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森へ行こう


「はあっ!? 」


 今魔王の核持ってきたって言った!?


「なんで持ってきたの!? 」


 そう詰め寄ると、雪斗くんは機嫌を窺うようにチラチラとこちらを見ながら、小さい声で話し始めた。


「吸収速度の限界とか、試してみないと分からないことが多かったし、あと……ダメって言われると思わなくて」


 「ダメに決まってるでしょ! 」と怒鳴りかけて、グッと怒りを飲み込む。今怒鳴ったって何も解決しない。落ち着かないと。


「……私が魔王を復活させることに賛成すると思ったの? 」


 なるべく平静を保って聞くと、雪斗くんは不思議そうな顔をして私の目を見つめ返した。


「だって、帰りたいって言ってた」


「いや、帰りたいとは言ったけど、方法が良くないでしょ。魔王を復活させるなんて、常識的にも倫理的にもヤバいって」


「常識とか、倫理とか気にするの? 世界を跨ぐ転移だよ? 」


 じっと、真っ黒な瞳が、私の目を覗き込んだ。曇りのない純粋な目で「何がおかしいの? 」と訴えかけてくる。

 確かに、雪斗くんの言う通りかもしれない。異世界から自力で帰るなんて、普通は無理だ。その無理を通すなら、危険なことでもしなきゃいけないのかも。

 それで帰れるなら、お母さんとお父さんにまた会えるなら――


 その時、ドアの向こうからコツコツと廊下を歩く音が耳に入ってきた。ふと、この家の使用人たちの顔が頭によぎる。危ない、また流されるところだった。


「気にするに決まってるでしょ! 帰るためとはいえ、関係ない人たちを危険に晒したら気分悪いんだけど」


 そもそも、こうなったのは全部雪斗くんのせいだ。

 雪斗くんが女神様への願いで私を召喚しなければこんなふうに悩むこともなかったのに。なんでこっちに譲歩させようとしてるんだ。


「その方法でしか帰れないなら、元の世界に帰れても雪斗くんがしたこと許さないから」


 顔を背けると、雪斗くんはオロオロしながら必死で弁明する。


「わ、分かった! 絶対何とかするから!魔王の核今すぐ戻しに行くから!」


「よろしい。じゃあ、魔王の核出して」


 こいつに持たせておくのは危険だから私が持とうと思ったが、雪斗くんは「ここにはないよ? 」と答えた。


「危ないかもしれないから流石に家に持ち込まないよ。隣の国にあったから、領地の森に移動させただけ」


 流石にってなんだ。その判断できるなら領地にも持ち込むな。






 魔王の核を保管している森は領地の端にあるらしい。魔王討伐の褒賞として雪斗くんがもらった土地は結構広いため、本来なら馬車で一日かかる。けれど、こっそり森に魔方陣を設置しておいたらしく、すぐに森まで移動できるという。


 動きやすいパンツスタイルに着替えて部屋に戻ると、雪斗くんが「ほんとに着いてくるの? 」と尋ねてきた。


「当たり前でしょ」


 さっきからずっと「僕一人で大丈夫だから」とか「危ないから家で待っててほしい」なんて言ってくる。魔王を復活させようとしたやつを信用できるか。


「ちゃんと返すか確認するから」


「分かった……」


 雪斗くんは肩を落としながら、巻物のような紙を床に敷き始めた。

 広げられた紙は少し茶色がかっていて、真ん中に大きな魔方陣が描かれている。


「じゃあこの魔方陣の上に乗ってくれる? 」


 言われたとおりに魔方陣の上に乗ると、雪斗くんが隣に立ち、静かに呪文を唱え始めた。


「スパティア・ネグテ、ゲミニム・ドゥーク」


 詠唱が終わると同時に、魔方陣が光りだした。

 ふわりと、少しだけ足が浮くような浮遊感を感じる。

 次の瞬間、パチッと視界が入れ替わるように、目の前の白かった部屋の壁が、温かみのある木の壁に変わった。


 窓からはたくさんの木々が見える。ちゃんと森に移動できたみたいだ。


「この家に魔王の核があるの? 」


「もっと奥の方にある洋館に置いてるよ」


 ここにはないのか。

 この家はこぢんまりしてて素朴だけど、天井や床も木で作られていて優しい雰囲気の家だ。なんか林間学校で泊まったコテージっぽい。


「ここで待ってたらどうかな? 」


 キョロキョロ家の中を見ていると、雪斗くんがそう声をかけてきた。


「いや。一緒に行く」


 キッパリ断ると、雪斗くんは残念そうに「だよね」と呟いた。


「早く行こう」


 またごちゃごちゃ言い出す前に出発してしまおう。

 急ぎ足でドアノブに手をかけると、微かな揺れを感じた。それと同時に背後から腕が掴まれる。覆いかぶさるように抱え込まれながら、低い轟音が響くのを感じた。


「!? 」


 ドッと心臓が跳ねる。何が起こったのか分からず見上げると、雪斗くんは鋭い目線を窓の外に向けていた。


「洋館の方から、爆発がおきた」


「えっ……」


 洋館って、さっき言ってた魔王の核を置いてある場所……?


「早く見に行かないと! 」


 外に出ようと、足を進めようとするも、雪斗くんに抱え込まれたままで進むことができない。


「雪斗くん、離して! 」


 そう叫んでも、腰に回された腕は一向に離れない。


「僕が見てくるから、ここにいて」


「私も――」


 一緒に行く。そういう前に、雪斗くんの声に遮られた。


「危ないから、ここにいて」


 声が大きくなったわけでも、語気が強くなったわけでもないのに、反論することができない。

 静かで、けれど有無を言わせぬ圧に、私は渋々うなずいた。


「僕が来るまで、絶対外にでたらダメだよ」


 そう言って、雪斗くんは一人で小屋の外に出ていった。









 

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