1. はじまり
新作始めました。楽しんで頂けると嬉しいです。
「今日の分は終わりました」
「おう。また頼んだぞ。ほれっ」
銅貨1枚を放り投げられ、それを落とさないようになんとか掴んだ少年は、「ありがとうございました。ではまた明日」と元気な返事を返してその場を後にした。
「よしっ。次だ」
そして少年はまた駆け出した。次に向かう為。といっても三軒隣のお店。直ぐに到着していつもの挨拶を。
「おはようございます。回収に来ました」
「おお。そこにあるから頼むな」
お店の中から野太い声が響く。お店の裏口。そこに置いてあるのはゴミ箱だ。
「はいっ」
またしても元気な返事で返した少年は、嫌な顔もせずにそのゴミ箱の蓋を開けた。
それなりに臭いはずなのだが、少年はそんな事は気にならない。
もう慣れてしまっているのだが、それは決して普通ではない事のはずなのだが、それすらも気にしていないのか、何のためらいもなくいつもの作業を始めるのだった。
「《ゴミ箱設置》」
少年がそう言うと、何も無かったはずの場所に、土色の四角い物体が現れた。
少年によって設置された『ゴミ箱』。正確にはお店のゴミ箱よりやや大きめの直方体の物体なのだが、ゴミ箱設置と言われてなければ、初見ではこれがゴミ箱とは思わないだろう。
箱と言えば箱なのだが、土色だからだろうか、箱の壁幅もそれなりにあってがっちりして見えるので、箱状の物体。そう表現した方が分かり易いくらいの物々しさがある。少年はそんな事は気にしていないようだが。
「よいしょっと」
少年がお店のゴミ箱を傾けて、自分が設置したゴミ箱と呼んでいる物体の中へ『ゴミ』を移して行く。当たり前のように素手での手作業で。
飲食店から出たゴミだけに、中には生ゴミの類いも入っていたりして、それなりに臭くもあり、湿気があったりもするのだが。
それはそれは食事中の方々には申し訳なくなるような状況ではあるのだが、そんな事は気にしていないようだ。その少年だけは。
「《ゴミ処理》」
自分の出したゴミ箱にゴミを移し終えた少年がそう言うと、ゴミ箱の中のゴミが一瞬にして無くなった。ゴミ処理。まさに少年のひと言によって処理されたのだ。何処かへと。
ここは魔法のある世界。恐らく、事細かな理論や仕組みはあるのかもしれないが、そんな事は気にしていないようだ。その少年も。
「《ゴミ箱回収》」
すると、少年の設置したゴミ箱がその場から消えた。そこには何もなかったかのように、跡形もなくなっていた。
ゴミ処理を終えた少年は、その事を店の中の野太い声の主に告げ、銅貨を1枚受け取り、「ありがとうございました。ではまた明日」とお決まりの挨拶をしてその場を後にした。
「よしっ。朝のお仕事はお仕舞いだ。さあ、帰ろう」
決して楽しい作業ではないはずなのだが、そんな事は何とも思っていないかのような笑顔の少年は、元気よく家路につくのだった。
ゴミの訪問回収と処理。それがその少年の朝のお仕事の1つ。これを朝と夕と2度に分けて行っている。
朝は、少年のスキルの有用性と費用対効果を認め、1処理で銅貨1枚を払ってもよいと考えている町のお店と、それなりに大きなお屋敷を。
夕は、単発でゴミが溜まってしまった家々からの要望に応える形で町を巡回している。勿論、営業を終わらせたお店等も含まれる。
と言っても、その殆どが少年の所属する教会と関係のある人達なのだが。
ちなみに、当然のように教会のゴミも毎日処理しているのだが、それは無償で行っている。行わされていると見る事も出来るのだが、それは当然の事として受け入れている。
両親の記憶もなく、気が付いた時には教会の施設で生活していた。そこでの生活が全て。そこでの教え、決まりが少年を動かしていたのだから、疑う余地もないのだろう。教会からお金を貰うなんて。
『ゴミ処理』
これがこの少年の持っている現在の能力。スキルだ。
◇◇◇
スキル名 :ゴミ処理
スキル効果 :ゴミ箱に入れたゴミを処理できる
スキルレベル:5
ゴミ処理可能対象:可燃ゴミ、不燃ゴミ、
粗大ゴミ、資源ゴミ、自動分別
『ゴミ箱設置』でゴミ箱を設置
『ゴミ処理』で中に入れたゴミを処理
『ゴミ箱回収』で設置したゴミ箱を回収
