第十一章 交渉
不変の形に処理をして逆に移し変え、面のようにした練り土を携えて、一平はナシアスと共にガラリアへ向かった。謝罪の使者だが、ガラリアの言うなりにパールを同行したりはしなかった。
こちらの指示通りではないが、トリトニアから使者がやってきたことには一応満足して、ガラティスは二人を招じ入れた。
一平の姿を見るなりガラティスは言った。
「ほう…」トリトニアの守人が離縁して新しい連れ合いを求めたとは知らなんだ。しかも男…一平どのは両刀使いであったのか」
美形ではあるがどう見ても女性には見えぬ伴のナシアスを男色の相手と揶揄しての表現は、初顔合わせになるナシアスに不快なむず痒さを感じさせた。
(うう…。こいつがあの噂の変態王ガラティスかよ)
厳密に言えば仇名は好色王だが、この一瞬でナシアスの認識はより悪い方へとグレードアップした。気のせいかこちらをいやらしい目で見ているような気がしないでもない。
(おまえこそ、男色の気があるんじゃねえか?)
覚えず、そう判じた。
「貴国のご希望に添えなかったことにはお詫びを申し上げます。これなるナシアスは某の副官、トリトニア軍の中将にして腹心の部下でございます。妻のパールティアがトリトニアを離れられぬ故に名代として連れて参りました。身分、地位共にトリトニアを背負うに不足のない男です」
ガラティスの皮肉には取り合わず、一平は続ける。
「お聞き及びと思いますが、妻は数ヶ月前に男児を出産いたしました。現在育児真っ最中でございます。トリトニアとガラリアを往復するのに騎イルカを利用しても最低四日はかかりましょう。その間赤子に全く授乳ができないとあれば、王宮で留守を預かるしかできることはございません。事情お察しの上、某一人の訪問となりましたことをお許しください」
ガラティスの横柄な態度に対し、一平はあくまで低姿勢で対した。まるでその鼻面を張り倒し、剣を突きつけたことなどなかったかのように。
「そうであったな。まずは無事な男児の誕生おめでとうござる、と申しておこうか。しかし、授乳期間であることはこちらも承知の上。わが国ではこういう時のために乳母を用意しておるが、トリトニアにはそのような機構は存在しないのであったかな?」
「御意。確かにトリトニア王家には乳母の制度もございました。しかしわが妻は自身の手による子育てを希望しておりまして、育児の全てを己の手でこなすことに生き甲斐を見出しています。
これは未熟児で生まれた妻の生い立ちにも大いに関係あることでございます。未だに身体の虚弱な妻は、己の子が自分のせいで弱く育っては申し訳ないと、出来る限りの手を尽くしているのです。ご母堂のシルヴィア陛下が同じく全てを、自身の乳を以て妻をお育てになりましたので、その影響もございましょう。何事も、娘は母に倣うと申しますから」
「なるほど。そのように主張されては咎めるわけにもいかぬかな。そうか、自身の乳でのう…」ガラティスは『乳』という単語に力を込めて言った。「あのように貧弱な胸でよく乳が出たものだわい」
言外に、おまえの妻の身体のことならよく知っていると匂わせるガラティスに、一平の柳眉が立った。
(おい…)
一平が気色ばんだのを感じると、ナシアスは声を殺して自制を促した。
自分のことならば何を言われてもされても動じない気構えを見せていた一平だが、ことパールの非難に話が及ぶと堪忍袋の尾が切れる。それを案じた。
深く深呼吸することで噴き出す怒りを押し止め、一平は言った。
「…おかげさまで…。妻は某にとっても最高の女性であり最良の伴侶でありますから。加えて子どもの母親としても最上の素質を備えております」
一平から期待したような反応が返ってこないので面白くなく、ガラティスはふんと鼻を鳴らした。が、そのまま了承する気は全くなかったらしい。彼は宣した。
「どのような理由であれ、パールティア姫を同行しないのであれば問答無用。トリトニアには開戦を回避する意思なしと見做すしかなかろう。即刻お引き取り願おう。帰られい」
言うと同時に顎をしゃくり、同席の魔術省長官を介して衛兵に部屋から連れ出させようとした。二人はすぐに四人の衛兵に左右を取り囲まれたが、一平は怯まず声を大きくした。
「お待ちください!」
「む…」
その声には絶対服従の命令を受けたかのような威厳があり、衛兵も思わず手を止め、ガラティスも息を呑んだ。
「某、オスカー陛下から粛然たる密命を担ってここまで参りました。ガラティス陛下にお伝えするまでは辞去することは致しかねます」
