081 マナを絞りきれるのか?
クロエです。
顕微鏡もワクチンもない世界で、ウィルスと伝染病のことをどうやって説明すればいいのでしょうか………
バルの魔法制限が解除されない………
もう、雨の季節も終わり、夏が訪れている。
夏といえば、体力のない赤ちゃんやお年寄りが体調を崩しやすい時期なんじゃないだろうか?
ここの夏は、ものすごく暑かったり、湿度が高いというわけではないけれど、前世のようにエアコンがあるわけでもないし、食糧事情とか住環境にも違いがある。
私はこのままでいいのだろうか?
確かに魔法院の生徒達の頑張りで、市の機能は格段に向上したらしい。治癒院の対応能力の向上も大きかったし、水害の発生もなかった。
でも、夏が終われば、農家では秋の収穫期で土魔法士の需要が最大になるし、冬が来れば病人が増加し水魔法士の需要が最大になる。
増税対策で市の人口は増えたのだろうか?
マスコミもないから、そういったニュースも庶民には全然伝わらないや。
魔法が使えないなら、瓦版業者とかやってもいいかも?
でも、やっぱり無理か~ 新聞を発行するには製紙業が発達しなきゃならないし、大量印刷技術もないし。
魔法で印刷とかできないのかな~
結局、この世界では、魔法ができないと何にもできないんだよね~
魔法選別の儀に合格できなかった人が農奴になっちゃうのも分かるな~
他に人材活用方法が思いつかないんだろうね。農奴になれば雇用主が人頭税を払ってくれるし、貧弱だけど衣食住も提供してくれる。村で会った農奴達も、その境遇に満足してはいないだろうけど、じゃあ村を離れてどうやって生きていけるのか?そんなの無理だろうって、思ってるんだろうね。
社会にもっと余裕があって、社会維持に直接寄与しなくてもいい職業の人、例えば科学者、文化人、芸術家なんかが活躍できないと文明は発達しないよね。
その意味では、マナ不足が社会のボトルネックになっているんだと思う。
やっぱり、私のマナを無駄にしちゃいけないんじゃないかな?
魔法院生徒の活躍も、その根本を辿れば私のマナにたどり着く。
私のマナの仕組みを調べて、私と同じような人が増えれば根本的に解決できるけど。
でも!
それまでは、私がマナ供給をしないと!
私の思考はぐるぐると同じところを回り続けるのだった。
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一年生へのマナ譲渡は続いている。
みんな、マナ基礎値の上昇と、それに伴って上達する魔法の発語訓練について、手応えを掴んでいるように見える。
しかし、その成果が見られないのがベルナールだ。
『二人の婚約に幸いあれ!ブレッシング【BLESSING】!』
「どう?」 私は二人に聞く。
ルナとベルナールへのブレッシングはこっそりやっているため、マナ基礎値の測定はできない。普通は期末試験の時だけだからだ。
なので、こうして体感をヒアリングするしか術がない。
ベルナール
「うーん、マナ値は上昇しているように思うんですが。
肝心のキュアやピュリファイの発語に苦労していまして」
アリシア先生にも水魔法の指導は難しいし………
アリシア先生
「クロエちゃんの方は、体調に問題ないの?」
「はい、まったく!
もうマナ譲渡の制限外してもいいと思いませんか?」
「いや~ それはバルディーニ先生にしか判断できないよ。先生曰く、クロエちゃんのマナの特殊性と魔臓障害への影響は、過去に全く症例がないって言うじゃない?」
ベルナール
「クロエさんのマナは特殊なんですか?」
「ええ、非常にマナ密度が高いというか………バルディーニ先生に言わせると、高エネルギーマナという独特の判断をしているわ。クロエちゃんを2年前から………ううん、もしかすると、クロエちゃんの意識がなかったそれ以前からずっと診察してきたから分かるんでしょうね」
私よりも、私の体のことを知ってるって……どういうことなんだろう?
