↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
29/37

お仕事再開

「じゃあ、いってきます。」


「はい、気をつけてね。」


 玄関先で、リアが三人を見送る。


「今度はもう少し早く帰ってきなさいね。」


「たまには顔見せろよー。」


「分かった。」


 イサナもリアの隣から手を上げた。


「エイルもまたいつでも来てね。」


「はーい。また来るねー。」


「セトも。」


「おう!」


「……自分のお家にもね?」


「分かってるって!」


 本当に分かっているのだろうか。


 そんなことを思いながら、カインは歩き出す。


 久しぶりの帰省も終わった。


 今日からまた、いつもの生活に戻る。


「さて、と。」


 少し歩いたところで、エイルが大きく伸びをした。


「昨日は一日休んだし、今日は流石に働こっかー。」


「そうですね。」


「俺は昨日も結構動いたぞ。」


「何してたの?」


「実家で薪割り。」


「元気だねぇ。」


 三人はそんな話をしながら、いつもの役所へ向かった。


 今まではセトと二人だった。エイルが一緒に仕事をするようになって、一人増えて賑やかになったと思う……けど。


「……カイン?」


「ん?」


「どうしたの?」


「いや、何でもない……です。」


「そ?」


 エイルはそれ以上聞かなかった。


     ◇


「んー……今日は何にしよっかなー。」


 役所に並べられた依頼を眺めながら、エイルが唸る。


「これとかどうだ?」


 セトが一枚の依頼を指差した。


「どれどれ?」


 三人で内容を確認する。


 街から少し離れた村からの依頼だった。


 近頃、田畑を荒らす大鴉が増えている。


 以前から付近には生息していたものの、ここ最近になって数が増え、農作物への被害が大きくなっているらしい。


「大鴉かぁ。」


 エイルが依頼書を眺める。


「三人なら大丈夫そうだね。」


「飛ぶ奴だよな?」


「そ。そこだけちょっと面倒かな。」


 大鴉。


 その名の通り、大型の鴉に似た魔物。


 鋭い嘴と爪を持ち、空から獲物を襲う。


 単体であれば、そこまで危険な魔物ではない。


 だが、群れになると話は変わる。


「数は?」


「分かんないみたい。最近増えてるってだけ。」


「じゃあ、全部倒せばいいんだな。」


「セトは分かりやすくていいねぇ。」


 カインはもう一度、依頼書を見る。


 ……うん、特に問題はなさそうだ。


「これにする?」


「おねーさんはいいよー。」


「俺も。」


「じゃあ決まり。」


 依頼を受け、三人は村へ向かうことになった。


     ◇


 目的の村は、街からしばらく歩いた先にあった。


 それほど大きな村ではない。


 周囲には田畑が広がり、そのさらに向こうには森が見える。


「ああ、狩人さんですか。」


「はい。」


 三人を迎えた村人が、安心したように息を吐く。


「助かります。最近、本当に酷くて。」


「前から大鴉はいたんですよね?」


 カインが尋ねる。


「ええ。森がありますから、たまに畑まで来ることはありました。でも……。」


 村人は荒らされた畑を見る。


「こんなに頻繁に来るようになったのは、最近ですね。」


「数も増えた?」


「そうですね。以前は数羽見かける程度だったんですが、今は十羽以上で来ることもあります。」


「へぇ……。」


 エイルが森へ目を向ける。


「何か増える理由でもあったのかな。」


「さあ……私たちには。」


「ま、そこ考えるのは後でいっか。」


 エイルは軽く身体を伸ばす。


「とりあえず、お仕事しますかー。」


「おう。」


「うん。」


 三人は畑へ向かった。


     ◇


「上!」


 エイルの声。


 カインが顔を上げる。


 大鴉が一羽、翼を畳んで急降下してくる。


「っ!」


 嘴を躱す。


 すれ違う瞬間、刀を振る。


 一閃。


 大鴉が地面へ落ちた。


「カイン! 次!」


「分かってる!」


 横から別の一羽。


 今度はセトが前へ出る。


「おらっ!」


 振り抜いた拳が、大鴉を叩き落とす。


「二人ともー、そっち三羽行ったよー!」


「三羽!?」


「任せたー。」


「エイルさんは!?」


「こっち六羽!」


「じゃあそっちの方が多いじゃん!」


