↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
43/98

第41話 離

 再び朝。


 カインたちは、荷物をまとめてルークの家の前に立っていた。


「今まで、お世話になりました。」


 カインが頭を下げる。


 隣ではセトも、リムも続いて頭を下げた。


「こちらこそ。皆さんと過ごせて、楽しかったですよ。」


 ルークはいつもの穏やかな笑みを浮かべている。


「それで、これからはどうするのですか?」


「色々な場所を見てこようと思います。」


「色々な場所?」


「はい。」


 カインは頷いた。


「まずは、人間側の色んな街を回ってみようかなって。」


 アベルに言われた。


 ――強くなれ。


 その言葉を受けて、ここまで来た。


 以前よりは、強くなれたと思う。


 少しだけ。


 そう思えるくらいには、自信もついた。


 でも、まだ知らないことはたくさんある。


 人間のことも。


 魔族のことも。


 この世界のことも。


「色んなものを見て、色んな人に会って……それから、また考えてみようと思います。」


「そうですか。」


 ルークは嬉しそうに頷いた。


「それがいいでしょう。」


「俺も、もっと強くなりてぇしな!」


 セトが拳を握る。


「旅してりゃ、強ぇ奴にも会えるだろ!」


「お前、そればっかりだな。」


「いいだろ別に!」


「ふふ……。」


 リムが小さく笑う。


「私も……皆さんと、色々な場所を見てみたいです。」


「決まりだねー。」


 エイルが大きく伸びをする。


「おねーさんも久しぶりに、のんびり旅でもしよっかなー。」


「エイルさん、のんびりする気あるんですか?」


「あるよー?」


「依頼を五つまとめて受ける人が?」


「それとこれとは別。」


 いつものようなやり取り。


 それを見ていたルークが、くすりと笑った。


 その時。


「カイン兄ちゃん!」


 声と共に、小さな影が飛び出してきた。


「うわっ!」


 カインの腰に、子供が抱きつく。


「もう行っちゃうの!?」


「ああ。」


「いつ帰ってくる!?」


「いつって……。」


 カインは困ったように笑う。


「まだ分からないけど、また来るよ。」


「ほんと!?」


「ああ。約束する。」


「じゃあ指切り!」


「指切り?」


「早く!」


「わ、分かったよ。」


 小さな指を絡める。


 すると、それを見ていた他の子供たちも一斉に集まってきた。


「セト兄ちゃんもまた来る!?」


「おう! 当然だろ!」


「今度また肩車して!」


「任せろ!」


「二人いっぺんに!」


「それはちょっと待て!」


「リムお姉ちゃんも!」


「わ、私もですか?」


 今度はリムが囲まれる。


「また本読んで!」


「髪触らせて!」


「フードも取って!」


「え、えっと……。」


 次々に飛んでくる言葉に、リムが困ったように視線を泳がせる。


 それでも。


「……はい。」


 少しだけ頬を緩めて。


「また来ます。」


「やったー!」


 子供たちが声を上げる。


「エイルお姉ちゃん!」


「はいはい、おねーさんもまた来るよー。」


「今度お菓子持ってきて!」


「おねーさんだけ要求じゃない?」


「甘いやつね!」


「しかも指定まで!?」


 子供たちの笑い声が響く。


 なかなか出発できない。


 けれど……カインは、それも悪くないと思った。


 ここへ来た時は、修行をするためだけの場所だった。


 それが今では……また帰ってきたいと思える場所になっていた。


「ほらほら。皆さんを困らせてはいけませんよ。」


 ルークが手を叩く。


「旅に出る時間がなくなってしまいます。」


「えー!」


「もうちょっと!」


「また帰ってきてくれますから。」


「ほんと?」


「ええ。」


 ルークが微笑む。


「ですから今日は、ちゃんと見送ってあげましょう。」


 子供たちは少し不満そうにしながらも、ようやくカインたちから離れた。


 カインは改めて、ルークを見る。


「本当に、ありがとうございました。」


「はい。」


 ルークも三人を見る。


 カイン。


 セト。


 リム。


 そして、その隣に立つエイル。


 しばらく四人の顔を眺めてから。


「では……。」


 ルークは、いつものように穏やかに笑った。


「『いってらっしゃい』。」


 一瞬。


 カインは目を丸くした。


 そして。


「……はい。」


 笑う。


「行ってきます。」


「行ってきます!」


「い、行ってきます。」


「じゃ、行ってくるねー。」


 四人は歩き出す。


「またねー!」


「絶対帰ってきてねー!」


 後ろから飛んでくる子供たちの声に。


 何度も振り返り、手を振りながら。


 やがて。


 四人の姿は、道の向こうへと消えていった。


     ◇ ◇ ◇


 夜。


 昼間までの賑やかさが嘘のように、辺りは静かだった。


 子供たちは、もう眠っている。


 ルークは一人、家の外に立っていた。


 夜空を見上げる。


 ……昔も、こうして同じ空を見上げたことがあった。


 隣には。


 イサナがいて。


 リアがいて。


 エイルがいて。


 皆で、くだらない話をしながら。


 明日のことを話していた。


「……イサナさん、リアさん。」


 ルークは静かに呟く。


 今日。


 二人の息子が旅立った。


 強くなった。


 ここへ来た頃とは、比べものにならないほど。


 けれど。


 きっと、それだけではない。


 これからもっと多くのものを見て。


 多くの人と出会って。


 迷って。


 悩んで。


 そして。


 自分なりの答えを見つけていくのだろう。


 ルークは、ほんの少し目を細めた。


「カインさんはまだまだ強く……いえ、『大きく』なりますよ。」


 夜空には。


 いくつもの星が、静かに輝いていた。

帰ってきていい場所。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続きが気になったら、ブックマークしていただけると嬉しいです。 ★評価も励みになります。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。