084 閑話・ミレーヌ先生頑張る
クララです。
クロエちゃんがしばらくご挨拶ができなくなりました。
クロエちゃん!どうしたの?大丈夫なの?答えてよ!
その日の深夜、ヴィクトールは突如バルディーニからの念話を受けた。
(………ヴィクトールよ、交信せよ)
「ん?」
境界門の詰め所でヴィクトールは起き上がった。
「何だ?」
(ヴィクトールよ、こちらはバルディーニだ)
「これは………お前の念話か?」
(そうだ、魔法で遠方から話している)
「………緊急事態が起こったのか?」
(手短に言う。現在クロエが危篤状態にあり、モデルテでは対処が困難であるため、これから王都の魔法大学へ搬送する)
「クロエはどんな容態なのだ?」
(………いや、わからない。それよりもだ。用件はクロエの世話のためアリシアを借りたいのだ)
「わかった。魔法大学に詳しいものが必要ということだな。
しかし、療養が長期にわたるようなら、魔法院の手続やアリシアの処遇を考えなければならんぞ?」
(感謝する。詳細は別途連絡する)
念話はそこで切れた。
「何が何だかさっぱり分からん」
ヴィクトールは口ではそう言ったが、すぐさま行動に出た。
彼は、すぐに身支度をすると、当直兵に境界門の警備から一時離れることを伝え、すぐさま馬上の人となった。
夜を徹してモデルテ市に戻ってはきたものの、バルディーニがどこから念話を行ったかも分からない。
まず、魔法院の女子寮に行ってみたが、寮母の話では、夕べクロエはソフィ宅に泊まったとのことだった。
そこに出勤してきたミレーヌがいたため、ミレーヌ共々ソフィ宅へと向かった。
戸をたたいても誰も出ない………
ドアに鍵がかかっていなかったため、二人で中に入らせてもらった。
誰もいない。
ふとテーブルを見ると一片の書き置きが目にとまった。
「隊長へ
バルディーニ先生から隊長の許可は頂いたと伺いました。
ソフィさんの家のことは隊長に、魔法院のことはミレーヌに託します。ミレーヌには隊長から伝言をお願いします。
アリシア」
『ミレーヌ、後は任せたよ!たまには本気を出しなさい!』
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「え~!
アリシアったら!無理言わないで!
バルディーニ先生とアリシアとクロエちゃんの代わりが、私にできるわけないじゃない!」
「しかしやるしかないだろう?」 と、ヴィクトール。
「はい………」
ミレーヌはしゅんとなった。
ミレーヌは、アリシアの書き付け通り、ソフィ宅のことはヴィクトールに任せて魔法院へと戻った。
(確かに。やるっきゃないか!)
ミレーヌは、魔法院の二年生全員と水コースの三年生、それに同僚のシャンタルを連れて治癒院へと向かった。
魔法院のことはパオロと他の教師に任せた。
治癒院は相変わらず敷地の外まで患者であふれている。
咳き込む声。
つらそうに泣く子どもをあやす母親。
壁にもたれたまま動けない老人。
(全然減っていないわ!しかもバルディーニ先生のサンクチュアリも消えてるから、このままじゃ、また感染が拡大しちゃうわ!)
「シャンタル先生!土魔法の生徒を指揮して、治癒院前の敷地に臨時の入院施設を作って下さい!」
「な!そんな無茶な!」
「大丈夫!二年生土魔法師は優秀ですから!(たぶん)困ったらクロード君を頼って下さい」
「クロード君頼んだよ!」
「はい!」
「入院施設の中には臨時の簡易ベッドも作るのよ!」
「~~~わかりました!」
(あとは………)
ミレーヌは主診察室へ向かった。
「アノック先生!大変です!」
「なんだい!こっちはもう十分大変だよ!」
「バルディーニ先生と、アリシアと、クロエちゃんがいなくなりました!」
「なんだって!
