28. 防衛戦
フレッドは走っていた。所長の指示で。これは紛れもなく緊急事態。全開の能力の解禁。所長と副所長以外の前では禁止されていたのだが、死んでしまっては意味がない。
それはフレッドもだが、その2人も、町の人達も、警備隊員も。後の事は終わってから考えればいい。生き残る事が出来たのならば。
先ずは一番近い門まで走り、壁に上り、扉の外に最大処理容量、10m×10m×10m(縦×横×高さ)のゴミ箱を設置する。横に向けて、中に魔物が入れるように。
絶対障壁。未だどんな攻撃にも崩された事のない鉄壁の壁。ゴミ箱なのだが。
やはり1番脆いのは扉だ。狂っているとは言え、他の魔法で強化された石壁に比べれば壊れ易いのは仕方がないだろう。
攻撃もそこに集中していたし。だからこそ先ずは扉を塞ぐ。物理的に。
そして見える範囲で処理しながら壁の上を駆け抜ける。そういう造りになっていない所もあるのだが、それはフレッドの身体能力任せで駆け抜ける。外の魔物を最大容量で処理する事は忘れずに。
みるみる数が減って行く魔物の群れ。だが魔物は4方から押し寄せて来ているのだ。1方向からだけ防げても意味がない。どこかの扉が破られてしまえば大惨事になるのだがら。
それに、それでも全部を処理できたのではない。まだまだ後ろから魔物が押し寄せていた。1度や2度処理したところで切りがない
壁に上がったから分かる。この異常さが。上がらなければ良かった。気持ちの弱い者なら、この景色を見ただけでも心が折れていたかもしれない。
実際には、警備隊員の中にもそういう者達は居たのだが。
それでもフレッドは駆け抜ける。見える魔物を処理しながら。次の扉を目指し、また次へと。
幸いな事に、この町には上級冒険者が何人か滞在していた。フレッド以外にも、それなりの戦力があったのだ。それは偶々だったのか。それすら狙われていたのかも分からないのだが。
そのお陰で助かっていた。4方からの同時攻撃など、人手が多いに越した事はないのだが、やはりそれなりの実力者がそれなりに居ないと始まらない。
狂った魔物ばかりだったのだから、やはり警備隊員達だけでは持ちこたえられなかっただろう。数の脅威だけでなく、そこに狂った脅威も加わっていたのだから。
まともな人間であれば、その光景を見ただけでも絶望してしまったかもしれない。
だが、フレッドは駆け抜ける。指示されたからではない。やらなくちゃ。またあの時の町のように、何もかもが無くなってしまうなんて嫌だ。何か出来るならやるんだ。少しでも数を減らせるなら減らすんだ。
そう思いながら駆けていた。見渡せる範囲の魔物を処理しながら。それこそ凄まじいスピードで。
フレッドが3つ目の門の扉の前にゴミ箱設置した時だった。それが起こったのは。
ドッゴーンッ!!
激しい音と共に扉が砕け、更に扉を吹き飛ばしながら魔物の群れが押し寄せて来た。
「ぐわーっ!」
「ぎゃーっ!」
「ダ、ダメだっ!」
「門が破られたーっ!」
「に、逃げろーっ!」
「怯むなっ! 押し返せっ!」
「逃げ場などないっ! 戦えっ!」
「町を守り抜くんだっ!」
「何としても押し返せっ!」
「う、うおーっ! やってやるぜっ!」
「うわあぁーっ!」
「ちっくしょーっ!」
「うっぐっ!」
「ここは任せろっ! ていやっ!」 バッカーン!
「我等に続けっ! だーっ!」 ボッゴーン!
「こんなもので我等を抜けると思うなよっ! がーっ!」
ドッガーン!
阿鼻叫喚。地獄絵図。修羅場。
叱咤激励。激烈怒号。鼓舞激励。
逃げ惑う者、傷付いて動けぬ者、必死で戦う者。それぞれが自らの思いを叫びながら現場は入り乱れて行った。
それでも魔物と戦う者は居て、簡単には町を蹂躙させない。そう自分に言い聞かせて前に出て行った。
一騎当千、百戦錬磨の冒険者達が魔物を吹き飛ばし、押し返して行く。
しかし魔物の数が余りにも多過ぎる為、時間の問題であっただろう。体力が尽きるのも。防衛線が崩壊してしまうのも。こんな状況がずっと続けばだが。
「はっ! 間に合わなかったのか! くっそぉー!」
珍しくフレッドが感情を露にしにて叫んだ。いや。ここまでの怒りは初めてだったのかもしれない。
自分でも分かっていなかったのだが、自然と口から出ていたのだ。思いが、純粋な感情が。
そこからのフレッドは、更に動きが加速され、壁の上を駆け抜けた。疾風の如く。しかも目に映る魔物は悉く殲滅させていた。ゴミ処理の高速処理によって。
何かが弾けたのだろう。フレッドの中で。
プツンともブチンとも音はしなかったはずだが、確実に何かが弾けた。変わったのだ。フレッドの表情すらも。
氷のような冷たい目。感情が無くなっているような。何も捉えられていないような。そんな冷め切った目をしていた。本人は何も気付いてなかったが。
そしてフレッドがその門であった場所に辿り着いた時には、壁がぼろぼろに崩れ、町の中でも数え切れない程の戦闘が行われていた。
人であったであろう遺体の破片、魔物のものであったであろう残骸、赤黒い何かが無数に跡を残し、至るところに飛び散っていた。
目には映っていたはずだ。首を振る事も、視線を動かす事もなかったが、確実に捉えられていた。視界の中には。
何も発せぬままに、何も指示されぬままに、フレッドは町の外に体を向けて、両手を振りかざした。振り払うように、この場から全ての敵対する物体を処理する為に。
ばっ!!
