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洋館へ


「はぁ……」


 暇だ。

 雪斗くんに外に出るなと言われてしまったので、何もすることがない。

 もし、私がもっと強かったら、雪斗くんの意見も振り切って着いていけたのかな。今の私じゃ足手まといになるだけだからそんなことはできないけど。


 窓からは、ただサワサワと風に揺れる木々が見えるだけ。さっき森で爆発が起きたとは思えないほど穏やかだ。


 あの爆発はいったい何だったんだろう。雪斗くんは大丈夫だろうか。


 落ち着くこともできず、そわそわと小屋の中を歩き回っていると、窓から雪斗くんの姿が見えた。


「大丈夫だった!? 」


 慌ててドアを開け、雪斗くんの方へ駆け寄る。

 雪斗くんは「大丈夫だったよ」と穏やかにほほ笑んだ。

 見たところ怪我も汚れもないし、本当に大丈夫だったみたいだ。


「結局あの爆発なんだったの? 」


「強盗が原因だったよ。館の結界を破ろうとして爆発をおこしたみたい。ちゃんと捕まえたから安心してね」


「よかった……」


 原因が捕まったのならひとまず安心だ。


「強盗を近くの町で引き渡さないといけないし、いったん洋館に戻ってもいい? 」


「うん」


 雪斗くんは私の前を歩き、森の奥へと進んでいく。

 爆発音で逃げてしまったのか、辺りには動物の姿も見えない。異様に静かで、風の音と私たちの足音だけがやけに大きく感じる。


 少し強い風が通り抜けた。雪斗くんの黒髪が少し風に揺れる。なんだか少し新鮮だ。雪斗くんはいつも私の隣を歩くし、私に気づくと必ずと言っていいほどこっちを向くから、意外とまじまじと後ろ姿を見る機会が少ない。


 ……あれ?じゃあなんで、今日は隣を歩かないんだろう。別に道が狭いわけでもないのに。


 珍しいなと雪斗くんを見ていると、注意散漫だったせいか足が木の幹に少し引っかかった。

 すぐに体勢を持ち直したため、転ぶこともなかったが、なんとなく「痛っ」と小さく呟いてみた。


 雪斗くんはすぐに足を止めて私の方を振り返った。


「大丈夫? どうしたの? 」


「ちょっと足捻っただけだから、大丈夫」


 たれ眉、端正で少し柔和な顔立ち、左目尻の泣きぼくろ。雪斗くんそのものだ。でも、なんか引っかかる……


「歩くの痛いでしょ? 背中乗って」


「ほんとにちょっと捻っただけで、大して痛くないから大丈夫だよ」


「そう? 痛くなったらすぐ言ってね」


 そう言って、雪斗くんは先ほどよりゆっくり歩きだした。


 やっぱり、違う。

 怪我をした時、雪斗くんはこんなにあっさり引き下がらない。

 「痛い」なんて言おうものなら、一瞬で駆け寄ってきて「大丈夫!? どうしたの!? どこが痛いの? 捻った!?医者! いや、教会行こう! 」くらいは言うはずなのに。


 そう言えば、小屋に戻ってきた時、駆け込んでこなかったどころか私の心配もしなかった。そこから変なんだ。そもそも強盗が侵入しようとした館に私もつれて行こうとするか?この森に行く前はあんなに連れていきたがらなかったのに。


 一度気づくと、どんどんとおかしなところが見えてくる。姿は同じだけど、前を歩いているこの人を、もう雪斗くんだとは思えない。

 

 じゃあ、誰だ? 雪斗くんの姿をしたこの人は。

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