24. 未確認歩行物体
そして辿り着いた。生き残りの冒険者の男が言っていたであろう廃村跡に。
確かに村があったであろう跡はあった。それ程大きな村ではなかったのだろう。今のフレッドならば、ものの数分で処理できるくらいの跡だった。
ここに来るまでも警戒はしていたが、何も気配は無かったし、異常も感じられなかった。
それは所長だけでなく、フレッドもそうだった。だからと言って油断はしない。同じような状況なのだから。あの冒険者の男が言っていたのと。
周りを警戒しながら少しずつ処理を始めるフレッド。これも目的の1つだったのだから、早速始める事にしたのだが。
暫くもしていない。間も無くフレッドが跡地の処理を終えようとした時にやって来た。いや。感じられた。異様に薄い気配を。
「所長! あっちから何か来ます!」
「っ! なにいっ!」
所長には何も感じられなかった。察知スキルのレベル差だろう。レベル1つでも違えば段違いで効果が変わるスキルなだけに、フレッドのスキルが役に立った。そういう事だった。
ドンッ!!
「がっはあっ!!」
鈍い音と共に漏れた声。そして姿を現したものがあった。
2つの角を持った魔人族だった。
「なにっ! やはり魔人族だったのか! フレッド!」
「はいっ! もう終わっています」
それだけの遣り取りだった。フレッドにしてみれば意外と言うか、思ってはいたのだが、やはり目にしたくない相手ではあった。以前の記憶はトラウマとして残っているのだから。
しかも所長や副所長からも何かと聞いていた。勉強させられたとも言うのだが。知識として、危険な存在である事も、そうではない存在もある事も教えられていた。
だが、意味も分からず仲間を殺され、こうして攻撃を受けそうにもなったのだ。既にフレッドの中でも敵認定。そうなっていた。
恐らく、話を聞いていなければ、フレッドは魔人という魔人を処理していただろう。問答無用で。角を見ただけでも敵として。
それでほぼ間違っていないのだが、本当に一握り。そうではない存在。自らを善魔と名乗る者がいるから話をややっこしくさせているのだが。それも仕方がない。
その一握りの魔人族も、それを狙っているのでもなく、本当に種族関係なく共存共栄の精神を持って生きているのだから。
ドンッ!! ガンッ!! ガンッ!!
「ちっ! なんだこれは! か、壁でもあるのか! くっ!」
ゴンッ!! ゴンッ!! ゴツンッ!!
「がっはあっ!!」
何やら勝手にダメージを負って行く魔人族の男。見えないのだから仕方がないのかもしれないが、拳、足、頭。
殴る、蹴る、頭突き。どれも自分にダメージが返ってくる攻撃手段だった。
「フレッド。あいつはバカなのかい?」
「……。それは分かりませんが、無闇に攻撃している所を見る限りでは、その可能性もあるかもしれません」
聞こえないように小声で話す2人。それも仕方ないだろう。いくら見えない透明な壁が突然現れたとしても、それを何度も攻撃するだろうか。自身の肉体で。
まずはよく観察するとか、物を使って確認するのではないだろうか。せめて指とか掌とかで。
こちらも見えているが、あちらからも見えているはずなのだが。未だにこちらは気付いてないとでも思っているのだろうか。そんな雰囲気のまま打撃を繰り返していた。
ガンガン、ゴンゴン音を立てて。
「フレッド。あれはいつでも処理可能なのかい?」
「あ、はい。可能だと思います。僕の中では魔人は敵ですし、さっきも攻撃を仕掛けて来ているので問題ないと思います」
「分かった。やってくれと言ったら処理してもらえるかい?」
「はい。分かりました」
そう。フレッドが異様に薄い気配を感じた時点で既にゴミ箱は設置されていたのだ。透明のゴミ箱を自分達に被せるという形で。
そして衝撃を受け、男が姿を現した時には更に設置されていた。その対象に。これも透明なゴミ箱を被せるという形で。
だから上にも逃げられない。土を掘って逃げれば別だが。そんな事をしようものなら即処理。フレッドは何の躊躇いもなく処理するだろう。敵なのだから。当然に。
一応、フレッドに確認した後で所長が動き出す。声を掛けるという手段で。
「おいっ。いい加減無駄な抵抗は止めよ。そこの魔人族の男」
「っ! なっ! 俺の姿が見えているのか!」
何を言っているのだバカ者めが。そう言いたい気持ちを我慢して話を続ける事にした所長だった。
「見えているも何も、そのままだろうが。見えているから話し掛けているのだが? 魔人族の男よ。理解は出来たかい?」
「ちっ! 人間の女め。忌々しい。そっちの子供も殺してやるからな。俺の攻撃をこんな物で防げると思うなよ!」
