072 二年生開始――変わる授業
クロエです!
わたしも魔法院生になりました!
やったね!
魔法院の二学年が始まった。
私も、晴れて魔法院生になった。
朝、アリシア先生、さち、そしてアンヌかクララと一緒にさちを孤児院に送り届ける。
それから寮に戻って朝食を食べる。
そして授業開始である。
魔法院生になったとは言っても、聴講生の時とそれほど変わったところがあるわけでもない。
ただ授業自体は、一限が従来の属性魔法を学ぶ授業で、二限は本来三年で学ぶはずだった専門発語の時間となった。
マナ増強のための神話授業は、私たちの学年では取りやめとなった。
マナ基礎値の伸びが従来の学年とかけ離れたからだね。
一限の従来プログラムでは、まず防御魔法の練習となる。
防御魔法の基本は、魔法師の前面にウォール系の属性現象を構築することから始まる。
このため、それまでの構築系魔法でエリアまで進んでいる必要がある。
つまり、平面上に属性発現ができるなら、それを縦に展開することもできるよね!ってことだ。
この次が難しい。
ただ単に各属性の壁を生み出すだけじゃなく、その壁が相手からの物理攻撃や魔法攻撃を無効化する必要があるのだ。
この防御性能付与は、当然ながら属性ごとに異なる。
火:
物理攻撃:貫通力大→効果小、貫通力小→効果中。
魔法攻撃:水→相殺、風→効果大、土→効果小。
水:
物理攻撃:貫通力大→効果中、貫通力小→効果大。
魔法攻撃:火→相殺、風→効果大、土→効果中。
土:
物理攻撃:貫通力大→効果大、貫通力小→効果大。
魔法攻撃:火→効果大、水→効果中、風→効果大。
風:
物理攻撃:貫通力大→効果中、貫通力小→効果大。
魔法攻撃:火→効果中、水→効果小、土→効果小。
大体こんな感じ。
細かい相性はあるけど、実際は魔力差で結果が変わる。
それに魔法師がダブルスペラーだったりすれば、土魔法で防御し、水魔法で攻撃するとかもできてしまう。
期末試験の構築系では、1分あたり、みんな5回発語できていた。
例外はベルナールの4回と私の0回。
みんな防御属性なしのウォールを構築するところから始めるわけだけど……
『風よ、主神アルテミスに信仰を捧げる。清浄の風にて我を守り給え、ウィンド・ウォール』
ルーカス、マリィ、アーサー共に一発で構築したよ。
みんなすごいな~
こういうときに焦りを感じるんだよね。
バル
「構築自体はエリアの応用である。
エリアを発語可能である3名がウォールを構築できることは、自明の理である」
「この魔法においては、魔力宣言において『我を守り給え』と発語することによって、単なる構築ではなく、構築されたウォールに防御機能を発現できたかどうかが問われる」
「まず物理防御の性能確認を行う。
アーサーは、ウィンド・ウォールを発語せよ。
クロエは、この木切れをアーサーのウィンド・ウォールに投げてみよ」
アーサーのウォールは、ある時は上へ、ある時は下へ木切れを吹き飛ばしたが、最後はアーサーに向かって加速し、追突した。
アーサー 「いててて!」
バル
「風の壁が構築できてはいるが、壁において風がランダムに吹き荒れているに過ぎず、防御性能が発現できているとは言いがたい」
「これでは味方や自分自身を傷つけることになる。
練習せよ」
ルーカスとマリィは壁に触れる木切れをはたき落とすことができた。
「一応防御はできているが、これでは相手からの攻撃を止めることができず、最終的には押し切られるであろう。
木切れを反転させ、敵対者に反撃するよう練習せよ」
「防御魔法は最終的に短縮詠唱を必要とする。修練せよ」
確かに!
のんびり発語している暇はないもんね!
一応私も発語してみろと言われた。
『風よ、主神アルテミスに信仰を捧げる。清浄の風にて我を守り給え、ウィンド・ウォール』
…………
…………
(やっぱり、だめか)
「ふむ。
予想通りだな」
そんなの分かってるもん!
