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三人寄れば

 翌朝。


 リムは自分の右脚へ手を添えていた。


「……何してんだ?」


「あ、えっと……。」


 カインに声をかけられ、リムが顔を上げる。


「少しだけ、治しておこうかと。」


「治す?」


「はい。」


 リムが再び右脚へ視線を落とす。


 添え木で固定された脚。


 その上へ手をかざすと、淡い光が灯った。


「お、回復魔法使えるのか?」


 横から覗き込んだセトに、リムが頷く。


「はい。少しだけですが。」


「昨日は使わなかったよな?」


「はい……使えなかった、が正しいのですが。」


「使えなかった?」


 淡い光が、ゆっくりと右脚を包んでいく。


「昨日は【隔帳】を使いすぎて、ほとんど魔力が残っていなかったので……。」


「ああ。」


 カインは納得したように頷いた。


 魔法もスキルも、使うためには魔力が必要になる。


 昨日のリムは何度も【隔帳】を重ねていた。


 それなら、魔力が残っていなかったのも当然なのだろう。


「これで治るのか?」


「いえ……。」


 リムが申し訳なさそうに首を振る。


「私では、骨をすぐに治せるほどの回復魔法は使えません。」


「そっか。」


「でも、少しずつなら。」


「じゃあ、どれくらい?」


「そうですね……。」


 リムが自分の脚を見る。


「何日か続ければ、歩けるくらいにはなると思います。」


「何日かか。」


「はい。」


「…………。」


 カインは少し考えた。


「じゃあ、それまでは一緒だな。」


 リムが顔を上げる。


「……はい。」


「よし。」


 カインが立ち上がった。


「じゃ、飯行くか。」


「おう。」


「…………。」


 二人が当たり前のように歩き出す。


 リムはその背中を見た。


「リム?」


 カインが振り返る。


「どうした?」


「……あの。」


「ん?」


「私も……ですか?」


「…………?」


 カインが首を傾げる。


「そりゃそうだろ。」


「…………。」


「腹減ってない?」


「お腹は空いてますが……。」


「じゃあ行こうぜ。」


「…………はい。」


 リムは小さく頷き、立ち上がろうとして。


「――っ。」


 右脚に痛みが走る。


「あ。」


「…………。」


「…………。」


 カインとリムの目が合った。


「……まだ歩けないよな。」


「……はい。」


「じゃあ。」


 カインがリムの前でしゃがむ。


「乗って。」


「…………。」


「リム?」


「…………。」


「どうした?」


「い、いえ……。」


 リムは、昨日のことを思い出した。


 背中に回された腕。


 膝の裏を支えられて。


 すぐそばにあった顔。


「…………。」


 心臓が少しだけ速くなる。


「……あの。」


「ん?」


「今日は……背中、なんですね。」


「?」


「…………。」


「そりゃ、昨日みたいに抱えて歩くより楽だろ。」


「……そうですよね。」


「?」


「なんでもないです……。」


 リムは、そっとカインの背中へ身体を預けた。


「よいしょ。」


「ひゃっ。」


 カインが立ち上がる。


「痛くない?」


「はい。」


「ならよし。」


「…………。」


 昨日とは違う。


 けれど、これはこれで近い。


「…………。」


「行くぞー。」


「おう。」


「……はい。」


 なんというか、この人はどうしてこう……。


     ◇


「三人分って、結構するな。」


 食事を前にして、カインが呟いた。


「今更?」


 セトは既に食べ始めている。


「いや、今までは二人だっただろ。」


「そりゃそうだけど。」


「宿代も増えるしなぁ。」


「…………。」


 リムの手が止まった。


「……あの。」


「ん?」


「やっぱり、私……。」


「もう少し稼がないとな。」


「…………え?」


 カインは指を折りながら考える。


「飯代増えるだろ。宿代も増えるし。」


「…………。」


「しばらくリムは動けないから、俺とセトで――」


「いや待て。」


 セトが口を挟んだ。


「なんで俺まで働く量増える前提なんだよ。」


「三人になったから。」


「理由になってねぇだろ。」


「じゃあリムの分、俺がやる。」


「それはそれでなんか腹立つな。」


「どっちだよ。」


「…………。」


 リムは二人を交互に見る。


「あの……。」


「ん?」


「私なら、大丈夫です。」


「何が?」


「ですから……。」


 膝の上で手を握る。


「昨日は助けていただきましたし、脚も少しずつ治せますから。」


「うん。」


「なので、これ以上ご迷惑をかけるわけには……。」


「…………。」


 カインが首を傾げる。


「でも、一人にしてまた襲われたら大変だろ。」


「…………。」


「脚もまだ治ってないし。」


「……でも。」


「治るまで一緒にいればいいって、昨日言っただろ?」


 当然のように言われる。


「だから、まぁ。」


 カインが飯を口へ運ぶ。


「ちょっと頑張ればいいだけだろ。」


「…………。」


「俺ら狩人なんだし。」


「お前なぁ……。」


 セトが呆れたように息を吐く。


「…………。」


 リムは何も言えなかった。


 自分がいるから。


 食費が増える。


 宿代も増える。


 なのに。


 出ていけとは言われない。


 迷惑だとも言われない。


 それどころか最初から。


 自分がここにいることを前提に、話が進んでいる。


「…………。」


「リム?」


「……はい。」


「食わないの?」


「食べます。」


「冷めるぞ。」


「はい……。」


 リムは食事へ手を伸ばした。


「…………。」


 まだよく分からない。


 けれど、昨日より少しだけ。


 ここにいることが、怖くなくなっていた。


「だぁーかーらぁ!」


「…………。」


 突然。


 店の奥から、大きな声が響いた。


「なんだ?」


 セトが振り返る。


「まだ飲めるって言ってんでしょーが!」


「…………。」


 昼間から随分と出来上がっているらしい。


「酔っ払いか。」


「みたいだな。」


 カインは気にせず食事を続ける。


「…………。」


「もう一杯! 持ってきなさい!」


「元気ですね……。」


「放っとけ放っとけ。」


 セトも気にせず食べる。


「…………。」


 しばらくして。


「だから金なら――」


 声が響く。


「…………。」


 カインの手が止まった。


「ん?」


「どうした?」


「…………。」


 なんだろう。


 聞き覚えがある。


「…………。」


 カインは店の奥を見る。


 酒瓶の並んだ卓。


 その向こう。


 青い髪。


「…………。」


 卓へ突っ伏しながら、まだ酒を要求している女。


「…………え?」


 見間違えるはずもない。


「……エイルさん?」

生活費、大事。

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