「二年生は、理屈は知らなくても、みんな実感してるんじゃないの?」
ルナ
「私も、クロエ先輩のマナは、とっても心地いいと思います!」
昼食はアリシア先生と二人でとることが多い。
「クロエちゃんのマナ譲渡を受けて、あんなに魔法習得が遅い生徒は初めて見た気がするわ」 と、アリシア先生。
「そうですね。でも、すっごい堅物で頑固なんですよ!」 私は去年の水魔法の教室を思い出しながら言う。
「きっと、固定観念にとらわれているんですよ!」
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ベルナール家でのこと。
実は、エメリックはマナ基礎値の計測装置を個人的に入手していた。
まだ世に出て2年を経過したばかりの新装置であるため、高価でもあるし、入手経路も限られるが、エメリックであれば十分可能なことだ。ベルナールのマナ基礎値は、魔法院に頼らずとも計測可能なのである。
「今回の計測によれば、お前のマナ基礎値は150を超えた。これは一年生の年度末時点での値(65)に比べれば、2倍以上であり、当時の学年成績で6位に当たる」
ベルナールは、ほっと息をついた。
ただ、クロエとその周囲にいる女生徒5人には、まだかなわない順位でもあるのも事実だった。
エメリック
(ふん、クロエの取り巻き連中も、その後も大幅に伸ばしてるかもしれんがな………)
「このまま、前期末試験まで、クロエからマナ譲渡を受け続けるのだ」
「はい」
「前期末試験でお前のマナ値が公になれば、マナ譲渡の継続は理由付けが困難となる。それまでに、どれだけ基礎値を上げられるかが大切だ」
「はい」
「水魔法の発語はどうだ?」
「はい。順調です。構築系魔法は三次元まですべて習得し、形質変化魔法も高温系・低温系共に習得、治癒魔法、清浄系魔法も習得しました」
「よし。こちらもキュア、ピュリファイ共に習得できないフリを続けるのだ。発語訓練は家の練習室のみで実施せよ。本人が魔法を披露せず、また、口にしなければ誰にも分かるまい」
「あの………ミレーヌ先生から発語を指示された場合はどうすればいいでしょうか?」
「そうだな………裏技となるが、発語中に心の中で別の言葉を暗唱するのだ。雑念のため発語に失敗する状況を意図的に作り出せ」
「ははぁ……」
「通常、わざわざ魔法を失敗する奴はいないから、誰にも想像がつくまい。
だが、そのような手段もあるということだ」
(能ある鷹は爪を隠すということすら知らん奴が多いからな)
「あの、ルナから婚約をどう進めればいいか、しきりに聞かれるのですが」
「ふん、ほっておけといいたいところだが………
………ベルナール、お前の人間観察力や演技力が問われるが………それでも聞きたいか?」
「え! いいえ! そういうことならば聞かない方が安全な気がします」
「そうか、だが、いずれはお前もその点を鍛える必要があるぞ。
もっとも、計画が失敗に終わっては意味がない………とりあえず今は、お前のマナ値、魔法能力の向上を隠すこと。その結果、マナ値、魔法力が向上するまでは、実家から婚約は認められないという説明をすることが大事だ」
「はい」
「ルナ、クロエ、教師に疑念を抱かせないよう、殊勝な態度をとり続けるのだ」
「はい」
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お休みの日は飴作りを継続中だ。
最初は、焦げてしまったり、変に結晶化したりしていたが、大分安定してきた。
まず砂糖を用意する。これは「風のみち」商会から仕入れている。(エリス「ふふん」)
水はエリスかクララが魔法で発現するので、お鍋で混ぜ合わせる。
ここでアンヌの出番だ。
アンヌの協力は考えていなかったけど、テンパラチャーで沸騰させる必要があった。あれこれ料理を作ったり、煉瓦の焼成を担当したりしているうちに、いつの間にかアンヌはテンパラチャーが大得意になったのだ。
お鍋では大粒の泡が立ってくるが、攪拌などせずにじっと泡が均一になるのを待つ。やがて泡が小さめとなり、やや黄色みが出たところでクララの出番だ。
『水よ、主神ポセイドーンに信仰を捧げる、この飴を幾つもの型にはめ給え、ウォーター・ボール・モールド』
すると、小さな丸い飴の粒がたくさんできあがるので、アンヌがお鍋の温度を常温まで下げるのだ。
アイスで冷やしてもいいのだけど、そうはしない。なぜなら、ここからが単なる飴をのど飴とする工程だからだ。
ちなみに、この飴の制作工程は、さちの検索結果を基に異世界風にアレンジしたレシピである。
まず、エリスがピュリファイを、クララがキュアを飴達にかける。
その魔法が飴達に吸い込まれたのを見て、私がトランスファーをかけるのだ。
『飴ちゃん達よ、ピュリファイとキュアをその身に閉じ込め、マナと共に体に吸収される時を待ちなさい、のど飴[トランスファー]!』
あとは飴が冷めて、魔法が定着するのをおしゃべりしながら待つのである!