だが衛兵はすぐまた力を入れ直し、命令を果たそうとする。それを片手を上げて押し留め、ガラティスは言った。
「密命とな?」
「はい。まずは謝罪を。
此度の一件、オスカー陛下を筆頭にトリトニアの人民一同大変遺憾に思っております。わが国民が乱暴を働いたことは誠に残念至極。殉職された貴国の兵士の方々に謹んで哀悼の意を表するとともに、心よりお詫び申し上げます。二度とこのような悲劇が起きませぬよう心して人民の監督及び健全なる育成に励んでゆく所存でありますので、どうか胸筋を開いてお聞き入れください」
滔々と、僅かの澱みもなく、しかしまた機械的でもなく、誠意の籠った口ぶりで口上を述べる一平に、ガラティスは覚えず感心していた。よくもまあ、己の妻を蹂躙した相手に対し、ここまで平然と怒りや憎しみを表に出さず相対せるものだ、と。しかも、口にしているのは非難ではなく謝罪なのだ。
ガラティスが使者に青の剣の守人夫妻を指名したのは、勿論パールティア姫を手に入れたいからだが、その為一平の力も必要になるとはいえ、一平の口から詫びを入れさせてみたかったからであった。だがまさか例の件を表沙汰にするわけにもいかず、一策講じてこうなったというのが真相である。若いくせに妙に貫禄もあり、見目もよく力もある男に頭を下げさせ、ひれ伏させて優越感に浸りたかったのだ。
ところが実際に頭を下げさせてみると、そういったことにはまるで抵抗のない様子。肩透かしを食ったと同時に感心してしまったのだ。
「されば全面的にトリトニア側が悪いという認識で受け取ってよろしいのだな?わが方には謝罪の必要はないと?」
「それぞれの国にはそれぞれの掟、考え方がございましょう。お互いが自分の道理だけで押し通れば軋轢が生じるのは当然のこと。その辺の配慮に欠けていたことは否めません。お詫びして失った命が取り戻せるものではありませんが、後々への教訓として深く心に留めおくべきことと心得ます」
「ふむ…」
ここまで自分の正義を主張せず、突きつけられた罪状を否定しないとは考えていなかったガラティスは、言うべき言葉が見つからなかった。むしろ潔い。気持ちが良いとすら感じた。
否定されるという経験は子どもであっても大人であっても不愉快なもので、度重なると精神は負の方向に傾いてゆく。何かにつけ悪い方、暗い方、依怙地な方へと考えがちな土壌を持つガラリアの人々にとっては新鮮で、わけもなく気持ちが明るくなる経験となるようだ。
ガラティスにも、少しだが落ち着いて一平の話を聞く余裕ができる。
「よかろう。トリトニアの言い分、しかと受け取った。戦は見合わせたいと、そういうことだな?」
「仰る通りにございます」
「わが国とて好んで戦はしたくない。無駄な人死にはそれこそ思うところではないのでな」
心からそう思っているとはとても思えない傲岸さでガラティスは続ける。あくまで遜っている一平とは激しく対照的だった。
「だが問題はその先だ。謝罪の言葉は受け取ったが、その言葉を真に証立てるべき損害賠償を支払う気はあるのかな?」
「勿論でございます。そのために参りました。具体的にどうすればよろしいのか、ご沙汰を窺い、実行に及ぶべく、できるだけの便宜を図れとオスカー陛下からのご命令でありますれば」
「オスカー陛下はなかなか物分かりのよい御仁のようだな。今回の会見、こうも滞りなく進もうとは思いもよらなんだが」
「恐れ入ります。…では早速に、わが国に提供してほしいというガラリアに必要な力はどういうことか、お聞かせ願えましょうか?」
「…」
ガラティスはしばし黙した。
「…うすうすわかっているのではないかね?…よかろう。…ドメス」
魔術省長官に声をかけると衛兵を下がらせた。人払いをしたのだ。室内はガラティスとドメス、それに宰相のタボステ、一平とナシアスの五人だけになった。
「では本題に入ろうか」
ガラティスが言う。何を言われるのか覚悟の上だ。一平は一層面を引き締めた。
「これから言うことはおそらくこの場では解決できんぞ。トリトニア側の勝手な人選により、条件が揃っていないからな」
(やはりそうか…)
一平は合点した。
「いつぞやもお願いした通りのことを今一度要求する。ガラリアに必要な力とはパールティア姫の持つ力のことだ。その力をわがガラリアのために提供してもらいたい。しばらくの間姫にガラリアに滞在していただきたいのだ」
ガラティスの口にしたことは予想の範囲内でもあったが、そうとばかりも言い切れなかった。
(パールの力?癒しの力のことか?)
