073 あっちからも、こっちからも!
クロエです!
リーマンが脱サラして起業するって、ダメなパターンだと思うの。
4月月初のモデルテ市幹部会では、増税の影響に関する報告が行われていた。
アルデリック出納長
「皆さん、お手元の試算表をご覧願います。
先年の疫病対策で、市の繰越金は大幅に減少しておりましたが、その後3年にわたって毎年12.5%の税収減が続いたため、市の支払余力は極めて厳しい状況となっております。」
アルデリックは資料の税収減のところを指し示した。
人頭税2名の世帯(疫病の影響なし)80% 税収80.0%→80.0%
人頭税1名の世帯(疫病で片親死亡)15% 税収15.0%→07.5%
人頭税0名の世帯(疫病で両親死亡)05% 税収05.0%→00.0% 税収減12.5%
誰からともなくうめき声が上がる。
「そこで、やむを得ず今回の増税に至りました。その結果は、税収減が10.6%に緩和されましたが、なお厳しいと言わざるを得ません。
人頭税2名の世帯(疫病の影響なし)80% 税収80.0%
人頭税1名の世帯(疫病で片親死亡)15% 税収07.5%→09.4%(25%の増税)
人頭税0名の世帯(疫病で両親死亡)05% 税収00.0%→00.0%(50%増税としているが、支払余力のある世帯はほぼないと考えられるため予算上の税収は見込まない)
結果:税収減12.5%→10.6%」
エメリック総務長
「総務部では、片親世帯に対し、シェアハウス導入を提案していくことを検討しております。
シェアハウス増進によって空き家となったアパルトマンには、王都や他の市から移住者を募り、職業を斡旋することで人頭税対象者の補充を図ります」
「その際に発生するシェアハウスの改修費補助や、移住者募集費用には、先月末で雇用止めとなった人件費や、経費等の削減費を充て、予算総額を圧縮いたします」
市各部の長官は、数字で示された財政の厳しさに改めて戦慄した。
ヴィクトール
(あ~ それでソフィさんが割を食っちまったんだな)
フィルミン農業長
「魔法院の休業日に、新二年生の成績上位者と10日をかけて全農村を回ったんだが、春小麦のすべての耕作地にファーティライズをかけることができたんだ。今後の生育状態を見守る必要があるが、この秋にはかなりの収穫増を見込める可能性がある。
そうすれば農村からの税収は、かなりの金額が期待できるぞ!」
小麦は市にとっては贅沢品だが、王都への販売を通じて換金される作物である。農村での税収は、収穫量に応じた比率であるため、農村人口と関係なく税収増につながるのだ。
アルデリック
「それはありがたいですね。税収の上振れがあることは心に留めておきましょう」
ラファエル保健長
「冬の防疫対策も税収と大いに関係があるでしょう。
なにしろ、前回の疫病から3年がたつ。再び大流行となれば、市の人口がますます減ることが懸念されますよ。ここは、やはり予防が大切です。
土コースの生徒がそれほど優秀なら、同様に水コースの生徒にも治癒院へ派遣すべきです」
ジュリエット建設長
「水路補修も大事ですよ。
これから雪解けによるフィーネ河の増水と夏前の降雨量が増加する時期です。今、護岸工事や水路の補修を行わないと、フィーネ河の決壊や市内での浸水、冠水が懸念されます。そうなってしまえば、農業生産へ影響が出ますし、衛生状況が悪化し病人も増えてしまいます。
土コース、火コースの生徒の派遣もお願いします」
ジュリエットは、土コースの派遣は農業部の次に建設部と決まっていたことも強調した。
フェデリーコ市長は、ラファエルとジュリエットにパオロ副校長と交渉するよう指示を出した。
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幹部会の後で、エメリックは、フェデリーコとアルデリックに話を持ちかけた。
「増税の影響について説明します」
モデルテ市は、クロエの知識にある、前世の巨大都市ではない。行政組織も小さなもので、他の部局に含まれない業務はすべて総務部で取り扱っている。
市民への告知などの広報活動、苦情処理、あるいは情報収集活動等もエメリックの担当だ。
「…………
…………
このように、市民には大きな不満がたまっています。増税などは長い間未経験だったからです」
フェデリーコ
「そうだね……不満が暴発しないためにはどうすればいいと思う?」
「正直に申しまして、増税期間を区切り、市民に一時的なものだと思わせることが最も効果が高いですね」
アルデリック
「先ほどの資料にもあったが、かなり困難です。
従来であれば、増税を回避する手法としては、手持ちの農奴を王都に売りつけることで税収を補っていましたが、今回は農奴も減りすぎていて、売り払ってしまえば農業生産にしわ寄せが来るでしょう」
フェデリーコは、しばらく机を指で叩いていた。
「そうなれば結局税収は減るか…………」
エメリック
「やはり、魔法力の底上げが根本対策ではないでしょうか」
フェデリーコ
「しかし、バルディーニという王都からきた助祭、あの異質なオーラをみただろう?
