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チートなんてない!(連載)  作者: ayane_project
第二章

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92/99

092 停滞した世界?

クロエです。

法学部がエリートへの道って、いかにもって感じですよね~

私は理学部でこつこつやるのが良いですけどね~

魔法大学の機能は、漠然と魔法の研究だと思っていた。


でも、実際は官僚養成機関、教育者養成機関、研究機関となっているようだ。

しかも、研究機関としての役割は小さく、官僚への登竜門という意識のほうが高いのかもしれない。


食堂や、廊下ですれ違う人の会話を聞いている限り、そんな印象なのだ。

年末が近づいたからなのか、進路の話題が多くなったのかも。


なんだろう、つまり、法学部と教育学部と理学部(ここでは魔法学部)がある大学なのだ。

前世風に言えば法学部を出ればエリート街道。

教育学部を出れば、偉くはならないけれど教師という定職に就ける。

でも理学部(魔法学部)は、少ない補助金を研究室同士で奪い合う。

偉くなりにくいし、いつまでも大学には残れない。

特に、属性魔法には補助金が出るけど、基礎研究は補助金が出ないって感じなのかもしれない。


もともとの大学設立の趣旨としては、魔法技術の向上であったのだと思う。

だけど、定型発語が確立して以降(約200年前と言われている)は、本質的にはブレイクスルーが起こりにくくなってしまったようなのだ。




もやもやするな……

むかし、孤児院で目覚めたときにも感じたし、社会科見学の時にも感じたのと同じモヤモヤだ。


なぜ、貧富の差が広がって、階級社会にならないんだろう?(それを肯定するわけじゃないけど)

なぜ、社会が安定しているのに、科学技術が発展しないんだろう?

なぜ、人々はもっと豊かになりたいと思わないんだろう?


モデルテ市の人口では余剰人員を生み出せないからだと思っていたけど、王都ならもっと生産人口に余力があって、科学技術、人文研究、芸術の開花があって良さそうなのに。


目立った原因がないのに停滞している印象だよ。




大学内での魔素学研究に対する評価が低いことは、何となく感じられた。


先日もこんなことがあった。


ある日、廊下で見知らぬ男性が声をかけてきた。

「あれー? アリシアじゃないか!

どうしたの? こっちに戻ったの?」

なんか軽い感じだ。

アリシア先生 「げっ」

素早く立ち去ろうとする。

「なんだい、ずいぶんつれないじゃないか? 挨拶くらいしたらどうなんだい?」

そう言って、アリシア先生に近寄ってきた。


先生は嫌そうに、「魔法省に就職したんじゃないの?」

「そうだよ、今日は来年度の予算の件で大学と打ち合わせがあったのさ!

アリシアこそ、大学で何してるんだい?」

先生は会話を早く打ち切りたくてたまらないようだったので、私がフォローした。

「アリシア先生、研究室に遅れちゃいます。早く行かないと!」

そうしたらどこの研究室か聞かれたので、魔素学研究室だと言ったのだけれど………

その男性の反応が、「あの、役立たずの!」

という言葉だったのだ。

男性は、それを聞いて興味を失ったように 「あのアリシアが魔素学とはねぇ~」 と、馬鹿にしたような態度で去って行った。

そのあと、アリシア先生のフォローが大変だったよ。




またこんなこともあった。

「ピエトロさん、来年度の予算ですが、今年の予算から20%減で決まりましたので、よろしくお願いします」

事務の女性が突然研究室を訪れて、こう言い放ったのだ。

ピエトロさん、

「ちょっと待ってください!それではやっていけませんよ!」

「私に言われても困ります。それにあなたは研究費で旅行に行ってるじゃありませんか!

研究費の無駄遣いと言われても、仕方ないのではないですか?」

あげくに、成果が出ていないとか、お金の無駄だとか、学生がいないとか、言いたい放題だ。


そして、言いたいことだけ言うと、その女性は去って行った。


ピエトロ先生は、机の上の来年度予算額の決定通知書に目を落とした。

何か言おうとして、けれど言葉を飲み込んだ。

「……境界門の調査は、しなければいけないことなのです…………」


むっかー

「ピエトロ先生!」

「先生って、クロエさん。私は教師の資格は持っていませんよ?」

「いいえ!

