第43話 諸説あり
「チェストォォォォッ!!」
街のどこかから響いた、聞き慣れない掛け声。
「……なんだ、今の。」
セトが眉をひそめる。
「さあ……。」
カインも首を傾げた。
「でも、なんか向こうから聞こえたな。」
「行ってみる?」
エイルが楽しそうに笑う。
「気になります……。」
リムも、声のした方を見ていた。
四人はそのまま、掛け声の聞こえた方へ歩いていく。
しばらくすると。
カァン!!
「チェストォォォォッ!!」
再び、激しい音と掛け声。
「近いな。」
セトが足を速める。
路地を抜けた先。
そこには、少し広い敷地と、その中に建つ木造の建物があった。
庭先では、何人もの男たちが木刀を構えている。
その正面には、太い木の柱。
一人が大きく振りかぶり――。
「チェストォォォォッ!!」
カァン!!
木刀を、思い切り打ち込んだ。
「……すげぇな。」
セトが目を丸くする。
「何してるんだ、あれ。」
「稽古じゃない?」
エイルが言う。
「稽古?」
カインたちが見ていると、中の一人がこちらに気づいた。
「見学か?」
「あ、すみません。」
カインが頭を下げる。
「さっき、すごい声が聞こえてきたので……。」
「ああ。」
男は笑う。
「チェストか。」
「チェスト……。」
「ここはジゲン流の道場だ。」
「ジゲン流?」
カインが聞き返す。
「ああ。この街に昔から伝わってる剣術だ。」
男はそう言って、稽古をしている者たちへ目を向けた。
「ジゲン流で大事なのは、一の太刀だ。」
「一の太刀?」
「最初の一撃。」
男は、自分の木刀を構える。
「二の太刀が必要になるなどとは考えない。一の太刀に己の全てを込める。」
「全部……。」
「そうだ。」
カインは、先ほどの稽古を思い返す。
大きく振りかぶり。
迷いなく。
ただ一撃に全てをぶつける。
「なんか、すごい考え方ですね。」
「そうか?」
横から声がした。
「俺、分かるけどな。」
「セト?」
「いや。」
セトは、まだ稽古を見ている。
「色々やるにしてもさ。」
避ける。
受け流す。
蹴る。
下がる。
ルークとの修行で、今まで使ってこなかったものをたくさん覚えた。
それでも。
「最後に決める時は、全部ぶつけるんだろ?」
「まあ……そうだな。」
「いいじゃん、それ。」
セトが笑う。
「俺、こういうの好きだわ。」
「お前らしいな。」
カインも少し笑った。
男はそんな二人を見てから、続ける。
「ジゲン流には、昔から伝わってる言葉がある。」
「言葉?」
「ああ。」
男は少しだけ胸を張った。
「一の太刀に、イッダマシを込めろ。」
「……イッダマシ?」
カインが聞き返す。
「そうだ。」
「イッダマシって、なんですか?」
「…………。」
男が少し黙った。
「……正確な意味は、分からん。」
「分からないんですか?」
「ああ。」
「でも、ずっと伝わってるんですよね?」
「伝わってる。」
「じゃあ……。」
「意味は分からんが、どういうものかは分かる。」
「……?」
「己の魂とか、気概とか、そういうものだと考えられている。」
「考えられている……。」
「何せ、大昔の言葉だからな。」
男は苦笑した。
「最初にこの剣術を伝えた人の言葉らしい。」
「最初に?」
「ああ。」
男は道場の奥へ視線を向ける。
そこには、一枚の古びた木板が掛けられていた。
「英雄タダヨシ。」
「また英雄……。」
カインが呟く。
「この街にジゲン流を伝えた人だ。」
「刀の技術を伝えたノブマサとは、別の人なんですね。」
「ああ。」
「いつ頃の人なんですか?」
「ノブマサより、ずっと後らしい。」
男は答える。
「この街に刀が根付いた後にやってきて、今度はその刀をどう使うかを伝えた。」
「なるほど……。」
カインは少し考える。
刀を作る技術を残した人。
その刀を振るう技を残した人。
違う時代に生きた二人の英雄。
それぞれが残したものが、今もこの街に続いている。
「タダヨシって、どんな人だったんですか?」
「さあな。」
男は少し考える。
「ノブマサよりは色々残ってる。」
「そうなんですか?」
「剣術だからな。技だけじゃなく、教えも口伝で受け継いできた。」
「じゃあ、どんなことを言ってたんですか?」
「一の太刀にイッダマシを込めろ。」
「それ以外は?」
「……色々あったらしい。」
「らしい?」
「何を言ってるのか、当時の連中にもよく分からなかったらしい。」
「…………。」
カインたちは黙る。
「でも、剣を見れば伝えたいことは分かったそうだ。」
男は笑った。
「だから残ったんだろうな。」
「なんか、すごい人ですね……。」
「色んな意味でねー。」
エイルが小さく笑う。
その時。
カァン!!
「チェストォォォォッ!!」
また、道場に大きな声が響いた。
カインがそちらを見る。
「そういえば。」
「ん?」
「あの『チェスト』っていうのも、タダヨシって人が?」
「ああ。」
「じゃあ、あれにも何か意味があるんですか?」
「…………。」
男が、少しだけ遠い目をした。
「諸説あるが――。」
実際チェストは諸説しかありません←現役鹿児島人




