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巡る

 いつの間にか、吹く風は随分と冷たくなっていた。


 魔王城から見える木々も、少しずつ色を変え始めている。


 夏は過ぎ、季節は秋へと巡っていた。


 リムは窓の外を見る。


 魔王城へ戻ってから、しばらく経った。


 人間を調べるという役目も終わり、以前と同じように城で仕事をしている。


 頼まれたことをこなして。


 必要なことをして。


 毎日は、以前と大きく変わっていない。


 ……はずなのに。


「…………。」


 カインさん達は、元気でしょうか。


 ふと、そんなことを考える。


 カインさんは……怪我などしていないだろうか。


 優しい人、でも……自分をジェイドから助けようとした時のことを思い出す。


 どう考えても勝てない相手。それでも、あの人は前に出た。


「……また、無茶してないでしょうか。」


 少し心配だった。


 セトさんは……なんとなくだが、多分元気だと思う。


 そしてエイルさんは……。


「…………。」


 リムは少しだけ考える。


「……お家、大丈夫でしょうか。」


 四人で大掃除をしてから、随分時間が経っている……なら、また少しくらい散らかしているかもしれない。


「…………。」


 何故だろう、既に散らかった部屋が頭をよぎった。


「リム。」


「……はい?」


 不意に声をかけられ、リムは振り返った。


 アベルがこちらを見ている。


「何を考えていた?」


「……何を、と言われましても。」


「最近、よくぼんやりしているな。」


「そうでしょうか。」


「うむ。」


「…………。」


 リムは少しだけ視線を逸らした。


「仕事に、問題がありましたか?」


「いや。」


「では……。」


「何故、ぼんやりしている?」


 アベルはいつも通りだった。


 分からないことがあれば聞く、ただそれだけ。


「……カインさん達のことを、少し。」


「あぁ、以前話していた人間だな。」


「……はい。」


 アベルは少し考える。


「何を考えていた?」


「……怪我をしていないか、とか。」


「何故だ?」


「すぐ、無茶をする人なので。」


「セトという人間は?」


「……多分、元気だと思います。」


「何故だ?」


「…………。」


「分からないのか?」


「……何となく、です。」


「そうか。」


 アベルは頷く。


「エイルは?」


「……お家が。」


「家?」


「はい。」


「何故、家を心配する?」


「…………。」


 リムは答えに詰まった。


「……色々、ありまして。」


「そうか。」


 アベルはそれ以上聞かなかった。


「…………。」


 少しの沈黙。


 アベルは、またリムを見る。


「お前は、その者達を随分と気にしているな。」


「そう……でしょうか。」


「うむ。」


「…………。」


 リムには、よく分からなかった。


 ……ただ。


 元気にしてるだろうか、無茶はしていないだろうか……片付け、ちゃんとしているだろうか。


 そんな事ばかり考えてしまう。


「ふむ……。」


 アベルが腕を組む。


「カインとやらに、会わせてくれるか?」


「…………え?」


 リムは瞬きをする。


「カインさんに、ですか?」


「うむ。」


「……何故でしょうか。」


「お前の話を聞いて、興味が湧いた。」


「…………。」


「ジェイドを相手に、お前を助けようとしたのだったな。」


「はい。」


「お前が魔族だと知っていても。」


「……はい。」


「ふむ。」


 アベルは少し考える。


「そういう人間なら、一度話してみたい。」


「…………。」


 リムは戸惑った。


 アベルとカインが会う。


 想像したこともなかった。


「……ですが。」


「何だ?」


「今、カインさんがどこにいるのか……正確には分かりません。」


「何故だ?」


 リムは困ったようにアベルを見る。


「何故、と言われましても……。」


「しばらく共にいたのだろう?」


「はい。ですが、別れた後にどこへ向かったのかまでは……。」


「そういうものなのか。」


「……そういうものだと思います。」


「ふむ。」


 アベルは少し考える。


「なら、無理にとは言わん。」


「…………。」


 リムは黙った。


 探せば会えるかもしれない。


 カイン達は狩人だ。以前拠点にしていた街も分かるし、役所へ行けば、何か分かるかもしれない。


「……探してみます。」


 アベルがリムを見る。


「よいのか?」


「……はい。」


