5 包括や保険者とのあれこれだよ!
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■ 支援の経過 ■
ウサマネさんは、ダーティさんの助言をもとに、改めてマウンテン地域包括支援センターへと赴き、『利用者がセルフネグレクトと思しき状況のため報告(通報)します』と告げました。
ちなみにウサマネさん的には『分かってるなら、はじめからダーティさんが担当すりゃいいじゃん!』とキレ気味でしたが……そうしてしまうと、話が終わってしまう(★※1)ので却下です。
マウンテン地域包括支援支援センターの担当者も、『面倒くさいな~』という空気感を出しつつも、プリンセス市高齢者虐待等防止対応マニュアル(★※2)に沿って、詳しい状況・状態などをウサマネさんから聞き取りましたとさ。
包括のミラ:「……それでは、ある程度の情報を頂きましたので、こちらも市の担当部署に繋いでおきます」
ウサマネ:「あ、は、はい。よろしくお願いします。え、ええと……そ、それで、どんな感じになりそうですかね?」
包括のミラ:「そうですねぇ。あんまり言っては駄目なんですけど……正直なところ、おそらくプリンセス市はセルフネグレクトでの虐待認定はしないと思います。他の事例でもそうだったんですが……結局、市が虐待認定をしたところで、本人の意思で医療や支援を拒否するような方であれば、包括としても、市としても、どうにも介入の手段がない(★※3)んですよねぇ……」
ウサマネ:「え、ええーッ!? 介入の手段がないって……保険者なのに!?」
包括のミラ:「いやいやウサマネさん。特にこのジョンさんは、痛みが強くて歩けないような状態で救急車すら拒否したんですよ? 我々だって、いかにプリンセス市や地域包括支援センターという看板があっても、当人が嫌だというのに、無理矢理どうこうするというわけにはいきませんよ……ふぅ……あはは、ははは……はぁ……」
ウサマネ:「あ、ミラさんの目からハイライトが消えた……い、色んな苦労がありそう……」
とにもかくにも、こうしてウサマネさんは地域包括支援センターに対して、本来の『虐待と思しき状況の通報』をすることができました。
ウサマネさん、よくできました(本当はできて当たり前)。
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ダーティ:「それで? 結局のところ、ミラさんの言っていたように『保険者による虐待認定』にはならなかったと?」
ウサマネ:「……ええ。プリンセス市からは、『関係者でジョンさんの支援について協議していく必要がある』みたいな、〝いや、言われんでも分かってんねん!〟っていうありがたいご意見が出たそうです……」
ダーティ:「はは。『出たそうです』ということは、包括のミラさん経由でプリンセス市の意向を聞かされただけというわけですね?」
ウサマネ:「え? あ、はい。ミラさんが連絡してきてそう言ってました」
ダーティ:「まぁこれはジョンさんの支援と直接関係のない余談ではあるんですが……私も担当ケースで何度か〝虐待と思しき状況の通報〟をしてことはあります。その中で知ったのですが、実はプリンセス市は、未だに『虐待疑いの連絡をしてきたケアマネ(義務通報者)に対して、どのように対応するか』というルールを定めていない(★※4)んですよ」
ウサマネ:「はい? ルールが決まってない? ええと……今回みたいに、包括の担当者が電話連絡してくる決まりとかじゃないんですか?」
ダーティ:「一番多いパターンはそれですけどね。実際に『虐待の事実認定』をしたケースにおいても、連絡してくるのが保険者の担当課の人だったり、地域包括の担当者だったりとバラバラでした。その上で『養護者と分離するために、○○ショートステイを××日から利用するようにして下さい』という感じで、担当部署の人が一方的にサービス調整を《《通達》》してきたケースもありましたよ」
ウサマネ:「え? でも……それは身体的虐待(暴力等)があるなら、当人と養護者を物理的に離すのは普通にアリなんじゃないんですか?」
ダーティ:「ええ、分離するという対応自体は分かります。ですが、私は〝そのケアプランを、なぜケアマネが作成しなくてはならないのか?〟という疑問があります。なにしろ、虐待認定のための協議(★※5)に担当ケアマネは参加しませんし、その経緯や協議内容についても、きちんと書面で提示されることもありません。さらに、ショートステイを利用するための事業所との契約についても、その養護者(家族)に署名してもらい、利用料金も養護者が支払うという図式のケースでしたからね」