ゴミ箱設置可能数:5
ゴミ箱設定可能色:砂色、黄土色、赤茶色、
深緑色、土色
最大処理容量:3m×3m×3m(縦×横×高さ)
最大処理回数:1日200回
◇◇◇
この世界では、誰もが10歳になると『スキル』を授かる。教会に行くでもなく、専用の施設で儀式を行う事もなく。その日は突然にやって来る。
産まれた日によるのか、それとも只の神の気まぐれか。それははっきりとは分かっていない。そういうものだから。誰もがそう理解しているだけの事。
朝は誰よりも早く起きて礼拝をし、仕事に出掛ける。
今ではそれなりの件数をこなしているが、それでも昼前には一旦仕事が片付いてしまう。
特に何をするでもない少年は、日々生きて行く事だけを考えて生活していた。そうしないと食べて行けなかったのだから。
小銭を稼ぎ、僅かばかりの食料を買って飢えを凌ぐ。腹いっぱいに食べた記憶はないのかもしれない。なぜならそれも教会の教え。
教会員の生活規範として教えられて育った少年は、それを疑う事もなく実践していたのだ。少し極端なくらいに純粋に、真剣に捉えていた少年は、最低限腹が満たされればそれでよく、残りの金は全て教会へ上納していた。
それが正しいとされていたのだから。疑う様子など微塵もなく、当たり前のようにそうしていた。
昼食もほとんど食べていない。ゴミの処理をしているからだろうか、それよりも楽しい時間だったからだろうか、特に腹が減るといった感覚もなく元気に仕事をこなし、趣味とも言える確認作業を繰り返していた。
一旦部屋に戻ると、自分のスキルの成長具合を確かめる。それが少年の日課であり、唯一没頭できる時間だった。
部屋といっても教会の敷地の片隅に建てられた小屋。以前は道具置き場として使われていたくらいの簡素で家具もないようなぼろ小屋なのだが、少年にはそこが1番の落ち着ける場所だった。
人と接するのが得意ではなく、言葉数も少ない少年は、1人で居る事の方が好きだった。自分だけのスキルを色々と試している時間が好きだったというのもあるのだが。
使えば使う程レベルが上がり、レベルが上がる程に出来る事が増えて行くのだ。それが少年には嬉しくて仕方なかったのだ。
何が出来るようになったのか、それはどんな感じなのか、どこまで出来てどこまでが出来ないのかを確認するのが楽しくて仕方なかった。
少年の行動範囲、知識内での確認だから、当然全てを把握しているわけではないのだが、それでも楽しくて仕方がない。これまでに分かっているのは、レベルが上がる度に、
ゴミ箱設置可能数が1ずつ増え、
ゴミ処理可能対象も増え、
最大処理容量も2レベル毎に増え、
最大処理回数もどんどん増えて行った事だった。
初めは理解できない事の方が多く、本当に只のゴミスキルだと馬鹿にされていたのだが。
新興宗教の貴重な教会員でもある少年を追い出すのでもなく、優遇するのでもなく、ただ便利に使える事もある。掛けただけの金は回収する必要がある。その理由だけで教会の片隅で生活する事を許されていた。
当然のように出来るだけの上納はさせているのだが。それでも少ないながらも徐々に増えている事から、ある程度は好きにさせてもらっていた。別の言い方をすれば、放っておかれている。
結果として、それがお互いの為になっているのだが。あまり気にされていない。お互いに。
少年のゴミスキルは、可燃ゴミ1つだけだった処理可能対象が、不燃ゴミ、粗大ゴミ、資源ゴミと増えて行った事により、いちいち対象毎に処理する必要があったのだが、それでもそれなりに便利なスキルへと変わって行った。
更にレベルが5になった事により、自動分別できるようになった。ゴミ箱に入れされすれば、1つのゴミ箱だけでゴミ処理可能対象であれば1度に処理する事が出来るようになった。
ゴミ箱設置サイズも、最大処理容量範囲内であれば任意で調整できるようになり、これまでは固定だったゴミ箱色も、任意で選べるようになった。
特に拘りのない少年は、サイズは相手方のゴミ箱に合わせてやや大きめにするくらいで、色は土色で統一させているようだが。