それじゃあ、これからはサンクチュアリもマナ譲渡もなしかい?」
「はい!」
「患者の数は減ってますか?」
「………いいや、あんた達のおかげで増加の勢いは減ったし、重症者も少ないが………高止まったままだよ………」
「………分かりました。対処療法ですが、ピュリファイとキュアで凌ぐしか方法がなさそうですね………」
「ああ」
ミレーヌは大樽を二つ用意させると、治癒魔法の能力が低い生徒にウォーターを発語させた。
「クララちゃん、エリスちゃん出番よ!ピュリファイとキュアをかけて大樽いっぱいの治癒水にして!」
「「はい」」
「火魔法の生徒!」
「「「はい!」」」
「あなたたちはできあがった治癒水を先生の指示で患者さんに渡すのよ!
コップを渡す子、一時間かけて飲むように患者さんに注意して!
コップの引き上げも頼むわよ!引き上げたコップは水魔法の子に渡して、ピュリファイとクリーンをかけてから次の治癒水を入れてもらってね!」
「「「はい!」」」
「アンヌちゃんは、入口にいるノエミを連れてきて!」
「はい!」
アンヌがノエミを連れてくると、
「ノエミちゃんは建設課のジュリエットと仲良くなったでしょ?」
「ええ、まあ」
「モデルテ市と私の危機だからジュリエットをここに引っ張ってきてちょうだい!秋の刈り入れ前だから、今ならジュリエットもこっちの手伝いには入れるわ」
「できるかなあ?」
「大丈夫、私の名前を出せば一発よ!」
(ミレーヌ先生、ジュリエットさんに何したの?)
「先生、アタシは?」 と、アンヌが聞く。
「アンヌちゃんには重大な役目があります。水道局のマテオさんに会って、マテオさんと非番の水魔法師をここに連れてきて欲しいの」
「はい」
「マテオさんは市庁の総務部水道局をまず探してみて。そこにいなかったら、下水処理施設か、給水塔にいるはずよ。なるべくたくさんの水魔法師を連れてくるのよ」
「アタシに交渉ごとを期待しないで下さい!」 アンヌは及び腰だ。
ミレーヌは耳を寄せた。
(マテオさんがぐずったら、こう言うのよ。『市の危機なのに、昔の女にそんな態度でいいと思ってるの?あんなことやこんなことが奥さんの耳に入ってもいいの?』)
「わかりました!」
(たしかに!こんな突っ込んだ話、アタシにしか、させられないよね!)
さらにミレーヌ。
「ルーカス、マリィ、アーサー!」
「「「はい!」」」
「あなたたちはクロエちゃんと一緒にいて、一年以上トランスファーを見てきたわね?」
三人は(まさか?)という顔だ。
「そう、トランスファーで水魔法の子にマナを分けてみなさい!」
「そんな無茶だよ!」 と、アーサー。
「やってみなきゃ分からないじゃない!案外できるかもよ?」
やってみたら、マリィとルーカスはできてしまった……といっても、クロエのオリジナルトランスファーではない、普通のトランスファーだ。
アーサー 「むちゃくちゃだな!」
ミレーヌ 「アーサーは火コースの生徒とともに治癒水配りよ!ルーカスとマリィはマナ切れでへばった子がいたらマナを分けてあげてね!頼んだわよ!」
………
………
程なくして、ジュリエットとノエミが帰ってきた。
「ミレーヌ先輩!助けに来ました!何をすればいいですか?」
ジュリエットはできる系女子だ。言葉に無駄がない。
「サンキュージュリエット!クララちゃんとエリスちゃんがウォーターで発語した水にピュリファイとキュアをかけているの。この付与魔法は誰でもできるわけじゃないけど、あなたならできるでしょ?」
「試したことはありませんが、二人から学んで対応します」
できる系女子はすぐさま対応した。
「付与術で治癒水を作るのね。あなたたちとても優秀じゃない」 と、クララとエリスを褒める。
程なくしてジュリエットもやり方を習得した。
(これで治癒水の供給もなんとかなるかしら?)少し安堵するミレーヌ。
そこへマテオとアンヌが帰ってきた。
「ミレーヌ、市の危機に対応してえらいね!」 と言った後、耳を寄せる。
(脅すなんてひどいじゃないか?それに僕には後ろ暗いところはないよ!)