やはりバカ者だったか。せめて四方を確認してから言う台詞だと思うのだが。
こちらに向かってしか攻撃をしていない。余程人間が嫌いなのか。それとも本当に只のバカ者なのか。それでも所長は我慢して続ける。
「お前の目的は何なんだい。数日前に人間の男を3人殺したのもお前かい?」
「はんっ! 殺した人間の数なんて覚えてる訳がねえだろうがよ。バカか。テメーはよ。だから人間はムカつくんだよ。直ぐに殺してやるから待ってな!」
やはりバカ者はお前の方だろうが。数も数えられないのか。それだけ沢山の人間を殺めているのか。
どちらにしても許せる存在ではない。しかし他にも聞いておく事はある。まだ我慢できるレベルだ。所長は少しイライラしながらも続けるのだった。自分達の為。今後の為にも。
「待ってる間に教えておくれ。お前は1人なのかい?」
「はんっ! テメーに教えてやる事なんかねえ。この狩りは俺の趣味だ。人間を一方的に狩るのは楽しいからな。1人逃がせばまた勝手にやって来る。こんなに楽しくて楽な狩りはねえぜ。はっはあっ!」
聞いてない事まで答えてくれるのは有り難い。やはり思考に関してはお粗末だが、あの身体能力、スキルかもしれないが、あれは脅威以外の何ものでもなかった。だからこそもう1つ。
「そうか。人間を狩るのがお前の趣味なんだね。それであんなスキルを身に付けたのかい? 姿が見えなくなるなんて凄いスキルだねえ」
「はんっ! そうだろうよ。俺のスキルは特別で特性よ! スゲーだろうが! 息を止めている間は姿を消せるんだぜ!
はっ! もっと驚けよ! 直ぐに殺してやるからよ! そんな特別スキルなど使わなくとも人間ごときに遅れは取らないぜ! くっ」
ドンッ!! ゴンッ!! ガンッ!!
「フレッド。何か聞いておきたい事はあるかい? こういった機会は今回が最後かもしれないからね。ここまで簡単に情報が引き出せる相手は珍しいと思うからね。まあ、だから大した事は知ってないかもしれいないがね」
聞いておきたい事は概ね聞けたかな。そう判断した所長は、フレッドにも確認する事にした。
「えっと。直接聞いてみてもいいですか?」
「ああ。何でも聞いてみな。フレッドの方が素直に答えてくれるかもしれないからね」
「はい。じゃあ、聞いてみますね」
そして物怖じもせずに魔人の男に向けて質問を始めるフレッド。これでトラウマを少しでも和らげる事が出来たらいいな。なんて考える事もなく口を開いた。
「ねえ。魔人の人。あなたの住んでる所は何処にあるの? この近くなの、それともずっと遠い所なの?」
ど直球。
流石フレッドと言うべきか。所長の方がびっくりしていた。まさかそんな質問をするなんて。
まともな答えが返ってくるはずがない。だから所長は聞きもしなかった。勿論聞きたい情報ではあったのだが。
それはこれまでの経験と知識からの行動だったのだが。それはフレッドには通用しなかった。過去のトラウマはあったとしても、そこまでの偏見も知識もなかったのだから。
そしてまた驚いた。その魔人の男の回答に。やはりバカ者だった。1人のバカ者が仲間を、集団を、村を、町をも潰すかもしれない。
腐ったみかんとは少し違う。この場合は、千丈の堤も蟻の一穴から。まさにこれだろう。やはりバカ者程御し難い。そういう事だろう。私も気を付けねばな。そう深く心に刻んだ所長だった。
フレッドからの質問にぽんぽん答えてゆくバカ者の魔人の男。この後直ぐに殺すのだから問題ないと思っていたのか。それとも何も考えずに勢いで答えていたのか。
それは恐らく後者だったのだろう。
相変わらずドンドン、ゴンゴン、ガンガンやりなから答えていたのだから。人間の脆弱さをバカにしつつ、相手が女子供だという油断もあったのだろうが。
しかし、手足がぼろぼろになって漸く気が付いた。自分の力ではこの壁は破れないのではないかと。
それで姿を消した。息を止めて。油断すると思ったのだろう。そうすればこの壁が無くなると思っての行動だったのだが。
当然フレッドがゴミ箱を回収する事もなく。漸くして苦しそうに呼吸を始めた魔人の男の姿が現れた。その場から動く事もなく。そのままの姿で。
「もういいだろう。楽にしてやれフレッド」
「はい。分かりました」
……
すると、そこには魔角が2つ。透明であるゴミ箱の中で何が行われているのかは分からなかったのだが、一瞬にして処理は終わった。
未確認歩行物体の、廃墟徹底浄化及び仲間の敵討ち作戦は、こうして終わりを告げた。一旦は。
読んで頂きありがとうございます。
20日目にして、『104』PV。
まさかの3桁。これは、上昇の気配?
まあ、23話もありますからね。
偶々って事もありますし、これくらいでは気は抜けません。




