095 クララ、暴走する
クロエです!
友だちっていいですよね~
私も友だちを大事にしないといけないな~
クララ 「では、行って参ります」
アリシア先生 「待ってクララちゃん、私も付き添いでついて行くよ」
「大丈夫です。先生はクロエちゃんについていてください」
そう言うと、クララはさっさと去ってしまった。
私とおかあさんの居室は、朝の魔臓障害治療の部屋でもある。
朝食後に朝の検査があるのだが、クララは検査を待たずに、教育学部水コースの授業に行ってしまった……
アリシア先生 「大丈夫かな?」
おかあさん 「クララちゃん、ちょっと怒ってるんじゃないかしら……」
私 「ううん」
私はかぶりを振る。
「ちょっとなんてもんじゃないよ。あれは激おこだよ……」
理由は明白だ。
例の文化停滞仮説だ。
「努力する必要がない」……これは、クララにとってクリティカルポイントなのだ。
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そう……
クララはこれまでにないくらい怒っていた。
自分が積み上げてきたものを否定されたという意味では、両親を失った痛みとは別の場所で、クララの心を深く傷つけたのかもしれない。
クララは努力の人である。
幼くして両親の死を経験し、孤児院に身を移してなお、朝の講話を真面目に聞き、瞑想によるマナ習得訓練も真剣に行っていたし、クロエとの勉強という名目で神殿図書室を自由に使えるようになってからは、そこにある書物はすべて読破した。
魔法院でも、閲覧可能な書物はすべて目を通していた。
その上、水魔法の授業内容を先取りした上で、副コースとして所属している土魔法の授業にも出席するだけでなく、顕現していた風魔法についても、マリィやクロエの話を聞いて独習で授業内容を身につけていた。
また、クロエに触発され、属性魔法を杓子定規に受け入れる必要が必ずしもないことを理解すると、火魔法の訓練も採り入れていた。
バルディーニやクロエという規格外の魔法現象を発動する例があるため、自分の魔法に奢ることはなかったけれど、魔法力でも学力でも他の追随を許さない実力を身につけていたのだ。
まだまだという気持ちはもちろんあったが、その一方で自分のやってきた勉強や修練についてはそれなりのプライドも持っていたのだ。
それが、「創造性がない」「魔法を理解していない」「新しいことへ挑戦しない」と烙印を押され、挙げ句の果てには「努力する必要性もないから未来を切り開く力もないだろう」
そう、断罪されたのだ。
クロエはそのように言ったわけではないが、クララにはそう聞こえてしまったのだ。
クララは自覚していなかったが、その言葉を発したのがクロエであることも、大きな打撃となっていた。
心臓が苦しい。
頭がかあっとなる。
でも、その感情をむき出しにすることも躊躇われる。
そんな感情を持て余しながら、水コースの教室にたどり着いた。
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クララは、魔法院の卒業資格を持ち、来年度の入学が決まっている立場であったため、水コースの学生に準じる形で授業への参加が認められていた。
水コースにおいては、魔法院一年生のカリキュラムの構築について学んでいるところであった。
クロエも体験した、マナ値不足の解消方法についての授業だった。
「このように、神話を熟読し、瞑想を行うことがマナ値上昇の大事な行為となります」
水魔法の教師は、本来魔法院二年生であるクララがまさに対象となる年齢であったため、クララを指名した。
「クララさん、モデルテ市で実際にどのような指導があったか、教えてもらえますか」
教師は知りようもなかったが、「魔法を理解していない」「新しいことへ挑戦しない」の汚名返上を考えていたクララにとんでもない燃料を投下してしまったのだ。
「はい、
この問題は、魔法院一年生から二年生の段階で、マナ不足が顕在化している生徒への対策がテーマとなっています。
従って、神話講読や瞑想による通常の対処方法は、「マナ不足の本質を理解しようとしていない」方法と言わざるを得ないでしょう」
教師はむっとして、
「ではどうすれば良いと思うのですか?批判だけなら対処とは言えませんよ」
「風コースの教師、生徒と連携し、早急にトランスファーを受けさせる対処を取るべきです」
「む、たしかにそういったことができる場合もあるでしょうが、トランスファーは希な魔法です。一般的な対策とは言えないと思いますが」
「先生はモデルテ市魔法院での実際の指導方法についてご質問になられました。
ですので、これは事実に基づいたご回答です。
現在、モデルテでは、風コースでのトランスファー魔法の優先的な発語訓練と、全学年を縦断、全コースを横断したトランスファー支援体制が組まれ、生徒のマナ平均値が従来の数倍のレベルに達しています」
「……な、なるほど、それが事実なら、驚くべきことですね……」
「これは、私の個人的な意見であり、実際に行われている対策ではありませんが……」
そう前置きし、
「神話理解の授業を一限におくことは、授業の効率的な運用の面で問題があると思っています」
「ほ、ほう?