クロエという少女に手を出すことは危険なのではないか?」
エメリック
「そうですな…………思うに、現地説明会で少女の目に市の窮状を触れさせれば良いのではないでしょうか。
自発的に行動する分には、本人の問題となるのではないでしょうか」
アルデリックは娘の言葉を思い出し、その場では何も言わなかった。
(エリス 「そう。魔法がなくても、マナと知識が膨大。しかも本人は友好的な人間にしかその力を発揮できない」)
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魔法院では、3限が終わると早速パオロ副校長、ミレーヌとラファエル保健長の会談がもたれた。
ラファエル
「パオロ先生のご協力で、今年の農業生産力は大いに期待が持てるそうですよ。
市庁一同皆感謝しております」
「いやいや」
「ついては、水コースの生徒さんにも治癒院での現場実習をお願いしたく、こちらに伺いました」
「確かに、確かに」
ミレーヌ 「え?でも現場実習は三年生から始めるので、二年生は来月からというお話では?」
ラファエルは午前中の会議での税収不足・増税と、流行病予防との関係を説明した。
「治癒院としては待ったなしの状況なのです。
どうかよろしくお願いします」
そう頭を下げられてしまった。
事情を聞けば、パオロもミレーヌも反対はできない。
ヒール・キュア・クリーン・ピュリファイなど、治癒院で必須とされる魔法が可能な生徒と、それ以外の生徒に分け、成績上位者を治癒院に派遣することを約束するしかなかった。
ラファエル
「最後にもうひとつだけお願いがあります。
クロエというトランスファーに長けた生徒も一緒に派遣して頂きたい。土コースの農家支援では、この生徒の存在が大きかったと聞き及んでおりますので」
ミレーヌは、その点も検討すると答えざるを得なかった。
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ミレーヌ先生から依頼を受けた私は、バルに相談に行った。
バル
ちょっとためらう様子が見えたけれど、
「ふむ。
初日に課題を与えたとおり、防御魔法についても、浮遊魔法についても、お前は独自に開発する必要がある。
それは他の生徒と異なり、確立された魔法を習得するというアプローチではなく、いわば新魔法の研究に等しい」
「従って、己が裁量で時間配分を決めても原則問題はない」
やた!
「ただし、週初、週末のレポートが水準に達していないと判断した場合は、水魔法の現地実習同行を禁止する」
「ハイ!!」
翌日はシャンタル先生からも依頼を受けたので、また、バルにお願いに行った。
かなり迷ったようだった。
珍しく、すぐには返事をしない。
「条件は同じだ…………
自らの魔法研究に支障がないならばかまわない。
…………
…………
それと…………自らの健康管理をしっかりすることが条件だ」
「ハイ!!」
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その次の日は、放課後におかあさん、アリシア先生と「優雅な家」商会へ。
「優雅な家」の支配人ジェロームとオリヴィア(クロードの母)。
「ようこそソフィさん、クロエさん。今日は契約日和ですね」
二人はマリィとクロードからクロエの重要性、そしてクロエにとってのソフィの重要性を十分に理解していた。
契約内容は以下の通り。
・ドレスの意匠提供契約
・お化粧商品の研究開発委託契約
・それに伴う秘密保持契約
提示された金額は、ソフィにとって思わぬ高額であった。
ソフィ
「これではもらいすぎです!