「だから忙しいのー。」


 少し離れた場所。


 何人ものエイルが、畑の中を走り回っていた。


 【鏡面】。


 大鴉たちは突然増えた獲物に混乱したように空中で旋回する。


「はい、残念。」


 一羽。


「そっちは偽物。」


 二羽。


「で、こっちが本物。」


 三羽。


 次々と地面へ落ちていく。


「やっぱエイルさん、すげぇな。」


「よそ見してる場合じゃないだろ!」


 セトの頭上から大鴉が迫る。


 それをカインが斬り払った。


「っぶね、サンキュ。」


「気をつけろよ。」


「はいはい、じゃあ俺もお仕事お仕事。」


 別の一羽へセトが走る。


 最初の頃に比べれば、カインもセトも随分と戦いに慣れていた。


 相手を見る。


 周囲を見る。


 互いの位置を見る。


 無闇に突っ込むことも減った。


 何より。


「カイン、そっち行ったぞ!」


「おう。」


 言葉が少なくても、互いが何をしようとしているのか分かる。


 長く一緒にいたからなのか。


 それとも。


「…………。」


 ふと、昨日の言葉が頭をよぎる。


 ――人との繋がり。


「カイン!」


「っ!」


 考えている場合ではない。


 カインは迫ってきた大鴉へ刀を振るった。


     ◇


「……これで最後か?」


 地面に落ちた大鴉を見ながら、セトが息を吐いた。


「多分ねー。」


 エイルの【鏡面】が消えていく。


 周囲には、倒した大鴉たち。


 随分と数が多かった。


「結構いたね。」


「村の人が困るわけだ。」


 カインは刀を納める。


「じゃあ、これで依頼完了?」


「一応、周り確認してから戻ろっか。」


「まだいるかもしれねぇしな。」


 三人で周囲を見る。


 畑、その先の森、空。


「…………。」


 静かだった。


「いなさそうだな。」


「だね。」


「じゃ、帰ろっかー。」


 エイルがそう言った、その時。


「――カァァァァァッ!」


 突然甲高い鳴き声が響き、三人が同時に振り返る。


「……何?」


 森。


 木々の向こうから、一つの影が飛び上がった。


「…………でか。」


 セトが呟く。


 大鴉。


 だが、先ほどまで相手にしていたものとは明らかに違う。


 一回り。


 いや、二回りは大きい。


 翼を広げれば、人間など簡単に覆い隠せそうなほど。


 その大鴉は上空を旋回しながら、三人を見下ろしていた。


「特殊個体……かな。」


 カインが刀へ手をかける。


「多分ね。」


 エイルの声からも、先ほどまでの軽さが少し消える。


「こいつが群れのボスだったのか?」


「ありえるねー。」


 特殊個体。


 同じ種類の魔物の中でも、稀に生まれる通常とは大きく異なる個体。


 以前、狩人試験で遭遇した狂狼もそうだった。


「じゃあ、こいつ倒せば終わりだな。」


 セトが拳を構える。


「多分な。」


 カインも刀を抜く。


 エイルも腰を落とした。


 三人を見下ろしていた大鴉が、ゆっくりと翼を広げる。


「…………。」


 エイルの眉が僅かに動いた。


「……ん?」


「どうしました?」


「いや……。」


 何かがおかしい。


 風が動いている。


 大鴉が羽ばたいたからではない。その周囲へ何かが集まっている。


「……待って。」


 エイルの表情が変わった。


「二人とも避けて!」


 次の瞬間。


 大鴉の周囲から、幾つもの風の刃が放たれた。


「っ!?」


 三人が咄嗟に飛び退く。


 風の刃が地面を抉る。


 土が舞い上がり、畑に深い傷が走った。


「なんだ今の!?」


 セトが叫ぶ。


「…………。」


 カインは刀を構えたまま、大鴉を見上げる。


 ――知っている。


 自分達が使わないせいもあり、選択肢から外していたもの。だが、この世界の人々が当たり前に知っている。


「……魔法?」


「……うん。」


 エイルも、信じられないように空を見上げていた。


 大鴉が再び翼を広げる。


 その周囲に、風が集まっていく。


「魔物が魔法を……?」


 三人の戸惑いなど気にもとめず、大鴉は再び魔法を放つのだった。

狂狼以来の特殊個体。


確率的には……あれだ、なんかの色違いくらい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。