もうひとり
多分、変身魔法で雪斗くんの姿になっているんだろう。こんなにそっくりに姿を変える方法を、私は変身魔法くらいしか知らない。
この……偽物の雪斗くんはどんどんと森の奥へと進んでいく。
どこに誘導しようとしているかわからないけど、目的地に着くまでに逃げなきゃ。
……いや、本物の雪斗くんの助けを待つべきなのか?でも、そんなことありえないとは思うけど、雪斗くんがすでに捕まってたら――?
「疲れてない? そろそろ着くからね」
ぐるぐると考えて何もできないうちに、偽物の雪斗くんは振り返ってそう言った。
もう着くの!? まずい、早く逃げないと。
髪につけていたバレッタを取り、気づかれないように魔力を込める。白いバレッタの先端から、パチパチと小さく火花が散った。
これをあの人に当てるのか……いや、魔道具だけど、スタンガンくらいの威力だから、痺れるだけで危なくないって雪斗くんが言ってたし。それに、万が一私の予想が外れていても、雪斗くんならこんな攻撃不意打ちだろうが避けられる。
私は足遅いし、体力もないから普通に逃げたところですぐ捕まっちゃう。だから、ちょっと申し訳ないけど、これで痺れてもらうしかない。
意を決して相手に近づき、背中に押し当てる。その直前、何かに弾かれたように、バレッタが地面に落とされた。
「え……?」
スッと地面に落ちたバレッタを、偽物の雪斗くんが拾う。
「危ないな~」
拾い上げたバレッタをくるくる回してみた後、その人は目を細めて私を見た。
「やっぱり、バレてたかぁ。うーん、けっこう上手くできてたと思うんだけどなぁ」
探るような視線が突き刺さる。
やばい、どうしよう。
頭の中が真っ白になる。
どうしよう、失敗した。バレッタも取られてしまった。逃げなきゃ、でもどうやって……
「危害加える気はないから、そんなに怖がらないでよ」
そう言って、その人は軽く両手を挙げた後、「あ、これも返すよ」とバレッタを差し出してきた。
おそるおそる差し出されたバレッタを受け取る。攻撃も捕まえもせず、ただただバレッタが返された。
どういうこと……? 何が目的なんだ?
「私を、人質にするんですか……?」
「んー、人質ではないかなー」
「なんて言ったらいいかなぁ」とその人は右のこめかみに指を当てて首を傾けた。緊張感のないその態度に、こちらも気が抜けてしまう。
なんなんだこの人は?
「……あなたは、一体何者なんですか? なんのために、雪斗くんの姿に……?」
「あぁ、ごめんごめん。まだ名乗ってなかったね」
その人はそう言った後、白い光がその人の体を包み込んだ。
次の瞬間、目の前に銀髪の美しい青年が現れた。海のような深い青い瞳がゆるやかに細まる。
「俺は3代目勇者のユミル=ルーシア。よろしくね、ミユちゃん」




