。」
足元を見る。
「あ、あった。」
小さな青い葉。
「これ。」
「見分けつかねぇ。」
セトがしゃがみ込む。
「似た草多すぎ。」
「毒草もあるから気を付けて。」
「怖。」
そんなやり取りを横目に、カインは逐一周囲に気を配る。
アランは丁寧に根元を押さえながら採取した。
「こうするとまた生えてくる。」
「へぇ。」
「父さんが言ってた。」
「父さん万能だな。」
「狩人だからね。」
三本集め終えたところで、
ガサガサ。
茂みが揺れた。
「!」
飛び出したのは角兎。
小型の魔物だ。
「任せろ!」
セトが飛び出す。
「待っ――」
角兎は横へ跳び、セトは木へ激突した。
「いったぁ!」
「だから待てって。」
カインが苦笑する。
「逃げたぞ!」
「放っておいていいよ。」
アランが言う。
「今回は採取試験だから。」
「そうだった。」
セトが頭をさする。
「恥ずかしい。」
「毎回勢いだからな。」
三人は笑いながら森を進んだ。
◇
昼前。
三人は揃って戻ってきた。
「ほう。」
タケミが素材を見る。
「丁寧だな。」
青葉草は傷一つない。
「誰が採った。」
「僕です。」
アランが答える。
今度はカインを見る。
「三人で動いたか。」
「はい。」
「知識はアラン。」
「危険確認は俺。」
「力仕事はセト。」
タケミは小さく頷いた。
「なるほど……。」
「毎年多くの受験者は、一人で一次試験突破を試みる。」
だが、とタケミは続ける。
「この試験においては、目標達成の条件は指定していない。」
「実際の現場でもっとも危険なのは、自分一人で何とかなる、何とかしなければという判断だ。これは生死に関わる事もある。」
そして三人にもう一度向き直し、ほんの少し柔らかい眼差しを向ける。
「よく気づいた、現場では正しい判断だ。」
その一言に、三人は自然と顔を見合わせる。
「一次試験終了。」
「合格者はこの場へ残れ。」
次はいよいよ実技。
本当の狩人への第一歩が始まろうとしていた。
っぶねぇ……。
アランいなかったら、
セトは当たり前に詰んでたし。
カインと作者も普通に詰んでた。
ありがとうアラン先生!!




