15. フレッドのお仕事と待遇と事後処理と
本日2話目となります。ご注意下さい。
『冒険者組合解体所でのゴミの処理』
フレッドの仕事が決まった。あっという間ではなかったが、ゴミの処理はあっという間だった。
ゴミ箱を被せてゴミ処理。これが出来るようになっていた事が大きかった。流石のフレッドでも、解体現場に散らばる ぴー やら ぴー やら ぴー なんかを素手で触りたいとは思わないし、やりたくなかった。
だから本人が1番嬉しかったのかもしれない。いや。ここにいた全員が嬉しかったのだが。所長は勿論、解体作業員も、事務所の職員も。
たまたまゴミを捨てに来ていた。いや、一旦置きに来ていた者達は目撃した。その夢のような光景を。こ、これが新しい業者か臨時にやって来た凄技スキル持ちの性能なのかと。ば、化け物かと。いや。神なのかと。
なにせ、臭いすらスッキリ無くなってしまっていたのだから、誰もがそう感じた事だろう。ここを訪れた事のある者ならば。
やったのは新しい業者ではなく、『冒険者組合特別職員』に任命されたフレッドだったのだが。凄技スキル持ちである事は合っていた。
当然、他言無用。話が漏れたと分かれば、確実に何人かの何かが飛ぶ。そう確信できる程の威圧と脅迫とも取れるお言葉と笑顔を受け、その場は収まる事になったのだが。
大人達の間で色々と話し合いがされ、結果として、冒険者組合解体所の中央と片隅に1つずつ。使い勝手の良いサイズに調整したゴミ箱を合計2つ設置し、それを昼と夕の2回処理する事。
暫くは様子を見ながら、サイズ調整や置き場の変更はお願いするかもしれないし、日によっては処理回数が増える事もあるだろうが、それはフレッドの負担のない範囲で、必ず確認しながらやって行く事とされた。
それも、フレッドに直接依頼するのは所長か副所長のみ。そう周知された。所長命令で。特別職員だからと。フレッドの年齢や性格を考えてそうなった。
そして、フレッドは今日から4階にある冒険者組合職員専用寮で寝泊まりする事になった。単身者用の個室で。1階に併設されているアルコールも提供する冒険者組合員用の食堂とは別に、職員専用の食堂もあるのだが。
既に今日の仕事は完璧に完遂されたと判断され。いや。想像以上の成果だったのだが。誰もが喜ぶ程の。だから、先程から特別職員。そうなった。
フレッドにしてみれば、宿屋に泊まる金が1日銀貨4枚だったのだ。1日中歩き回って40回必要はずのゴミ処理作業が、1現場で昼、夕の1日数回の処理作業で終わってしまうのだ。こんな嬉しい話はないだろう。
やろうと思えば3食昼寝付きな暮らしが手に入ってしまったのだ。ここでの数回の処理作業だけで。しかも『冒険者組合特別職員』なんて名前の職にまで就ける事になったのだが、そこは正直よく分かっていなかった。
ただ、自分のスキルが初めて人の役に立っていると感じられた。それも、それなりに多くの人達に。それが1番嬉しかったのかもしれないが。
これでお金を気にせずに暮らして行ける。食費も掛からないし。それも大きな喜びの1つだったのは間違いないだろう。
所長にしてみれば、まずはフレッドを繋ぎ止めておく為でもあったのだが、それでもこの待遇でも安いくらいだと感じていたのだから、更に働きに応じて毎月給金を出す事も伝えてあったのだが。
あまり欲のないフレッドは、「は、はあ。そうですか。ありがとうございます?」と、不思議がっていたくらいだ。毎月の給金など貰った事もなかったのだから、仕方がなかったのだが。
そして更にフレッドの拘束は続いた。当初の予定を完遂する為なのだが。これもフレッドが望んだ事だけに、もう暫くは堪える必要がある。既に所長の配下でもあるのだし、逃げる事など端から出来なかったのだが。
魔石の換金。
木箱に入れてあった魔石の確認と査定作業が待っていた。これまたひと騒動ありそうな物もあったのだが、そこはそこ。冒険者組合事務所の所長は伊達ではなかった。
すすっと組合事務所に戻ると、ささっと査定を開始した。いや。開始させた。専門の職員に。
その間、所長がフレッドに聞き取りをして行く為でもあるのだが、数も多いだけでなく、その種類もヤバかった。
ゴブリン ×46
