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2. その少年の名は



 少年の所属している教会の名は、トラッシュブルクン教会。


 出来て間もない新興宗教で、まだ国には認められていないのだが、この世界の地方の町では、それなりに同じような状態で、それぞれに同じ思想を持った者達が集まり、寄り添い、集団となって暮らしていた。


 その為か、それぞれの小さな村や町では、それぞれに独自の決まりや考え方があり、新参者には馴染めないという風潮があった。



 勿論、国によって認められた宗教は別にあり、しばし揉める事もあるようだが、それはそれ。無宗教派もそれなりに地位を確立している為か、表立った争いは余程の事でもな限り行われる事はなかった。


 魔物の存在。それが1番の要因かもしれないのだが、それは幸か不幸か、時に人の命を奪い、傷付ける事もあるのだが、逆に人の食料となり、得られる素材は生活の糧にもなっていた。



 トラッシュブルクン教会。この教会の識字率は高い。布教の為、教典を理解し、正しく伝えて行く為に特に力を入れているのが字を読み書きする事だったからだ。


 日記や報告書を書かせてそれなりに管理するる為という事情もあるのだが、それは本音。建前は、教会員の生活規範の中の、定期的な活動報告という事になっている。



 少年が不幸だったのは、この教会がちょっと特殊で、かなり過激な思想を持った集団だった事。言ってみれば、この世界での武闘派の新興宗教。そこの教会員に拾われてしまった事だろう。


 だが、そのお陰で、少年にとっては平穏に生きて来られたのだから、この少年にとっては幸だったのかもしれないが。


 生い立ちだけを聞けば、一般的ではないと思われるかもしれないが、決してこの世界では珍しい事でもなく、孤児の数は想像以上に多い。


 そして教会や孤児院で拾われ、独自の決まりやルールの下で育ち、それを当たり前の事として生活していた。地方になればなる程にその傾向は強かった。



 トラッシュブルクン教会が定める教典には、教祖様は絶対である事、教典に書かれているルールは厳密に守らなければならない事がまず書かれており、これは毎朝口に出して誓う決まりとなっている。


