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第100話 英雄の息子

週に1、2回投稿できたらいいな、から始まりまして


気がつけば、カイン達が好き勝手動きだしまして、いつの間にやら毎日投稿からの100話になりました。


少しずつブクマ、評価して下さる方も増えてきてありがたい限りです。

 物心ついた頃には……いや。


 そもそも、生まれたその瞬間から。


 俺は、英雄の息子だった。


 親父の名前はイサナ。


 かつて魔王を倒し、世界に平和をもたらした英雄。


 母さんの名前はリア。


 その英雄と共に戦い、魔王討伐を成し遂げた仲間の一人。


 そんな二人の間に生まれたのが、俺だ。


 ……とはいえ。


 俺にとっては、普通の親父と母さんだった。


 親父はよく笑うし、母さんはよく怒る。


 親父がふざけて、母さんに怒られることもあった。


 俺が悪さをすれば、当然怒られた。


 逆に、何かいいことをすれば褒めてくれた。


 そんな、ごく普通の家族。


 少なくとも、俺はそう思っていた。


 ただ、少しだけ他の家と違うところがあったとすれば。


 周りにいる大人達が、みんな少し変わっていたことだろうか。


 親父と母さんだけじゃない。


 昔、一緒に旅をしていた人達。


 親父の知り合い。


 母さんの友達。


 家に遊びに来る大人達は、よく昔の話をしてくれた。


「いやぁ、あの時は本当に死ぬかと思ったな!」


「笑い事じゃないでしょ。実際、危なかったんだから。」


「でも、なんとかなっただろ?」


「結果的にはね!」


 そんな話を、楽しそうにしていた。


 魔物に襲われた話。


 街を守った話。


 仲間を助けるために、無茶をした話。


 時には、魔王との戦いの話もあった。


 俺はそういう話を聞くのが好きだった。


「父さん、その時どうしたの?」


「ん? そりゃあ、助けに行ったさ。」


「危なくなかった?」


「危なかったぞー。いやぁ、あれは本当に大変だった。」


「ふーん……。」


 そうなんだ。


 大変だったんだな。


 子供の頃の俺は、そんなふうに思っていた。


 もちろん、親父達がすごいことをしたのは知っていた。


 街に出れば、親父の名前を知っている人はたくさんいたし、英雄の話を聞かせてくれる人もいた。


 でも、家に帰れば親父は親父だった。


 母さんも、いつもの母さんだった。


 だからだろうか。


 英雄というものが、そこまで遠い存在には思えなかった。


 すごい人達だとは思う。


 でも、俺の知っている大人達でもあった。


 そして、そんな人達の話を聞きながら、俺は育った。


     ◇


「父さん、今日も稽古していい?」


「おう。いいぞ。」


 親父に剣を教わり始めたのが、何歳の頃だったかは覚えていない。


 最初は木剣を持つのも大変だった。


 振ればふらつくし、何度も転んだ。


 それでも、少しずつできることが増えていくのは楽しかった。


「よし、今日はここまでにするか。」


「もうちょっとやりたい。」


「んー? 随分やる気だなぁ」


「うん。」


「じゃあ、あと少しだけな。」


 親父は、いつも稽古に付き合ってくれた。


 もちろん、毎日うまくいくわけじゃない。


 昨日できたことが、今日はできなかったり。


 何度やっても、親父に一本も取れなかったり。


 それでも、続けていれば少しずつ上達した。


 それが嬉しかった。


「カイン!」


 そんなある日。


 いつものように稽古をしていると、セトがやってきた。


「また稽古してんのか?」


「うん。」


「昨日もやってたじゃん。」


「昨日もやったね。」


「……今日も?」


「うん。」


「よく飽きねぇなぁ。」


 そう言いながら、セトは俺の隣に立った。


「俺もやる!」


「いいよ。」


「よっしゃ!」


 それからは、セトと一緒に稽古をすることも増えた。


 セトは昔から元気だった。


 俺が木剣を振っていると、隣で同じように振り始める。


 走れば競争になるし、組み合えばどちらかが倒れるまで続いた。


 勝ったり、負けたり。


 怒られたり、褒められたり。


 そんな毎日だった。


 別に、何か特別な目的があったわけじゃない。


 ただ、強くなっておけば、いつか役に立つかもしれないと思っていた。


 父さん達みたいに、誰かを助けることがあるかもしれない。


 その時に何もできなかったら、嫌だし。


 だから、稽古を続けた。


 ……それに。


 ほんの少しだけ。


 いつか自分も、英雄になれたらいいな。


 そんなことを、考えていた。


     ◇


 十五歳。


 教会でスキルの鑑定を受ける日が来た。


 スキルというものは、生まれた時から持っているらしい。


 ただ、それが何なのかは、鑑定を受けるまでわからない。


 親父には【天断】がある。


 母さんには【強化】がある。


 俺にも、何かあるはずだった。


 ……期待していなかった、と言えば嘘になる。


 親父と母さんの息子だから。


 もしかしたら、自分にもすごいスキルがあるんじゃないか。


 そんなことを考えたこともあった。


 でも。


 結果は、違った。


 俺に与えられたのは、抜刀。


 刀を抜く。


 それだけの、ハズレスキル。


 ……そう、言われた。


 教会を出る。


 家族より少し遅れて、一人だけ足を止める。


 青い空を見上げた。


 期待していなかった。


 そう言えば嘘になる。


 でも。


「ま、そうだよな。」


 英雄の息子だからといって。


 自分まで英雄になれるほど、世の中は都合良くできていない。


「神様なんていねぇ……な。」


 そう呟いて、歩き出した。


 ……まぁ。


 残念ではあったけど。


 だからといって、今までやってきたことがなくなるわけじゃない。


 剣の稽古だって、無駄になったわけじゃないだろう。


 ただ、これからどうしようか。


 そんなことを考えていた頃。


「なぁ、カイン!」


 セトが、いつもの調子で声をかけてきた。


「狩人、やらねぇ?」


「狩人?」


「おう!」


 狩人。


 魔物を討伐したり、人からの依頼を受けたりする仕事。


 危険なことも多いけど、誰かの役に立てる仕事でもある。


「……うん。やろうかな。」


「よっしゃ!」


 セトが嬉しそうに笑う。


 俺も、なんだか楽しくなってきた。


 英雄にはなれないかもしれない。


 でも、別に英雄じゃなくたって、誰かを助けることはできる。


 それなら、それでいい。


 そう思った。


     ◇


「……で、どうする?」


 セトの声で、顔を上げる。


 目の前には、いくつかの依頼が並んでいた。


 魔物の討伐。


 街道の警備。


 荷物の護衛。


 どれも、狩人としては珍しくない仕事だ。


「これとかどう?」


 俺が一つの依頼を指さす。


 セトはそれを覗き込んで、少し眉を寄せた。


「んー……こっちは?」


「そっちでもいいけど。」


「いや、だってなぁ。」


 セトが俺を見る。


「こういうの、カインがまた無茶しそうだしなー。」


「……?」


 無茶?


「あんまり無茶してるつもりないけどなぁ。」


「…………」


 セトが、深いため息をついた。


「カインさぁ。」

いや本当カインさぁ。

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