フレッドが両手を振りかざした瞬間、一帯に展開していた魔物が消えた。一瞬で。
これまでは2つ同時が限界だったはずなのだが、意識が飛んでるからか、ゾーンに入っているからか。目に入る魔物を一瞬で消し去ってしまっていた。それも無意識に。
そして更に繰り広げられる瞬間消滅劇。瞬間処理作業。
瞬く間にこの辺りにひしめき合っていた魔物が消え去った。
そして後ろを振り向くと、即座に高い壁の上から飛び降りるフレッド。後先考えた行動ではなかったのだろう。
この高さから飛び降りたらどうなってしまうだろうとか、他の3方向から今も町を押し潰さんばかりに蠢いている魔物の事など、今はどうでも良かったのだろう。
悲鳴が聞こえる場所へ、魔物が暴れるその場所へ。
フレッドは駆け、狩り、また走る。次々と魔物を斬り伏せ、凪ぎ払い、その数を減らして行った。
「フレッド! ここはもういい。大丈夫です! あなたは他の門の所へ行ってく下さい! 頼みます!」
副所長だった。血塗れになりながら、残った魔物を倒しながら、フレッドに大声で指示を出した。
「っ!! はっ! はいっ! 分かりました!」
ダッ!
一瞬で我に返り、副所長の指示に従いその場を後にした。後ろも振り返らず、1番近くの門へと向かうのだった。
その頃の町の3面は、フレッドの設置したゴミ箱により、扉自体は無傷、無事だった事もあり、壁の上からの投擲、弓矢、槍投げ、魔法攻撃。様々な遠距離攻撃手段を用いて迎撃できていた。
何とか持ちこたえていたと言うべきだろうか。少しずつではあるが、魔物の数も減らしていた。
そこにフレッドが加わる事により、事態は収束に向かうはずだった。
実際には、2面の掃討を終わらせる事は出来たのだか、皆が皆壁の上から攻撃を加えていた為、フレッドの移動に時間が掛かってしまったのだ。それも仕方のない事だったのだが。
そして残り1面となった時、それは起こってしまった。
ボゴッ ボゴッ ボッゴーン!
ガラガラ ガラガラ ガラガラ
ドッギャーンッ!!
激しい音と共に壁が崩れ、脆くなった壁は、そのままの勢いで更に穴を広げて行った。大きな音を立てながら。魔物と共に雪崩れ落ちながら。
「う、うっわーっ!」
「きゃーっ!」
「ぐっはーっ!」
「壁が崩れだぞー」
「待避だー! 一旦退けーっ!」
「不味い! 戦力をあっちに集中させるぞっ!」
「魔物を押さえ込めっ!」
「これ以上中に入れるなっ!」
まてしても始まってしまった。門の付近に多くの人を配置させていた為に、崩れてしまった壁の付近には戦える者が少なかったのだ。
そして崩れ広がって行く壁。魔物もどんどん町へと入り込んで来てしまった。
だが、フレッドのお陰で助かった。全てを救えたのではないが、崩れた壁が見えてからは早かった。
速攻でゴミ箱を設置して穴を塞ぎ、壁を強化する形でそれ以上の魔物の浸入を食い止めた。
そして壁の上に上がり、次々と処理。して行くはずだった。突然話し掛けられるまでは。
相当の数を減らす事は出来たが、それも途中で終わる事になった。角の生えた男達が現れた事により。
「貴様か。我等の楽しみを邪魔する者は」
「はっ。ガキのくせにやってくれたな」
ドゴッ!
「ぐっはっ!」
………… ……… …… … ズッシャーッ!
「くっ! 後ろから!」
「ふんっ。貴様の相手は俺がしてやる!」
ガッキッーン!
「なっ!」
ばっ ズサッ
フレッドは油断していたのではない。突然現れた魔人族の男達に気を取られているうちに、後ろからの攻撃を食らってしまったのだ。そして町の外へと吹っ飛ばされた。
何故後ろから攻撃を受ける事になったのかは分からなかったが、移動を優先する為に自らにはゴミ箱を設置していなかった。
しかもまさかの後ろからの攻撃だ。町を背にしていたのだがら、そこから攻撃されるとは思ってもいなかったのだ。
そしてもう1人の魔人族が相手をすると宣言し、斬り掛かってきたのだが、そこはゴミ箱設置で防御する事が出来たのだ。
今度は相手の方が驚いて距離を取る事になったのだが。
読んで頂きありがとうございます。
本日、もう1話更新予定です。
24日目にして、『37』PV。
減るとは思っていましたが、ここまで減ってしまうとは。
やはりこんなものなのでしょう。よく分かりました。皆さんありがとうございます。
まあ、もう離れてしまった方に言っても仕方がないのでしょうが。