私、ここでピエトロ先生に教わって、魔素学を研究したいです!

ですから、ピエトロ先生は、私の先生です!」

「ええ?」


「アリシア先生も、魔素学を一緒に学んでくれますよね?」

「もちろんそのつもりだけど、クロエちゃん、ちょっと落ち着こうか?」

「落ち着いてます!」

「聖女様から、私たちの研究費は保証していただいていますから、そのお金を事務局に請求しましょう」

アリシア先生 「クロエちゃん、どうどう」

聖女予算から研究費が出ることは、あまりおおっぴらにしない方がいいと、たしなめられたよ。


「それに、いつまでクロエちゃんがここにいられるか判らないし、通常の予算は予算として、ちゃんと獲得しないといけないわ」

むぅ、確かにそうだよね。


でも、基礎研究に目を背けている、魔法大学のあり方がおかしいのは確かなんだ。


________________________________________


「ピエトロ先生、空中の魔素量の測定は、全然開発の目処が立たないのですか?」

「ええ、まったくです」

「でも、二年前から、血中の魔素濃度を測る器具が使用されるようになりましたよね?」

「モデルテ市では二年前から使われているのですか?私は、いまだに実物を見たことがないのです」


「クロエちゃん、あの器具って、バルディーニ先生自らが開発されたんじゃないかしら?」

「……そういえば、測定のたびに測定上限値を上げてましたよね?

自分で作ったから、改造もできる訳か……」


バルが里とかいうところから帰ったら、聞いてみよう!




その日、夕方、自室に帰ったら、懐かしい友人に出会った。

「ただいま~ おかあさん」

わふっ

そこに、抱きついてきた人がいた。「クララ!」

「クロエちゃん……無事で本当に良かった……」

「クロエは自分のしでかしたことを自覚すべき」 エリスだ!

「エリス!元気にしてた?」

「ふぅ~」 やれやれと首を振られたよ?

「僕も来たよ」 ルーカスだ!

「やっほー」 こっちは安定の王子様スマイルだね!


クララ 「クロエちゃん!本当に心配したんだからね!」

「あはは、自分でもびっくりだよね」

アリシア先生 「聖女様は、よく生き延びたねって言ってたから、ほんとに危なかったんだよ」

……

それからは、これまでの経緯を三人に説明することになった。


一通りの説明が終わると、クララの説教タイムとなった。

「クロエちゃん!なぜ、夜中にこっそりトランスファーをかけたんですか?」

「え?いや~ 何となく?」

「嘘ですね。昼間にバルディーニ先生にお話ししたら、禁止されるとわかってたからでしょう!」

「……はい」

「そもそも、いつも言ってますよね、何かやる前に私かアンヌちゃんに相談してって!」

「……そういえば」 「そういえばじゃありません!」 言葉をかぶせて言った。

「はじめに注意したのはいつのことだったか、覚えてますか?」

「……いつだったっけ?」「最初に注意したのは、魔法選別の儀が終わったあとです!耳慣れない言葉を使う前に相談しなさいって言いました!」 と、また言葉をかぶせてきたよ!

「あ、あ~ そういえば?」

「ん、もう!今のお返事で、私の忠告を聞き流してたのがわかっちゃったんですからね!」


それから、えんえんとクララのお説教が続いたよ。

とほほ。




クララのお説教タイムが終わったあと、

おかあさん 「クララちゃんの大学入学手続は進めておいたわよ」

クララは、モデルテ魔法院の卒業資格と大学への推薦状を持っているので、来春から正式に入学となる。それまでは私と同じく留学生扱いになるらしい。

私とおかあさんで一室、アリシア先生で一室が与えられているので、クララはアリシア先生と一緒に暮らすことになった。


「授業はどうするの?」

「うん、両立できるのなら、魔法学部水属性研究室と魔素学研究室にいきたいの。教育学部水魔法コースで先生の資格も取りたいわ」

ミレーヌ先生を見ていたら、教師の資格も取りたくなったんだって!


私もミレーヌ先生のことは大好きだけど、教師としてのミレーヌ先生を見て? 目指したくなったの?


