適任
「……で。強くなるって、結局どうすりゃいいんだ?」
セトは腕を組み、そんな事を言う。
「…………。」
カインは少し考える。
「……修行?」
「それは分かる。問題は誰に教わるかって事じゃね?」
「…………。」
カインとセトが揃って黙る。
その様子を、エイルとリムが少し離れたところから見ていた。
「昨日あんなに格好よく『なるんだよ』とか言ってたのにねー。」
エイルが茶化すように笑う。
「でも、確かにどうするかは決めてなかったな。」
カインが頷く。
「とりあえず身体鍛えるとか?」
「それなら今までとあんまり変わんねぇだろ。」
「……誰か、強い人に教わるとか?」
リムが遠慮がちに口を挟む。
「強い人……。」
セトが考える。
そして。
「カインの親父さんは?」
「親父?」
「英雄だろ。めちゃくちゃ強ぇじゃん。」
「…………。」
カインは少し考えた。
「いや、いきなり親父を基準にするのはやばい。」
「確かに。」
セトが即座に頷く。
「だねー。」
エイルも頷いた。
「……そうなのですか?」
リムだけが分からず首を傾げる。
「実際、狩人になるまで稽古はつけてもらってたんだけど……多分、親父は教えるの下手。」
「あー、分かる。」
エイルが即答した。
「そんなに?」
「イサナってさー。」
エイルは少し昔を思い出すように視線を上げる。
「『ここでこう、スッと入って、そのままズバッと』とか言うタイプだから。」
「…………。」
「…………。」
「親父なら言う。」
「でしょ?」
セトが頭を掻く。
「じゃあ親父さんは無しかー。」
「無しっていうか……強くなった後なら教わることもあると思うけど、いきなりは早いかなって。」
「あー……なるほどなぁ。」
その時だった。
「……あ。」
エイルが何かを思い出したように声を上げた。
「いるわ。修行したいなら、めちゃくちゃ適任な人。」
カインとセトが揃ってエイルを見る。
「誰?」
「ルーク。」
「…………。」
カインは少し考える。
「ルークさん……聞いたことあるような……。」
「そりゃあるでしょー。イサナとリアと、おねーさんと一緒に旅してたんだから。」
「……父さんの仲間。」
「そうそう。」
リムも小さく目を見開く。
「英雄様のお仲間……。」
「元、だけどねー。」
「強ぇの?」
セトが身を乗り出す。
「強いよー。」
「どれくらい?」
「んー……本人は『回復魔法以外は苦手です』って言うと思うけど。」
「なんだそれ。」
「まあ……会えば分かるよ。」
エイルが少しニヤニヤしている気がした。
「今どこにいるの?」
「ここからだと結構遠いかなー。歩いて一週間くらい?」
「…………。」
「…………。」
セトとカインが顔を見合わせた。
「遠くね?」
「まあまあね。……でも行くでしょ?」
「……行く。」
カインが答える。
「俺も行く。」
セトも頷いた。
「リムちは?」
「私も、ですか?」
「もちろん。」
「…………。」
リムは少しだけ迷う。
アベルに言われた言葉を思い出す。
カイン達が何を見るのか、一番近くで見ておけ。
「……はい。」
小さく頷いた。
「私も行きます。」
「決まりだねー。」
エイルが笑った。
◇
――一週間後。
「……遠くね?!」
セトの声が、山道に響いた。
「だから言ったじゃん。遠いって。」
「聞いてたけど! 一週間ずっと歩くとは思わねぇだろ!」
「おねーさん、ちゃんと歩いて一週間って言ったよ?」
「くっそ……。」
セトは肩に担いだ荷物を持ち直す。
「カイン、お前もなんか言えよ。」
「遠いな。」
「それだけかよ!」
「でも、ちょっと修行にはなってる気がする。」
「まだ始まってねぇよ!」
その隣で、リムが少しだけ笑った。
「……ふふ。」
「リム?」
「いえ。」
慌てて口元を隠す。
「なんでもありません。」
「今笑っただろ。」
「……少しだけ。」
「ひどくね?」
「すみません。」
「謝られると余計つれぇ……。」
エイルが楽しそうに笑う。
「ほらほら、もうちょっとだから。」
「その台詞、三日前にも聞いたぞ。」
「そうだっけ?」
「言った!」
そんなやり取りをしながら、四人は山道を進んでいく。
やがて。
「ほら。」
エイルが前を指差した。
「見えてきたよ。」
木々の向こう。
小さな集落が見えた。
畑が広がり、何人かが作業をしている。
少し離れた場所では、子供達が走り回っていた。
笑い声が聞こえる。
「……ここ?」
セトが辺りを見回す。
「そう。」
「英雄がいる場所って感じしねぇな。」
「どんなの想像してたの?」
「もっとこう……でかい道場とか。」
「ないよ?」
「ないの?」
「うん。」
カインも周囲を見る。
静かだった。
けれど、寂しい場所ではない。
人がいて。
声があって。
暮らしがある。
「……平和ですね。」
リムが呟いた。
「でしょ?」
エイルが笑う。
「ルーク、こういう場所好きなんだよ。」
集落の奥へ進むと、やがて少し大きめの建物が見えてきた。
その隣には、もう一つ小さな建物。
そのうちの一つの建物から、一人の老人が出てくる。
「ルーク先生、ありがとうございました。」
「いえいえ。無理はしないでくださいね。」
老人が頭を下げ、ゆっくりと帰っていく。
「……診療所?」
カインが尋ねる。
「そう。」
「じゃあ、あっちは?」
「孤児院。」
「…………。」
セトが二つの建物を見る。
「両方?」
「両方。」
「一人で?」
「まあ、手伝ってくれる人はいるけどねー。」
その時。
「エイルおねーちゃん!」
子供の声がした。
「あ。」
何人かの子供がこちらへ走ってくる。
「久しぶりー!」
「久しぶりー。」
エイルが手を振る。
「今日は泊まる?」
「多分ねー。」
「やった!」
「お土産ある?」
「あると思う?」
「ない!」
「正解ー。」
子供達が笑う。
「……慣れてるな。」
「前から何度か来てるからねー。」
そのまま子供達に囲まれながら進んでいく。
やがて。
「おや。」
穏やかな声がした。
建物の入り口。
一人の男が立っている。
ゆったりとしたシャツに、普通のズボン。
その上から、簡素なローブを羽織っている。
くすんだ金色の髪は肩より長く伸び、邪魔にならないよう後ろで一つに結ばれていた。
年齢は四十前後だろうか。
とても、かつて英雄と共に魔王を倒した人物には見えない。
「エイルさん。お久しぶりです。」
「久しぶりー、ルーク。」
ルークと呼ばれた男は、穏やかに笑う。
それから。
エイルの後ろにいる三人へ視線を向けた。
「そちらは……。」
カインを見る。
少しだけ、目を細めた。
「……ああ。」
何かに気付いたように。
「カインさんですか?」
「はい。」
ルークは、懐かしそうに笑った。
「大きくなりましたね。」
元英雄パーティ最後の1人やっと登場。