そうとしか考えられぬ一平は疑問を口にした。
「それは癒しの力のことでしょうか?お言葉ですが、確か以前陛下はガラリアには癒しの力など必要ないと仰せだったと記憶しておりますが」
「癒しの力は要らぬ。だが今ひとつの力が欲しいのだ」
(今ひとつの力?確かにパールにはいろいろな力があるが…)
パールは多種族の言葉を理解する。どうやら未来を予知できるようだし、ピピア女神とも交信できるらしい。だがそれらはごく身内の者―いや、本人と一平のみかもしれぬ―しか知らないはずのこと。
「それは一体…!?」
「それは今明かすわけにはいかぬ。だがそれはカミーラの徴と関係がある。カミーラの徴を見ることができればそこへの道が開けるはずなのだ。是非とも協力していただきたい。決して以前のような真似はせぬ。一平どのでなければ不可能なことがよくわかったからな。それに大体、パールティア姫はわしの好みではない」
国と国との会談の場で失敬なことをずけずけ言ってしまうのは国主としては大きな欠点だ。わざとだとしても、余計人柄が疑われる。
「カミーラの徴を…見ることができればよいのですね?」
一平の言にガラティスはおお、と身を乗り出した。これは大いに脈ありか、と踏んだのである。
「実は…」徐に一平は言った。「妻を同行できませんでしたのでこのようなものを用意して参りました」
ナシアスに頷きかけて件の品物を取り出させた。
恭しく差し出されたものを見てガラティスの顔が輝いた。
「おおっ…これは…」
「…カミーラの徴にございます…」
「ま…まさしくこれはパールティア姫の顔だ。では、この額にある紋様が例の徴…」
まさかこういう形で目にすることになろうとは思わなかったガラティスである。練り土の面を持つ手が幾分震えているのが、ガラティスの興奮を物語っていた。
「はい。ご確認いただけましたでしょうか」
「どれだけ見たかったことか…。こういう手があったとは。よく気が付かれたものよ」
「白の剣の守人のウートどのの発案にございます」
「カミーラの徴もよいが、こうして見ると顔立ちも美しいの。さすがは天下の美姫と噂に高いシルヴィア王妃の娘御だ」
少し前には本当にあのシルヴィアの娘なのかと愚弄していたものだが勝手なものだ。
「ふうむ、なるほど。これが姫の絶頂時の表情か…」
どこに感心している、論点が違うだろう、と怒鳴りつけてやりたいのを、一平はかなりの努力で抑えていた。
「これで…陛下のお望みの力とやらが手に入りますか?」
「いやいや、それはまだわからんが。取り敢えずは受け取っておこう。魔術師らに解読してもらわねばならん」
「お力になれて何よりです。これでめでたく戦が回避できますね」
「待て待て。これだけでは不十分。やはり姫にはガラリアに来ていただかねば」
「何と仰いました?」
一平は耳を疑った。
徴さえ手に入ればパールに用はないはず。だが先ほどガラティスはパールの持つもうひとつの力が必要だ、と言った。それが何かはわからぬが、『力』と言うからにはパールがいなくては発揮されないものであるのに違いない。徴はその道標だと言う。
徴を明らかにしても尚パールの身柄を要求されるのは甚だ不本意である。どんな思いをしてここまで譲歩したと思っているのだ。
「それは…お話が違いましょう。先程の流れでは、カミーラの徴を手に入れることが賠償だ、とのことでした。ガラリアへの滞在はそのためのものと理解しておりましたが」
「それはそちらの早とちりというもの。わしは姫のもうひとつの力が欲しいと先程から言うておる」
