071 聖域なき改革?
増税か~
異世界ファンタジーのくせに、世知辛すぎるよ!
「おかあさん、ただいま!」
「クロエちゃん、お帰りなさい。元気だった?」
「うん、とても面白かったし、ためになったよ!」
「お邪魔します」 クララ
「……」 ぺこり、とさちが頭を下げた。
自宅が市内にある人は自宅へ(アンヌとテオも)、ロラとリザは寮へ(実家には旅の途中で寄ってきたし)、私とクララは、さちを孤児院から連れておかあさんのうちへ帰ってきた。
うちに帰るか~ いいね!
おかあさん 「農村巡りはどうだった?」
私は、おかあさんと晩ご飯を作りながら、一緒にごはんを食べながら、そして食後もずっとお話をした。
クララは、あちこち補足をしてくれた。
クララ 「そういえば広場で税金の告知をみました。
私も何かする必要があるんでしょうか?」
おかあさんの顔が渋くなる。
「そうね。人頭税は一人あたり一律の課税だったのだけど、それだと、一家4人でひとつのアパルトマンに暮らす人と私やクララちゃんのおうちでは、アパルトマンの利用に不公平感があるということらしいの。
それで、うちのように、一戸あたり大人(納税者)が一人の場合は1.25%にアップ、クララちゃんのうちのように、一戸あたり大人(納税者)が不在の場合には1.50%にアップということなのよ」
「そんな!」 と、クララ。
「市としては、部屋にゆとりのある家は、贅沢税を払いなさいってことじゃないかしら」
「贅沢なんてしているつもりはありません。
そんなことされたら、お父さんとお母さんとの思い出のうちを、引き払わなければならなくなる」
「それが狙いなんでしょうね。
そして良好な空き家物件を増やして、新たな納税者を獲得するつもりなんじゃないかしら」
私 「でも、農村に行ったらどこも人手不足だったよ?
そんなに人、入ってくるのかな?」
「モデルテ市ではいないでしょうね……
でも、モデルテ市以外では3年前の流行病の影響があったか分からないわ。
王都や他の都市に職業斡旋と住居の提供を知らせれば、モデルテ市に移住する人はいるんじゃないかしら……」
クララは黙ってしまった。
うーん、これって逆累進課税じゃないの?
所得が低い人ほど税金が高くなっちゃうじゃない。
口に出ていたみたい。
クララ 「逆累進課税って何?」
さち、お願い
「【逆累進課税】とは、
所得が低い人ほど税負担の割合が大きくなる仕組みのこと……低所得者の生活を圧迫し、消費を抑制させることで経済活動の縮小や格差拡大につながる可能性がある。また、社会保障や税制の公平性の観点からも重要な課題とされている」
「今までも、だれもが一人あたり同じ税金を払ってたから、貧しい人ほど税金負担が重かったのに、それがますますひどくなっちゃわないかな、って思って」
おかあさん
「子供に人頭税はかからないのよ」
「じゃあ、おかあさんは私の分で困ったりしないの」
「そもそも、まだ代理人だからクロエちゃんに税金がかかったとしても、税金は神殿負担なのよ。
クロエちゃんが魔法院を卒業すれば、クロエちゃん自身が人頭税を支払うの」
「だから私の場合は、1戸あたり大人一人で、25%アップね」
「あれ?でもクララは?
子供だから税金はただなんじゃないの?」
「クララちゃんの場合は、アパルトマンの持ち主になっているため、人頭税がかかるのよ。
しかも、大人が不在として、50%アップになるようね……」
クララ 「ひどい……」
「要は、独り身のものや、私のような寡婦を、アパルトマンから追い出したいのね……
クララちゃんは、ヴィクトールさんに相談しなくちゃいけないわ」
でもとりあえず、明日(3月28日)はさちの誕生日だよ。
話題は尽きないけど、10日間の旅から帰ってきたところなので、その日は早めに眠った。
おかあさんは、朝からお仕事に行った。
今日は普通にお仕事に行って、明日の29日はお休みを取ってくれるという。
この世界は大の月、小の月の区別がなく、毎月30日が月末だ。
だから、おかあさんは月末のお休みと2連休になるという考えだ。
魔法院関係者(ミレーヌ先生、アリシア先生、エリス、マリィ、アンヌ)は学校がないので、三々五々おかあさんのうちに集まってきて、お仕事のおかあさんの代わりにお誕生日の準備をしていた。
私の時に作ってくれたカワカマスのクネルをメインに、ミレーヌ先生のたっての希望でハンバーグを準備しておかあさんの帰りを待っていた。
クネルの味付けはおかあさんにお願いしたいからね!
