現勇者と元勇者
「ユミルさんが3代目勇者なら、魔王と直接戦ってないですよね? 雪斗くんは最終的に魔王を一対一で倒してますよ?」
戦闘ではさすがに雪斗くんに分がある気がする。手ぶらだから武器もなさそうだし。
怒った雪斗くんを止めるのは大変だから早く帰ってもらおう、そう思ったが、ユミルさんは余裕たっぷりな表情で「大丈夫だよ」と答えた。
「新しい勇者が召喚されたら毎回茶々入れてるけど、ギリギリ死んでないから」
ギリギリなのかよ……どこが大丈夫なんだ。
もういいや、この人と話してたら埒があかない。
ユミルさんを無視して再び足を進めると、肩にユミルさんの手が置かれ、耳元で囁やかれた。
「いる、後ろに」
「え」
いるって、雪斗くんが!?
慌てて振り向くと、ユミルさんは首を傾けて右後ろの方を示した。
「奥の木の後ろにいるんだけど、見える?」
「見えないです……あの、雪斗くん、怒ってますか……?」
鈍器とか持ってたらどうしよう。
どう宥めようか頭を巡らせていると、ユミルさんが気まずそうな顔で目をそらした。
「いや、たぶん…………泣いてる」
「泣いてる!? 」
急いでユミルさんが示していた方向に走る。
雪斗くんはユミルさんが変身魔法を使っていたことを知らない。
その上ユミルさんと普通に話してたところしか見てないのなら、とんでもない勘違いをしてる気がする。
「うっ、うぅ……」
辺りを見回しながら雪斗くんの姿を探していると、微かに泣き声が聞こえてきた。
声が聞こえる方へ近づいていくと、大きな木の後ろでボロボロと涙を溢す雪斗くんを見つけた。
「雪斗くん! 」
「みゆちゃ……」
黒い瞳から大粒の涙が次から次へと溢れてくる。
手を伸ばしてハンカチで涙を拭くと、少し落ち着いたのか、涙がおさまった。
「勝手に出てきてごめんね」
そう言うと、雪斗くんはじっと私の顔を見つめた。
まるで余命を告げられた患者のような、そんな深刻そうな顔をしてゆっくりと口を開く。
「……僕のこと置いて、あの男と出ていくつもりなの」
「え? 違――」
否定しようと口を開くと、雪斗くんが腰に抱き着いてきた。
「一緒にいるって言った! 捨てないでぇ」
「いや、だから」
「洋館につれて行かなかったから嫌いになったの!? もうおいて行かないからぁ!」
だめだ。全然話にならない。
どうしたものかと思考を巡らせていると、少し離れた位置で困惑した表情を浮かべているユミルさんが目に入った。
必死に目で何とかしてくださいと訴えかけると、ユミルさんはため息をつき、めんどくさそうにこちらに近づいてきた。
何ため息ついてんだお前のせいだぞ。
「あー、ごめん。俺のせいだからさ、ミユちゃんのこと離――」
ユミルさんがそう宥めようとした瞬間、腰に抱き着いていた体温がふっと消えた。
顔を上げると、ユミルさんの体が宙に浮いていた。
「馴れ馴れしくみゆちゃんって呼ぶな! 」
鈍い音がして、ユミルさんが地面に叩きつけられ、顔の横擦れ擦れに短剣が突き刺さった。
何が起こったのか把握できず、ポカンとしてただその光景を見ていると、「みゆちゃんー」と雪斗くんはまたえぐえぐ泣き出した。
どうしようこれ。