「ですが陛下、癒しの力以外に一体何を必要とされているのか明かしていただかなければ、こちらとしても対応できませぬ。身の裡に持っていないものを所望されてもご希望を叶えることにはならないと思いますが」
とは言え、破壊の力が欲しいなどとは口が裂けても言えるものではない。一体何を破壊しようというのか、と痛い腹を探られるだけである。しかもそれが、パールが嫌がることをした時に発揮される代物なのだから、一平がうんと言うはずもなかった。
挙句、ガラティスは言った。
「だから内緒だと言うておろうに…」
口に一本指まで当ててお茶目に言うものだから、さすがの一平もカチンときた。
「それでは当方も承服し兼ねます。詳細がわからないものをただ言うなりに承諾してきたとなればわが陛下もお許しにはなりますまい。交渉は決裂、出直して参ります」
それまでずっと下手に出ていた一平が一転して強い態度に出た。開戦を回避するためにガラリアまで出向いてきたはずなのに、今までの経緯を反故にして帰ると言う。ガラティスは慌てた。
「…そうはさせぬぞ」
こちらも一転、厳しい口調になった。
拝礼をして踵を返しかけた一平はその口ぶりに今までとは違う凄みを感じて振り返った。
その途端、何かが一平の視界を遮った。黒っぽい煙幕のようなものが目の前に張られていた。それはガラティスがドメスに命じてやらせた魔術の一種、―魔術省長官というからにはドメスが魔術師であっても何の不思議もない―ぶよぶよした黒い半透明の物体が一平の背後から彼を包み込もうと襲いかかってきたのである。
「うわ…」
咄嗟に剣を構えたが、やんわりと包み込まれた。刃物で断ち切れる材質ではないらしい。ぶよぶよは驚異的な速度で一平の身体に迫り、あっという間に全身を包み込んでしまった。
もがいても押し戻されない代わりに抵抗なく形を変える。投網にかかった魚を連想させた。
「くそっ!!」
じたばたしても無駄と悟った一平は悪態をついてガラティスを睨め付けた。
「何をする!!」
怒鳴ったがあまり意味はなかった。
ナシアスは、と見ると彼は無事だった。ぶよぶよは一平ひとりを取り込み虜としていた。下手に手を出せば自分も捕えられてしまうと判断したナシアスは賢明にもガラリアの出方を窺っていた。
「ガラティス!貴様!」ナシアスはガラリア王を呼び捨てにして敵意を剥き出しにしていた。「他国からの使者にこのような仕打ち、許さんぞ!」
剣の柄に手を掛け、勇み込んだが、本当に抜くわけにはいかなかった。それこそ後戻りができなくなる。自分は守人の部下に過ぎないのだ。
「トリトニアの中将風情が何を言うか、無礼な。帰ってオスカーに伝えるがいい。青の剣の守人は預かった。返してほしくばパールティア姫をガラリアに寄越すがいい、とな」
あくまで狙いはパールだった。最後通牒を突き付けられて尚、ナシアスは足掻いた。
「卑怯な!!」
「追い出せ」
いつの間に入ってきたのか先程の衛兵が四人がかりでナシアスひとりを引き摺り出す。
遠のくナシアスが自分の名を呼んでいるのを一平はぶよぶよの中から聞き取っていた。外の様子を全て把握することに全神経を集中するしか、この状態でできることはなかった。
やがてガラティスは玉座から降りてきた。ぶよぶよに包まれた一平の前に立ち、勝ち誇った笑みを浮かべて宣った。
「おぬしにはしぼらく滞在してもらう。なに、不自由はさせないさ。部屋も食事も女も、最上のものを用意してやろう。パールティア姫が来るまでおとなしくしておれ」
「トリーニを攻めるつもりか?」
