30. フレイデリック・イーレース 立つ
「ふう。今日はもう寝ようかな」
あれからどれくらい経ったのだろうか。幾つもの村や町を巡り、人ともそれなりに交流し、魔物とも戦い、魔人族の悪魔とも戦った。
こうしてフレッドが生きて宿屋で休もうとしているのだから、体は無事なのだろう。体の方は。
あれからどれくらいのものを処理してきたのだろうか。もしかしたら、魔物よりも人間の方が多かったかもしれない。
いちいち数えていないのだから正確な所は分からないが、恐らく人間の方が多かった。回収してきた魔石の数はそれ程多くはなかったのだから。
それに、流石のフレッドでも疑問に感じていたのだから。
(魔物は敵だけど、人間も敵が多いよね? どうしてだろう)と。
みんな自分の為に生きている。そう考える事も出来るのかもしれないが、あまりにも自分勝手で、自分さえ良ければいいと考えて行動している者の方が多いのではないか。
そうも感じるようになっていた。
圧倒的な力を手にしているフレッドに敵は居なかった。いや。正確には敵となる者は多かったのだが、敵う者など居なかった。
中には、馬車の待機所で、貴族の横柄な態度、使用人への酷い扱い、侮蔑を目にし、処理してしまった事もあった。
それを不思議そうに見ていたフレッドにもとばっちりが来て、敵認定されてしまったのだが。相手の方に。
あまりにも煩くて。それも不思議そうに聞いていたのだが、その態度が気に障り、剣に手を掛け、抜こうとした時点で処理された。
そこに居た誰もがフレッドがやったとは思ってもなかったみたいだが。フレッドはずっと不思議そうにしていて、微動だにもしていなかったのだから。
フレッドの悪魔殲滅の旅は、己を見直す旅にもなった。
スキルのレベル上げは勿論だが、社会勉強の面での成長も大きかった。
それは良い事ばかりではなく、本来なら知らなくても済んでしまうような人間の闇、醜さ、ずる賢さをもその身をもって知る事になった。
それはフレッドをより苦しめ、分からなくさせて行ったのだった。
(僕は何の為に生まれて、何の為に生きているんだろうか。
僕がやってきた事は、本当に正しい事だったのだろうか。
善も悪もその人によって違ったんだし、僕の善は本当に善なんだろうか)
これまでそんな事を真剣に考えた事もなかったフレッドは、独り旅という事もあり、どんどん思考の闇に飲まれて行った。
深く、深く。光りも見えないような、答えもないような思考の迷路に迷い込んでしまっていた。
夜になるといつも。眠る事に前には特に。
(これまで僕はどうしてたんだろう。
それこそ自分の事しか考えてなかったんじゃないのかな。
僕こそ本当は悪なのかな)
そんな風にも考えてしまう時もあった。特に人間を処理した日の夜には。
何も考えずに生きて来られたのだから幸せだったのか。それを知る事が出来るようになったから幸せなのか。その答えが見付かるまでは幸せになれないのか。
こんな事は誰にも教えてもらった事はなかったし、所長にも、副所長にも言われた事はなかった。
だから余計に悩んでしまった。余計に苦しむ事になってしまった。純粋なだけに。尚更に。
『いつでも戻っておいで。休息も必要だよ。決して無理はするんじゃないよ。いいね』
『そうですよ。フレッド1人の問題ではないのですから。我々も出来る事はいくらでも協力します。たまには戻って来て下さいね。フレッドの部屋は空けておきますからね』
こんな温かい言葉を掛けてくれていたのだが。
フレッドの旅は、言わば終わりのない旅。全ての悪魔を殲滅させる事など出来るのか。どう確認するのか。
そんな答えは出せるものではない。それは分かっていたはずなのだが、フレッドの中ではまだまだだと思っていたのだから、まだ戻る訳にはいかない。
無理もしていないし、食料もそれなりに確保されている。それなりに補充もして、森でも採取していたのだから。まだ戻る時期じゃない。そう思っていたのだった。
それが良くない循環を生んでしまっているのだが。
そんな事など分からないフレッドは、日に日に精神を病んで行く事になった。少しずつ。確実に。あまり良くない方向に。
途中で、盗賊に襲われていた何処ぞのお嬢様を助けたり、魔物に囲まれていた商隊を助けたり、魔物の襲撃を受けていた村を救ったりもしたのだが。
フレッドだけに、特にこれと言って発展する事もなく、特に名乗る事もなく、お決まりのパターンへと流れる事もなく、ただ通り過ぎたりした事もあった。
「おいっ! 大人しく金目の物を出しやがれ!」
「動いたら殺すぞ!」