(ふーん?)
(ん、ん、まあ、市の危機に対応するのは職員として当然さ!でも、教え子に変なことを吹き込むなよ!)
「マテオにはこの治癒院全体を覆うサンクチュアリをかけて欲しいのよ、頼める?」
「え?いや、それはさすがに無理だろ?それに僕は水魔法師だよ!」
(私の前でそんな戯れ言を言わないでちょうだい………そうね、あの夜のことは奥さんに話したの?)
(あの夜って何のことだよ!)
「あ~分かったよ!サンクチュアリをいくつかに分けて発語すればいいんだろう。じゃ、じゃあ、やってくるから、他の水魔法師のことは頼んだよ!」
「やっほー、ミレーヌ」「久しぶりね」「元気にしてた?」
水魔法師は女性に多い。そして、みんな魔法院の同窓だ。
「みんなが来れば百人力よ!頼むわね!」
………
………
一段落したところで、やっと情報共有となった。
アノック 「それで一体どうしたんだい?」
ミレーヌ 「詳しいことは全く分かりません。夕べ夜遅くに、バルディーニ先生からヴィクトール衛士長に念話による緊急連絡が入ったんです。それによると、クロエちゃんが危篤になって、モデルテ市では対処できないから王都の魔法大学に搬送することになったそうなんです」
アノック 「念話………?」
アンヌ 「クロエが………危篤?」
その場の空気が固まった。
クララは唇を押さえ、エリスは無言で拳を握り、マリィは大きく目を見開いた。
誰も、すぐには次の言葉を発することができない。
アノック 「何の病気なんだい?」
ミレーヌ 「バルディーニ先生からは『わからない』の一言しかなくて」
アノック 「そうかい………では、もう今いる人間でこっちはやるしかないねぇ………」
クララ 「あの………ソフィさんは、どうしたんでしょうか?」
ミレーヌ 「バルディーニ先生、アリシア、ソフィさんとクロエちゃんの4人で王都に行ったらしいのよ」
マリィ 「危篤なのに、馬車に揺られて大丈夫なのかしら?」
ミレーヌ 「それがね………現場にいたわけではないから確かなことではないのだけれど………転移魔法で移動したんじゃないかって」
一同 「「「転移魔法………」」」
そんな魔法は世に知られていない。絶句である。
………
………
初めは、仮設病棟に患者を収容するため、あたふたと動き回った。
患者の収容が落ち着いてくると、水魔法士達による治癒水の作成や巡回看護、他属性の生徒による治癒水の定期配布が整っていった。
そうこうするうちに、治療体制が整っていった。
それでも、患者は減らなかった。
ミレーヌは毎晩、声が枯れるまで指示を出した。指示するだけでなく、自分でも精力的に治療を行った。
夏の終わりには、仮設病棟に空きベッドが目立ち始めた。
猛威を振るった赤疹風邪も、収束に向かっていったのだった。
初動期におけるクロエの防疫トランスファーのおかげか、ミレーヌによる獅子奮迅の働きのおかげか、幸いなことに死者も20名程度に収まった。
ミレーヌ
「はは、なんとかやりきったわ………
アリシア~この超過勤務は高くつくと思いなさいよ~」 ミレーヌは唸る。
(そして、クロエちゃん、早く元気になってね。あなたのハンバーグがないと、私の人生がつまらなくなっちゃうよ……)
ミレーヌです。
私には、「頑張る」とか、「真面目」とか、優等生的なワードは似合わないと思うんですよ。
あと、「美味しいものが食べたい派」であって、「美味しいものを食べさせたい派」ではないんですね~
マテオはイケメンでも、その辺の理解がなかったんですよ~
え?だから結婚できないって?
そんなことない!「美味しいものを食べさせたい派」の男性だって、きっといるもの!