夕方、少し早めにおかあさんは帰ってきた。
けれど、顔が青い。
「おかあさん、どうしたの?」
「クロエちゃん……」
おかあさんは私の手をぎゅっと握って
「お仕事が……
……もう、来なくていいって……」
今日付で、おかあさんはお仕事を解雇されたのだ。
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こうなっては誕生日どころじゃない。
とりあえずおかあさんの事情を教えてもらうまでは、誰も楽しむ気持ちにならないもの。
アンヌは、酒場に行こうとするヴィクトールさんを連れてきた。
ヴィクトールさんも、月初の幹部会があったり、月末の書類仕事があるため家にいたのだ。
ヴィクトールさん 「とりあえず事情を聞こうか」
おかあさんは、ヴィクトールさんが来たことで少し気持ちが落ち着いたようで、とつとつと話し始めた。
おかあさんは市庁の総務部庶務課に勤めている。
朝、課長さんが課員を集めて、朝礼を行ったそうだ。
曰く、
・3年前の流行病は、モデルテ市域で都市、農村共に大打撃であったこと。
・これによって、農業生産高も大きく減少し、税収も同じく大きく下がったこと。
・これまで、臨時予算や積み立ててきた余剰金でまかなってきたが、今年の歳出に見合う財務余力がなくなったこと。
・その結果が増税である。
・増税はやむを得ない政策だが、市民の反発が大きいと見込まれること。
・このため、総務部では市民に納得してもらうため、「身を切る改革」を示す必要があること。
そういう内容だったそうだ。
残念だけど、理屈は分かる。
こういう場合、市民生活に直結する保健部、農業部、商業部、建設部、衛士部は削減が難しいけど、総務部・出納部は「見せしめ」となりやすい。
前世の会社経営でもそんな話はよくあったような気がする。
「それで、個別に何人か課長さんに呼ばれてね、私も含めて解雇と言われてしまったの」
ヴィクトールさん 「あちゃー」
アンヌ 「父ちゃん、なんとかしてよ!」
「無理言うな、市政としてみればやむを得ないことだし、もう増税は発表した後だし、他部の人事に口出しできるはずもないだろ!」
「見損なったよ!」
「とほほ。
で、ソフィさん、蓄えと働く当てはあるのかい?」
「ええ……」
おかあさんが言うには、
旦那さんが亡くなられてから、やはり生活に余裕はなくなったそうだ。
だけど、リナちゃんの病気の際にまとまった出費はあったものの、私への魔臓提供のお礼が多額だったため当面の生活に問題はないそうだ。
「でも、今回の増税でしょ。長い目で見れば生活は苦しくなるでしょうね」
将来税金を元に戻すことができれば、優先的に声をかけてくれると言われたとのこと。
いわゆるレイオフか。
「その間、勤めるとなると、お店の下働きとか、農家の出稼ぎ位かしら。
職人の技能などは持っていないし」
私 「本当に大丈夫?口約束とかじゃない?」
ヴィクトールさん 「まあ、口約束だろうな……庶務課の課長が何年も先の人事を決められるはずがない」
おかあさんは、簡単に解雇されてしまったことで自信を失ってしまったという。
「庶務課の中で、仕事ができない、余剰な人員とみられたことが……ショックなの」
「ソフィさんの能力が低い?
年齢的にも中核だし、能力的にも性格的にも、庶務課では抜けたら困ると思うが……」
おかあさんの沈んだ様子に見かねたのだろ。
マリィ 「あの、私が何か約束できるわけではありませんが、婚約披露式でのクロエのやらかしで、新しい商売が始まると思います!」
ああ……マリィはお化粧ビジネスのプレゼンでモデルやったから事情が分かるか。
「クロエ自身は魔法院があるし、ソフィさんがクロエの代わりにその商売を始めればどうでしょうか!」
みんなで顔を見合わせる。
私 「それいいよ!私もおかあさんにお願いしたいし、おかあさんにしかできないことだよ!」
おかあさん 「もちろん、それはクロエちゃんのために頑張るつもりよ。
だけど、その利益はあくまでクロエちゃんのお金でしょ?
私は私でお仕事頑張らないと……」
私 「私のお金はおかあさんのお金だよ!そんなこと言わないで!」
「クロエちゃんありがとう。でもね、子供のお金に親が手をつけてはいけないわ。
親は子供のお手本にならないと」
「でも!」
「クロエちゃん、そこは分かって。子供のお金に親が手をつけることはとっても悪いことだわ。最悪親子の関係が壊れちゃかもしれないでしょ?
私は貧乏より、クロエちゃんとの仲が一番大切なの。クロエちゃんが生きがいなのよ」
「だけど」
理屈は分かるけど、今回の場合はだめだよ!