ウサマネ:「え、えぇ……プリンセス市が『分離しろ!』って言ってるのに、契約とか料金の支払いはいつも通りなんですか……?」
ダーティ:「その通りです。私は一度、保険者相手に『電話での口頭だけではなく、いつ、誰の、どの行為によって虐待認定となり、福祉サービスの介入の必要性があるという協議の結果を書面で提示して欲しい』と依頼したこともあります」
ウサマネ:「……そ、それで、相手の返答はどうだったんです?」
ダーティ:「今思えば馬鹿馬鹿しい話ですが、『そのような報告をするための書面、様式がないのでできません。また、そのような相談を記録する様式もないので、こちらでは対処できかねます』という回答でした。つまり、保険者では想定されていない内容であり、そのための様式がないからケアマネに書面で報告などできないし、そのような問い合わせがあったことを記録する様式もないので、言われてもなにもできないそうです」
ウサマネ:「ええぇーー!? そ、そんなのアリなんですか!?」
ダーティ:「プリンセス市としてはアリなんでしょう(笑) まぁいちいち揉めるのも面倒なので普通にサービス担当者会議を行い、ショートステイを調整をしましたよ。で、その担当者会議の場で『虐待認定があり、分離のためにプリンセス市がショートステイを使えと言っている』と、養護者である息子さんにそのまま伝えたところ、息子さんがブチギレて私は担当変更になりました」
ウサマネ:「え、えぇぇ……そ、それはちょっとダーティさんがおとなげないような……ケアマネは自我を出すなとか言ってましたやん」
ダーティ:「まぁ確かに(笑) もっとやりようはあったとは思いますが……ケアマネのアセスメントの結果ではなく、プリンセス市の協議で事業所まで指定されたサービス調整でしたからね。私はただ、サービス担当者会議の開催理由と事業所選定の事情をあきらかにしただけですよ」
ウサマネ:「はぁ……(めっちゃ自我でてるやん) そ、それで、結局そのケースはどうなったんですか? 無事にショートステイの利用で分離に?」
ダーティ:「はい。結局のところ、諸々の対応をこちらに丸投げしてきた地域包括と、プリンセス市の担当課の方にツケを払ってもらう形になりました(笑) 養護者(家族)への説明を含め、都合のいいケアマネを探すのに苦労したそうですが、ショートステイの利用に繋がったそうです。流石にそこから先はどうなったのか分かりませんが……件の包括からは、それ以来、仕事の依頼がぱったりと無くなりましたね(笑)」
ウサマネ:「あ、あからさま……やっぱり地域包括支援センターといえど、中の人たちも人の子(★※6)なんですねぇ……」
ダーティ:「さて、ウサマネさん。脱線話はこのくらいにして……ジョンさんの件です。包括のミラさんからの連絡、先ほどの内容だけじゃないでしょう?」
ウサマネ:「え? あ、は、はい! そうですそうです! やっぱりダーティさんが言っていたように『個別のケア会議(★※7)を行いましょう』って、向こうから提案がありました!」
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★※ここらからは用語集。
★※1 話が終わってしまう
一応、「それいけ! ウサマネジャー!」というお話なので……ダーティさんが担当したら、ただの日常業務になっちゃいます。
★※2 プリンセス市高齢者虐待等防止対応マニュアル
プリンセス市に限らず、各市区町村でマニュアル化はしているかと思います。
厚生労働省の「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」というのが土台になっているかと。
★※3 介入の手段がない
セルフネグレクト(自己放任)の場合によく聞く言葉。
ここでは「介入の手段がない」と言っていますが、行政機関の担当者が口にする場合は「介入する《《権限》》がない」という意味になるかと。
あとは「責任を取れない」「不法行為にあたる」などとも言い換えられます。
つまるところ、本人の自由意思による支援の拒否、または権利侵害(自分自身を〝健康で文化的な最低限度の生活〟を下回る状況・状態へと追いやっている)については、他者が介入する権限がありません。※愚行権の行使だの、幸福追求の権利だのと言われたりもします。
仮に、この事例のジョンさんを無理矢理病院へ連れて行こうとした際、興奮しながら抵抗するジョンさんが急死したとしたら?