「そうか。」


 ほんの少しだけ。


 アベルの表情が柔らかくなったような気がした。


「では、頼む。」


「はい。」


     ◆


 それから数日。


 リムは人間の街へ来ていた。


「…………。」


 以前とは違い、足取りに迷いはない。


 黒いフードを深く被り、念のため【隔帳】で存在を薄くしてはいるが、人の多い道を避けることもなくなった。


 まず役所へ向かった。


 だが、カイン達はいなかった。


 次に以前泊まっていた宿。


 そこにもいない。


「…………。」


 どこにいるのでしょうか。


 狩人なのだから、仕事へ出ている可能性もある。


 そう思い、しばらく街を歩く。


「……あ。」


 見覚えのある背中があった。


 三人、並んで歩いている。


「…………。」


 少しだけ。


 胸の奥が軽くなった気がした。


「……カインさん。」


「ん?」


 呼ばれたカインが振り返る。


「…………リム?」


 その隣で、セトとエイルも振り返った。


「リムち!」


「え――」


 次の瞬間。


 エイルが走ってきた。


「久しぶりー!」


「え、エイルさん……!」


 そのまま抱きしめられる。


「元気だったー?」


「は、はい……。」


「よかったよかった。」


「そんなに経ってないだろ。」


 セトが笑う。


「いいじゃん別にー。」


「……お久しぶりです、セトさん。」


「おう。」


 それから。


 リムはカインを見る。


「……カインさんも。」


「うん。久しぶり。」


 カインはいつも通りだった。


 見たところ、大きな怪我もない。


「……よかった。」


「何が?」


「いえ……。」


 リムは少しだけ視線を逸らした。


「元気そうでしたので。」


「うん。」


「……怪我とか、してませんか?」


「今は大丈夫。」


「今は?」


「…………。」


「カインさん。」


「……ちょっと前に。」


「やっぱり……。」


 リムは小さく息を吐いた。


「もう少し、ご自分を大切にしてください。」


「うん。気をつける。」


「本当に?」


「多分。」


「……もう。」


 その様子を、エイルが横から見ている。


「…………。」


「エイルさん?」


「んー? なんでもないよー。」


「……?」


 リムは首を傾げた。


「そうだ、リムち。」


「はい?」


「今日は一緒にいられる?」


「……すみません。」


 リムは少し申し訳なさそうに首を振る。


「まだ、仕事がありますので。」


「そっかぁ。」


「……はい。」


「じゃあ仕方ないねー。」


 エイルは少し残念そうに笑った。


「また今度遊ぼーね。」


「…………はい。」


 また。


 その言葉に、リムは小さく頷いた。


「あの。」


「ん?」


 カインがこちらを見る。


 リムは本来の目的を思い出した。


「カインさんに、お願いがあるんです。」


「うん。」


「えぇと……。」


 少し考える。


 自分にも仕事があるし、アベルにも予定があるだろう。そもそも魔王城からここまではかなりの距離がある。


「……二週間後。」


「二週間後?」


「はい。」


 リムは頷く。


「以前、ジェイドさんに襲われた場所……覚えていますか?」


「うん。」


「二週間後、そこに来てもらえますか?」


「いいよ。」


「……まだ理由を言ってません。」


「でもリムが来てほしいんだろ?」


「…………。」


「なら行くよ。」


「…………そう、ですか。」


 少しだけ。


 リムは言葉に詰まった。


「それで、何があるんだ?」


 セトが尋ねる。


「それは……。」


 リムは三人を見る。


 そして、少しだけ声を落とした。


「アベル様が。」


「アベル?」


 カインが首を傾げる。


「……魔王様です。」


「…………。」


 三人が止まった。


「魔王?」


 最初に声を上げたのはセトだった。


「はい。」


「その魔王が、なんでカインを?」


「……カインさんに。」


 リムはカインを見る。


「一度、会ってみたいと仰っています。」


「俺に?」


「はい。」


 カインは少し考える。


「……うん、分かった。二週間後ね。」


「……はい。」


 リムは小さく頷いた。


 二週間後。


 ……また、会える。


「…………。」


 それを少しだけ嬉しいと思った理由を。


 リムは、まだ知らなかった。

2か月くらいずっとソワソワしてたリムち

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