ヴィクトールさん 「ソフィさんの気持ちも分かるが、これは子供の金に手をつけるって訳じゃないだろ?」
「むしろ共同経営者みたいなものじゃねえのか?」
マリィ 「平日クロエが仕事をできないのであれば、ソフィさんが実質経営することになります。ソフィさん自身の報酬があって当然じゃないのかな」
エリス 「クロエの商売は片手間ではできない。この際好機と考えるべき」
クララ 「ソフィさん、私からもお願いします。ソフィさんが幸せでなければクロエちゃんも幸せじゃないから」
私 「そうだよ!」
みんなの説得で、おかあさんも大分気持ちが傾いてきた。
ヴィクトールさん
「とりあえず、クロエの契約関係を進めてみれば分かるんじゃねえのか?
それをやってみて、どの程度その仕事に時間が取られるか、分かってから考えればいいだろう」
それもそうだ。
おかあさんもそれで納得したのだった。
みんなの気持ちがやっと落ち着いたので、さちの誕生会が始まった。
ミレーヌ先生 「おいし~~~
これが夢にまで見たハンバーグなのね~
肉汁がじゅわっときて、ただのお肉よりずっと美味しいわ!」
私 「つなぎのタマネギがうまみを出しているからですね~
今回はタマネギの他に、ハードブレッドを粉にしてパン粉を入れましたけど、私としては卵も入れたいかな」
「もっと美味しくなるの?」
「ラ・ターブル・ドールの支配人がにわとりを見つけられれば、ですね。
大変だけど、おかあさんに、頑張って欲しいことだよ」
おかあさん 「確かに、クロエちゃんのやりたいことを実現するには、頑張らないと難しかったわね」
マリィ 「お化粧の方も大変だと思います」
おかあさんの気持ちが上向きになればいいけど。
私 「ハンバーグと言えば、中にチーズを入れたり、酸味をきかせたソースに変えたり、まだまだやれてないことがいっぱいなんだよね……」
ミレーヌ先生 「じゅるり」
ミレーヌ先生も場を和ませてくれるな……素かもしれないけど。
話は旅でのエピソードになる。
アリシア先生の二日酔い。
馬車にフロートをかける必要性。
農家の子だと長男長女は家を継ぐことを考えていること。
北西村と北村が栄えていること。
西村では流行病の影響が大きくて、今も苦しんでいること。
水車小屋のこと。
フィーネ河の景色のこと。
ごはんを食べながらいろんなお話をした。
やっとみんな明るくなれた。
アリシア先生 「スパークリングワインは飲み易すぎなのよ……」
ヴィクトールさん 「あれか!アリシアこのワインを早速変えてくれ!」
アンヌ 「父ちゃん、頼れる大人が台無しだよ……」
まあ、ワインを一本や二本飲んだくらいじゃ、飲んべえには余裕だよね。
おかあさんの件で一時はみんな暗くなったが、最後には希望を持てる終わり方で良かったよ。
明日から頑張ろうね、おかあさん!
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3月29日
市庁総務部では、部内定例会が開かれていた。
エメリック総務長
「庶務課ではやむを得ず人員削減をお願いしたが、実務の引継ぎや今回の施策に対する不満など、状況はどうかね?」
庶務課長
「は、やはりそこは、動揺は免れないかと。
特に幹部社員を免職したことには不満があるようです」
エメリックは苦しげに言う。
「いいかね。
我々は正しいことをしているのだ、そういう信念を持たねばならないぞ。
たしかに辞めてもらった方はお気の毒だし、その結果庶務課の業務が大変になったのは事実だろう。
しかし、増税せねば今年の職員の報酬を下げなければならなかったし、解雇に踏み切らねば市民の不満は幾ばくのものがあったであろう」
「……仰るとおりです」
「では誰に辞めてもらうか。
そこには一律の基準が必要だったと言えるだろう。そうでなければもっと不満や不安が拡大したのではないかね?」
「それも、もっともなお考えだと思います」
「となれば、再就職が比較的可能なスキルのある年長者に声をかけるしかなかったのではないかね?」
「……はい」
「君には嫌な仕事をさせてしまい、申し訳なかったと思っている」
この通りだと、エメリックは頭を下げた。
庶務課長 「長官、おやめ下さい。確かに困難な仕事でしたが、ここは部員、課員一致して難局に当たらねばならないことは理解しておりますので」
「そうかね?そうであれば良いが……」
エメリックはそう言って話を締めくくった。
エメリック
(そうだ。我々は市の難局に立ち向かうため、正しい選択をしているのだ)
わずかに、暗い笑みをこぼした。
(例えその結果、ある少女の保護者が割を食ったとしてもな……)
アンヌ「食いしんぼキャラをミレーヌ先生に奪われちゃったよ」
ミレーヌ「なぜだか教えて欲しい?」
「べつに~」
「それはね!アンヌちゃんは「うまいうまい」しか言わないからよ!もっとボキャブラリーがないと!」
「いや、別に食いしんぼキャラになりたいわけじゃないって!」
ミレーヌ先生って明るくていいですよね!
でも先生として、魔法師として、全然本編で活躍していないですけど!




