親心
リムが帰ってから数日。
「そういやカイン達さー、家には戻らないの?」
ふと、エイルがそんな事を言った。
「……言われてみれば。」
確かに、セトと狩人として働き出してからずっと、楽しかったのもあるが、新人狩人として働くので精一杯で頭から抜けていた。
「じゃあさー、おねーさんも久しぶりに二人に会いたいし、明日帰ろ。二人も寂しがってるって。」
「……ん、そうですね。」
そんな訳で、久しぶりに家に帰る事になった。
◇
「ただいまー。」
「ただいま。」
「お邪魔しまーす。」
三人の声が、ほとんど同時に家の中へ響いた。
しばらくして、奥から足音が聞こえてくる。
「あら。」
顔を出したリアが、三人を見て笑った。
「おかえりなさい。エイルも一緒だったの、久しぶりねぇ。」
「リアさん久しぶりー。」
「元気そうでよかったわ。」
「私はいつでも元気だよー。」
「ただいまー。」
リアの視線が、最後の一人へ向いた。
「セト。」
「ん?」
「まず自分のお家に挨拶してきなさい。」
セトが固まる。
「ご両親も待ってるでしょう?」
「いや、後で行こうかなーって。」
「先に行きなさい。」
「…………はい。」
素直に頷くと、セトは入ってきたばかりの扉へ引き返す。
「じゃ、ちょっと行ってくるわ。」
「行ってらっしゃい。」
「すぐ戻ってくるからなー!」
「なんで戻ってくる前提なの?」
カインの声を背中に受けながら、セトは家を出ていった。
「相変わらずねぇ。」
エイルが笑う。
「昔からあんな感じだったっけ?」
「そうね。気づけばうちにいるのよ。」
「セトだしねー。」
「セトだからなぁ。」
奥から別の声がした。
イサナが姿を見せる。
「おかえり、カイン。」
「親父、ただいま。」
「エイルも久しぶり。」
「久しぶりー。」
「元気そうだな。」
「そっちもね。」
イサナは軽く笑って、カインを見る。
「……お?」
「何?」
イサナは少しだけ目を細める。
「……なんかあったか?」
「色々。」
「だろうな。」
「なんで分かるの?」
「そりゃあ……。」
言いかけて、イサナは少し考えた。
「父親だから?」
「なんで疑問形なの。」
「細かいこと気にすんな。」
どこかで聞いたような言葉に、エイルが笑った。
◇
「狩人の仕事、しっかりやれてるみたいねぇ。」
久しぶりに家族で囲む食卓。
一度自宅へ顔を出してきたセトも、当然のように戻ってきていた。
「最近は二人で普通に依頼こなしてるぞ。」
「セト、ご両親にはちゃんと挨拶した?」
「したって!」
「何て?」
「『ただいま! カイン家行ってくる!』って。」
「まあ……いいわ。」
リアが諦めたように笑う。
その隣では、イサナがカインたちの話を聞いていた。
狩人になってからのこと。
セトと二人で依頼を受けていること。
魔物と戦ったこと。
そして。
「あと、しばらく魔族の子と一緒にいた。」
「……魔族?」
イサナが聞き返す。
「うん。リムっていう子。」
イサナは少し意外そうな顔をした。
「へぇ……魔族と一緒になぁ。」
「変?」
イサナは腕を組む。
「いやー……ふとさぁ、俺魔族と普通に関わった事ないなぁって。」
「魔王とは戦ったんでしょ?」
「まぁ……戦ったな。」
「じゃあ魔族のこと知ってるんじゃないの?」
「いやいや、戦ったからって、そいつらのこと知ったことにはならんだろ。」
軽く笑いながら、イサナは手を振る。
「……そうなの?」
首を傾げるカインに、イサナは少し考えて。
「あー……戦えばまぁ、強いとか、どんな戦い方するとかは分かる。でもよぉ、何食って、普段何して、何が好きなのかなんて分かんねぇよ。」
「…………。」
「俺が知ってるのは、戦った魔族くらいだな。」
「私もね。」
リアが頷いた。
「魔族の人とゆっくり話したことなんて、ほとんどないもの。」
「そっか。」
イサナが少し身を乗り出す。
「で、カイン。そのリムって子、どんな子なんだ?」
「いい子だよ。」
「…………。」
「優しいし……あと、真面目。」
「……カインに聞いた俺が悪かったか?」
「なんで?」
「リアさーん。」
ふいに、横からエイルの声がした。
「ちょっとちょっと。」
「なあに?」
手招きされ、リアが顔を寄せる。
エイルも少しだけ声を落とした。
「リムちね、めちゃくちゃいい子。」
「そうなの?」
「もう、めっちゃくちゃ。」