自分が囚われて不都合があるとすればトリトニア軍の采配だ。特に、包囲されているトリーニ物見処が気掛かりだった。
「安心せい。トリーニはいわば人質だ。あのような地、陥としたとてあまり益もない。姫が来てくれるまでは取り敢えずは無傷でいよう」
「この気持ち悪い奴は外してもらえるのだろうな」
ガラティスはニヤリと笑っただけだが、別室に移されるやすぐドメスが取り除いてくれた。
だが代わりに手足に枷が嵌められた。ぴったりした環が鎖で連結されて壁に繋がれた。
城外に放り出されたナシアスは門番らの目が届かない所まで来ると懐からエルシーを出してやり、通信を始めた。
「陛下、大変です。一平がガラリアに拘束されました!」
「え?」
その知らせを受け取ったのはなんとパールだった。
ナシアスの連れていたエルシーはオスカーのエルシーと通じている。通常はオスカーのすぐ側にいるはずだったが、今回に限ってパールの側にいた。
パールはエルシーとも話ができる。いついかなる時にも任務を背負って働いているエルシーを労うために、パールは時々気晴らしに自分の部屋へと誘うのだ。今も、笑ったり喃語を発したりして大分感情表現をするようになったアスランを楽しませる意味もあって、少しの間エルシーを拝借してきていたのであった。
何しろ緊急連絡である。何はともあれ、と前置きをすっ飛ばしてオスカーに直訴したナシアスだったが、まさかそんな状況とは思いもよらないことだった。
(一平ちゃんが?ガラリアに?)
第一声がオスカーの声とは全く違うのと返事がすぐ返ってこないのを不審に思い、ナシアスは再び呼び掛けた。
「陛下?聞こえますか?交渉は決裂です。ガラリアはあくまでパールティア姫の身柄を要求してきました。一平を返してほしくば姫を連れて来いと…陛下?」
「いやーーーーーっ!!!!」
パールは思わず叫んでいた。一平がガラリアに囚われた。あの、自分に酷いことをした気味の悪い国ガラリアに…。しかも一平は自分を誘き寄せるための餌として拘束されたのだ。
こんなことがあっていいものだろうか。自分はまた一平に大きな迷惑を掛けている。そう思うとパールはいてもたってもいられなかった。
(しまった…。なぜ?なんでエルシーがお姫さんの所にいるんだ?)
「…姫!パールティア姫!」
女性の悲鳴をパールのそれと気づいたナシアスは必死でパールを落ち着かせようと呼び掛け続けた。が、ナシアスのもたらした事実はパールには衝撃が大き過ぎ、耳まで届かない。
(一平ちゃん…ごめんなさい…また…パールのせいで…)
―おまえのせいじゃないから―
(ううん、パールのせいだよ)
―おまえの言う迷惑などオレには如何程のものでもない―
(そんなことない。だって、パールは辛かったもの。あのお城にいる間…)
―それを補って余りある力がおまえにはあるのだから―
(!)
一平の言葉を思い出しながらパールは気がついた。
自分には力がある。この間、自分は自力でガラティスの元から脱出してきたではないか。ピピア女神のお力を以て…。
(お願い!ピピア女神さま!パールを一平ちゃんの元に!一平ちゃんの側に連れて行って!)
パールは願った。強く強く。
一平をこのままにしてはおけない。自分が行かなければ一平は自由になれない。
パールの身体が光り始める。白く輝き光に包まれる。そして消えた。
「姫さまっ!!」
パールの尋常でない叫び声を聞いて隣室から駆け込んで来た侍女のフィシスはその瞬間を見た。眼裏に残るパールの姿は恍惚としてこの上もなく美しかった。




