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魔王復活計画


「みゆちゃん、これで帰れるかも! 」


 浅見雪斗はそう言って、目の前のテーブルに紙の束を置いた。

 雪斗くんは背が高いので、勢いよくこちらに身を乗り出されると圧が強い。その圧に一瞬たじろぎ、ワンテンポ遅れて彼の言葉が頭に入ってきた。


「ほんとに!? 」


 帰れるかもしれない。日本に、家族のもとに。期待から早鐘を打つ心臓を抑え、私は「どんな方法なの?」と尋ねた。


 すると雪斗くんは柔らかな笑みを浮かべてこう言った。


「まず、魔王を復活させるんだ」


「……は? 」








 魔王。それは魔物たちを束ね、人々を脅かす災厄の王。

 その魔王を倒す「勇者」として異世界から召喚され、この世界を救った英雄が今まさに「魔王を復活させる」と宣った私の元クラスメイト。浅見雪斗である。


 なんで勇者が魔王を復活させようとしてるんだ。

 ……いや、もしかしたら聞き間違いかも。うん、そうに決まってる。そうであってほしい。


「ごめん、もう一回言ってもらえる? 魔王を復活させるって聞こえちゃって」


 どうか空耳でありますように。そう切に願ったが、雪斗くんはあっさり「その通りだよ? 」と答えた。


「異世界から召喚された勇者が魔王を倒し、魔王の魔石を捧げることで、女神にひとつだけ願いを叶えてもらえるってことは知ってるよね? 」


「それは、知ってるけど……」


「だからね、もう一度魔王を復活させて魔石を手に入れれば、元の世界に帰りたいって願いを女神に叶えてもらえると思うんだ! 」


 雪斗くんは「いい考えでしょ? 」とでも言いたげな、自信満々な顔をしている。本気でいい案だと思っているんだろう。


 確かに理屈は通ってる。()()()通ってるけど……。


 魔王はさすがにやばい。

 私は魔王が倒された後に召喚されたけど、世界を滅ぼしかねない危険な存在だってことは私にだって分かる。この世界の人たちが全力を尽くしても倒せないから、わざわざ異世界から勇者を召喚しているのに。ほんとに何を言ってるんだこの人は。


 よし、却下しよう。

 そう思って目線を上げると、期待に満ちた瞳と目が合った。雪斗くんが褒められ待ちの顔をしてる。

 少し気まずくて目をそらすと、机の上に置かれた資料が全て雪斗くんの筆跡であることに気が付いてしまった。

 きっと、たくさん頑張って考えてくれたんだろう。それを話も聞かずに、頭ごなしに却下するのはちょっと、かわいそうだ。


「どうやって復活させるつもりなの? 」


 とりあえず話を聞こう。問題点を指摘して、違う方法を探す方向にもっていかなきゃ。


「いろいろ調べたら、魔力濃度が高いほど魔王の復活が早まるって分かったんだ。だから、次に魔王が復活する場所に、たくさん魔力を注ぎ込んだらその分早く復活するはず! 」


「でも、魔王って復活まで大体 200~300 年くらいかかるんだよね? 雪斗くんが魔王を倒したのは1年前くらいでしょ? 早く復活するとしても数十年はかかるんじゃない? 」


「なんとね、この方法を使うと復活までの期間を3ヶ月まで縮めることができるんだ! 」


「3ヶ月!? 」


 いくらなんでも早くない!?


 雪斗くんはいそいそと机に置かれた紙の中から、一つの資料を取り出し、私に手渡した。手に取って見ると、表紙にでかでかと『人為的魔王復活計画』と書かれている。


 表紙をめくると、ご丁寧に目次が書かれていた。

 次のページを見ると、一番上に「魔王を早く復活させるには? 」と書かれている。

 軽く目を通すと、ツノを生やし、王冠を被った黒い人型のイラストが目についた。イラストの下には魔王と書かれている。

 どうやらこのかわいらしいイラストは魔王を表しているようだ。魔力を吸収するにしたがって、イラストの魔王はどんどん大きくなり、最終的には力こぶを見せつけるポーズをとっている。


 なにか指摘できるところはないか、ページをめくって資料を読んでいく。

 魔力を注ぐ方法、魔王を迅速に倒す方法、次に復活する場所の推測、女神への交渉……どうしよう。倫理観が終わってる以外に粗が見つけられない。


 こうなったらしょうがない。普通にダメって言うしかないか……。

 褒められる気満々の雪斗くんは、そわそわしながら私の感想を待っている。心苦しいけど、はっきり言わないと。


「この計画が成功しそうなことは分かったんだけど……そもそも魔王を復活させるのはすごく危ないから、やめてほしい」


 そう言うと、雪斗くんの目が大きく見開かれ、少しバツが悪そうに下を向いた。


「あ、えっと……その……」


 雪斗くんが歯切れ悪く口ごもりだした。

 反論するわけでも、悲しむわけでもなくおろおろし始めたことに、とても嫌な予感がする。


「どうしたの? 」


 そう聞くと、雪斗くんは申し訳なさそうに私の顔を見た。


「もう、計画始めちゃって……魔王の核、持ってきちゃった」









 



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