先人の創意工夫に問題があるとでも?」
「朝の段階では、通常生徒のマナは十分に足りた状態です。ここでマナを回復することは不可能です。
ですから、一限には魔法の発語練習を組み、マナの減少した段階つまり発語練習ができない時間帯に神話理解の授業を行うということが、カリキュラムに「創造性がある」ということではないかと思っています」
みな、クララの演説?にタジタジであった……
水魔法の教師は、とんだとばっちりを受けてしまったのだった。
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クララの挑発?は、同コースの学生達にも不評だった。
つまり、カチンときたのである。
水コースは女子が多い、というか全員女子だったので、さっそくクララを実力で「窘めておこう」ということに話がまとまった。
魔法実技の時間
他の学生は各地の魔法院で成績優秀だった卒業生であり、自分たちの魔法に自信を持っている。
一方、相手はたかが魔法院二年生に過ぎない。
実技練習場にて、
クララを連れてきた学生が言う。
「私たち、クララさんのご指摘なさった、創造性の不足について反省いたしましたの。
クララさんは、さぞかし創造性に満ちた魔法発現が可能なのでしょうね?」
「ぜひ、その成果をお見せ頂きたいですわ」
案内の学生以外は、すでに、詠唱を終え、水魔法の攻撃魔法を発動できる状態でクララを取り囲んでいる。
水魔法の教師も、なぜかこの状況を止めるそぶりが見られない。
クララはにっこり笑い、
「先輩方の攻撃魔法を体験できるなんて幸せです。
でも、この程度の状況に、創造性も何も、基本魔法のみで十分対応可能だと思いますよ」
「じゃあ、見せてもらおうじゃないの!」
学生達は一斉に攻撃魔法を発語した!
「アイスバレット!」「アイスランス!」「アイスジャベリン!」
クララはただ一言 「ウォーターシールド・ラウンド」
そう唱えただけ。
ズバ!ズバ!ジャバ!
すべての魔法は、クララの唱えた基本のシールドの前に形を失ってしまった!
それだけで、すべてのアイス系攻撃魔法を防いでしまったのだ。
教師 「無詠唱……」
「そんな……ばかな……」
「アイスの攻撃魔法が、単なるシールドに負けるなんて……」
クララはあくまで静かに話す。
「アイス魔法はその硬度のため、攻撃魔法に向いているとされています」
「でも、一番恐ろしい魔法は、意外と基本のウォーターボールだったりするのですよ……」
「な、なにを……」
「では、私の創造性について、評価頂けると幸いです」
そう言うと、クララは静かに発語した。
「ウォーター・ボール・マルチ」
すると、クララを取り囲んでいた数十名の学生の頭のとなりに、頭を覆うほどのウォーターボールが出現した!
