29. 悪魔殲滅の決意
本日2話目となります。ご注意下さい。
角の数は、2本。3人共に二角魔人だった。それは後で確認する事になったのだが。
そのうちの1人が言っていた。『貴様か。我等の楽しみを邪魔する者は』と。
この4方からの魔物の大移動は、この3人による楽しみ。お遊びだったという事だ。
何らかの形で魔物を集め、狂わせ、町を襲わせる。
そしてそれをゆっくり眺めるのが楽しかったのだ。人間の築いた町が崩れて行く様を見るのが。
戦う者、逃げる者、何も出来ない者。それぞれがそれぞれに楽しかったのだ。血塗れになって行く姿が、逃げ惑う姿が、死んで行く姿が。
声を上げ、叫び、悲痛な泣き声を上げるのも。何もかもが楽しみだったのだ。
小さい村、町でも楽しかったが、やはり人間が多い方がそれだけ楽しみも増える。だからこの町が選ばれた。今回は、という事になるのだが。
だが、フレッドにはそんな事はどうでも良かった。知る由もないし、どうせ聞いても答えてくれないのだから。
魔人族の3人の敗因は、フレッドの能力をよく確認するまでもなく姿を現してしまった事。人間の子供だからと油断した事。距離を取ってはいたが、ずっとフレッドの視界に入っていた事。
勿論、この3人にもそれなりに強力な能力、スキルがあった。だからこそ何とでもなると思っていた。
フレッドの尋常ではない攻撃を見ていたにも拘わらず。一瞬にして大量の魔物が消え去っていたにも拘わらず。
強力な魔法には、当然それだけの魔力が必要になる。広域殲滅魔法も珍しくはなかったのだから、魔族にしてみれば当然知っている知識だ。
こんな子供が、そうぽんぽん撃てるような攻撃ではない。さっきの蹴りを食らった事により、より確信したのだ。
もう余力はないし、反射速度は遅いと。さっきの蹴りは全力ではなかった。ギアを上げれば、まだ早く動く事も出来るし、もっと簡単に人間を破壊できる。
だから、フレッドが何かを仕掛けようとすれば一気に詰め寄って攻撃する。そう思っていたのだ。相手をしてやると言い放った魔人の男も、その他の2人も。
だからフレッドの視界内に居るのだが。じっくり観察する為に。これから徐々に壊れて行く様を見る為に、少しでも近くで悲痛な叫びを聞く為に。
…… …… ……
「ふ~。あーあ。買ったばかりの服が破れちゃったじゃないか」
フレッドが最初に口にした言葉がこれだった。
既に2つ以上の同時処理は出来るようになっていた。ほぼ無意識だったとは思うが、感覚として残っていた。出来るのだと。実際に出来たのだから出来るはず。
そして、その思い通りに実行させた。やはり出来たのだが。そこには感想もなかった。当たり前だったのだから。今のフレッドには。
急いで魔角を拾い、町へと駆けるフレッド。
魔物が全て殲滅されるまで、そこまでの時間は掛からなかった。
そこには大分変わってしまった町の姿があった。
これも不思議と涙は出てこなかった。
暫く何も考えれられなかったのだが。自分の無力さを、力の足りなさを実感して佇んでいた。
所長に発見され、「お疲れ様だったな。取り敢えずお前は休め」そう言われて部屋へ戻る事になるまでは。
よく食べた。いつも以上に食べたのかもしれないが、まだまだ食べられそうだった。だが、それ以上に眠気もやって来た。
だからひとまず眠る事にした。誰に言われるまでもなく。
フレッドは動き出す事にした。
まだ14歳だというのに。そんな事は関係なかった。
もう、こんな光景は見たくない。同じような人達を作っちゃダメだ。その思いの方が大きかったのだ。
何人の人が犠牲になったのかはまだ分からない。だが、少ない数ではなかったはず。それなりに魔物の浸入を許したのだから。
そして、所長や副所長とも話し合った。まずはこの町を綺麗に片付ける。文字通り、崩れてしまった壁や建物を。汚れてしまった町を。残骸、遺体、死骸も含めて。
処理する物は全て処理し、リサイクル出来る物は少しでも再利用して行った。ゴミ処理スキルによって。