アンヌ 「ちびっ子が喜ぶだろ?」
クララ 「それはもう」
エリス 「一人一個に制限するのが大変」
私 「砂糖がネックなんだよね~ 飴を大きくすると高くなっちゃう。リンゴや葡萄を使ってフルーツ飴にしたら安くなるかな?」
おかあさん 「リナに食べさせてあげたかったわ………」
そうだね……
アンヌ 「フルーツ飴のところをもう少し詳しく」
私がおもにリンゴ飴の説明をすると、みんな興味を持ったようだ。
エリス 「秋になって、リンゴの収穫期になったら、リザの伝で西村から分けてもらえばいい」
砂糖消費量が減って、食べでも増えるし、西村にも少し貢献できる。そうすればリザも喜ぶし、みんなにとってもいいことかも。
私 「治癒院にずっと行けてないけど、のど飴の効果はどうなんだろ?」
エリス 「治療効果は高い、飴の制作が安定してきたことも大きいと思う」
最初はあんまり量が作れなかったからね。
「新種の風邪?」
クララが説明する。
「発熱や体のだるさ、喉が腫れるといった風邪の症状が出るのだけれど、しばらくすると熱が下がるのね。
それで治ったと思っていると、その後にものすごい高熱が出るの。そして体中に赤い湿疹が出るのよ」
エリス
「このときになって初めて治癒院に来る患者が多い。しかし、そのときには周囲に感染者が増えているとみられる」
「伝染病じゃない!」
(なんだろう?何の病気か分からないよ!)
「キュアは効くの?」
「ピュリファイとキュアで改善する」
(ウィルスにもキュアは有効なんだ)ひと安心だね。
クララ
「でも、感染力が強いし、患者さんも継続して治癒魔法をかけないといけないらしいの。
それでね、私たちの飴が有効なのよ」
「在庫は足りてるの?」
「今のところは。でも感染が拡大すると不足するかもしれないわ」
「水コースのみんなは大丈夫なの?」
エリス 「まだ流行は始まったばかりだから、はっきりとは分からない。でも感染した事実はない」
クララ 「治療はピュリファイとキュアが中心なんだけど………私としては、予防で最も効果が高いのは、クロエちゃんのマナじゃないかって思うの。
だから、この飴(ピュリファイ+キュア+クロエのマナ)をもっと作ったら役に立つと思うの」
その日は一日中飴作りに励むことになった。
休み明けにバルに交渉して、治癒院に行かせてもらおう。
クロエ 「ミレーヌ先生!私コーヒーが飲みたいです!」
ミレーヌ 「まあ!すばらしいわ!」
「え? コーヒーのこと、先生ご存じなんですか?」
「いいえ? でも、クロエちゃんのおすすめなら美味しいに違いないもの!」
「はあ………苦くても大丈夫ですかね………」
「えー! 苦いならいらなーい」
(コーヒーのこと、どう説明すればいいのかな?)