「「「え…………」」」
学生達はウォーターボールの出現に言葉を失った。
教師 「な、なんで!一度に座標特定できるわけないのに!」
クララ 「みなさん、座標を30cmずらせば、甚大な効果を出現させることができるのは、ご理解頂けますよね」
と、にっこり笑って確認する。
「「「…………」」」
「創造性の問題は解決しましたか?」
「「「ごめんなさい、わかりました!」」」
クララはウォーターボールを解除したのだ。
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アリシア先生と私は、別れの挨拶に来たエリスに相談していた。
アリシア先生 「……ということがあったのよ」
エリス 「……わかった。今クララは?」
私 「たぶん、水魔法の教室で無双中」
エリス 「クララは努力する天才。おそらくその魔法の実力は王国一になると思う。
だけど、視野が狭い。そして、そのことを本人はわかっていない」
「ごめんね。私が原因だからクララに言いにくくて」
「私にまかせる。
ただ、文化停滞仮説の情報開示は私にも適用してもらう必要がある」
エリスは水魔法の教室へと向かった。
ちなみに私もついていった。
クララ 「今日は、形質変化魔法について、皆さんに伺います」
「では、アリス先輩、ホットウォーターとコールドウォーターの使い分けはどうやって行っていますか?」
「え、えーと、熱いお湯はホットで冷たい水はコールドで発語します」
「では、仮に今、ぐつぐつと煮えたぎっているお湯があるとします。
少し冷まして、例えばスープの温度にしたいときの形質変化はどのように発語しますか?」
「え?えーと?温かいスープだからホットウォーター?かな?」
「ありがとうございます。
実は、この温度変化の形質変化魔法は、発語に定説がありません。
従って、術者は一般的に相対的な温度変化のために、ホットとコールドを使い分けているのが実情です」
精密な温度変化のためには、現在の温度に対して上げる発語がホット、下げる魔法がコールドとして明確に定義し、その上で段階的な効果を発現するような補助発語を工夫すべきところです。
なお、先ほどの例では、相対温度を下げるので、コールドが正しい選択となります」
あ~あ、アリス先輩がショックを受けているぞ。
「一方、温度の絶対値を設定する発語も、私は試みられるべきと思います。
実際、私の恩師に当たる水魔法の先生は、ホットウォーター・スープという、スープに最適な温度を実現する形質変化魔法を開発しましたが、これは目標温度設定型の魔法となります」
「「「「はは~」」」」
いつのまにか、クララは先生になってたよ。
ツカツカとエリスが教壇に近づく。
クララ 「あら、エリスどうしたの?」
エリスは教師と先輩学生に向かい、
「クララの授業参加をお認めいただき、ありがとうございます。
この子は慣れない環境のために、少し情緒不安定になっているため、こちらで引き取ります。
ご迷惑をおかけし、大変申し訳ありませんでした」
そう頭を下げると、
「別に情緒不安定になんかなっていないわ」 と、不平を漏らすクララの耳を引っぱった。
「いたた、エリスったら何するの!」
「いいからこっちに来る!」
そう言って、クララを、アリシア先生と共有している自室まで引っぱって行った。
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エリス 「私も文化停滞仮説を教えてもらった」
クララ 「……そう、それで?」
明らかに不満そうだ。
「今まで漠然と考えてきたけど、私は行政の中から現状を変えていきたいと思う」
「え!
でもエリスは「風のみち」に就職するんじゃないの?」
「全部やる」
エリスは迷わず言った。
「全部やる」 と、繰り返した上で、
「ルーカスとの結婚も、風のみちの商売も」
「市庁にも就職したいし」、顔を赤らめて「子供も産みたい」
クララの目をまっすぐ見て、
「その上で行政の専門家を目指していきたいと思う」
「社会が停滞しているリスクがあるのなら、停滞させないために行政から変えていきたいと思う」
「クララは、仮説を聞いて何をすべきと思ったの?」
「私は、ただ」
「そう、感情的になって、周囲に当たり散らしただけ」
!!
「治癒院に就職するという目標では満足できなくなった。幼なじみと結婚するというのも違うと思うようになった。
でも、何をすべきかわからない。それにいらだっているように見える」
クララ 「……」
「悩むのは当然だけど、今のやり方はクララのやり方じゃない」
……
……
クララの目から涙が流れた。
「そうだね」
私もなんか言わないと!「文化停滞仮説なんてひどいよね!」
エリスはため息をついて、
「……自分でいろいろ言っておきながら……
クロエも、クララも、大きな力を持て余しているように私には見える。
いろいろなことにじっくり取り組めば良い」
「エリスには一本取られたよ」
「ふふん、これが大人の女というもの」
「同じ歳じゃないの~」
「精神年齢が違う。それに経験値も」 そう言って顔を赤らめた。
ん?なに? 「ま、まさか!」
「ふふん、おこちゃまはまだ勉強をしてなさいと言うこと」
「あーーー!」
クララ 「あははは!エリスには叶わないわ。
そうね、もっとゆっくり頑張ろうかな」
そう言って、涙を拭った。
エリス 「明日は水魔法の教室で謝ること。それで、いつもの謙虚なクララに戻ること」
ルーカス「帰りの馬車はクララもいないね~」
エリス「……」
「モデルテまで10日かかるよね」
「……」
「楽しみだね~」
ぽかぽかぽか「……」
「あははは!ごめんごめん」