制限もかなり無くなった事から、これも使い方次第ではお金になるとの事から、地道に教会の関係者やお店を回り、決して得意ではない話を聞いてもらい、安い対価ではあるが、仕事として成り立つようにまでなってきたのだ。
ここまでかなり苦労したのだが、可哀相過ぎて言葉にならない程に。それはもう地道で地味でつまらない話。それは、この少年だからこそ堪えられた。このひと言で十分だろう。
幸いだったのは、スキルレベルが上がるのが早かった事。それは通常では考えられないくらいに。それと、少年がそれを心から楽しめた事。
それだけゴミ処理に需要があったという事なのだが、当然そんな事は気にしていないようだ。その少年も。町の人達も。
普通の人なら嫌になってしまったであろうゴミスキル。いや。ゴミ処理スキル。それを少年は使いこなして行ったのだ。地道に、地味に、つまらないと思う事もなく。
町の人達は、ゴミに関心がないのもそうだが、それをいちいち説明する程のコミュニケーション能力が少年にはなかったのだから。それは仕方のない事だったのだが、少年にとっては良かったのだ。こんな便利過ぎるスキル。
それこそ悪知恵のある者や、それなりの権力者ならば、この少年を囲んででも有効活用した事だろう。使い方次第では、それこそ金儲けも簡単だったのかもしれないが。
この世界のスキルレベルの上限は『10』とされている。これはこの世界の常識。誰もがそう思っているし、レベル『10』のスキル持ちと言うだけでも尊敬され、敬われ、それなりの地位に居たりするのだ。
勿論、それなりに桁違いの凄い効果を発揮し、戦闘系のスキルなら一騎当千は当然で、剣聖、槍聖、拳聖、武王、覇王。知識系のスキルなら、何かしらの多大な功績を残し、マスターの称号を。
他にも智者、聖賢、魔王。偉業によっては、勇者、賢者、聖者。などの伝記が残されている。らしいのだが、少年は知らなかった。そんな細かい事までは。
少年はまだ 12歳だ。僅か2年でスキルレベルを5に上げてしまったのだ。誰にも何も教わらずに独りで。
少年しか授かった事のないスキルなのだからかもしれないが、それでもスキルレベル5というのは、12歳では尋常ではないのだ。
レベル1 :見習い
レベル2~3:初級
レベル4~5:中級
レベル6~7:上級
レベル8 :特級
レベル9 :巨匠
レベル10 :伝説
この世界での認識は、このような感じなのだから、この少年でなければ大騒ぎになっていただろうが、誰も関心のないゴミスキルと少年の性格、少年が所属している教会が特殊なだけに、幸か不幸かそこまでには至っていない。
それはこれからかもしれないが、それは神のみぞ知る未来。少年にも、教会関係者にも、町の人達にも分からない。まさかあんな結果になるなんて。こんな素敵な結末になるなんて。そんなつまらない話で終わるなんて。
さあ。どんな結末を迎えるのか。乞うご期待。
【スキル補足】
◇◇◇
スキル名 :ゴミ処理
スキル効果 :ゴミ箱に入れたゴミを処理できる
スキルレベル:5
ゴミ処理可能対象:可燃ゴミ、不燃ゴミ、
粗大ゴミ、資源ゴミ、自動分別
*レベル1:可燃ゴミ
*レベル2:不燃ゴミ
*レベル3:粗大ゴミ
*レベル4:資源ゴミ
*レベル5:自動分別
『ゴミ箱設置』でゴミ箱を設置
『ゴミ処理』で中に入れたゴミを処理
『ゴミ箱回収』で設置したゴミ箱を回収
ゴミ箱設置可能数:5
ゴミ箱設置サイズは最大処理容量範囲内で任意で選べる
ゴミ箱設定可能色:砂色、黄土色、赤茶色、
深緑色、土色
レベル5より任意で選べるようになった
*レベル1:砂色
*レベル2:黄土色
*レベル3:赤茶色
*レベル4:抹茶色
*レベル5:土色
最大処理容量:3m×3m×3m(縦×横×高さ)
*レベル1~2:50㎝×50㎝×50㎝
*レベル3~4:1m×1m×1m
*レベル5 :3m×3m×3m
最大処理回数:1日200回
*レベル1:1日50回
*レベル2:それぞれの対象に1日50回ずつ
*レベル3:それぞれの対象に1日50回ずつ
*レベル4:それぞれの対象に1日50回ずつ
*レベル5:対象自由合計1日200回
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