ネイズミーマウス ×27
オウンカミンウルフ ×15
クウマンベアー ×3
魔角 ×2
ゴブリンは、まあ、何日も旅して来たのなら、それくらいの数になる事もあるだろう。それはいい。ゴブリンは見付け次第即殲滅させるべき魔物。
だが、それをフレッド1人でやったとなると少々話が違ってくるのだが。まずは他の魔石の確認となった。
ネイズミーマウス。ネズミの魔物。人々の夢を食い物にし……、ではないが、僅かな残飯の匂いでもあれば、夜営の寝込みを襲って来る鬱陶しい魔物の1つ。
牙が鋭いだけに、深く眠ってしまっていると思わぬ深手を負ってしまう事にもなりかねない相手で、バイ菌という毒を有しているので、決して油断は出来ない魔物だったりもする。光源さえあれば容易に対処できる。
オウンカミンウルフ。これをフレッドがたった1人で倒したとなると、更に話が長くなる。
いや。取り敢えずフレッドのステータスを確認するのは確定事項のようで、所長は別の職員に準備をするように指示していた。この段階で。
だが、それは仕方のない処置だったのかもしれない。数だけで考えれば2~3の群れとなるはずなのだが。経験豊富な冒険者でも1人で相手にするのは厄介な魔物なのだから。
決して、戦闘訓練も受けていないような只の子供が無傷で倒せるような魔物ではないのだから。
クウマンベアー。まさかこんな大物をフレッドが倒せるとは思っていなかったようだが。
たまたま弱っていた個体とか、魔物同士の縄張り争いで相当傷付いていたとか、そう思わざるをえないような疑問顔をしていたのだが、それもフレッドのステータスを確認すれば分かる事。
所長は慌ててはいなかった。不思議がっていただけだ。こんな大物の魔石が3つもあったのだから。
それより何より、今日1番の驚きは魔角だった。いや。驚かせたのはフレッドだったのだが。
これまでの数々の魔石と、さっきのゴミ処理問題など吹っ飛ぶくらいの衝撃があった。最後に忘れたように出したから。フレッドが。
魔石とは別に保管されていたのだから仕方ない。確かに別物だし、角が傷付いてしまうかもしれないから。そんな理由だったのだが。
フレッドが布袋から無造作に取り出したのが、あの魔角だったのだ。それも2つもあったのだ。フレッドではないが、流石の所長も無言になってしまった。理解できなくて。
だが、魔人族の角である事は一目瞭然。場合によってはとんでもない事態になる。これは何かの間違いないではないのか。模造品とか、よく似た何かではないのかと。そう思いたいくらいの驚きがあった。
考える人のポーズから、右手の人差し指と親指で目頭を挟み込むように押さえてしまうくらいには。
大変デリケートな状態です。暫く話し掛けないで下さい。そんな空気すら漂っていた。勿論フレッドから何かを話し掛ける事はなかったが。
フレッドは早く部屋に行きたいようにそわそわしているが、そんな事が許されるはずがない。これはしっかり聞き取りをしなければならない案件なのは間違いないのだから。
場合によっては、この町の防衛体制を見直さなければならない位の案件かもしれないのだから。それくらいの存在なのだ。魔人族というのは。
殺されかけたはずなのに、既に過去の事。という事でもないのだろうが、その怖さは重々身に染みて感じているはずだ。今でも魔角を見ると思い出してしまうのだから。あの極限の状態の記憶が。
だからフレッドは早く処理してしまいたかったのだが。換金という形を取って。
そうしなければここまで大事にはならなかったのかもしれないが、あんな物を置いてくるなんて出来ないし、それこそゴミ箱で処分してしまうなんて勿体ない。
魔石でも金になるのだから、それより圧倒的に強かった者が残した角だ。売らない手はないだろう。上納する為に。そんな感じで考えていただけなのだが。
『魔角』
魔人族の印でもある角。成長と共に大きくなり、ピークを過ぎると少しずつではあるが縮んで行くとされている。
魔人族が人間よりもかなり膨大な魔力を持っているは、この角による役割が大きいとされており、魔力貯蔵器にもなっていた。
故に、個体差はあるものの、大きさと込められる魔力量を見れば、大凡の脅威度が分かるという代物だった。