6 結局どうにもできないよ!
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■ 支援の経過 ■
プリンセス市の協議により、セルフネグレクトによる虐待の事実はないとなりましたが、今後の支援について個別のケア会議をしなさいとなったジョンさん事例。
地域包括担当者の調整により、当人が生活保護受給者ということもありケースワーカーにも参加を依頼し、65歳未満という年齢から保健センターの担当者も参加する運びとなりました。
サービス事業所側としては、担当ケアマネであるウサマネさんに、ダーティ・ケアプランの管理者であるダーティさん、ヘルパー事業所の担当者とサービス提供責任者も参加することとなりました。
ちなみに、姉であるボニーさんについては、事前に意向を伺うのみとしています。
これは、姉ボニーさんに対してジョンさんの攻撃性が強いため、最近では特に顔を合わせると喧嘩になって終わるという状況のための配慮となります。
つまり、この度のケア会議は、支援関係者だけが別で集まって協議するというよりも、皆で本人と面談し、病院受診を促すというものだったりします。
ウサマネ:「という次第でして……ダーティさんにも参加をお願いします」
ダーティ:「やはりこうなりまりましたか」
ウサマネ:「この流れって、やっぱりダーティさんが想定していたのと同じ感じですか?」
ダーティ:「まぁ……大体このような流れになり、最終的にケア会議という名の〝説得会〟(★※1)になるだろうとは思っていました」
ウサマネ:「説得会て……で、でもでも! もしかすると、ケースワーカーさんや地域包括の人から促されて、心変わりしたジョンさんが病院受診するかも知れませんし……」
ダーティ:「ええ、たとえ多勢に無勢な状況で、支援者という名の赤の他人どもの圧に屈して仕方なくだったとしても、確かに病院受診する方がジョンさんの健康にとっては良いこと(★※2)だと思いますよ」
ウサマネ:「……なーんか含みのある嫌~な感じなんですけど?」
ダーティ:「いえ、ポッと出の専門職者が『病院へ行け』と〝説得〟するだけで病院受診に繋がるなら……そもそもジョンさんは、ウサマネさんや姉ボニーさん、ヘルパーの担当者、救急隊員たちの声掛けに素直に応じていたでしょう」
ウサマネ:「う゛……そ、それは確かにそうですけど……」
ダーティ:「結局のところ、権利擁護だのセルフネグレクトだのと正規のルートで訴えても、支援者側にできるのはこの程度(★※3)なんですよ。……もちろん、まだ結果が決まったわけでもありませんが……」
ウサマネ:「そ、そうですよ。色んな人から言われると、案外、ジョンさんもビビッて受診に同意するかも知れません」
ダーティ:「ええ。その可能性は否定しません。もし〝説得会〟が上手くいかなかった場合については、一応私の方で備えておきましょう」
◆◆◆
■ 支援の経過 ■
迎えた当日。
地域包括から二人。
ケース―ワーカー一人。
保健センターから二人。
ケアマネ事業所から二人(ウサマネさん&ダーティさん)。
ヘルパー事業所から二人(担当ヘルパーマリアさん&サービス提供責任者メグさん)
……という、支援者側総勢9名という大所帯で、ジョンさん宅へ。
ただし、残念ながらというか当然というか、ジョンさん宅に9名が余裕をもって入れる部屋はありません。
そもそも、ジョンさんはリビング的な和室にて、寝たきり&這って生活しているという状況であり、処理できなかった排泄物の痕跡がそこらにあるという汚部屋状態。
畳も諸々の〝ジョンさん汁〟によって湿気っており、スリッパなしでそこを歩くと、じんわりと靴下が濡れて来るという塩梅。
正直なところ、『さぁ座って楽にしてください』と言われても、『いえ結構です!』と被せ気味に即答したくなる住環境でした。