「わ、分かったから殺さないでくれ! 頼む! 金なら出す!」
(またか。本当に人間ってなんなんだろうね。奪う方が簡単だからかな? そうでもないと思うけど。まあいいや。どうせまた何も答えてはくれないだろうから)
…… …… …… …… ……
「へっ?」
突然自分を囲んでいた賊が消え、呆気に取られる男。
その横をフレッドが駆け抜けて行った。透明化のスキルを発動させ、息を止めながら。
その男は訳も分からぬまま、状況が飲み込めずに暫くそこに佇む事になるのだが。フレッドにはどうでも良かった。
感謝される事は悪くは思わないが、その後の事が何かと面倒だったから。話を聞かれたり、同行を依頼されたりと。
本来の目的は賊の殲滅ではないのだが、やはり悪魔より、魔物よりも人間を多く処理して進む事になっていた。仕方なくではあるのだが。
その行為ですら、本当に正しいのかどうか分からなくなってきていたのだが。
その日、フレッドは実行してしまった。確認してしまったのだ。
僕は正しかったのか。
僕がやってきた事は間違いじゃなかったのか。
本当は僕自身がこの世の敵で、処理されるべき存在ではないのかと。本気でそう考えてしまったのだ。多くの人間を処理した夜だったから。
この考えが正しければ僕は処理されるし、間違っていれば僕はそのままゴミ箱に残る事になる。
これで自身が処理されてしまったら、自殺になるのだろうか。自らのスキルの確認なのだが。
馬鹿な確認と言う人も居るだろうが、本人にしてみれば、純粋で真摯な思いからの行動なのだが。
危険過ぎる確認だと言う人も居るだろうが、本人にしてみれば、苦悩の末に辿り着いた1つの方法論だったのだが。
そしてフレッドはスキルを発動させた。いつものように躊躇う事もなく、特に昔を思い返すでもなく。普通にゴミ箱を自身に被せるように設置し、ゴミ処理を発動させてしまった。
……
教会員の生活規範をよく守り、早寝早起きを基本とし、身体は常に綺麗にしており、暴飲暴食、酒、煙草もやらず、自由恋愛などした事もない。
そうとは知らずに教会員を処理してしまった事はあったが、それは知らなかったのだから仕方ない。
ある時は『ゴミ野郎』。またある時は『掃除屋フレッド』『採取屋フレッド』。そしてまたある時は『再生屋フレッド』『殲滅のフレッド』。
してその正体は、
『フォーラッジーガタウン冒険者組合特別職員 フレッド』。いや。フレイデリック・イーレース。14歳。ゴミ処理スキルを授かった者。
これまでのゴミ処理で処理された物体が何処に行ったのかなんて誰にも分からない。
これまでの経験で分かるのは、処理した物体は膨大であり、その中には、普通のゴミから魔物の死骸、人間の遺体までそれなりに含まれていたという事だ。
これまでのフレッドに及ぼした変化を振り返ってみれば、今回も同じように何かが起こったであろう事は容易に予想できるはずなのだが。
それを本人に向けて発動したのだから、その結果は分からない。初めての事だったのだから、これも仕方がなかったのだ。
呆然としているフレッドにはまだ気付かない。ほんの数分後には気付く事になるのだが。
それはまた別の話。
【大賢者フレイデリック・イーレース】と呼ばれる事になる青年の物語は、王都の図書館にも伝記として残される事になるのだが。それは、この時点のフレッドが知る由もないのだった。
流石のゴミ野郎でも、掃除屋でも、採取屋でも、再生屋でも、殲滅のフレッドでも、当の本人は全然気にしていないのだから。
そして、
【ゴミ少年記】は【ゴミ小説記】となったのだった。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
最後にこれをやりたかったのです。
これだけの為にここまでの作品を。
……。長かった。設定に拘り過ぎたが為に。
お付き合い頂きましてありがとうございました。
リアルタイムで毎日お付き合い頂いた皆様にとりましては、良い年となりますように。来年も? 来年は?
そんな方々にこそ、より多くの祝福を。
『2020年。そんなあなたに幸運値+1』
これが今の私に出来る精一杯の祝福デス!
なにか1つでも新たな『気付き』がありますように。
あっ・はっぴー・かれんと・いやーん
\(・o・)/\(・o・)/\(・o・)/
p.s.
くっ。私は負けたのか。またしても。
くっ。いや。これも只の黒歴史。私にとっては大した事ではないのだよ。今更さ。
くっ。これは言い訳ではない。ないのだよ。
くっくっく。なにくそっ!
=729だけに!
これが最後の抵抗でした! さようなら!