「エイルがそこまで言うなんて珍しいわね。」
「真面目だし、優しいし。ちょっと自信なさすぎるのが心配なくらいなんだけどさー。」
「へぇ。」
「あと、美少女。やばいくらいに。」
「まあ。」
「銀髪で、こう……放っとけない感じでさ。」
「エイル、随分気に入ってるのね。」
「そりゃもう。」
エイルは大きく頷く。
「……あとね。」
「うん?」
エイルは一瞬、視線を自分の胸元へ落とす。
「……何がとは言わないけど、ね。私より大きい。」
リアの視線もエイルの胸元へ落ち、まじまじと見つめる。
「エイルより……?」
「うん、凄くない?」
「何の話?」
カインが首を傾げる。
「「カインは知らなくていいの。」」
二人の声が綺麗にハモった。
「えぇ……?」
エイルはそんなカインを横目で見てから、もう一度リアへ顔を寄せる。
「でまぁ……多分、カインもリムちも自覚ないだろうけど……。」
「…………。」
リアの視線が、ゆっくりとカインへ向いた。
「?」
当人は何も分かっていない顔をしている。
「……なるほど。うん、それは是非会ってみなきゃ。」
「だよねー。」
エイルとリアは顔を見合わせ、小さく笑った。
◇
「あ、親父、そういやさ。」
「ん?」
食事も終わり、少し落ち着いた頃。
カインは腰に差した刀へ手を置いた。
「俺のスキル、使えた。」
イサナが止まった。
「ん?【抜刀】だろ?」
「いや…なんか思ってたのと違った。」
「…………マジで?」
イサナの顔から、少しだけ笑みが消える。
「とりあえず、詳しく聞かせろ。」
カインはジェイドに襲われた時のことを話した。
リムが追われていたこと。
自分が間に入ったこと。
どうしても勝てなかったこと。
それでも、リムを助けたかったこと。
その時。
リムの【隔帳】が刀へ宿ったこと。
「……で、俺が【隔帳】使ってる間は、リムは使えなくなってた。」
「なるほどなぁ。」
「分かる?」
イサナは苦笑して、少し考える。
「分かんねぇけど……なんか、変なスキルだな。」
「だよなぁ。」
「他の奴のスキルを使うって……誰のでもか?」
「それが……。」
カインはセトとエイルでも試したことを話す。
「二人とも駄目だった。」
「でもリムって子のは使える。」
「うん。」
「本人が貸すつもりでも?」
「駄目だった。」
「ふーん……。」
イサナが腕を組む。
しばらく黙って考えていたが。
「カイン。」
「ん?」
「お前、そのリムって子に『助けて』って言われてねぇか?」
カインは首を傾げた。
「うーん……言われたような、言われてないような。」
イサナに言われ、カインは記憶を辿る。
――とにかく必死だった、細かい事はよく思い出せない。
「……覚えてないなぁ。」
「ま、そんな余裕なかったって感じか。」
イサナはカインを見る。
「でもま、お前は助けたかったんだろ?」
「うん。」
「その子は、お前に助けてほしかった。」
「……多分。」
「で、その時に初めてスキルが使えた。」
「うん。」
「だったら、そこに何かあるんじゃねぇの?」
「そこ?」
「人との繋がり。」
「…………。」
カインが呟く。
「人との、繋がり。」
「俺の【天断】なんて、ある意味分かりやすいぞ。」
「そうなの?」
「斬る。」
「…………。」
「なんだよ。」
「いや、それでいいのかなって。」
「いいんだよ。」
イサナは笑う。
「身体鍛えて、技磨いて。母さんに【強化】してもらったこともあるけどな。」
「うん。」
「結局、俺が斬れれば使える。俺一人で完結するスキルだ。」
イサナはカインの刀を見る。
「でも、お前のは違う。」
「…………。」
「一人じゃ使えないんだろ?」
「うん。」
「だったら。」
イサナは少しだけ考える。
「お前のスキル、人との繋がりが大事なのかもな。」
「……そうなのかな。」
「ま、俺にもよく分かんねぇよ。ただ……。」
イサナはぽん、とカインの頭に手を置いた。
「お前らしいスキルじゃねぇ?」
「……そうかな。」
「俺が言ってんだからそうだろ。」
カインは自分の刀を見る。
人との繋がりも、自分のスキルが何なのかも、どうしてリムの【隔帳】を使えたのかも、まだよくわからない。
「……そっか。」
それでも……少しだけ。
ハズレスキルと呼ばれた自分の力を、悪くないと思えた。
ちなみにエイル、リアはさんづけで呼びますが
イサナは呼び捨てです。