「クロエは私について小教室に移動しなさい。
他の3名は注意されたことを念頭に自習すること」
「「「はい」」」
小教室に入ると、
「ここから先はアプリオリ基盤、いわゆる信仰基盤に関わる話となる」
バルは小さな木製の盾を取り出した。
「この盾を強化する魔法を想像し、発語して見せよ。
発語は自由でかまわない」
自由でいいのか、じゃあ、
「盾よ、防御力を増やせ」
(とりゃー)と適当に発語してみる。
何も起こらない…………当然か。
バルは軽くため息をつくと、
「そうではない。
これまでお前はマナを譲渡する際に、譲渡対象の人間にマナの影響を与えてきた。
特に最近ではオリジナル・スリープのように、マナの影響をコントロールすることに成功している」
「アリシア先生によれば、休暇中には、人間だけでなく動物や土壌にも同様の影響を与えたと聞いている。
それから推測すれば、盾の防御機能を強化することも可能なのではないか」
あ~ そういうことね!
「では、もう一度やってみます。
『盾よ、マナの力を受け、鋼のごとくなれ、トランスファー』
すると、私の白いマナが盾に吸い込まれ一瞬光った。
バルは頷くと、用意してあった鉄の剣で、盾に斬りかかった。
キン!
金属と金属がぶつかる鋭い音が鳴った。
盾を見ると傷ついた様子はない。
「お……?」 と私
バルは頷くと、「つまり、マナを付与する対象があれば、防御魔法と同様の効果を発現することはできるわけだ」
うーーーん
「でも先生、何もないところを強化することは不可能です」
「空気中が果たして何もないと言えるのか、実はお前には別の考えがあるのではないか」
前世知識の話は特に秘密にしているわけじゃない。
バルにも分かっちゃうか。
「はい。
色々な気体のつぶ――分子と呼んでいますが――があると思っています」
「では、その分子を強化するようマナを譲渡すれば良いのではないか?」
「いえ、分子は動きが激しく、拡散してしまってまとまりがないので、ある一定範囲の分子を防御のために捉えることは難しいです」
ぱーっと、ばらばらに飛んでいっちゃうんだよ!
「そうか………
お前は、まずこの点を突き詰めて考えよ。
お前の防御魔法の練習は、これを見極めることから始める。
実践練習よりも思考の整理が中心となるため、毎週週初にレポートを提出すること。
また、アプリオリ基盤に関わるため、アリシア・ミレーヌ両先生および承諾書を提出した生徒以外には内容を開示してはならない」
「わかりました」
毎週レポートか~
面倒ではあるけど、自分の身を守るためだし、がんばるか!
それにしても、バルがどこまで理解してるか、謎なんだよね~
分子とか気体とか話しても顔色ひとつ変えないし。
アリシア先生に話した時とえらい違いだよ!
前世の物理や化学も分かってたりして! ははは!
二限は、専門魔法(従来の三年生用プログラム)である。
バル
「風魔法は、単独では威力不足であったり、効果が弱い発語が多い。
しかし、お前たちも現地説明会でみたとおり、他の属性と組み合わせて用いる範囲は大きい」
「今日は、風魔法の中でも単独で用いられ、応用力が高いフロートの練習を行う」
『風よ、主神アルテミスに信仰を捧げる、万物をマナの命ずるままに浮き上がらせ給え、フロート』
アーサーとルーカスはすぐに発語できるようになった。
初回の風魔法で、ルーカスのお兄さん(テオドールさん)が馬車にかけていたイメージ ー それが印象に残っていたんだね!
マリィも続いて発語に成功したよ。
「この魔法は、実際に対象物にかけた方がよい。
魔法院所属の馬車に対して発語を試みる。
皆、中庭に移動しなさい」
私たちは馬車に乗り込んだ。
御者席にバルが乗り込む。
「まず、何も発語しない状況を体験せよ」
そう言って、中庭を一周した後、ルーカスにフロートを発語させた。
…………
ぱかぱか
お馬さんが馬車を引く。
ぱかぱか
アーサー 「何にも変わってねえぞ?」
ルーカス 『フロート・ハイ!』
ガタ! 「わわっ」「きゃっ」
馬車の後ろ側が突然浮いた!