ダーティ:「うーん。流石にどうにもなりませんね。三人ずつくらいで、代わる代わるジョンさんと話をしますか?」
ウサマネ:「物理的にそうするしかないですよね。一先ず、オイラと担当ヘルパーのマリアさんとで、ジョンさんに役所関係の人たちが来ていることを改めて伝えます(★※4)」
一堂に会して話し合い(説得会)をするのは不可能なため、本人との面談は数人ずつのローテーション方式で行うことに。
ウサマネさんとヘルパー担当者のマリアさんで、布団の上で寝たままのジョンさんに改めての説明を行い、まずは地域包括支援センター二人とケースワーカーの三人でジョンさんと面談を行いました。
地域包括ミラ:「ジョンさん! 痛みで動けないなら、やっぱり病院に行った方がいいですよ!!」
地域包括ロバート:「そうですよ! 入院して治療すれば、痛みも治まるでしょうし、また歩けるようにもなりますよ! ね? 救急車に乗って受診しましょう!」
CWブルース:「ジョンさん。このままだと、身動きも取れないし、衰弱して命にかかわるかも知れませんよ?」
ジョン:「うるさいッ! 俺は病院なんか行かない! このまま寝ていれば治るし、仮に治らなくても困らん! 呼んでもないに来やがって!! 帰れ帰れ!」
残念ながらというか、当然の結果というべきなのか……相変わらずジョンさんは受診を拒否している状況。地域包括担当者やケースワーカーからの言い分に耳を傾ける様子はありません。
そんな様子を見て……
ウサマネ:「あー……やっぱりジョンさんの意思は変わらないですね」
ヘルパーマリア:「ふぅ……一応、私もサービス支援の際には毎回受診を促す声掛けはしていますけど……毎回あんな感じです。『病院に行かない』『寝てれば治る』を繰り返しています」
サ責ミラ:「ジョンさんも痛みはあるでしょうに。痛みで動かないから、身体状態も悪化しています。今は和室に布団を敷きっぱなしで寝て、トイレの時に這って動くくらいしかできなくなってますし……」
保健センターノーマン:「……あの様子だと、私たちが改めて受診を勧めても受け入れてはくださらないでしょうね」
保健センターケイト:「ノーマンさん、どうしましょう? 本人がこうまで頑なに支援を拒んでいる状態だと、我々では本当になにもできませんけど……?」
保健センターノーマン:「うーん……このままだと命にかかわる可能性もあるため、不定期で保健センターからも様子を見に来るというのをお伝えしておきましょうか。今はとりあえずそれくらいしかできなさそうですし……」
ウサマネ:「やっぱり、様子を見るしかできないんでしょうか……?」
地域包括担当者やケースワーカーの〝説得〟の様子から、ジョンさんの心変わりを促すのは難しいようだと、保健センターの担当者たちも察した模様。
案の定、次に保健センター担当者のノーマンさんとケイトさんがジョンさんと話をしましたが……結果は同じく。
会話自体は可能でしたが、ジョンさんからは……
『病院には行かない』
『日常のこと(買い物や掃除など)だけ助けてくれればいい』
『様子を見に来るのは勝手だが、何度来られても病院には行かない』
……などなど。
ウサマネ:「はぁ……結局、ダーティさんの言ってた通りになりそうですね……」
ダーティ:「ある意味では仕方ないでしょう。ただ、受診についての考えは偏っているようですが、『ヘルパーの支援がないと困る』というところはジョンさんもきちんと自覚されているようでなによりです」
ウサマネ:「……そりゃ自分で買い物にも行けないから、ヘルパーさんがいないと食料もままなりませんから……」
ダーティ:「いえ、私が言っているのは、ジョンさんが今すぐに積極的に自死したいわけではないという点です。まぁそのおかげで、どうにもできないという話になるのですが……」
ウサマネ:「え? じ、自死……って自殺ってことですか? ええと……ジョンさんに自殺願望がないからどうにもできないって……どういうことですか?」
