第99話 気道楽者
「いやぁ、実に素晴らしい魔法でしたねぇ。」
突然声をかけられ、ミカは振り返った。
そこには、一人の男が立っていた。
「……え、ウチ?」
「ええ。先ほどの雷の剣ですよ。あのような魔法は初めて見ました。」
「マジ? ありがとー!」
ミカが嬉しそうに笑う。
「私、趣味で魔法を色々研究してましてね。もしよろしければ、少しお話を聞かせていただけませんか?」
「いいよー。何が聞きたいん?」
「そうですねぇ。まず、あの魔法はどうやって思いついたのでしょう?」
「んー……。」
ミカが少し考える。
「雷ってさ、バチバチしてるじゃん?」
「ええ。」
「でも、そのままだと剣になんないじゃん?」
「そうですねぇ。」
「だから、土の魔法で形作れないかなーって。」
「ほう。」
「で、やってみたらできた!」
「……なるほど。素晴らしいですねぇ。」
「でしょー?」
ミカが得意げに胸を張る。
隣で話を聞いていたファントは、何とも言えない表情をしていた。
「……それで、できるものなのですか?」
「できたじゃん。」
「いえ、そうなのですが……。」
「ふふ。発想というのは、案外そういうものかもしれませんねぇ。」
男は楽しそうに笑った。
「しかし、あれほどの魔法を即興で作り上げるとは。相当な腕前とお見受けします。」
「まーね! ウチ魔法は得意みたいだし!」
「……ほう。」
「でもさー、カインには勝てなかったんだよねー。」
「……カイン?」
「そそ。あそこにいるやつ。」
ミカが指差した先では、カインとセトが先ほど倒した大蛇を解体していた。
「ここ、硬いな。」
「鱗の間から入れりゃいいんじゃね?」
「あ、そっか。」
二人は黙々と作業を続けている。
「……あちらの方ですか。」
「うん。でも魔力切れになっただけだしー。次やったら負けないしー。」
「……ふむ。」
「てか、人のスキル借りるとか聞いてなかったし!」
「……人のスキルを?」
「そそ。ね、カイン!」
「? 呼んだ?」
カインが顔を上げた。
「呼んだだけー。」
「そっか。」
再び作業に戻る。
「…………。」
「ま、次は絶対勝つけどね!」
「ふふ。そうですか。」
男は穏やかに笑った。
「それにしても、皆さん随分と仲がよろしいのですねぇ。」
「まーね。ウチは最近入ったばっかだけど。」
「そうなのですか。」
「うん。ファントも一緒に。」
「私はミカさんの同行役ですから。」
ファントが軽く頭を下げる。
「そうでしたか。皆さん、狩人をされているのですか?」
「んー、ウチは狩人じゃなくて英雄らしー。」
「なるほど、英雄様。あれほどの魔物を倒されるのも納得ですねぇ。」
男が大蛇へ目を向ける。
カインとセトは、相変わらず解体に苦戦していた。
「おいカイン、これどうする?」
「んー……持てる分だけでいいんじゃない?」
「だよなー。」
そんな二人を見て、エイルが笑う。
「二人ともー、無理して全部持って帰ろうとしなくていいからねー?」
「わかってるー。」
「……本当にわかってる?」
「俺はまだ持てるよ?」
「もう。」
カインの言葉に、エイルが呆れたように肩をすくめた。
「ふふ。賑やかな方々ですねぇ。」
「いつもこんな感じですよ。」
リムが小さく笑う。
「それはそれは。楽しそうで何よりです。」
男も笑みを返した。
それからしばらく、ミカと男は魔法について話していた。
もっとも、ミカの説明はほとんどが感覚的なものだった。
「こう、ぐわーって魔力集めてさ。」
「ええ。」
「そんで、バチバチーって。」
「ほうほう。」
「で、形をぎゅーってしたらできる!」
「いやぁ、面白いですねぇ。」
ファントは途中から口を挟むのを諦めていた。
やがて、男が軽く頭を下げた。
「さて。随分と長話をしてしまいましたね。」
「あ、もう行くん?」
「ええ。大変興味深いお話を聞かせていただきました。ありがとうございます。」
「いえいえー。ウチも楽しかったし!」
「それはよかった。」
「あ、そういえばさ。」
「はい?」
「名前聞いてなかった!」
「おや。そうでしたねぇ。」
男は少し考えるようにしてから、答えた。
「名前……よく呼ばれるのは伯爵ですね。」
「ハクシャクさん、ですか。」
ファントが繰り返す。
「変わった名前ですねー。」
エイルが言うと、男は笑った。
「ふふ。そうかもしれませんねぇ。」
「……伯爵?」
ミカが首を傾げる。
「ええ。」
「名前が伯爵ってこと?」
「そう呼ばれることが多いですね。」
「へー。なんかウケる。」
「ふふふ。」
男は楽しそうに笑った。
「それでは、皆さん。私はこの辺りで失礼します。」
「はーい! またねー!」
「ええ。またどこかで会えれば。」
男はもう一度頭を下げ、歩き出した。
ミカはその背中を見送る。
「なんか面白い人だったねー。」
「そうですね。魔法の研究を趣味にされているとは。」
ファントが頷く。
「ミカち、随分楽しそうだったねー。」
「だってやたら褒めてくれるし、めっちゃアガったわー。」
「ふふ。よかったねー。」
エイルが笑った。
「おーい、そろそろ行くぞー。」
セトの声が聞こえた。
「はーい!」
ミカが返事をして、皆の方へ駆けていく。
――その頃。
男は一人、道を歩いていた。
「いやぁ、実に面白い方でしたねぇ。」
楽しそうに呟く。
そして、ふと足を止めた。
「いやはや、あの少女の方かと思っていましたが。」
少しだけ考えるようにして。
「……なるほど、どうやら主役は少年の方みたいですね。」
男は小さく笑った。
それから何事もなかったように、再び歩き始めた。
あんだけでかい蛇ですもの。
達成感からもくもく解体しちゃう。
ちゃっかり謎荷物持ち技術を発揮しようとするカイン。
部類的にはまぁ、一応技術…のハズ。