以前よりも断然役に立つようになっていたフレッドのスキルは、ここでも多いに役に立った。
『再生屋フレッド』と呼ばれるようになる位には。
そして、またの名を『殲滅のフレッド』。そうも呼ばれていた。本人の知らない所でだが。
これでフレッドの二つ名は、『掃除屋フレッド』『採取屋フレッド』。忘れてはならない『ゴミ野郎』。5つもの名を持つ事になったのだった。
『フレイデリック・イーレース』。こんなに立派な名前もあるのだが。この名前を知っている者はどれくらい居るのだろうか。それは誰にも分からない。気にもされていないのかもしれないし、本人すら忘れているのかもしれないのだから。
行くと決めたからには早かった。色んな所で声を掛けられるようになったのが煩わしかったのではない。本人は知らない人達から声を掛けられるのは嬉しいとは思っていなかったが。別に悪い気はしていなかった。
所長や副所長からも何かと言われていたからだが。それがなければ、もしかしたら本当に逃げたくなっていたかもしれない。それがフレッドなのだから。
いくらレベルが上がって身体が強くなろうとも、最高戦力に数えられる程に成長していようとも。
食料や着替えなんかもそれなりに準備され、盛大に送り出される事になった。所長と副所長の2人だけで。それがフレッドには嬉しく、頑張って来ようと尚更思わせてくれたのだった。
「いつでも戻っておいで。休息も必要だよ。決して無理はするんじゃないよ。いいね」
「そうですよ。フレッド1人の問題ではないのですから。我々も出来る事はいくらでも協力します。たまには戻って来て下さいね。フレッドの部屋は空けておきますからね」
「はいっ。行ってきます!」
激励の言葉を受け、元気に返事をして走り出す。振り返らずに、一直線に。どこに向かうでもなく、ただひたすら走り続けるのだった。
何かを見付けるまで、何かに出会うまで。
人はある日突然変われる存在でもある。
経験からも、感動からも、人の言葉からも。
それは良い方向に向かう事もあれば、良くない方向に向かう事もある。
もっと強くなってやろう。もっと皆を喜ばせてやろう。もっと人の役に立てるようになろう。
もっと金が欲しい。もっと女にモテたい。もっと長生きしたい。
何かが切っ掛けとなって、そう強く思える事もあるだろう。
ひょんな事から仲違いしたり、喧嘩したり。場合によっては敵対する事になったりもしてしまえる。
それは些細な出来事だったとしても。ほんの僅かな違いからでも発展して行く事もある。
新しい趣味が出来たから。
新しい友達が出来たから。
知識が増えてより考えられるようになったから。
そんなつもりじゃなかった事もあるし、只の勘違いという事もあるだろう。決定的な溝となってしまう場合もあるだろうが。
それを為政者が仕組んでいる事もある。
魔物は敵だ。
法律を守らない者は悪だ。
反抗する者には罰を。
そういう社会構造もあり、そういう体制で暮らしている者達も居る。
人間は何の為に生まれ、何の為に生きて行くのか。
善とは何で、悪とは何なのか。
道徳、倫理観、価値観、常識、法律、ルール。
時代、場所、立場。
それなりに教育を受けた者でさえ、別の場所では混乱する事もある。
これまでの自分の常識は通用しないのか。ここでは何が正しく、何が正義なのかと。
何も知らない者ならどうなってしまうのか。
何も知らないから生きて行けるのか。
気にせず、関せず、目の前の事だけを考えて。
フレッドはどうだったのか。
色々と教えられ、諭され、注意もされた。
命について、罰について、ここでのルールについて。
それはこれまでフレッドが信じていたのとは違う事もあった。
どっちが正しいの?
何が真実なの?
僕はこれまで何をやってきたの?
そう考えられるようになったからこその悪魔殲滅の旅だったのだが。果たして。何が待ち受けるのか。何もないのか。それはまた別の話。
次回、最終話。
『フレイデリック・イーレース 立つ』
お楽しみに。