ダーティ:「緊急を要するような自殺念慮(★※5)がある場合なら、普通に警察への通報が第一(★※6)ですからね」
ウサマネ:「け、警察ですか?」
ダーティ:「はい。もし、ジョンさんが自殺を計画的に考え、実際に実行へ移そうとしている状況……つまりは緊急を要する場合が認められれば、保護を目的に警察へ相談するのが一番です。まぁ今回はそのような状況でないからこそ、セルフネグレクトで地域包括へ相談したわけですけどね」
ウサマネ:「……でも、そういうところまで想定していても、結局のところ、ジョンさんはどうにもならないんですか?」
ダーティ:「残念ですが、当人がここまで強硬に受診だけを拒否している以上、ケアマネという立場からは、日常生活上の支援を拒否されないだけマシだと思うしかありません。あとは……支援者が訪問した際、もしもジョンさんの心肺が停止している場合の取り扱い(★※7)について相談するくらいでしょう」
ウサマネ:「心肺が停止……つまり、死亡していた場合ってことですか? えっと……普通に救急車を呼ぶんじゃないんですか?」
ダーティ:「まぁその通りなのですが……ウサマネさんをはじめ、ヘルパーさんや姉ボニーさん、保健センターや地域包括担当者、ケースワーカーなどなど、近日中にジョンさんの自宅へ立ち入る可能性がある人も増えましたからね。発見者が誰であれ、それなりに対応できるように手順などを共有しておく方が良いでしょう」
ウサマネ:「……手順ですか?」
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※ここからは用語集。
★※1 説得会
ケアマネ協会やお偉い先生方なんかは『本人の自己決定を尊重しよう!』なんて謳っていますが、結局のところ、本人にサービスを使わせる、支援を受け入れさせるという〝説得会〟に終始するケア会議、サービス担当者会議は多いです(笑)
★※2
健康にとっては良いこと
一応、介護保険法の第四条に『国民の努力及び義務』という条文があります。
※介護保険法 第四条
国民は、自ら要介護状態となることを予防するため、加齢に伴って生ずる心身の変化を自覚して常に健康の保持増進に努めるとともに、要介護状態となった場合においても、進んでリハビリテーションその他の適切な保健医療サービス及び福祉サービスを利用することにより、その有する能力の維持向上に努めるものとする。
『リハビリなんてしたくない』
『健康なんてどうでもいい』
『福祉の世話になんかならん』
などと言う人たちは、厳密には〝介護保険法に反している!〟とも言えます。まぁ極論ですし、言い出すとキリがないですが……。
目の前にある現実としては、『健康に良い〝清く正しい生活〟を送っている人』というのは、かなりの少数派だったりします。夜更かしなどで昼夜のバランスが崩れていたり、食事内容が偏っていたり、酒を飲んだり、タバコ吸ったり……というのを含めれば、ほとんどの人が〝健康にはあまりよろしくない生活〟をしていると言えるでしょう。
なので、このケースのジョンさんの受診拒否などの訴えを、整合性がない、健康を害するとして、頭ごなしに全否定するのもどうかとは思います。
★※3 支援者にできるのはこの程度
ケアマネの中にも勘違いしている人がいたりしますが、今回のジョンさんのようなケースにおいて、たとえ行政機関であろうと、相手を強制的に従わせるような権限などありません。※当たり前の話ですが……
ですが現実には、『ケアマネさん、当人を説得して早く受診させて下さい』などという無茶振りをする近隣住民や医療関係者も少なくありません。
いや、だったら言い出しっぺがボランティアで連れて行けばいいじゃん。あと、医療機関側が本人の家に出向いて、無理矢理診察するなりすれば?
できないでしょ? というかする気もないでしょ?