 その他にも、教祖様の教え、簡単な生活上のルールや布教の大切さなども書かれていたりする。以下、一部要約。



【教会法・規律・心得】 

 教祖様の言う事は絶対である事

 立場の順に発言力は強くなる事

 立場に応じて上納金を納める事

 教会員同士は出来る範囲で協力する事

 教会員同士は決して争わない事

 教会員同士で嘘を言わない事

 聖戦の召集には応じ参戦する事

 自らの意思のみで聖戦を仕掛けない事

 他宗教は敵であり深い交流をしない事



【教会員の生活規範】

 早寝早起きを基本とする事

 暴飲暴食の禁止

 許可者以外の飲酒、喫煙の禁止

 18歳までの自由恋愛の禁止

 定期的な活動報告をする事

 他者の過去を詮索しない事

 スキルについての詮索をしない事

 教会員同士の暴力の禁止

 遣られたら遣り返す事は許可

 規範を守れない者には厳罰




 それでも、少年が暮らしているこの町は、この国の中でも下から数えた方が早いくらいに小さな町で、そんな町だらけの国だったりもする。



 少年の名前は、【フレイデリック・イーレース】。通称フレッド。いや。本当の通称はゴミ野郎になるのだが。本人は全然気にしていない。


 教会では、ゴミ処理係、ゴミ担当、おい、ゴミ。等と呼ばれているので、少年の名前を覚えている者は少ないのかもしれない。同い年の子供達ですら。




「よしっ。そろそろ夕のお仕事に行ってこよう」


 日が沈みかける頃。ここからがフレッドの夕のお仕事の時間だ。そもそも元道具小屋。ここで寝泊まりしているのはフレッド1人だけだ。


 人と接するのが得意ではなく、言葉数も少ない少年は、こうして時折声に出して自分を奮い立たせているのだ。誰に向かって言っているのでもない。


『ゴミ処理します。

 1処理銅貨1枚から』


 と書かれた小振りの札を持って町中を歩く。これが夕のお仕事になる。


 程なくして「おう。ゴミ処理の坊主。こっちで1つ頼む」と声を掛けられ、夕のゴミ処理が始まって行く。


 フレイデリック・イーレース。通称フレッド。立派な名前はあるのだが、誰も呼ばないし、フレッド自信も名乗らない。別に名前などどうでもいいと思っているのだが。


 それに、人と接するのが得意ではないだけに、早く終わらせてしまいたい。だから余計な事は話さない。なので余計にフレッドの名前は認知される事はなくなって行くのだが。



「えっと。はいっ。確認します」


 呼び掛けられた声の主を特定し、ゴミの種類を確認する為に移動する。


 まだ処理できないゴミもあるだけに、問題ないと判断してから処理を開始する。不要なトラブルを起こさないようにする為だ。


 夕のお仕事は、朝のお仕事とは少し違う。朝のお客は、教会の関係者という事もあるが、フレッドの能力をある程度分かった上で、毎日のゴミ処理を必要としているのだ。


 夕のお客は、単発も多く、イレギュラーも多い。何度も利用してくれている人ならまだしも、そうでない場合には特に注意が必要になる。


 以前、これでそれなりに苦労していた為に身に付いた処世術。仕事ならば当然の事なのだが、処理して欲しい側には分かっていないのだから仕方ない。札には詳しい事は書いてないのだから。



「はいっ。これなら1回で大丈夫そうです。銅貨1枚です」


 声の主が提示したゴミ箱の中を確認して料金を告げる。


 先に処理した時に、お金を払ってくれなかった酷い奴が居た。処理して消してしまったのだから証明のしようもなく、フレッドは嫌な思いをさせられた。


 この経験からの先払い。こうして少しずつフレッドは成長して行った。毎回痛い目を見てからだが。



「おお。そうか。はいよ。銅貨1枚だ」


「はいっ。確かに」


 そう言って銅貨を受け取ってから処理を開始する。


『ゴミ処理設置』ゴミの移動『ゴミ処理』『ゴミ箱回収』


 これだけの作業だが、ものの数分でひと仕事が終わる。


「ありがとうございました」


「おう。また溜まったら頼むな」


 中には優しい人も居たりして、こうして声を掛けてくれるデキた人も居る。


 殆どの男からはゴミ扱いで、「おいっ、ゴミ坊主。こっちのゴミも処理しろ」「くせーから近くに来るんじゃねえ」なんて平気で言ってくる輩が多い。



 フレッドもフレッドで、そう言われてから気付いたりもする。臭さに慣れてしまっているのもあるし、1人でいる事の方が多いのだから仕方がないのかもしれないが。



「ご、ごめんなさいっ。《クリーン》!」


 フレッドの体を魔法の光が上から下へと下りて行く。


『クリーン』。生活魔法の1つ。身体を洗浄してくれる聖なる光。この世界では当然のように存在する魔法。


 誰もが10歳になると『スキル』を授かる。それと共に誰でも使えるようになるのが生活魔法だ。


 他にも、『ライト』の灯り。『ウォーター』の飲み水。『イグニッション』の着火がある。


 10歳になれば誰でも使えるのだが、魔力量によって使用回数には個人差がある。



 フレッドの魔力量はかなり多いのだが、多くなったと言うべきだろう。趣味とも言える日々の繰り返しの確認作業でいつの間にか多くなっていたのだが、本人は知らない。


 比べる人も、そんな対象も居ないのだから。そもそも話せる人も聞いてくれる人も居ないのだが。フレッド自身も特に気にしていなかったし、誰にも気にされていなかった。それだけだ。


 そのお陰で、フレッドの生活魔法は少しおかしい方向に成長して行くのだが、それはまた別の話。



読んで頂きありがとうございます。

何のアナウンスも無しに、前日12時間だけでも『12』PV。

更に評価まで頂きまして、いつもありがとうございます。感慨無量でございます。


そんな方にこそ、より多くの祝福を。

『年内にすくらっちを8枚買うと6等以上が1枚当たりますように』\(・o・)/

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