無理矢理病院へ連れて行こうとした支援関係者はどうなるでしょう?
もし、ジョンさんに配偶者や子供がいたら、親が存命で関係性が良好であれば……無理矢理病院へ連れて行こうとした支援関係者は訴えられてもおかしくはありません。
また、ジョンさんを故意に死なせようとしたわけではありませんが、支援関係者は状況によっては「業務上過失致死罪」となる可能性もあります。
まぁその前に、病院へ連れて行こうとした際、抵抗するジョンさんを引っ張ったり引き摺ったりしていれば、普通に高齢者虐待ですし、「暴行罪」や「傷害致傷罪」、下手をすれば「傷害致死罪」となる可能性だってあります。
『苦しむジョンさんを助けるためなら、自分は刑法や民法に反してもいい!』
という方がいるなら、無理矢理にでも病院へ連れて行けばよろしいかと。
★※4 ルールを定めていない
保険者も想定していない状況というのは多々あります。
虐待疑いの通報なんかにしても、プリンセス市では、市役所の担当課に直接電話しても『管轄の地域包括支援センターの担当者にご相談ください』となります。
いや、その程度は想定しとけよ(笑)
あと、この度のジョンさんのような「自分の意思で医療を拒否している人」について、セルフネグレクトの可能性があるとプリンセス市の担当課に連絡しても、『いえ、そう言われましても……自分の意思で拒否されている人のことを相談されても、こちらとしては何もできないです。申し訳ございませんが、この電話相談にしても、記録する様式などがないため、別の部署や地域包括への取り次ぎなどもできません』だってさ。
※このやり取り自体は令和7年時点のものなので、プリンセス市も、現在はなにかしらの対策をしているかも知れませんが……
★※5 虐待認定のための協議
「コアメンバー会議」と呼ばれているやつです。
①コアメンバー会議とは?
会議という名称を用いますが、会議形式(会議開催)のみを指すものではなく、『チームとして検討し、合議すること』を意味します。そのため、形式にとらわれず、高齢者支援課・地域包括支援センターなどにおいて、今後の対応についての検討をし、合議することをコアメンバー会議として位置付けています。
②コアメンバー会議開催の目的
情報の共有化、虐待有無の判断、緊急性・重大性の判断、当面の支援方針の決定(保護・分離等の決定、立入調査の決定を含む)、関係機関の役割分担の決定
主催 … プリンセス市担当課
参加者 … プリンセス市担当課、担当地域包括支援センター
プリンセス市の「高齢者虐待等対応マニュアル」から抜粋しています。
主催と参加者を見れば分かりますが、当然のように「担当ケアマネ」はこの会議には参加しません。参加しちゃいけないことになっています。
★※6 中の人たちも人の子
本当にこれ。これに尽きる(笑)
行政機関の担当者や委託事業の担当職員、サービス提供事業所の担当者にしても、それこそケアマネにしてもです。
介護・福祉業界というのは、どうあっても「人が人を支援する」という仕組みなので、個々の〝我〟というものが影響しないはずありません。
利用者・家族だけではなく、担当者個人の「好き・嫌い」「快・不快」というモノが最後の一押しになったり……
なので、あまり敵を作らないようにしましょう(笑)
★※7 個別のケア会議
いわゆる「地域ケア会議」というやつです。
●地域ケア会議は、高齢者個人に対する支援の充実と、それを支える社会基盤の整備とを同時に進めていく、地域包括ケアシステムの実現に向けた手法。具体的には、地域包括支援センター等が主催し、
① 医療、介護等の多職種が協働して高齢者の個別課題の解決を図るとともに、介護支援専門員の自立支援に資するケアマネジメントの実践力を高める。
② 個別ケースの課題分析等を積み重ねることにより、地域に共通した課題を明確化する。
③ 共有された地域課題の解決に必要な資源開発や地域づくり、さらには介護保険事業計画への反映などの政策形成につなげる。
というモノらしいです。
この度のジョンさんのケースについては……①の会議となります。
②と③については、正直なところ保険者によって熱量もやり方もまるで違ったりしますので……割愛しときます。
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