口先だけが、えらいお元気でいらっしゃるわ~(京都風)
なんて風に思ったり思わなかったり……
★※4 改めて伝えます
今回のジョンさんのようなケースにおいては、利用者が支援者側の話をまともに聞いていなかったりします(あくまで経験則)
頑なに支援を拒否する利用者というのは、認知機能の低下によるもの忘れというよりは、はじめから理解する気がない、受け入れる気がないという傾向があるように感じます。
なので、事前にアポを取り、利用者に了承を得ていたとしても、実際に自宅を訪問した際には『今日、訪問した理由』を改めて伝えるところからはじめるのがベターです。
※『聞いていない』『そんなのは許可した覚えがない』『勝手に話を進めるな』……などなど。まぁ、実際には、たとえ改めて説明しても、結局同じようにワーワー言う人が大半ですけどね(笑)
★※5 自殺念慮
希死念慮と比較する形で使われる言葉です。
字面は似たようなものですが……
【希死念慮】
「死にたい」という思いを指しますが、必ずしも直接的に死を希望しているとは限りません。中には「楽になりたい」、「ずっと何もせず眠っていたい」、「消えてなくなりたい」という間接的な思考内容も含まれます。「自殺念慮」という用語も使われますが、希死念慮と類似の思考内容でありますが、その程度は強く、自殺という能動的な行為で人生を終わらせようという考え方を意味することが多いです。
※厚生労働省「こころの耳」のサイトより抜粋。
ようするに「自殺念慮」の方がより具体的で緊急性があるという扱いなんだそうです。
★※6 警察への通報が第一
実際に自殺を企図して、行動に移そうとしているоr移した……という人がいる場合、警察への通報を躊躇わないで下さい。
また、その場に居合わせた際、制止しようと思わず動いてしまうかも知れませんが、お互いの身の安全を確実に確保できる保証がないなら、下手に手を出さない方が無難です。
相手が親しい人や家族などであれば話は違って来るでしょうが……ケアマネという職業的な支援者という立場で、利用者相手にそこまでする義理はありません。
もし、相手が自傷のために刃物などを持ち合わせていれば、一方的に殺傷される可能性すらあります。
窓から飛び降りようとする利用者を止めようとして、揉み合いになって殴られ、失明寸前まで片目の視力が低下してしまったという支援者の事例も聞いたことがあります。
★※7 心肺が停止している場合の取り扱い
ここで言う心肺停止状態というのは……『呼吸をしていない』『一見して死亡しているだろう』と思しき状況・状態のことです。
〝死亡〟という判断は、一応は医師でないと判断できないというルールになっていますので……確実に『あ、これはもう死んでいるだろうな……』という場合でも、救急車を要請する際には『心肺停止状態の方がいます』と伝え、ついでに『警察の方への通報もお願いします』と救急のオペレーターの方に依頼したりもします。
※こちらから伝えなくても、オペレーターの判断で警察へ通報してくれる場合もあります。
で、心肺停止状態の利用者を発見した際の取り扱いなのですが、当人の了承を得られるのであれば、玄関を入って目に付くところに、救急要請の際に伝える内容、セリフなどを含めたいわゆるカンペや、当人の基本情報(現病や既往歴含む)を用意しておけば便利だという話です。
※発見者となる方がパニックになることを考慮して、事前にそのような物を用意するのですが……それでも、利用者が死亡しているのを発見したヘルパーさんから直接ケアマネに連絡があり、『すみませんケアマネさん! 救急車はどうやって呼べばいいんですか!?』という問い合わせが来た事例もあります。
パニックになり、電話で119番を押すという初歩的な手順すら飛んでしまったようでした。
あと、オペレーターの方から『心肺蘇生を試みて下さい』と電話口で指示される場合もありますが、個人的には、死後数時間、数日が経過していると思しき場合は、遺体には直接触れない方がよいかと。なんなら近付かない方がいいです。
心肺停止状態となった利用者には申し訳ないですが、人間も他の生物と変わらず、死後は腐敗がはじまり、体内のウイルスや菌は遺体を栄養源として増殖します。
宿主が死亡し、ウイルスや菌などの病原体が体外に出た場合、それらの病原体が何時間後に死滅するのかを示す医学的なデータはありません。
なので、病原体は生存しており、遺体の血液、体液、排泄物等は感染の危険があると考えた方が無難です。
遺体と接触して感染症をうつされたとしても、指示を出したそのオペレーターが責任を取ってくれるわけじゃありません。自分の身は自分で守りましょう。
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