喧嘩
地面にうつぶせの状態で倒れたユミルさん、その横でシクシクと雪斗くんが泣いている。
結局私が宥めないといけないのか。
「雪斗くん、少しだけ聞いて」
両手で包み込むように雪斗くんの手を握ると、少し目を丸くして私を見た。
「この人が魔法で雪斗くんのふりをしてたの。だからついて行っちゃっただけで、雪斗くんを置いていこうとしたわけじゃないんだよ」
なるべく落ち着いて諭すように話すと、やっと理解してくれたのか、雪斗くんは「分かった」と頷いた。
「じゃあ全部コイツのせいなんだ! 」
「痛ッ!」
「よかったー」と晴れやかな笑顔でユミルさんの背中を踏みつけた。
そう言えば、ユミルさんは一方的に踏まれているけど、本当に3代目勇者なんだろうか。
「なんかこの人自分のこと3代目勇者って言ってたけど、何か知ってる?」
「3代目勇者?この迷惑極まりない愉快犯が?」
「俺だって今回の勇者がこんな情緒やば男だとは思わなかったよ」
倒れたままの姿勢でユミルさんが文句を言う。すごいな、この状況でも煽るんだ。
「お前のせいだろうが!」
雪斗くんが足を振り上げる。
その隙をつくようにユミルさんが素早く起き上がり、雪斗くんの足首を掴んだ。
「!」
そのまま放り投げられた雪斗くんは、近くの木に片脚をついて着地する。
すぐにユミルさんに殴り掛かり――そこからは取っ組み合い、殴り合いの大喧嘩。
一応私に気を使ってくれているのか、ふたりとも攻撃魔法は使っていない。だから、普通に肉弾戦。
まぁ、素手だし、考えなしに魔法を使っているわけでもないから、きっとふたりとも限度は分かっているはず。大丈夫だろう。多分……
喧嘩がヒートアップしてきてちょっと怖いので、巻き込まれないよう少し離れた木の下に移動して腰を下ろした。
どんどんと人間離れした動きをしてきている。こうして見ると、ユミルさん雪斗くん相手に普通に戦えてるな。少し元勇者という言葉に信憑性が出てきた。
でも、ユミルさんが本当に勇者だったら嫌だなぁ。
世界を救った勇者同士の初対面が煽りあい、殴り合いなんて酷すぎる。
勇者を神聖視しているこの国の人たちがこの光景を見たら、ショックで倒れてしまいそうだ。
呆れながら喧嘩を眺めていると、バキッ、と嫌な音が森に響いた。
音のした方へ視線を向けると、大木が傾いていた。
メキメキと音を鳴らしながらゆっくりと傾き、大木は地面に倒れ込んだ。
遠くの鳥たちがバサバサと一斉に飛び立つ音が聞こえる。
やっぱり、止めておくべきだったかも……