「クロエちゃんやバルディーニ先生のいない間、ミレーヌ先生は獅子奮迅の大活躍だったのよ!

普段はお茶目でおっとり、でもやるときにはやるって感じで、素晴らしいって思ったわ!」

「へえ~」

「あ、ミレーヌったらやってくれたのね!」 と、アリシア先生。

エリス 「ミレーヌ先生から、アリシア先生への手紙を預かっている」

「うあ! 恨み言の予感」

そう言ってアリシア先生は手紙を受け取った。


ルーカスとエリスは、クララを送るついでと、「風のみち」商会の代理としてやってきたんだって。

「「風のみち」王都支店長のジャコモと申します。よろしくお願いします」

「ルーカスの姉のアンジェリーヌです。魔法大学法学部を今年卒業して、王都支店に配属になりました。

ルーカスとエリスの婚約式以来ですね」

私とアリシア先生は挨拶した。

他の人々の顔合わせは既に済んでいたようで、クララのお説教の間、じっと待っていて頂いたようだ。

申し訳ありません。


おかあさん、私、アリシア先生は、事前に書簡で合意していた契約更新をその場で確認した。

改めて王都支店とも契約し、食材等について、こちらでもお世話になることになった。


ここは大事だよ!

なんてったって、おかあさんの日々の糧でもあるし、おかあさんの尊厳に繋がることだからね!

ジャコモさん 「長らく調査しておりましたコルク樫についてですが、王都郊外の農家にコルクの生産のノウハウがあるようです」

「ほんとですか!」

声が弾む。


これでスパークリングワインの生産が軌道に乗るよ。

アリシア先生を見た。 「やったね、クロエちゃん!」


こうして、王都での知り合いも増えてきた。




私のほうも、魔素測定器の開発の鍵を握ると思われるバルに聞いてみよう。


________________________________________


「理論上は可能だ」

「里」から帰ってきたバルはそう答えた。


……嫌な予感。

「しかし、血中の魔素の測定と、空気中の魔素の測定には大きな違いがある」


ごくっ

「血中の魔素測定は、マナ自体を測定しているわけではなく、マナが結合した血中の物質を測定しているからだ。


ヘモグロビンみたいな物質をさしているんだろうな……


「その血中物質でさえ、物質そのものを抽出しているわけではない。

マナを取り込んだ血液と、マナを取り込む前の血液の魔力の差異から、推定値として算出しているに過ぎない」

「しかし、空気中の魔素自体を取り込み、魔素を分離し、その濃度を測るとなると、魔素自体を捕捉し、抽出し、測定しなければならない。その方法がないということだ」


「ごく小さい物質を測定する器具が必要ということですか?」

「そうなるな」

「透過性の高いガラスを凸状や凹状に磨き上げ、それを筒状に組み合わせることで、微細な物質を見ることができるのではないですか?」


「…………」

「ルチア、新たな第一次情報開示請求を申請してもよいか?

…………対象は、クロエ・クララ・アリシア・ソフィ、開示請求の範囲は文化停滞仮説だ」

それを聞いたおかあさんとアリシア先生の顔がこわばった。

なんだろ?


ルチアさん 「それは無理じゃろう……」

「一応、試みてくれ」

「……わかった。

『風よ…………最高神ユグドラシルへ、文化停滞仮説に関する第一次情報開示を請求いたします!

対象:クロエ・クララ・アリシア・ソフィ!』


ゴゥーーーーン!


突如、空中にホログラムのような鐘が現れ、低く銅鑼のような音を奏でた!


それぞれの脳内に重々しい声が響き渡った。

『文化停滞仮説に関する第一次情報開示を却下する』


挿絵(By みてみん)


アリシアへ

こっちは、とっても、とっても、とーーっても大変だったの!

もう心労で痩せこけちゃって、身も心もボロボロになっちゃたの!

お肌もガサガサなの!

わかる?

これを癒やすためには、栄養のあるものを摂取しなきゃダメね。水魔法の権威である私が言うのだから絶対よ!

というわけで、今度あったらご馳走を要求するわ!

あと、スパークリングワイン一ダースね!

心労のミレーヌより

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