まだ稼ぐことができるか、海のものとも山のものとも知れないのに」
オリヴィア
「必ずヒットするわ。そこは心配いらないですよ」
私
「あの~ ドレスの型紙ってどれくらいの量を供給されようと考えていますか?」
オリヴィア
「そうね~ 当面は月1着かしら?やがては王都での販売も考えているので、最初は希少性が大事だからね」
「意匠のパテントは定額でお譲りする代わりに、おかあさんと、直接管理委託契約を定額で締結して欲しいのです」
市庁でもらってたのと同じくらいの固定報酬をこちらから提示させてもらった。
ソフィ 「クロエちゃん、それどういう意味?」
「パテントを販売額と連動させると、固定収入が入らないからだよ」
私はおかあさんの解雇の事情を話した。
おかあさんは恥ずかしがっていたが、ここは大事なところだよ。
ジェローム
「それだと、おそらく総額では損をしてしまうよ?
こちらはパテントは率のまま、ソフィさんと固定報酬締結でもかまわないのだがね」
おかあさん
「クロエちゃん、それはだめよ!」
「大丈夫。
ジェロームさん、ご提案はありがたいのですが、最初はプロジェクトを慎重に進めて頂きたいのです。契約は王都販売に拡大する際に見直せばいいのではないでしょうか」
ここは私のわがままを通させてもらった。
帰り道
「もう!クロエちゃんたら、勝手に決めちゃって!」
おかあさんは怒ってるけど、
「おかあさんは今まで市庁舎で一定のお給料をもらって生活してきたでしょ?たぶん商人のようにやっていくより、固定収入で生活した方が気が楽だと思うよ?」
おかあさんも、脱サラして商売を始めることの不安は感じてたと思う。表面は怒って見せたけど……安心したよね?
契約は、
・「優雅な家」と私(おかあさん代理人)のドレス意匠・パテント契約
・「優雅な家」と私(おかあさん代理人)の美容商品・美容魔法に関する研究開発契約
・「優雅な家」と私(おかあさん代理人)のドレス意匠・美容商品・美容魔法に関する秘密保持契約
・「優雅な家」とおかあさんの管理委託契約
という形にまとまった。
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そして、また別の日。
今度はおかあさん、アリシア先生と「ラ・ターブル・ドール」へ。
そこで「風のみち」の支配人フォースタンさん(ルーカスの父親)とテオドールさん(ルーカスの兄)と落ち合う。
契約は、「優雅な家」を参考に提案をしてみた。
フォースタンさん、
「「ラ・ターブル・ドール」との新作レシピ・パテント契約は、「風のみち」とも契約して頂きたいのですが」
支配人
「いや、そうすると他店でも同じ料理が出されてしまって、うちにうまみがなくなってしまう」
「では、「風のみち」からのレシピ提供は、モデルテ市以外でのみ可能としてはいかが?」
「う、う~ん」
「その代わりパテント費用の30%はうちが支払いますよ」
「う、では、スパークリングワインが商品化された場合は、うちに優先的に卸して頂くことを追加願いたい」
ということで、
・「ラ・ターブル・ドール」と私(おかあさん代理人)の食品卸契約
・「ラ・ターブル・ドール」(モデルテ市)、「優雅な家」(市外のみ有効)と私(おかあさん代理人)の新作レシピ・パテント契約(スパークリングワインの優先卸し特約付き)
・「風のみち」とアリシア先生のスパークリングワイン保存に関する研究開発契約
・「ラ・ターブル・ドール」、「風のみち」、アリシア先生、私(おかあさん代理人)の新作レシピ・スパークリングワインに関する秘密保持契約
・「ラ・ターブル・ドール」、「風のみち」とおかあさんの管理委託契約
にまとまった。
おかあさんは、またもやもらいすぎだと言ったけど、みんなから説得されてしまった。
でも、「優雅な家」の金額に対して半額ずつにすることは、どうしても引かなかった。
交渉の後、
「お仕事を解雇されたのに、翌週にはお給料が倍になっちゃったわ…………」
……世の中、分からないよね!
作者「ソフィさんに商売は無理かぁ」
クロエ「違うよ!商人型のライフプランに慣れてないの!作者さん、おかあさんのこと分かってないな~」
「え、私がキャラクターシートを作ったのに?」
「キャラは生きているんだよ!生み出したのは作者さんでも、おかあさんはもう一人の人間なんだよ~」




