第四章 召喚獣のざんねんな帰還。〈19〉
ヘルゴルゴートになると云うことは服を脱ぐと云うことだ。そして、神獣グラコロさんの手のひらで服を脱ぐと云うことは、オレの眼前で美しいナイスバディをさらすことになるわけだが、朱音さんはオレの内なる期待を見透かしたかのようにいたずらっぽくほほ笑んだ。
「……と、その前にためしてみたいことがあったんだよね」
朱音さんがヘルゴルゴートの双眸でオレをにらみつけると、オレの周囲に黒い炎があがった。ちょっと待て、これって……!?
オレはヘビににらまれたカエルのごとく、ヘルゴルゴートの能力で〈石化〉されていた。
オレは目も見えず耳も聞こえず身じろぎひとつできない暗黒に囚われていた。前回〈石化〉された時は一瞬でわからなかったが、これってものすごく怖い。
「ゲートリングをつけていれば、人間の姿でもヘルゴルゴートの力がつかえるってことね」
自分の能力を再確認した朱音さんがオレの見えないところで服を脱いでぺったんこのバックパックへしまい、まりるにバックパックをあずけると、ヘルゴルゴートへ変化した。
〈石化〉を解かれたオレが気づくと、オレたちは神獣グラコロさんに地下迷宮まで運び上げられていた。
(カオルちゃんにわれの燐光をさずける。地下迷宮を灯すあかりとなろう。気をつけてまいれ)
神獣グラコロさんの言葉にオレの身体がぼんやりとかがやいた。まあ、私ってばティンカー・ベルみたい! ……て云うか、空とぶ赤ちょうちんである。
オレたち3匹の召喚獣はアレストリーナ姫の投獄されているであろう〈アーデル・ファーム〉へと駆けだした。
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オレたちは1時間半ほどで地下迷宮の〈アーデル・ファーム〉側出口へたどりついた。
オレとまりるは今日だけでこのコースを2回通っているし、神獣グラコロさんにさずけられた燐光のおかげで視界も良好だった。燐光は地下迷宮をでると自然に消えた。
朱音さんは人間の姿にもどっていた。地下迷宮でもヘルゴルゴートのままでは通れないほどせまい道があって、2回ほど人間の姿へもどったが、オレはそのたびに〈石化〉される恐怖を味わった。とどのつまりは4回も〈石化〉されている。どうにも信用がない。
雨のおかげでオレたちはうまく気配を消すことができたものの、石造りで見るからに堅牢な〈アーデル・ファーム〉のぐるりにもマリモコウのかがり火が盛大に灯されていた。
ところどころに歩哨が立って周囲の警戒にあたっているし、〈アーデル・ファーム〉外縁部にはちらほらと即席の天幕がはられていた。あそこに召喚師がひかえているのだろう。
オレたちはグラゴダダンの〈シュピーリ・ファーム〉できわめて地球的と云うか原始的な戦いをくりひろげたが、惑星アルマーレにおける本物の戦争、すなわち召喚獣戦闘は名のりをあげて正々堂々とおこなう決闘であるらしい。
「やあやあ、われこそは……」とはじめるのかどうかは知らないが、名のりをあげた召喚師にいどまれれば、ぜったいに召喚獣戦闘をうけねばならないと云う。
また、先に名のりをあげた召喚師の立っているところが自陣の正面となるそうだ。召喚獣戦闘をおこなう召喚師同士の距離は1メルテ(およそ80m)以内だとか、1メルテ外にいる召喚師には召喚獣戦闘をいどめないとか、いろいろと厳密なルールもあるようなのだが、一介の人間召喚獣たるオレには知るよしもない。
戦争の召喚獣戦闘では、先に召喚獣戦闘をしかけた召喚師が自陣を設定できることから、敵に声をかける位置どりが重要となる。そんな召喚獣戦闘前のかけひきも技術のひとつなのだそうだ。
〈アーデル・ファーム〉のぐるりは広大な牧草地なので地形の有利不利はないが〈アーデル・ファーム〉本城よりできるだけ遠くはなれたところで敵を迎撃したいので、召喚師が外縁部にでばっていると云うわけだ。
ただし、オレたちのアレストリーナ姫救出作戦は戦争でもなければ召喚獣戦闘でもない。死傷者をだすつもりはないが、あくまでオレたちの流儀でやらせてもらう。
〈アーデル・ファーム〉での作戦は、まずはじめにアレストリーナ姫の金色召喚牌を奪取し、次にアレストリーナ姫と合流することだ。
もちろん一番大切なのはアレストリーナ姫を保護することだが、おそらくはすべての召喚獣がさし押さえられているであろうアレストリーナ姫にのこされているのは、オレたち4人の人間召喚獣と召喚人獣まりる、神獣グラコロアリスドラゴンの計6体である。
神獣グラコロさんの召喚に召喚牌は必要ないが、おそらく今のアレストリーナ姫が神獣グラコロさんを召喚するためには召喚獣4~5体分を召喚する気力・体力がいるはずだ。そして、神獣グラコロさん以外のオレたちを異世界から召喚するためには、ふつうの召喚牌ではなく金色召喚牌が必要となる。
このあと地下迷宮へ逃げることを思えば、今回、瑞希や菜々美ちゃんの出番はなさそうだが、いずれグラゴードリス皇国などと戦う可能性も考慮すれば金色召喚牌は必須アイテムだ。
「アカネ、どこからさがするる?」
モッケイモンキーのまりるがトンカプーで口のきけないオレのかわりにたずねると、朱音さんが雨にぬれて黒く屹立する〈アーデル・ファーム〉最上階へ目をやった。つい先日までアレストレーナの居室だった部屋の窓にあかりが灯っている。朱音さんはそのあかりを見上げて、いたずらっぽくほほ笑んだ。
「一番エライ人にきけばわかるっしょ」