バルが馬車を止める。
「馬車全体に均一な発語がされていない。また、適切な強度で発語できていない」
「……はい」
おー、ルーカスでもうまくいかないことがあるんだ!
アーサー、マリィと順番にやったが、フロートを発語はできても実用の段階には届かないようだった。
「クロエ、一限の理論からすれば、フロートは発語可能である可能性が高い。
独自の発語で試みよ」
バルは、自分を含め、全員を馬車から降ろし、空の馬車に対して発語するように指示した。
?
なんでだろ?
ま、いっか!
うーん
(風力で車体が浮くわけないよね!となれば、やっぱりあれか!)
『お馬さんと馬車よ、マナの力を受け、あなたたちの質量は重力に反発することが可能となる、アンチ・グラビティ【ANTIGRAVITY】』
ぶひひひーーーん!?
そこには空中30cmほどに浮くお馬さんと馬車があった。
(わわっ、お馬さんがびっくりしてる!)
お馬さんは、びっくりして、空中で足をバタバタしてる!
「ご、ごめん!
『お馬さんと馬車よ、もうおしまいだから、ゆっくり着地して!アンチ・グラビティおしまい!』]
するとお馬さんと馬車はゆっくり地面に着地することができた!
「はー 良かった~」
振り向くと、バルは目を閉じて深いため息をついていたよ!
「まず、発語としては成功としよう。
しかし、今回の目的として、馬も空中に浮上してしまえば、地面に力を伝えられず、馬車を動かすことができないのではないか?」
あ、なるほど!
「次に発語の効果を考えれば、その強度によっては遙か上空に浮き上がる危険性はないのか?」
全くもってその通りですね……
「クロエは、グラビティ以外に、安全係数の高い発語も平行して考えよ。
また、強度を自在に扱えるよう修練せよ」
「最後に、魔法効果を中断する発語だが、先ほどの発語は再現性が低いと思われる」
にやり。
あ、やな予感!
「中止発語はまだカリキュラムでは出てこないが、お前の場合中止発語もオリジナルスペルとなる可能性が高い。これの改善も含めて毎週週末にレポートを提出すること」
とほほ。
後ろの三人は固まったままだったが……
アーサー 「空に浮いてたぞ!」
マリィ 「さすがクロエね!とっても面白いわ!」
ルーカス 「はははは……先生はさすがだね。みんなが乗ったままでは何が起きるか危なかった訳か」
という反応だった。
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お昼のキラキラ会
「…………ということがあったのよ!」
はい、マリィさんありがとうございます…………
…………
…………
「あれ?みんな……反応が薄いよ?」 と、訝るマリィ。
アンヌ 「まあ、いまさらだな!」
エリス 「もっと変なことをしないとつっこめない」
クロード 「馬車の運転か~実践的だね」
クララ 「さすがはバルディーニ先生ね。授業内容が理論的かつ実践的で、風コースの一人一人に別の課題を与えられていて、素晴らしいわ」
私 「他のコースは違うの?」
アンヌ 「火コースは一限はウォール、2限はできる奴はテンパラチャー、できない奴はエリアとかキューブで練度上げって感じだな」
クロード 「土コースは、一限はウォール、2限はファーティライズの発語を求められました。農家出身が多いので、ファーティライズは生徒にとっても習得したい魔法ですからね」
クララ 「水コースは、一限は皆一斉にウォールの発語訓練を繰り返すばかりだったし、二限は皆一斉にホットウォーターとコールドウォーターの練習だったわ」
エリス 「ミレーヌ先生は食欲ばかりでなく、もう少し教育内容を考えるべき」
マリィ 「でも、風コースのプレッシャーはすごいよ……」 ぶるっと肩をふるわす。
エリス 「だけど、水コースは頑張らないと市庁からの圧力を受けることになる」
エリスの懸念も当然だった。
その日の午後には、パオロ先生のところに、農村訪問の成果を聞いたラファエル保健長が水コースのカリキュラムに関して質問に来ていたのだ。
クロエ「魔法院のお馬さんにもマナをあげようかな?そうしたら、村に一緒に行った子達みたいに仲良くなれるかも」
アンヌ「やめとけ」
クロエ「なんでよ~」
アンヌ「いいからやめとけ。トラブルの匂いがする」
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