第41話 離
再び朝。
カインたちは、荷物をまとめてルークの家の前に立っていた。
「今まで、お世話になりました。」
カインが頭を下げる。
隣ではセトも、リムも続いて頭を下げた。
「こちらこそ。皆さんと過ごせて、楽しかったですよ。」
ルークはいつもの穏やかな笑みを浮かべている。
「それで、これからはどうするのですか?」
「色々な場所を見てこようと思います。」
「色々な場所?」
「はい。」
カインは頷いた。
「まずは、人間側の色んな街を回ってみようかなって。」
アベルに言われた。
――強くなれ。
その言葉を受けて、ここまで来た。
以前よりは、強くなれたと思う。
少しだけ。
そう思えるくらいには、自信もついた。
でも、まだ知らないことはたくさんある。
人間のことも。
魔族のことも。
この世界のことも。
「色んなものを見て、色んな人に会って……それから、また考えてみようと思います。」
「そうですか。」
ルークは嬉しそうに頷いた。
「それがいいでしょう。」
「俺も、もっと強くなりてぇしな!」
セトが拳を握る。
「旅してりゃ、強ぇ奴にも会えるだろ!」
「お前、そればっかりだな。」
「いいだろ別に!」
「ふふ……。」
リムが小さく笑う。
「私も……皆さんと、色々な場所を見てみたいです。」
「決まりだねー。」
エイルが大きく伸びをする。
「おねーさんも久しぶりに、のんびり旅でもしよっかなー。」
「エイルさん、のんびりする気あるんですか?」
「あるよー?」
「依頼を五つまとめて受ける人が?」
「それとこれとは別。」
いつものようなやり取り。
それを見ていたルークが、くすりと笑った。
その時。
「カイン兄ちゃん!」
声と共に、小さな影が飛び出してきた。
「うわっ!」
カインの腰に、子供が抱きつく。
「もう行っちゃうの!?」
「ああ。」
「いつ帰ってくる!?」
「いつって……。」
カインは困ったように笑う。
「まだ分からないけど、また来るよ。」
「ほんと!?」
「ああ。約束する。」
「じゃあ指切り!」
「指切り?」
「早く!」
「わ、分かったよ。」
小さな指を絡める。
すると、それを見ていた他の子供たちも一斉に集まってきた。
「セト兄ちゃんもまた来る!?」
「おう! 当然だろ!」
「今度また肩車して!」
「任せろ!」
「二人いっぺんに!」
「それはちょっと待て!」
「リムお姉ちゃんも!」
「わ、私もですか?」
今度はリムが囲まれる。
「また本読んで!」
「髪触らせて!」
「フードも取って!」
「え、えっと……。」
次々に飛んでくる言葉に、リムが困ったように視線を泳がせる。
それでも。
「……はい。」
少しだけ頬を緩めて。
「また来ます。」
「やったー!」
子供たちが声を上げる。
「エイルお姉ちゃん!」
「はいはい、おねーさんもまた来るよー。」
「今度お菓子持ってきて!」
「おねーさんだけ要求じゃない?」
「甘いやつね!」
「しかも指定まで!?」
子供たちの笑い声が響く。
なかなか出発できない。
けれど……カインは、それも悪くないと思った。
ここへ来た時は、修行をするためだけの場所だった。
それが今では……また帰ってきたいと思える場所になっていた。
「ほらほら。皆さんを困らせてはいけませんよ。」
ルークが手を叩く。
「旅に出る時間がなくなってしまいます。」
「えー!」
「もうちょっと!」
「また帰ってきてくれますから。」
「ほんと?」
「ええ。」
ルークが微笑む。
「ですから今日は、ちゃんと見送ってあげましょう。」
子供たちは少し不満そうにしながらも、ようやくカインたちから離れた。
カインは改めて、ルークを見る。
「本当に、ありがとうございました。」
「はい。」
ルークも三人を見る。
カイン。
セト。
リム。
そして、その隣に立つエイル。
しばらく四人の顔を眺めてから。
「では……。」
ルークは、いつものように穏やかに笑った。
「『いってらっしゃい』。」
一瞬。
カインは目を丸くした。
そして。
「……はい。」
笑う。
「行ってきます。」
「行ってきます!」
「い、行ってきます。」
「じゃ、行ってくるねー。」
四人は歩き出す。
「またねー!」
「絶対帰ってきてねー!」
後ろから飛んでくる子供たちの声に。
何度も振り返り、手を振りながら。
やがて。
四人の姿は、道の向こうへと消えていった。
◇ ◇ ◇
夜。
昼間までの賑やかさが嘘のように、辺りは静かだった。
子供たちは、もう眠っている。
ルークは一人、家の外に立っていた。
夜空を見上げる。
……昔も、こうして同じ空を見上げたことがあった。
隣には。
イサナがいて。
リアがいて。
エイルがいて。
皆で、くだらない話をしながら。
明日のことを話していた。
「……イサナさん、リアさん。」
ルークは静かに呟く。
今日。
二人の息子が旅立った。
強くなった。
ここへ来た頃とは、比べものにならないほど。
けれど。
きっと、それだけではない。
これからもっと多くのものを見て。
多くの人と出会って。
迷って。
悩んで。
そして。
自分なりの答えを見つけていくのだろう。
ルークは、ほんの少し目を細めた。
「カインさんはまだまだ強く……いえ、『大きく』なりますよ。」
夜空には。
いくつもの星が、静かに輝いていた。
帰ってきていい場所。




