第42話 新しい街へ
ルーク達と別れてから数日。カインたちは街道を歩いていた。
「それで、カイン。次はどこ行くんだ?」
隣を歩くセトに聞かれ、カインは少し考える。
「行ってみたい街があるんだ。」
「行ってみたい街?」
「ああ。親父から刀をもらった時に聞いたんだけど、この先に刀を作ってる街があるらしい。」
そう言って、腰に差した刀へ目を落とす。
ずっと使ってきた、父からもらった刀。
当たり前のように使ってきたが、考えてみればカインは刀についてほとんど何も知らない。
「せっかくだから、見てみたいなって。」
「いいんじゃねぇか?」
セトはあっさりと頷いた。
「俺はどこでもいいぞ。色んなとこ見るって決めたんだしな。」
「私も……行ってみたいです。」
リムも小さく頷く。
「じゃ、決まりだねー。」
エイルが伸びをしながら言った。
「おねーさんも久しぶりだなぁ、あの街。」
「行ったことあるのか?」
「そりゃね。おねーさん、色んなとこ行ってるから。」
「じゃあ、どんな街なんだ?」
「んー。」
エイルは少しだけ考えて、
「行ってからのお楽しみ?」
「なんだよそれ。」
そんな話をしながら、四人は街道を進んでいった。
そして――。
「ここかぁ……。」
街へ入ったカインは、辺りを見回した。
石造りの建物が並ぶ、見慣れた街並み。
特別変わった建物があるわけでもない。
もっと、刀を作る店がずらりと並んでいるような場所を想像していたのだが――。
カン、カン、カン。
どこからか、金属を叩く音が聞こえる。
その音に誘われるように歩いていくと、一軒の鍛冶場があった。
炉の前では、職人が赤く熱した金属を何度も叩いている。
「おお……。」
セトが足を止めた。
「刀作ってんのか?」
「いや。」
カインは職人の手元を見る。
「あれは……鎌じゃないか?」
少し先の店には、鍬や斧。
別の店先には包丁が並んでいる。
さらに歩けば、木材を削る職人。
家具を組み上げている者。
建物の前で、何やら細かな作業をしている大工たち。
「あれ?」
カインは首を傾げた。
「刀の街……なんだよな?」
「そうだよ?」
エイルが笑う。
「でも、刀だけ作ってるわけじゃないからねー。」
カン。
カン、カン。
街のあちこちから、何かを作る音が聞こえてくる。
「この街はね、職人の街なんだよ。」
「職人の街……。」
「刀を作る技術があったら、他にも色々作れるでしょ? 包丁とか、農具とか、仕事で使う道具とか。」
「ああ……。」
言われてみれば当然のことだった。
いい刃物を作れる。
いい道具を作れる。
そして、いい道具があれば、それを使う職人たちの仕事も変わる。
刀から始まった技術は、長い時間をかけて様々なものへと広がっていた。
「すごいですね……。」
リムが、家具を作る職人の手元をじっと見ている。
「こんなにたくさんの人が、色々なものを作っているんですね。」
刀を見に来たはずだった。
だが、どうやらそれだけの街ではないらしい。
しばらく街を歩き、カインたちは一軒の鍛冶屋へ入った。
店内には包丁や斧、いくつもの刃物が並んでいる。
そして、その奥。
「あった。」
何本もの刀が、壁に掛けられていた。
カインは思わず近づく。
反りのある細身の刀。
自分が腰に差しているものと、よく似た形。
「兄ちゃん、刀を使うのか?」
奥から声をかけられた。
振り向くと、腕の太い男が立っている。
「はい。」
「ちょっと見せてもらっていいか?」
「あ、はい。」
カインは腰から刀を外し、男へ渡した。
男は鞘から少しだけ刀身を覗かせる。
「……へぇ。」
今度は完全に抜き、角度を変えながら眺めた。
「いい刀だな。」
「ありがとうございます。」
「十年……いや、二十年くらい前の刀かな?」
「分かるんですか?」
「そりゃな。」
男は笑いながら刀を鞘へ戻した。
「だが、基本の作りは同じだ。」
「同じ……。」
「ああ。この形の刀は、元を辿れば全部同じところから始まってる。」
刀を返しながら、男は店の壁へ目を向けた。
そこには、一枚の古びた板が飾られている。
「英雄ノブマサ。」
「英雄……?」
「昔、この街に刀鍛冶の技術を伝えた人だ。」
カインは壁の板を見る。
「ノブマサ……。」
「凄腕の刀鍛冶だったらしい。今この街に残ってる刀の技術は、その人が伝えたものが始まりだって話だ。」
「どんな人だったんですか?」
「さあなぁ。」
男は首を傾げる。
「俺たちも、そこまでは知らねぇよ。何せ大昔の人だからな。」
分かっているのは、英雄だったこと。
優れた刀鍛冶だったこと。
そして、この街に技を残したこと。
「ただまあ――。」
男は店の外へ目を向けた。
カン、カン。
今日も街のどこかで、鉄を叩く音が響いている。
「あの人が技を残さなきゃ、この街も今みたいにはなってなかっただろうな。」
「…………。」
カインは、自分の刀へ目を落とした。
父からもらった刀。
今まで何度も握ってきた。
何度も助けられてきた。
けれど。
その形がどこから来たのかなんて、考えたこともなかった。
――英雄ノブマサ。
どんな人だったのかは、もう誰も知らない。
それでも、その人が残したものは今もここにある。
自分の手の中にも。
「……ありがとうございます。」
「ん? おう。」
カインはもう一度、腰に刀を差した。
店を出て、再び街を歩く。
「面白いな。」
カインが呟いた。
「何が?」
「いや……。」
街を見渡す。
包丁を売る店。
農具を修理してもらっている人。
木を削る職人。
建物を作る大工。
「一人が残したものから、こんなに色々なものができるんだなって。」
「何百年も経ってるんでしょ?」
エイルが言う。
「そりゃ、色々変わるんじゃない?」
「そういうものか。」
「そういうものだよー。」
カインには、まだよく分からない。
ただ……こういうものを知るために、自分は旅に出たのかもしれない。
「おい、カイン!」
少し先を歩いていたセトが振り返った。
「こっちにもなんかあるぞ!」
「今行く!」
カインたちは、また歩き出す。
知らない街。
知らない人。
知らなかったこと。
まだ旅は、始まったばかりだ。
――カァン!!
「……ん?」
突然、何かを激しく打ちつける音が響いた。
鍛冶場から聞こえていたものとは、少し違う。
セトが音のした方を見る。
「なんだ?」
カインたちも足を止める。
そして。
「チェストォォォォッ!!」
「…………。」
街のどこかから、聞いたことのない掛け声が響いてきた。
刀とチェスト、つまりアレ。




